「自分は頭の回転が遅い」
「アイデアを出すことが苦手だ」
「気持ちがモヤモヤするけど、理由がわからない」
今回は、このような悩みを抱えるビジネスパーソンにぜひ取り入れてもらいたいノート術をご紹介します。1日1分からでも可能ですよ。
1.「ゼロ秒思考」で思考力アップ
ひとつめにご紹介するのは、思考力をアップさせてくれる「ゼロ秒思考」というノート術。頭のなかでグルグルと考えるうちに、不要な迷いが生まれてしまう。結論を出せないでいるうち、考えることに疲れてしまう。そんな人に最適です。
この「ゼロ秒思考」は、世界的コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーで14年間活躍した赤羽雄二氏が、「誰でも、確実に頭がよくなる方法」として提唱した思考メソッド。瞬時に状況を把握し、どのように動くべきか判断するための訓練です。
訓練といってもやり方は簡単。頭に思い浮かんだことを、素早く紙に書き出すだけの作業です。詳しい手順は以下のとおり。
- A4用紙を用意し、横置きにする。
- 右上に日付、左上にタイトル、タイトルに沿った内容の本文を4~6行で各行20~30文字程度、1枚1分ですばやく書く。
- この作業を10回、すなわち毎日10ページ(1日10分)行なう。
これを続けていくと、頭の回転が早くなり、すばやく考える癖がつくとのこと。
たとえば、書くテーマは「なぜ先輩は挨拶を返してくれないのだろう」「上司が無茶振りばかりしてくるのはなぜだろう」など、いま気になっていることがよいでしょう。思い出したくないこともあるかもしれませんが、あえて書き出すことで冷静に状況を見ることができますし、吐き出すことでスッキリする効果もあります。
「ゼロ秒思考」を実践してみた
実際に、「取るに足らないことかもしれないけれど、気になっていること」をテーマにし、それに対して考えられる原因や、対処法、感じたことなどをパッと思い浮かぶ順に書き出してみました。
メモ書きをしてみると、ただ頭のなかで考えるよりも紙に書き出したほうが、自分の考えていることや感じていることが明確になることに気がつきました。
考えているだけでは、思考が堂々めぐりになってボヤけてきてしまうもの。メモ書きによって、考えたことを可視化すれば、頭のなかに次のことを考えるためのスペースができますし、書いたメモを見ながら別の考えをすることもできます。「考えすぎて答えが出ない……」という状況は、ゼロ秒思考のメモ書きによって打破することができるでしょう。
2.「自分会議」で考えを整理し自分の意見をもつ
次にご紹介するのは、自分の考えをスッキリ整理できて、自分の意見やすべきことを確立するのにも有効な「自分会議」というノート習慣。「頭のなかを整理したいのに、考えがまとまらない」「自分の気持ちがわからず、意見を聞かれても答えられない」という人に、特におすすめです。
「自分会議」とは、自分自身と対話することで、やるべきことをはっきりさせたり、アイデアを生み出したりするノート術です。方法は以下のとおり。
- 自分会議用の時間と場所を決める:
邪魔が入らずに、ひとりでじっくり考えに集中できる時間を確保する。時間と場所を決めてカレンダーに書き込むのがおすすめ。
- 自分会議の目的を決める:
「なんのために自分会議をするのか」をあらかじめ定める。解決したい問題がある、アイデアを生み出したい、情報や意見を集めたい、など。時間・場所と一緒に目的もカレンダーに書いておくとよい。
- 自分会議に取りかかる:
できるだけ客観的な立場から、自分に対して質問(後述)を投げかける。
3の「客観的な立場からの質問」について、詳しい解説を加えます。
京都造形芸術大学教授の本間正人氏および株式会社AIコンサルティング・ジャパン代表取締役の松瀬理保氏は、「未来志向の行動につながる建設的な質問」として、「原因のリスト」という質問手法を提唱しています。
これは、「自分はなぜ勉強を怠けてしまうのだろう」など「人」に焦点を当てるのではなく、「勉強を継続できるようになる方法をリストアップしてみよう」のように「事柄」に焦点を当てることで、現状の把握や、原因の追求、目標設定などをしていくもの。
たとえば、以下のような質問が自分会議で活用できるでしょう。
- 何ができる?:自分ができる対策を挙げていく
- 何が使える?:利用できる施設・サービス、助けなどを検討
- どうしたい?:ほかの方向も考えつつ、目標を再確認
- どうなればいい?:ゴールを定める
- どこから手をつける?:取りかかるスタート地点を決める
