私たちは1日に “3万5,000回” も決断している。「決断疲れ」を防ぐにはどうすればいいのか?

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グレーのTシャツ。黒いパーカー。この服装は、Facebook創設者のマーク・ザッカーバーグ氏のトレードマークです。Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏も、製品発表のときにはいつもお決まりの服を着ていました。元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏は、グレーか青のスーツしか着なかったそう。

なぜ、彼らは同じ服装を貫いているのでしょうか? じつはそこには、仕事で高いパフォーマンスを発揮するための大きな理由があるのです。

仕事のミスが減らない。アイデアが湧いてもどれが適当か選べない。資料の取捨選択に時間がかかる……。こういった仕事の悩みは、あなたの能力やセンスの問題ではなく、知らないうちに蓄積された「決断疲れ」からきているのかもしれませんよ。

今回は、あなたのパフォーマンスのかせになる「決断疲れ」とその対応策について紹介します。

1日に3万5,000回も決断する私たち

「今日は何を食べよう」
「どんな服を着よう」
「何時発の電車に乗ろう」
「この人にどんな言葉をかけよう」/p>

私たちは、1日のうちにたくさんの決断をしています。ケンブリッジ大学Barbara Sahakian教授の研究によると、人は1日に最大3万5,000回の決断をしているそう。

3万5,000回といわれても、いまいち現実味が湧きませんよね。しかし私たちは、日常のなかで無意識に数多くの決断を下しているのです。いくつかの研究結果をご紹介しましょう。

  • 人が1日に使用する単語の数は、無意識に取捨選択された約1万6,000語(アリゾナ大学とテキサス大学の合同研究)
  • 食べるもの・場所といった食事に関する事柄だけでも、人間は1日に2,267回の決断をしている(コーネル大学のJeffery Sobal教授らの調査)
  • 車を1マイル(1.7km)運転するにつき、200を超える決断をしている(米国労働安全衛生局の報告)

Sahakian氏によると、私たちは、言語食事交通といった事柄だけでも、1日で平均2万回以上も選択をしているそうです。これに、歩く・座るといった、体をどう動かすかについての決断や、会社や自宅で行なっている決断まで全て含めると、3万5,000回に及ぶというのです

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「決断疲れ」がパフォーマンスを低下させる

情報を整理・比較・検討し、ようやく決断に行きつく……。この処理が1日に3万5,000回も脳内で行なわれているのであれば、消耗するのは当たり前ですよね。

身体を動かし続けていると疲労するのと同じように、決断を続けていると脳が疲労し、徐々に決断の質が低下していきます。この現象が「決断疲れ」です。

「決断疲れ」の調査で有名なのは、心理学者のジョナサン・レバーブ氏とシャイ・ダンジガー氏が行なったもの。両氏は、刑務所の判事の「決断疲れ」について調査しました。その結果、なんと午前中から1日の終わりに向かって、衝動的な決断が多くなり、決断の先送りも増えるということがわかったのです。

同調査では、肉体的な疲労と違って「決断疲れ」は自覚するのが難しいということも明らかになっています。

レバーブ氏によれば、衝動買いも「決断疲れ」が引き起こす現象なのだそう。スーパーやコンビニで買い物をする際、私たちは多くの決断をし、無意識のうちに「決断疲れ」に陥っています。そのタイミングで目に入るのが、レジ近くにあるホットスナックやお菓子といった商品。つい、買い物カゴに入れてしまったことがある方は、多いのではないでしょうか。「衝動的な決断をしやすいタイミングで、ついでに買うにはちょうどいい商品が目に入る」という戦略をとっているのですね。

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「決断疲れ」の対策法

しかし、いくら脳が「決断疲れ」に苛まれようとも、仕事はしなければなりませんし、「決断疲れ」で間違った選択をしてしまったら大変です。そこでここからは、「決断疲れ」に左右されず、いつでも良いパフォーマンスを発揮するための対策をご紹介しましょう。

糖分を補給する

フロリダ州立大学の社会心理学者ロイ・バウマイスター氏の研究によると、グルコース(糖分)を補給すると、決断力が復活するそうです。脳は体と同様、糖分からエネルギーを得ています。そのため、糖分が不足するとエネルギーがなくなり、より衝動的に物事を判断してしまうのだとか。「疲れてきたな」と感じ始めたら、積極的に糖分を補給してみましょう。

