「概念化」の意味とは? 概念化能力のトレーニング法3選

概念化能力のトレーニング1

概念化能力とは、具体的な物事を抽象化し、体系的に整理する能力。具体的なモノを抽象的な概念に落とし込むスキルを身につけると、物事の本質をつかめるようになり、問題解決能力の向上も期待できます。

問題解決以外にも、新商品・企画のアイデアを出すとき、ルールやシステムを設計・改善したいとき、組織のマネジメントをするときなど、概念化能力が役立つ場面はさまざま。特に、ビジネスパーソンとしていち早く成長したい方や、企画開発などのクリエイティブな職に就いている方にとって、概念化能力を高めることで得られる恩恵は大きいものです。

今回は、概念化能力・概念化思考とは何かを確認したあと、概念化能力が重要な理由・概念化スキルのトレーニング方法を詳しく解説していきます。

概念化とは

文字通りに解釈すれば、概念化とは「概念をつくる」こと。つまり、個別の物事が共有する性質や本質を体系的にまとめ上げ、理論化するプロセスです。概念化の能力が高いと、一見バラバラの物事に共通点を見つけることができます。

「パン」を例に考えてみましょう。パンという概念は「食パン」「アンパン」「メロンパン」など個々の食品から、「小麦粉などの穀物の粉に、水や酵母を混ぜて焼いたもの」という性質を抜き出し、ひとつのカテゴリーとしてまとめたもの。こうした「個別具体的なものをまとめ上げて、概念をつくる」というプロセスこそが、概念化なのです。

ビジネスシーンにおける例も紹介しましょう。これまで商品を買ってくれた顧客の特徴を分析したところ、「一戸建てに住んでいる」という共通点を発見できたとします。そこから、「一戸建てに住んでいる人は、この商品を欲しがりやすい傾向がある」という法則(概念)を仮定でき、営業戦略の見直しにつながるのです。

概念化能力のトレーニング2

「概念化」と「抽象化」の違い

「概念化」と似た言葉に「抽象化」があります。違いは以下のとおりです。

  • 概念化:個別具体的なものをまとめ上げて、概念をつくる
  • 抽象化:個別具体的なものから、性質を抜き出す

「パン」の例だと、以下のとおり。

  • 抽象化:食パンから「小麦に水と酵母を混ぜて焼いたもの」「白いもの」「四角いもの」「ふわふわしているもの」などの性質を抜き出す
  • 概念化:抽象化された「小麦に水と酵母を混ぜて焼いたもの」という性質に着目し、「パン」という概念に練り上げる

抽象化は、概念化を行なう前提であるため、抽象化と概念化は密接に関係しているといえます。

概念化能力のトレーニング3

概念化能力とは

概念化を行なう能力、すなわち概念化能力は、ビジネスパーソンが磨くべき重要なスキルのひとつと考えられています。概念化能力の重要性を提唱したのが、経営学者のロバート・カッツ氏。カッツ氏は、組織の運営が成功するのに必要な能力として、以下の3つを挙げました。

  • テクニカル・スキル:業務を遂行する能力
  • ヒューマン・スキル:コミュニケーション能力
  • コンセプチュアル・スキル:物事を概念化してとらえる能力

カッツ氏によると、昇進して管理職になれば、自分で手を動かすことが少なくなるのでテクニカル・スキルの重要度が下がる一方、仕事や組織全体を俯瞰(ふかん)する必要から、コンセプチュアル・スキルの重要度が増すのだそう。会社で出世を目指している方や、リーダー職に就いている方にとって、概念化能力は不可欠なのです。

以下は、カッツ氏が提唱した、各職位で求められるスキルのイメージ図。下から「監督者層(一般社員)」「管理者層」「経営者層」の順に職位が上がるにつれ、コンセプチュアル・スキル(概念化能力)の占める割合が高くなっていくのがわかるでしょう。一方で、テクニカル・スキルが占める割合は低くなっていき、ヒューマン・スキルはどの職位でも同じ割合です。

