社会人となって「10年」も経てば、仕事で求められるある程度の知識やスキルを身につけ、体力と勢いに任せて目の前の仕事をこなすことに必死だった若手時代には見えなかったものも見えてきます。ただそれだけに、多くの「モヤモヤ」とした悩みを抱えがちな時期でもあるでしょう。
『10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という著書を上梓した株式会社アイデミー取締役執行役員 事業本部長COOの河野英太郎さんが、「10年目社会人」が抱えがちなモヤモヤと、その解消法を伝授してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
「10年目社会人」が抱える2パターンの「モヤモヤ」
みなさんは、社会人としての「10年目」頃はどんな時期だと思いますか? 経験を積み、仕事の流れはもちろん、会社や業界のことも以前より見えてくる時期というのもひとつの答えです。
ただその一方で、「モヤモヤ」した思いを抱きやすい時期でもあります。そういったモヤモヤを抱える人には、大きくふたつのパターンが見られます。ひとつが「他人と自分を比べる人」で、もうひとつが「キャリアは会社が与えてくれるものだと思っている人」です。順に解説しましょう。
社会人10年目頃になると、周囲の同年代の人たちのなかから、「年収が1,000万円になった」「史上最年少でマネージャーになった」といったことが耳に入りはじめます。SNSが広まっているいまは、特にそういうことが起きやすい時代です。すると、「あいつに比べると自分は駄目だ……」「自分もあいつの会社に入社できていたら……」と自信を失ったり不満をもったりしてモヤモヤを抱えるのです。
また、「他人と自分を比べる人」にはもうひとつのパターンも考えられます。学生時代までは、ひとつやふたつ年齢が違うだけでもそこには大きな差を感じたものですが、社会人の場合は異なります。10年目の社会人から見た場合の5年目くらいの後輩は、完全にライバルです。自分をおびやかすような能力がある後輩と自分を比べて焦り、「このままじゃまずい……」といったモヤモヤを感じることもあります。
ふたつめのパターンの「キャリアは会社が与えてくれるものだと思っている人」は、自分の仕事やキャリアに対する責任感が薄い人です。仕事に関するあらゆる不都合なことについて自分以外に責任があると考えますから、「自分はこんなに頑張っているのに上司は評価してくれない……」「会社が自分に向いていない部署を配属先にしたから成果を挙げられない……」のようなモヤモヤを抱えます。
「他人と自分を比べる人」がもつべきは、強く明確な目標
「他人と自分を比べる人」も「キャリアは会社が与えてくれるものだと思っている人」もモヤモヤを抱えていますから、仕事に集中できません。そんなことでは、大きな成果を挙げることも難しくなるでしょう。では、どうすればそのモヤモヤを解消できるでしょうか?
まず、「他人と自分を比べる人」から見ていきます。これは、ある意味で仕方ない部分もあります。日本の学校教育自体が基本的にはテストの順位で評価を決めるという他人と比較するかたちであり、私たちはそのなかで育ってきました。社会に出てからも、会社のなかには上のポジションをめぐって他人と自分を常に比較するという競争原理が存在します。そのなかにいる私たちには、他人と自分を比べる意識が働いて当然でしょう。
でも、そこから脱却することが重要です。そのための鍵は、「自分は仕事でこういう貢献をしたい」「こういうキャリアを歩みたい」「最終的にこういうゴールにたどり着きたい」のように、キャリアを通じて実現したい目標を明確に定めることです。
その目標をもてれば、自分と比較する対象はその目標を実現している将来の自分自身になります。他人は問題でなくなり、一気にモヤモヤから解放されるでしょう。
実際、私が仕事をおもしろく感じ始めたのも、会社や上司の評価を気にしなくなったとき、すなわちライバルである同僚など他人と自分を比べなくなったときでした。そのときの私の思いであり目標は、「お客さまに喜んでほしい!」「お客さまにとって価値があることをやるんだ!」というものでした。
そうして評価を気にせず、そして他人と自分を比べることなく突き進むと、仕事をおもしろく感じられるようになりました。そして、そのために成果を挙げられ、結果的には評価も上がったのです。そうなったのも、「お客さまに喜んでほしい!」「お客さまにとって価値があることをやるんだ!」という強い思い、目的が私にあったからだと思います。
自分のキャリアに責任感をもつことに尽きる
もうひとつの「キャリアは会社が与えてくれるものだと思っている人」がモヤモヤを解消するためにやるべきことは、自分の仕事やキャリアに対する責任感をもつことに尽きます。つまり、自分の仕事やキャリアに対して、「他責」ではなく「自責」の意識をもつのです。
「他責」の意識が強い人には、自分にとって不都合なことについて、自分以外の会社や上司などに責任があると考え「この会社はこういうところが駄目だ」「この会社は嫌だ」と思いつつも、「会社を辞めない」という特徴が見られます。
転職がまったく珍しいものでなくなっている時代、嫌だったら辞めればいいのですが、自分のキャリアに「自責」の意識をもっていないために自らキャリアを切りひらくことができず、モヤモヤを抱えて周囲に愚痴をこぼしながら同じ会社に勤め続けることになるのです。
それでは自分の将来を無駄にすることになりますし、社内の雰囲気や生産性なども含めた組織の価値を下げることにもなります。これは社会的損失でしかありません。
ぜひ、自分の仕事やキャリアに対して「自責」の意識を強くもってください。そのうえで、勤め先に自分ではどうしても解消できない問題点が見つかったり、先にも触れたキャリアを通じて実現したい目標がその会社では実現できないと見えたりすれば、自然とほかの道に進むことになるでしょう。もちろん、そこにはもうモヤモヤはなくなっていると思います。
【河野英太郎さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ポテンシャルを発揮しまくれる人は、“あの言葉” を口癖に仕事をドライブさせている。
怒りをぶつけまくる迷惑な人は「メンタルの自己分析」ができていない。
最高に優秀なリーダーは、部下の前で必ず “暇そうにする” という法則。
「社会人10年目」のその後のキャリアを分けるもの。 “当事者意識ゼロ” では相当危ない
若手でもベテランでもない「中堅」こそ勉強すべきこと。10年目は “これ” を学ぶのが理想
【プロフィール】
河野英太郎(こうの・えいたろう)
1973年10月14日生まれ、岐阜県出身。株式会社アイデミー取締役執行役員 事業本部長COO。株式会社Eight Arrows代表取締役。グロービス経営大学院客員准教授。東京大学文学部卒業。同大学水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。電通、アクセンチュアを経て、2002年から2019年までのあいだ、日本アイ・ビー・エムにてコンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門長、AIソフトウェア営業部長などを歴任。2017年には複業として株式会社Eight Arrowsを創業し、代表取締役に就任。2019年、AI/DX/GX人材育成最大手の株式会社アイデミーに参画。現在、取締役執行役員 事業本部長COOを務める。著書に『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』(ダイヤモンド社)、『本当は大切なのに誰も教えてくれないVUCA時代の仕事のキホン』(PHP研究所)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。