ただし、糖分なら何でもいいというわけではありません。

炭水化物やスナック菓子、ファストフードといった食品は、短時間で糖分に変化するので、血糖値を急激に上昇させます。血糖値に急激な変化があると、脳は、糖分をうまくエネルギーに変換できなくなってしまいます。

効果的に「決断疲れ」から回復するには、野菜ナッツ類生の果物チーズなどの、短時間で糖分に変化しない「低血糖食」と呼ばれる食べ物を選びましょう。即効性はなくとも、きちんと脳のエネルギーに変換されます。休憩中に小腹が空いたな、と思ったときに、チョコレートではなくナッツやチーズを選んでみるだけでも効果的ですよ。

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ルールを決める

冒頭で紹介した、一流が同じ服装を選ぶ理由は、じつはここにあるのです。マーク・ザッカーバーグ氏は、いつも同じ服装をしている理由について尋ねられたとき、以下のように答えています。

できるだけ決断の数を少なくしたい。朝食に何を食べるかとか、どんな服を着るかとかいう小さい決断は、エネルギーを消費する。

(引用元:HUFFPOST|Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ、「なぜ毎日同じTシャツを着ているのか」に答える

ザッカーバーグ氏が「決断疲れ」を意識していることがわかりますね。じつは、オバマ氏も同様に、同じスーツを着る理由について「決断の回数を減らすため」ということを公言していました。一流と呼ばれる人たちほど、「決断疲れ」を軽減する努力をしているのですね。

皆さんも彼らのように、日常や仕事で行なうことにルールを作り、決断する回数を減らしてみてはいかがでしょうか。たとえば、メールはすべて午前中に処理する・朝食はシリアル・ジムは火曜と木曜……。といった具合に、小さなことでもかまいません。

ルール通りの生活を送るのが難しいという場合は、選択肢を絞り込んでおくだけでも効果的です。コロンビア大学経営大学院のシーナ・アイエンガー教授によると、人間は選択肢の数が多いと、それだけ決断に使う脳のエネルギーも大きくなるのだそう。

たとえば、「ランチはいつもこの3つの店のどれかへ行く」「困ったときは、AさんかBさんかCさんに頼る」というように、選択肢を絞っておくだけでも、決断に費やすエネルギーを節約することができますよ。

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作業場所を変える

前述のレバーブ氏と、メルボルン大学准教授のニコール・ミード氏は、共同で以下のような実験を行ないました。

【実験内容】
2つのグループが、同じ部屋で大量の選択作業をする。その後、1つのグループはそのまま同じ部屋で、もう1つのグループは部屋を移動してから、新たな選択作業をする。

【結果】
別部屋に移動したグループは、前の作業からの疲労をひきずらずに、高いエネルギーレベルで次の作業を始めた。一方、同じ部屋にいたグループは、明らかに決断疲れが見られた。

これにより、場所を変えることも「決断疲れ」からの回復に効果があることが明らかになりました。実験によれば、それほど大きく環境を変えなくても、違う場所であるというだけで効果があるそう。

仕事をするうえで決定を下さなければいけないとき、同じオフィスの中でも一度場所を移動してみてはいかがでしょう。いつものデスクから、ミーティングルームへ移動するだけでも効果がありますよ。外出の予定があれば、そのときまで決断はとっておいてもいいかもしれませんね。

***
大切なのは、自分にとって何が大切な決断なのか、その軸を持つことです。ザッカーバーグ氏やジョブズ氏にとっては、服装は大切ではなかったというだけのこと。もしあなたにとって服装が大切なら、大いに迷って、考えて、決断してください。自分にとって大切な決断のために力を注げるよう、この記事で紹介した方法を役立ててみてくださいね。

(参考)
ROBERTS WESLEYAN COLLEGE|35,000 Decisions: The Great Choices of Strategic Leaders
DuPont Sustainable Solutions|The Impact of the Subconscious on Risk-Based Decision Making
The New York Times Magazine|Do You Suffer From Decision Fatigue?
NIKKEI STYLE|衝動買いも予算オーバーも 「決断疲れ」が原因?
NIKKEI STYLE|買い物で「決断疲れ」感じたら… 消費者の賢い対処法
HUFFPOST|Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ、「なぜ毎日同じTシャツを着ているのか」に答える
シーナ・アイエンガー著 ,櫻井祐子訳(2010),『選択の科学』, 文藝春秋.

【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。

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