カッツ理論を図式化したもの。テクニカル・スキル、ヒューマン・スキル、コンセプチュアル・スキル(概念化思考)の必要性は、職位によって異なる。

(画像は筆者が作成)

概念化能力を高めるメリット

概念化能力は、なぜそんなにも重要視されるのでしょう? 高い概念化能力がもたらしてくれるメリットをご紹介します。

物事の本質や仕組みをとらえることができる

経営戦略を専門とする陰山孔貴・准教授(獨協大学)によると、概念化能力が高い人は、情報と情報の関連性を見つけ、「根源的で適切な問題」を発見できるのだそうです。

反対に、概念化能力が低い人は、目の前の問題に「モグラたたき」のような場当たり的対処をするだけ。経験から学びを得たり法則を見つけたりできず、いつまで経っても成長できません。しかし、概念化能力が高い人は、「モグラ」の規則性を見極めることに優れているのです。

セールスパーソンの例で考えてみましょう。飛び込みで訪問した20件のうち、購入に至ったのはわずか2件だったとします。概念化能力が低い人は、経験から学習する効率が悪いので、次の日も同じ結果かもしれません。しかし、概念化能力が高ければ、「売れたときに共通していた要素は何だろう?」「売れなかった原因は何だろう?」と考え、法則を導き出そうとするので、成長のスピードが速いのです。

部下や後輩のマネジメントをする場面でも、概念化能力は重要です。部下のパフォーマンスが低いとき、個別に対応するだけでなく、「チーム内のルールやシステムが悪いせいで、動きづらくなっているのではないか?」「モチベーションを奪っている根本的な原因があるのではないか?」と概念的に考えることで、問題の解決に近づけます。

斬新なアイデアを生むことができる

経営コンサルタントの好川哲人氏によると、イノベーションを生むには概念化スキルが必要なのだそう。

オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏が名づけた「イノベーション」という概念は、既存のもの同士を組み合わせ、新しい価値をもたらすことを意味していたのだとか。革新的デバイスとして登場したiPhoneも、ざっくり言えば、「電話機」と「PC」という既存のモノの組み合わせですよね。

とはいえ、既存の製品を安直に組み合わせては、「電話もかけられるデスクトップPC」のような「既製品のアレンジ」が生まれるだけで、iPhoneのような革新には至りません。大切なのは、概念化思考によって、既存の製品の「本質」を見抜いたうえで組み合わせることなのです。

概念化能力がイノベーションを促進する理由は、ほかにもあります。概念化能力が高いということは、物事の本質を他者に伝える能力も高いということ。たとえば、食品メーカーでの仕事で得た専門知識を概念化し、わかりやすく説明する力が優れていれば、異業界の人と協同できるかもしれません。

つまり、他分野・他業種の専門家同士が、概念化能力を使って知識を交換し合えれば、異なるジャンルの専門知が結びつくため、イノベーションが生まれる可能性が高まるのです。

「仕事観」を定めることができる

概念化思考を自分のキャリアや仕事に対して活用すれば、自分の「仕事観」を定めることができます。仕事観とは、「自分にとって仕事とは何か」「自分はどのように仕事に関わっていきたいのか」という価値観です。

仕事観は、これまで経験してきた仕事の内容や、仕事を通して感じたことなどを抽象化し、概念化することで見つけられます。詳しい手順は後述しますが、ざっくりと流れを示すと以下のような具合です。

  1. 去年、プロジェクトが成功して嬉しかった。【事象
  2. 目標をクリアしたことで、大きな達成感が得られた。【抽象化
  3. 自分は仕事に達成感を求めている。【概念化=仕事観

