世の中にあふれる「優先順位」や「効率重視」といった言葉。現在に重きを置くことは、忙しい現代社会において必要なことでしょう。しかし、こうした考え方には落とし穴があるかもしれないのです。
あなたは「雑用」と聞くとどんなイメージを持ちますか? 「雑用」が大切だと言われたら、疑問に思うでしょうか? 今回は、「雑用」に秘められた効果についてお話ししたいと思います。
「雑用」にも目を向けることの大切さ
脳科学者の茂木健一郎氏が、2016年1月19日のブログに「雑用の効用」というタイトルの記事を掲載し、次のような趣旨のことを述べています。
自分にとって本当に大事で、やりたいと思っていること。それ以外のものを「雑用」とすると、一日の内で「雑用」の占める割合は大きい。「雑用」以外の「真水」とも呼べる部分の割合を大きくしていくことは確かに重要である。しかし、「真水」以外の部分が自分の思ってもいなかったものを吸収するチャンスになったり、その「雑用」部分でやっていたことがいつしか自分の大事な「真水」につながっていくこともある。「雑用」部分が未来に向けての種まきであることも忘れずにいたいものだ。
この話は、かつて慶應義塾の塾長であった小泉信三氏による「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」という言葉と共通するところがあります。私たちが今、大事だと思っていること、最優先だと思っていることは、あくまでも「今の自分」にとって最優先のことであって、将来の自分にとって大事かどうかとは、必ずしも関係がありません。今の自分にとって役に立つからと言って、目先の利益ばかりを追いかけていたら、将来の自分にとって大事なことが見えなくなってしまうかもしれないのです。
ToDoリストや効率ばかりに気を取られてはいけません。茂木氏の言うように、雑用にも無駄と思わずに取り組んでいれば、将来の自分への投資につながるのではないでしょうか。
「雑用」が教養につながる
昨今、大学が即戦力の人材を育成することばかりに注力し、専門教育偏重の流れがあったではないかという声が高まり、その反省から、教養の重要性が盛んに説かれるようになっています。教養と言えば、社会人が基本的に身につけているべき重要な素質であることは言うまでもありません。では、教養とはいったいどのような知識を指すのでしょうか。
ジャーナリストの池上彰氏は、先に触れた小泉信三氏の言葉を引いて、教養とは次のようなものだと説明しています。
すぐには役に立たないけれど、まるで漢方薬のように、じわじわと効いてくるもの
(引用元:池上彰著(2015),『いま、君たちに一番伝えたいこと』,日本経済新聞出版社.)
教養は、一見すると、すぐには役立ちそうにないものです。なぜなら、その教養単体では意味を成さないから。たくさんの教養が積み上がり、世の中の現象と教養が結びつく時が来て、初めて効果を発揮するものです。
さらに、池上氏はフランス文学者の鹿島茂氏の発言に言及しています。鹿島氏は、大学で教養を学ぶというのは方法論を身につけることである、と説いたうえで、次のように述べています。
「他分野のやり方を応用することで画期的なイノベーションが生まれることがある。教養とは他分野の方法論を学ぶことなんですね」
(引用元:同上)
この例として挙げられているのが、ヤマト運輸の発展を支えた経営者である小倉昌男氏が、吉野家の牛丼をヒントにして宅急便という個人宅配を考え付いたというエピソードなのです。
自分の専門分野や今携わっている業界とは関係のないことについても学んでおきましょう。その積み重ねが、ビジネスにおいて力を発揮する時がやってきます。
*** 今自分が無駄だと思っている物事も、将来の自分の糧になるかもしれません。 将来のことですから、何が役に立つのかは断言できないでしょう。だからこそ、様々な情報をキャッチできるよう広いネットを張っておくイメージで、「雑用」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
(参考) 茂木健一郎オフィシャルブログ|雑用の効用 池上彰著(2015),『いま、君たちに一番伝えたいこと』,日本経済新聞出版社.

