新型コロナウイルスの影響で、気軽に外出することが難しくなりました。仕事もテレワークになり、毎日に変化がなくなった気がする人もいるでしょう。
そんな、どこか閉塞感のある日常を充実したものに変える可能性があるのは、「日記をつける」という習慣です。今回は、代わり映えのない毎日に日記がもたらす効果を紹介します。
日記の効果【1】前向きな感情、充実感が得られる
今まで通りの生活ができないストレスやモヤモヤ……。そんなネガティブな気持ちは、「感情に着目した日記」を書くことで上向かせることができますよ。
和洋女子大学教授の酒井久実代氏らが、「“感情をともなった出来事” を振り返る日記を30日間書くと、精神的健康がどう変化するか」について研究しました。その出来事とは、具体的には、気がかりだと感じられた出来事(失敗した、心配に思った、悲しかった、など)と、いいことだと感じられた出来事(嬉しかった・ほめられた・おいしいものを食べた、など)です。
その結果、うつ症傾向をはじめとする心理的ストレス反応が、日記を書く前に比べて有意に低下していたのだそう。また、自分のやりたいことができるという感覚(本来感)や、自分に正直に生活している感覚(本来的自己感)が、実験前に比べ有意に増加したとのこと。つまり、日記によって、ネガティブな感覚がやわらぎ、ポジティブな感覚が増したのです。
また実験参加者からは、「1日頑張った」という充実感を味わえた、喜びを振り返り幸せな気持ちを実感できた、自分の変化に気づけた、といった感想も聞かれたそう。日記を継続したことで達成感を味わえた参加者もいたと言います。
酒井氏らはこれらの結果について、「参加者たちは、感情をともなう出来事を想起した日記を書くことにより、『フォーカシング』の体験をした」と分析しています。フォーカシングとは、アメリカの臨床心理学者ユージン・ジェントリンが明らかにした心理カウンセリング法のこと。感じたことに注意を向けたり、感じたことを言葉にしたりすることにより、自分の気持ちをよりよく理解することを目指します。
感情に着目した日記を継続して書いた結果、参加者らにフォーカシングの効果が生じ、自分の変化に気づけたり、感情が前向きになったりしたというわけなのです。代わり映えのない毎日でネガティブな思いにとらわれながら過ごしている人に、この方法はまさにうってつけだと言えるでしょう。
たとえば、感情に着目した日記を書くとしたら、以下のような具合になります。
5月14日(木)
自粛期間が先日延長されたが、テレビで報道される感染者数が少しずつ減っているのを見て、希望を感じた。自由に出かけることは難しいが、気持ちはだんだん上向いている気がする。
特別な出来事が少ない毎日だからこそ、感情に目を向けた日記を継続して書き、気持ちを前向きにしていきましょう。
日記の効果【2】仕事力が向上する
リモートワークでひとりで仕事をするようになったら、オフィスでみなと働いていたときのような成長実感が得られなくなった……。そんな人にも日記は効果的です。「仕事に関する日記=業務日誌」をつければ、仕事力アップが期待できるでしょう。
ハーバード・ビジネススクール教授のテレサ・アマビール氏は、毎日10分足らずの時間で業務日誌をつけるメリットのひとつに、「個人的成長が促される」という点を挙げています。アマビール氏いわく、1日の業務をじっくりと振り返り、その日の進捗や仕事に関する願望、次の目標に向けた計画を書き記すことは、自分の改善すべき点を把握することにつながるとのこと。
業務日誌を書くといっても、単に仕事内容を羅列すればよいのではありません。情報共有ツール「Qiita Team」を提供するIncrements株式会社が、業務日誌(日報)に書くべき2つの内容を次のようにまとめています。
- その日の業務内容
作業内容を具体的に記述する。各作業にかかった時間を書き込むことが大事。 - 見つかった課題
作業がうまくいかなかった状況と、その原因、解決策までを、自分なりに考えて書く。
仕事の問題点と、その原因および解決策までを書いてこそ、仕事力アップにつながる業務日誌となるわけです。
具体的には、次のように書いてみましょう。
5月15日(金)
10:00~11:00、オンラインミーティングを1時間行なった。オンラインミーティングではひとりずつしか話すことができないので、情報の共有に時間がかかることが多い。今後はよりスムーズに情報共有するために、事前に議題をどこかでまとめておくことが重要だと思う。
ひとりでのリモートワークをいかに成長につなげられるかは、振り返りにかかっているのかもしれません。
日記の効果【3】確実に前進している実感を得られる