概念化を通して自分なりの仕事観を確立しておくと、今後の目標やキャリアを考えるうえで役に立つでしょう。

概念化能力のトレーニング4

概念化能力のトレーニング方法1:「ハンモックモデル」で考える

概念化能力の重要性がわかったところで、どうやって鍛えればよいのでしょうか? 概念化能力をトレーニングする方法を、具体的に紹介していきます。

キャリア・ポートレート コンサルティング代表として人材教育を手がける村山昇氏は、概念的思考のイメージとして「ハンモックモデル」を提唱しました。

村山昇氏による、概念的思考を表した「ハンモックモデル」。事象・経験から、本質・法則・パターン・構造を抽象化し、概念としてまとめ、そこから学んだことを具体的に落とし込む。

(村山氏の図を元に筆者が作成)

ハンモックモデルにおいて、概念化は以下の流れで行なわれます。

  1. 抽象化:具体的な事象・経験から本質を引き出す。
  2. 概念化:本質をとらえ、言葉や図によって表現する。
  3. 具体化:生まれた概念を、実際の行動に活かす。

そして、ハンモックモデルを念頭に置いて概念化能力をトレーニングする方法が、村山氏の「π(パイ)の字思考ワーク」。ギリシア文字の「π」のような形になっています。

パイの字チャートの完成図。パイの字を書くようにして概念化思考を行なう。

(画像は筆者が作成・以下同様)

「πの字思考ワーク」にもとづき、概念化をやってみましょう!

1. 具体的な事象を書き出す

まずは、思考の材料となる具体的な事象を書き出しましょう。今回は、自分の「仕事観」について考えるので、「仕事で嬉しかったこと」を書きます。なるべく多く、かつ簡潔に書き出してください。

概念化思考のトレーニング。まずは、これまでの経験を具体的に書く。

2.抽象化する

次に、具体的な経験を抽象化し、本質を抜き出します。「仕事観」をテーマにした今回の場合、「なぜ嬉しかったのか」を考えるといいでしょう。

概念化思考のトレーニング。次に、具体的な経験を抽象的に表す。

3.概念化する

複数の抽象に共通することを見つけ、概念としてひとつにまとめましょう。今回の例では、以下のときに喜びを感じることがわかりました。

  • 頑張りが報われたとき
  • 能力が認められたとき
  • 自分の仕事の価値が認められたとき

これらの共通点を探ってみると、喜びを感じるのは「自分の価値が認められたとき」だとまとめられそうです。概念化の結果として、「自分の価値が認められると、仕事は楽しくなる」という法則を立てられました。

概念化思考のトレーニング。次に、複数の抽象を、ひとつの概念にまとめる。

4.具体化する

定義や法則は、「つくって終わり」ではありません。せっかく学びを得られたのですから、具体的にアウトプットしましょう。「自分の価値を認めてもらえると、仕事は楽しい」という仕事観を見つけられたわけですから、「より価値を高めるにはどうすればいいだろうか?」「自分の価値をより感じられる職業はないだろうか?」など、今後の働き方やキャリア形成を考えてみてください。

ここでつくり上げた定義や法則は、完ぺきとはかぎりません。具体的にアウトプットし、新たな経験を積んでいけば、更新されることもあるでしょう。

「セールスが成功する法則」「仕事ができる人の定義」など、仕事観以外のテーマでも同様です。「経験を抽象化→概念化→実践→新たな経験をもとに概念をブラッシュアップ」というサイクルを回すことで、成長していくことができます。

概念化思考のトレーニング。最後に、概念化によって得られた法則を、具体的な行動に落とし込む。

概念化能力のトレーニング方法2:目的を考える

概念化能力開発研究所株式会社の代表取締役・奥山典昭氏らの著書『デキる部下だと期待したのに、なぜいつも裏切られるのか?』(ダイヤモンド社、2012年)では、概念化能力を鍛えるコツとして「目的を考える」ことが推奨されています。

たとえば、あなたが英会話塾に通っているとします。ビジネスで英語が必要なのか、留学したいのかなど、目的によって学習方法や目指す水準が変わるはずですね。「この行動は、どんな目的を果たすためのものなのか?」と考えることで、問題の本質や適切な解決策を見極められるのです。

