社員研修を外部の研修業者に依頼するとき、避けて通れないのが、社内の意思決定者への提案ですよね。
「社員の業務スキルを上げて、会社全体の生産性を高めたい」「部署内のメンバーをスキルアップさせ、売上/利益を向上させたい」と思ってはいるものの、
- 日々の業務に追われ、役員陣を説得するための提案資料づくりにまではなかなか手が回らない。
- 頑張って提案資料をつくってみてが、部長や社長が納得してくれず、導入できなかった。
そんな方も多いでのではないでしょうか。気づけば時間が経ってしまって、前例踏襲でいいかな……と毎年同じ研修を導入している方もいるかもしれません。
本記事では、社内の意思決定者に納得してもらいやすい「研修の提案書」を効率よく作成するコツをご紹介していきます。
例として、「これまで英会話メインの英語研修を実施してきたが、このたび別のスタイルでの英語研修へスイッチングしたい」というケースを取り上げながら、具体的に解説します。
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STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
中川邦夫(2010), ドキュメント・コミュニケーションの全体観 上巻 原則と手順, コンテンツ・ファクトリー.
ITmedia エンタープライズ|マッキンゼー流仕事術 残念にならないプレゼン――ピラミッドストラクチャーを使う
提案書が通らないのはなぜか?
社内の意思決定者へ向けて企業研修の提案書をつくっても、提案がなかなか通らないという場合、以下の点が問題になっている可能性があります。
- 情報が不足している
- 目的がわかりにくい
- ロジックが破綻している
情報が不足している
提案書は、意思決定者が決断するうえで重要なドキュメントです。提案内容が不明瞭であったり、必要な情報が不足していたりする資料では、意思決定者にとって不可欠な判断材料が足りません。その結果、提案が通らないことがあります。
仮にあなたが意思決定者であった場合、この情報だけで判断することができるか? という目線で提案書を作成する必要があります。
目的がわかりにくい
研修実施を提案する目的や、研修によって会社や部門がどのような利益を得るのかが明確に説明されていない場合、研修の提案は承認されにくくなります。
「なんのために」その研修を行なうのか、常に忘れないようにしましょう。
ロジックが破綻している
提案の根拠が論理的でない資料や、論理的なつながりが不明瞭である資料だと、提案が実現可能で効果的であることを説得力をもって伝えられない可能性が高いものです。
会社や部門の現在の状況と、研修を実施することで社内の現状をどう変えられるのか――という「前提」と「結論」のあいだには論理的なつながりがあるか、飛躍してしまっていないかチェックしていくといいでしょう。
提案書を通すにはどうすればいいか?
それでは、研修の提案書を通すにはどうすればよいのか、見ていきましょう。
提案書・報告書・会議資料等の実践書の名著といわれる、中川邦夫氏著『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 上巻 原則と手順』では、ストーリーづくりをしっかりと行なうことが重要だと指摘されています。
「ストーリーといっても、私には物語をつくる才能がないし……」と思われた方もいるかもしれませんが、安心してください。
中川氏は著書のなかで、ビジネスにおけるストーリーを下記のように定義しています。
ストーリー:「結論とそれに至った筋道」、あるいは「結論とその理由づけ」
(引用元:中川邦夫(2010), 『ドキュメント・コミュニケーションの全体観 上巻 原則と手順』, コンテンツ・ファクトリー.)
つまり、論理的な展開を破綻させることなく、ひとつの流れとして明瞭にわかるようつくっていけばいいということですね。
実践編! 通る提案書のつくり方
続いて、実際に提案書を作成する際の流れを解説します。
今回は、「これまで英会話メインの英語研修を実施してきたが、このたび別のスタイルでの英語研修へスイッチングしたい」というケースにおける、提案書の書き方を見ていきます。
いきなり資料をつくらない! まずはストーリーづくり
提案書を書くとき、いきなり資料のフォーマットに当てはめたり、PowerPointの作成を始めたりしていませんか? しかし、それだとじつは遠回りになってしまいます。
まずは、ストーリーづくりをしっかりと行なうことが重要。前出の中川氏は、「状況」「解釈」「行動」でストーリーを整理することをすすめています。
この「状況」「解釈」「行動」は、一般的に「空」「雨」「傘」のフレームワークとして知られるものです。
「空・雨・傘」のフレームワークでストーリーをつくる
「空・雨・傘」とは、それぞれ下記を表しています。
空:あなたが直面した状況
雨:空(状況)に対するあなたの解釈
傘:雨(解釈)に基づいてあなたがとる行動(結論)
空を見て曇っているとき、雨が降りそうだなと誰もが考えると思います。そして、傘を持っていくという行動をとりますよね。
