仕事が行き詰まっている状況には、当然ながらそうさせている「原因」があります。
大手化学メーカー・花王の研究開発職を経て、現在は商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家として幅広く活躍する美崎栄一郎(みさき・えいいちろう)さんによれば、つい多くの人がやってしまうことが、仕事を行き詰まらせる原因なのだそう。そして、それらを「しない」と決めれば、仕事に行き詰まることもなくなると言います。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【1】「忙しい」を口癖にしない
みなさんのまわりにも、四六時中、「忙しくて……」と聞いてもいないのに言っている人はいませんか? でも、「忙しい」と言ったところで、時間の余裕はできません。「忙しい」と言っても言わなくても、変わりはないのです。
そもそも、「忙しい」とはいったいどんな状態を指すのでしょうか? 私は「自分の時間の管理の仕方が悪い状態」だと考えています。それならば、仕事の計画を見直し、より効率的に仕事を進める方法を考える必要があります。それなのに、「忙しい」と言っているだけでは、何も変わりません。
では、「忙しい」と言わないように心がけているとどうなるでしょうか? 忙しいとは感じているのに、「忙しい」と口にするというアクションを取ることができませんから、別のアクションを取りたくなる。その別のアクションを「仕事のやり方を見直す」にするのです。
「忙しい」と言わないようにしておけば、忙しいと感じるたびに仕事のやり方を見直そうという思考が働き、結果的に仕事をよりスムーズに進められるようになります。
【2】「どうせ自分にはできない」と思わない
このことについては、自己肯定感が高い人なら問題ないでしょう。でも、以前の私は、ちょっとハードルが高そうな仕事を任されるたび、「自分にはできないのではないか……」と思ったものです。
ただ、自分が仕事を誰かに頼むときのことを考えればわかることですが、「この人にはできないかもしれないな」なんて思う人に仕事を頼もうとは誰も考えませんよね? 仕事を頼まれているということは、依頼者は「この人ならできる」と思っているからこそ頼んできているわけです。つまり、仕事を頼まれたからには、それだけの力を持っているということ。
もっと言えば、仮に任せられた仕事がうまくいかなかったとしたら、「自分に頼んだ人が悪い」くらいに考えればいい。そう考えれば、ぐっと気持ちが楽になって仕事に集中できますし、チャンスをものにすることにもつながります。
【3】全部自分でやろうとしない
仕事の能力に長けた人にありがちですが、他人を信用できないのか、あらゆる仕事を全部やろうとする人もいます。でも、そうしてしまうと自分の許容量をオーバーし、パンクしてしまう。
そうならないためには、自分が抱えている仕事の中から、「ほかの人でもできる」「ほかの人がやったほうがいい」という仕事を抜き出し、うまく他人に任せることが大切です。もちろん、そういった仕事であっても、将来のキャリアにつながるような「自分がやりたい」仕事は優先的に自分でやるべきです。でも、そうでないものは他人に任せてしまいましょう。
特に、会社に勤めるビジネスパーソンの場合、自分がやることが当たり前になっていて、疑うこともなくこなしている仕事もあるはずです。そこで一度立ち止まって、「この仕事は本当に自分がやるべきものなのかな?」と冷静に考えてみる。それこそ、「ほかの人がやったほうが成果が上がる」といった仕事なら、その人に任せたほうが会社の利益にもつながるのですから、自分にも会社にもメリットがあるのです。
【4】言い訳しない
これは、あるキャリアスクールで出会った私の恩師とも言うべき人の言葉です。その人は、「すぐやる、言い訳しない、あきらめない」というモットーを持って生きている人でした。
その人と知り合う前から、私は「すぐやる」に関しては比較的できていたほうでした。でも、なかにはそうできない仕事もあった。それがどういう仕事のものかと考えたとき、やる前からつい言い訳をしてしまっている仕事だったのです。
そのことに気づいてからは、言い訳をしないようにしてみました。すると、必然的にすぐに取りかかることになり、仕事の着手が早くなったのです。
加えて大切なのが、「あきらめない」こと。あきらめさえしなければ、その先には成功しかないからです。でも、それ以前に言い訳をして仕事に取りかかれなければ、成功につながるわけもありません。
【5】現金を使わない
ようやく日本でもキャッシュレス決済が広まってきましたが、以前の現金至上主義だった頃のことを考えてみてください。ランチでうどんを食べるにも、店員に「380円になります」と言われ、現金を数え、支払いをして、店員が現金を数えて、必要ならばお釣りを受け取っていました。
このように、現金での支払いには無駄な業務フローがたくさん発生します。もちろん、そのための無駄な時間を消費することにもなる。キャッシュレス決済であれば、それらはいっさい省けますよね。
もうひとつ例を挙げましょう。いまのコインロッカーは、コインロッカーと言いながらも、「Suica」などの交通系ICカードを使ったキャッシュレス決済が可能です。すると、鍵をなくすこともなければ、両替して小銭を持っておく必要もないし、運営業者が現金を回収する必要もない。無駄がなくなり、まさにいいことずくめです。
「現金を使わない」と決めておけば、これまでの無駄に気づけます。その思考を持っていれば、仕事に関しても無駄があるのかないのかを見極められるようになる。
いまは、ひとりあたりの仕事量がかつてないほどに増えていて、仕事の効率化がより求められる時代です。仕事の効率化を実現するためにも、現金を使わないことが大きな思考の転換をもたらしてくれると覚えておきましょう。
【美崎栄一郎さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
美崎栄一郎(みさき・えいいちろう)
1971年6月24日生まれ、神奈川県出身。商品開発コンサルタント、ビジネス書作家、講演家、起業家。2009年に上梓した初の著書『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』(ナナ・コーポレート・コミュニケーション)がビジネス書大賞1位に。その後、花王で商品開発に携わったサラリーマン経験を元に、仕事術をまとめた著書は30冊を超える。『[書類・手帳・ノート・ノマド]の文具術』(ダイヤモンド社)は文具本で異例のヒット。『iPadバカ』(アスコム)はiPad関連書籍で最も売れた記録を持つ。2013年よりビジネス手帳の監修も手がける。講演テーマは、時間術、仕事術、アイデア発想術からノート術、デジタルツール活用術など。企業勤務経験から企業内研修の依頼も多い。『美崎栄一郎の結果を出す人のビジネス手帳2020』(永岡書店)、『面倒くさがりやの超整理術 「先送り」しないための40のコツ』(総合法令出版)、『スピードと成果が劇的に上がる戦略 最強の優先順位』(かんき出版)、『仕事が速い人ほど無駄な時間を使わない! 超速片づけ仕事術』(かんき出版)、『快速エクセル 会社では学べない一生モノの時短術』(インプレス)、『「結果を出す人」は、エクセルをどう乗りこなしているのか?』(学研パブリッシング)、『図解ノート術 ミスがなくなり、アイデアが生まれ、目標を達成できる』(学研プラス)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。