- いつやる?:スケジュールを決める
- どんなふうにやる?:進め方や、大事にしたいポイントを確認
- ほかには?:ほかに案がないかもう一度確かめる
「自分会議」を実践してみた
実際に、「勉強を継続できるようになる方法」をテーマに、自分会議をやってみました。
メリットとして感じたのは、質問と回答を繰り返すことで、考えを整理できることです。自分自身がどうしたいのか、そのための具体的な行動は何か、はっきりと決めることができました。
今回筆者が実践したような「やるべきことを決めるための会議」だけでなく、「アイデアを出すための会議」にもこの方法は有効です。頭に浮かんだことや普段から考えていることを、紙の上に可視化し、それぞれを結びつけていくことで、思考が深まっていくでしょう。
3.「ジャーナリング」で気持ちを整理する
最後にご紹介するのは、「ジャーナリング」。忙しい日々のなかで、不安なことや、気がかりなことは絶えずあることでしょう。「なんだか心がモヤモヤするけどどうしてだろう」といったすっきりしない気持ちを、整理する助けになるのがジャーナリングです。
やり方はとても簡単で、時間を決めて、紙やノートに自分の感じていることをひたすら書きなぐるだけです。誰かに見せる必要はありませんので、誤字脱字やきれいさは気にしなくてもOK。無理にまとめたり文章を整えたりする必要もありません。マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事の荻野淳也氏はジャーナリングについて、5分や1分といった短時間でも毎日書くことをすすめています。
私たちの内面では、怒り、悲しみ、不安なこと、気がかりなこと、嬉しいこと、楽しいこと、などさまざまな感情が渦巻いていますよね。しかし、内側で考えていることは次々と流れては消えていってしまう……。特に、上司に言われることを次から次へとこなすような多忙な毎日を送るビジネスパーソンは、立ち止まって自分の気持ちと向き合う機会は少ないはず。
1日1分からでも、ジャーナリングを行ない自分の感情に目を向ければ、それまで見えづらかった本音や、隠れた情熱や、仕事に対する本当の気持ちが見えてくるでしょう。モヤモヤの解消、ストレスの軽減にもつながります。
実際、テキサス大学教授で社会心理学者のジェームズ・ペネベイカー氏が行なった実験では、被験者である学生に「自分にとって最も意味のあった個人的体験について15分間書く」ことを数日間行なわせたところ、心身の健康が向上する効果が見られたそう。
「ジャーナリング」を実践してみた
筆者が実際にジャーナリングを試してみました。
やってみて気がついたのは、普段いろいろなことを考えているにもかかわらず、じつはそれらの思考は次々と流れてしまっていたのだということ。流れてしまいがちな自分の考えが可視化されるのがジャーナリングのいいところだと感じました。
ストレスを抱えている人や、自分の本当の気持ちがわからない人、新たな気づきを得たい人には、ぜひ毎日の習慣に取り入れて続けてみていただきたいです。朝イチや夜寝る前など、時間帯を決めると習慣化しやすくなりますよ。
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紙とペンがあればすぐに始めることができる簡単なノート術をご紹介しました。習慣化すれば、「思考力を高める」「考えを整理し、意見をもつ」「自分の感情に気づいて対処する」など、ビジネスパーソンにとってかかせないスキルを身につけることができるでしょう。
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。
赤羽雄二(2015),「速さは全てを解決する『ゼロ秒思考』の仕事術」,ダイヤモンド社.
ダイヤモンドオンライン|トップアスリートも実践! 思考力と精神力をアップさせる『ゼロ秒思考』とは?
山﨑拓巳(2010),『1日10分であらゆる問題がスッキリする「ひとり会議」の教科書』, サンクチュアリ出版.
鈴木進介(2017),『1日10分「じぶん会議」のすすめ』, WAVE出版.
本間正人, 松瀬理保(2006),『セルフ・コーチング入門(第2版)』, 日本経済新聞出版社.
NIKKEI STYLE|書く瞑想、ジャーナリング 集中力高め仕事効率を改善
チャディー・メン・タン, ダニエル・ゴールマン(2016),『サーチ・インサイド・ユアセルフ』, 英治出版.
佐宗邦威 (2019),『直感と論理をつなぐ思考法』,ダイヤモンド社.