「どれだけ勉強しても結果が出ない。私って頭が悪いのかも」
「資格試験の成績が同僚より低い。記憶力が悪いせいだ……」
ふとそんな劣等感を抱き、勉強のモチベーションが下がることってありますよね。そんなときは、本記事でご紹介する4つの対処法を試し、やる気や向上心を取り戻しましょう。
劣等感は、プラスにもマイナスにも作用する
そもそも劣等感は、人間にとって自然な感情であり、必ずしも悪い影響ばかりをもたらすとは限りません。
精神科医の和田秀樹氏は、アドラー心理学に基づきながら、劣等感について次のように説明しています。人間には、他人より優れた存在でありたいと願う「優越性の追求」という心理があり、この心理が満たされないときに劣等感が生じるのだそうです。
そして、その劣等感があるからこそ、人は「自分の能力を高めたい」と努力できるもの。つまり、適度な劣等感は向上心の原動力になるというのが、アドラーの教えであるというのです。
たとえば、部活の試合でライバルに負け、「次こそは勝ちたい!」という思いから必死に練習に励んだ――そんな経験を思い起こせば、わかりやすいのではないでしょうか。
ただし、劣等感が強くなりすぎると、「どうせムリだろう」「頑張ってもムダだろう」といった無力感が生じて、物事に取り組むことを諦めてしまうケースがあります。そのように、劣等感があまりに強く、悪い方向に働きやすい状態を「劣等コンプレックス」というそうです。
つまり劣等感をプラスの方向に導くには、「頑張ってもどうせムリだろう」という無力感をいかに減らし、「頑張ればできそう、勝てそう」という自信を養うかがカギになります。
劣等感に苦しむ人へ……4つの処方箋
「勉強ができない」という過度な劣等感を抱かないよう、無力感を軽減して自信をつけるために、以下4つの対処法を試してみてください。
1.「達成できそうな目標」を探す
和田氏が推奨するのは、「“これ” なら頑張れば勝てそうだ」というものを探すことです。苦手なことや困難すぎることに無理に挑むのではなく、「頑張ればできそう」と思えるような目標を立て、達成する。そうすることで、優越性を追求する心理を満たしてあげるのです。
イメージしやすい例を挙げると、「数学は苦手だけど、国語は得意」な人の場合、数学の点数や順位で勝とうとしても当然勝てず、劣等感を抱えるだけ。であれば、国語で勝てばいいわけです。
社会人の勉強で言えば、
- 自分の得意分野に関わる目標を立てる
例)TOEICで、得意の「会話問題」だけは満点を目指す - 「これならできそうだ」と思えるところまで目標を下げる
例)TOEICの目標点数を「900点以上」から「700点以上」に下げる - 同レベルのライバルに勝つことを目標にする
例)友人より1点でも多く点数をとろうと頑張る
などのアプローチが考えられるでしょう。
和田氏は、「勝てないかもしれないし、勝てるかもしれないという状況で、実際に勝つ」という体験をすることが、成長意欲につながると述べています。
「これならいけそうだ」という目標を立てれば期待をもち続けられるので、勉強意欲を失わずにすむはずです。
2.「過去の自分」と比較する
「自分はなんだったら周囲に勝てるのだろう?」と考え続けていると、疲れてしまうこともあるかもしれません。そんなときは、精神科医の森秀人氏が推奨する「過去の自分自身」と比較・競争するという考え方をしてみてください。
たとえば、今日、英単語を10個覚えられたなら、その単語を知らなかった昨日の自分に「勝てた」ということになりますよね。森氏によれば、この「過去の自分より成長した」という事実を正しく評価することで、自尊感情を高められるのだそうです。
「自分自身」という対等のライバルと競い合い、日々勝利する経験を積んでいけば、自信がしだいに身についていくはず。時には、他人と比べるのをやめて、“自分との闘い” に専念してみましょう。それが、過度な劣等感から脱却し意欲を維持する近道になりますよ。
3.「できたこと」に注目する
過去の自分と比べるのはいいけど、負けてしまったら結局意味がないのではないか?――そんな疑問は、自分の行動や能力について「できたこと」を中心に評価することで解消できます。
公認心理師の大美賀直子氏によると、「できないこと」ばかりに注目すると、劣等感が強くなるとのこと。
たとえば、覚えた英単語の数が、昨日は30個で今日は20個だった場合、「昨日より10個も減ったなんて!」と「できなかったこと」のほうに目が向くと、「自分はなんてダメなんだろう」と劣等感を感じてしまうのです。
そこで「10個減った」と考えるのではなく、「20個覚えられた」という「できたこと」のほうに素直に目を向けましょう。そうすれば落ち込むどころか、自分の頑張りをほめてあげたい気持ちにさえなるかもしれません。
なお大美賀氏によれば、自分自身の
- 成してきたこと
- できていること
- 強み
に注目することで、行動や能力を肯定的に理解できるとのこと。
もし劣等感で心が折れそうになったときには、上記3項目を紙に書いて整理し、自分がもつ “良さ” を再確認するとよいと大美賀氏は言います。勉強後、日記やノートなどに「今日、問題集を○○ページ進められた」「過去問で○○点とれた」といった実績を記録するのも効果的でしょう。
4.「正しい勉強法」を知る
「勉強が苦手だ」「記憶力が悪い」という劣等感で苦しまないためには、科学的に正しい、効率のよい勉強法を選択することも大切。いくら勉強に手間と時間を割いても、脳の性質に逆らったやり方をしていては、成果は出にくいからです。
たとえば、勉強において劣等感を抱きやすい人のなかには、「勉強は苦手で嫌いだ……」という気持ちを抱えながら勉強をしている人がいるかもしれません。ですがそれは脳科学的に間違ったやり方。
脳医学者の瀧靖之氏によると、勉強を「嫌い」と感じると脳はパフォーマンスを落とす反面、「好き」と感じればより記憶を定着させやすくなるそうです。ですから、好きな “何か” と勉強を関連づけるなどして、ポジティブな印象をつくりながら勉強するとよいと言えます。
このように、正しい勉強法を選択すれば、より成果を出しやすくなります。大美賀氏のアドバイス通り「できたこと」を積極的に評価できるようになって、劣等感を減らせるでしょう。
こちらの記事『効率のいい勉強法14選! まずは基本を確認しよう』なども参考に、合理的な勉強のノウハウを身につけてみてください。
***
以上4つの方法を参考にしながら、「勉強ができない」という劣等感を乗り越えましょう。
(参考)
東洋経済オンライン|「他人と比べない生き方」では幸せになれない
渋谷昌三 (2013), 『面白いほどよくわかる! 自分の心理学』, 西東社.
独立行政法人 愛媛産業保健総合支援センター|優越感と劣等感
All About|優等生タイプほど劣等感が強いのはなぜ?
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
STUDY HACKER|効率のいい勉強法14選! まずは基本を確認しよう
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。