家で過ごす自粛生活では、少しも進歩している感覚が得られないし、いまいちやる気も出てこない……。そんな人は、プロテニスプレイヤー松岡修造氏流の日記のつけ方を試してみてください。代わり映えしない現実の中でも、確実に自己成長していることを感じられるようになるでしょう。
松岡氏は高校時代から日記をつけはじめて以後、日記のなかで自分に向き合い、誰にも見られない日記に本音をぶつけたり、叱咤激励を重ねたりしてきました。その習慣は、松岡氏のプロ生活を強くサポートしたと言います。
そんな松岡氏の日記術とは、日記の最初のほうに「10年後の目標」を、次の3段階で書くというもの。目標を分解することで、いまやるべきことがわかり、何をすればいいか迷わなくなるとのこと。
- 叶えたい大きな目標を書く
例「3年後に資格を取って起業したい」 - 大きな夢を叶えるために必要な、身近な目標をいくつか書く
例「2年後までに資格試験の勉強範囲を終わらせる」「半年に1回、模擬試験を受ける」 - 身近な目標を達成するための具体的な方法を書く
例「資格の講座を受講する」「テキストを3ヶ月間で1周する」
そして、目標達成を目指し日記を書きます。松岡氏いわく、決まった書き方はなく、書くことさえも自由(書かない日があってもいい)ではあるものの、ひとつだけコツがあるとのこと。それは、毎日の最後の言葉をポジティブワードにすることです。「絶対に諦めない!」や「明日は今日以上に頑張れる!」といった言葉を書くと、次の日がいっそう輝かしいものになると言います。
たとえば、松岡氏流の日記は次のように書けるかもしれません。
5月18日(月)
コロナの自粛期間のなかで、新しい本を週に1冊は読もうと考えている。今日は、友人からおすすめされた本をインターネット通販で注文した。本が届いたら、すぐに読み始めよう!
こうした日記を続ければ、確実に成長実感を得られるでしょう。
日記は下手でもいいし、毎日書かなくてもいい
最後に、日記の効果的な実践方法のヒントを紹介します。精神科医のSabina Dosani氏は著書『Defeat Depression』の中で、できれば毎日同じ時間に日記を書くとよいと述べています。それが、感情の変化を知るバロメーターとなるからです。
また、Dosani氏は次のような悩みにもアドバイスしています。
書くのが苦手。自分の感情を言語化するのが難しい……
日記の目的は誰かに見せることではなく、自分の感情の変化を個人的に見つめ直すこと。書きづらい感情は下手なまま書けばよいそうです。
三日坊主になってしまう……
Dosani氏いわく、そんなに気張る必要はないとのこと。書きたくないときや忙しいときは、本棚の中に日記を置いたままにしておいても問題ないそうです。
ブログのようにインターネット上で公開したほうがいいのだろうか……
自分の感情すべてをインターネットで本当に公開したいのか、自問するべきだとDosani氏は言います。パソコンを使って日記を書くのなら、メモ機能などを使うのがおすすめだそう。
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最後に、Dosani氏の著書から、いまの私たち以上に閉塞感に苦しみながら日記を書き続けた人の言葉を加えておきます。
私は、書くことであらゆるものを振り払うことができる。哀しみは消え、勇気は再生するのです。――アンネ・フランク
代わり映えのない単調な毎日も、日記によってその意味合いは変えていけるはずです。ぜひ実践してみてください。
(参考)
酒井久実代,河﨑俊博(2018),「振り返り日記が精神的健康に及ぼす効果の検討」, Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要, Vol 8, pp.49-59.
Wikipedia|フォーカシング
Wikipedia|ユージン・ジェンドリン
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|毎日10分の日記をつければ、人は成長する
Qiita Team|日報の4つの目的を理解して、業務成果につなげよう
松岡修造(2015),『あなたの365日を応援する 修造パワーダイアリー』,PHP研究所.
PHPオンライン衆知|松岡修造 僕は日記を書くことで「成長」してきた
PHPオンライン衆知|松岡修造 夢に向かってがんばれる「日記のつけ方」
Sabina Dosani (2005), Defeat Depression: Tips and Techniques for Healing a Troubled Mind, United Kingdom, Infinite Ideas.
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。