つまり、「空」という状況を見て、「雨」が降りそうという解釈を行ない、「傘」を持っていくという行動をとる、というふたつの前提(大前提+小前提)から結論を導き出す三段論法の形式になっています。これを行なうことで簡単に提案書のストーリーがつくれます。
具体的に「空」「雨」「傘」に当てはめてみる
では、これまで実施してきた英会話メインの英語研修から、別の形態の英語研修へのスイッチングを提案する場合の、ストーリーを考えてみましょう。
この場合、「空・雨・傘」を使うと下記のようになります。
「空」:これまで英語研修を導入していたが、英語力向上の成果や、実務での英語使用につながっていない(状況)
「雨」:成果につながっていないのは、英会話メインの英語研修を導入しているからではないだろうか?(解釈)
「傘」:それならば◯◯の英語研修が成果や実務につながるので、英語研修を全面的にスイッチングしたほうが会社のためになる
これで、「空・雨・傘」でストーリーを立てることができましたね。では続いて、このストーリーを補強していきましょう。
ストーリーを補強する
「空」状況の補強
これまで英語研修を導入していたが成果が出ていない場合、まずは成果が本当に出ていないのかを示す定量的・定性的なデータが必要になります。
このケースでは、定量的なデータとは数値で可視化できる英語力を指します。これまで英語研修を受けてきた社員のTOEICスコアやVERSANTスコアなどをビフォア・アフターで比較すると、定量的な評価がしやすくなります。
定性的なデータとは、実際に実務において英語研修が役に立ったのか、英語で実務が円滑にできるようになったのかなどです。こうしたことについて尋ねる簡易的なアンケートを、英語研修を受講した社員や部署のリーダーに実施しましょう。
このふたつのデータがあれば、これまでの英語研修での定量面・定性面での成果を測ることができます。
「雨」解釈の補強
この「雨」の部分は、あなた自身が設定した解釈、つまり仮説。ここでは、現状をふまえたうえでの、あなたの仮説構築力が試されます。
これまで英語研修で英語力が上がらなかったのには、さまざまな原因があるはずです。
- 社員が研修を完了しなかった
- 社員が自己学習をしていなかった
- 社員のモチベーションを高めることができなかった
- 研修の目標や、研修を通して “なってほしい姿” を共有できなかった
このようにさまざまな原因があるなか、あなたが「英会話メインの研修であることが、成果が上がらない一番の要因では?」という仮説を立てたのであれば、次にあなたがとるアクションは、その仮説を証明できるような情報を集めること。たとえば、英会話をメインとしない英語スクールへ話を聞くなどして情報収集し、仮説を補強するのです。
いろいろな英語スクールから情報を集めた結果、「どうやら、英会話メインの研修を行なうだけでは英語力が伸びないようだ」とわかってきたら、次はいよいよ結論に移ります。
※英会話だけでは英語力が伸びない要因については、以下の記事で詳しく解説しています。
>>「英会話メイン」の英語研修だと英語力は伸びない! 原因は「◯◯◯◯◯不足」にあった
「傘」結論を出す
仮説の補強を受けて、あなたは以下の結論を出すことができました。
英会話メインの研修では、英語力は伸びない。それならば、英会話も含めて総合的な英語力を高めることができる「英語コーチング」業者に今後の研修をスイッチングすると、英語力が効果的に伸びるはずだ。
ここまで来たら、次にとるアクションは、提案の精度をさらに上げるため、英語コーチング業者のなかから最も効果が出そうなスクールを選定することです。
ストーリーの完成
これで、研修提案書のためのストーリーは完成です。
「空」:これまで英語研修を導入していたが、英語力向上の成果や実務での英語使用につながっていない
「雨」:成果につながっていないのは、英会話メインの英語研修を導入しているからではないだろうか?
「傘」:それならば、本当に英語力が上がり実務にもつながる英語コーチングに英語研修を全面的にスイッチングしたほうが、会社のためになる。
ここまで整理することができて初めて、実際の提案書やPowerPointに落とし込んでいく準備が完了となります。
「通る提案書」づくりの最終チェック
ここまででつくり上げたストーリーを実際に提案書に落とし込む際は、再度下記の項目をチェックしましょう。
- 情報が不足していないか?
- 目的がわかりにくくなっていないか?
- ロジックは破綻していないか?
特に、結論に至った理由に説得力をもたせるためには、情報(今回の場合はデータ)の不足には気をつけたいところ。目的やロジックに関しては、先ほどの「空」「雨」「傘」のフレームワークで整理できていますから大丈夫。丁寧に資料に盛り込んでいきましょう。
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この記事では、提案書を通すために重要なストーリーづくりについて詳しく解説しました。
ポイントは、「結論とそれに至った筋道」、あるいは「結論とその理由づけ」を、「空」「雨」「傘」のフレームワークを使いながら整理すること。ぜひこのフレームワークを活用して、説得力がある、承認を得られる提案書を作成しましょう。