『デキる部下だと期待したのに、なぜいつも裏切られるのか?』では、メーカーでの「機械トラブルの頻発」という問題を解決する例が紹介されています。この場合も、目的によって以下のように課題が変わります。

  • 目的:機械トラブルが発生しても、正常な状態にすぐ戻せるようにする。
    →課題:トラブルの早期発見、修理体制の強化
  • 目的:機械トラブルを根絶する。
    →課題:メンテナンス体制の強化、機械の改良

概念化能力とは、物事の本質を見抜く能力。「この行動は、何のためのものなのか?」と、常に意識する習慣をつければ、概念化能力も高まります。

概念化能力のトレーニング5

概念化能力のトレーニング方法3:情報を集め、統合する

「情報を分析・統合して、ひとつの結論を導く」という習慣も、概念化能力のトレーニングとして有効です。

私たちは日々、さまざまな情報を見聞きします。しかし、それぞれの情報がもつ意味を深く考え、本質を見極めようと深く思考している人は、それほど多くないはずです。

たとえば、「為替市場で円高が進んだ」という情報を得て、「へえ、円高が進んでいるんだな」とそのまま納得するだけでは不十分。自ら情報を深堀りし、「円高が進んだのは、アメリカとイラクが一触即発状態になったことで、投資家がリスク回避のためにドルを手放し、円の需要が高まったからだ」というところまで理解すると、今後に活かせる多くの学びが得られます。

情報の本質を見抜き、別の情報と照らし合わせて新たな学びを得る。まさしく、概念化のプロセスです。

「部品会社の機械トラブル」の例に当てはめてみましょう。情報を集めた結果、以下のような事実がわかったとします。

  • 月末にトラブルが集中していた。
  • 特定の機械に関連する工程でトラブルが起きていた。

これらの事実を的確に分析・統合することで、機械トラブルの原因を推測できるはずです。『デキる部下だと期待したのに、なぜいつも裏切られるのか?』では、情報を深堀りするコツとして、「なぜ?」「どうなっている?」という問いを繰り返す方法が挙げられています。

  • 「なぜ、機械トラブルは月末に集中しているんだろう?」
  • 「トラブルが起きていない機械は、どうなっている?」

納得するまで問いを深めていくことで、問題の根幹に近づけるのです。分析の結果、「月末の納期に間に合わせるため、特定の機械を酷使したことでトラブルが起きた」という原因に至ったら、以下のような改善策が思いつきますね。

  • 受注の数を調整する。
  • 長時間の稼働に耐えられるよう、機械を改良する。
  • 生産スケジュールを見直す。

物事の本質・原因を考えることを習慣にすれば、しだいに概念化能力が磨かれていくのです。

***
物事の本質を見抜き、成長スピードを加速させられる、概念化能力について解説しました。成長が行きづまっていると感じている方、ビジネスパーソンとしてさらに上のステージを目指している方などは、ぜひ参考にしてくださいね。

(参考)
村山昇(2018),『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
奥山典昭, 井上健一郎(2012),『デキる部下だと期待したのに、なぜいつも裏切られるのか?』, ダイヤモンド社.
Harvard Business Review|Skills of an Effective Administrator
コトバンク|パン
ZUU online|なぜ「コンセプチュアル・スキル」が優れた意思決定に欠かせないのか?
コンセプチュアル思考の教室|コンセプチュアル思考とは何か?
コンセプチュアル思考の教室|講義1.1 コンセプチュアル思考の系譜
コンセプチュアル思考の教室|講義1.2 「π(パイ)の字思考プロセス」抽象化→概念化→具体化
コンセプチュアル思考の教室|講義1.7 コンセプチュアル思考の定義
ダイヤモンド・オンライン|中東リスクによる「原油高の下での円高」が、不幸中の幸いだった理由
PMstyleプロデュース|【PMスタイル考】第130話:イノベーションにおけるコンセプチュアルスキルの役割

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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