「不安解消」にまつわる大いなる誤解。コントロールすべきは “感情そのもの” ではなく “○○” である。

不安いっぱいの膝を抱えた女性

19世紀の哲学者キェルケゴールは、「不安は自由のめまいである」という言葉を残したとか。そう聞くと、なんだか格好いいイメージですが、「不安」は少々厄介な存在です。しかし、不安そのものをコントロールすることはできないのだそう。

そこで今回は、不安のマイナス要因を探るとともに、臨床心理学者が示してくれた「不安解消法」を紹介します。

運が悪い人々の共通点とは?

あなたは自分自身を「運がいい」と思いますか? それとも「運が悪い」とお考えでしょうか。後者ならば、もしかして「不安」を感じやすい人なのかもしれません。

心理学の研究によると、「自分は運が悪い」と考える人たちの共通点は、不安を感じやすいことなのだとか。不安を感じやすいと、「負のサイクル」を招く可能性を高めてしまいます。

不安が招く「負のサイクル」
  1. 不安が、注意散漫を起こす
  2. →注意散漫が、失敗を呼ぶ
  3. →失敗の多さが、ネガティブな記憶を強化する
  4. →すると自分は運が悪い、と認識
  5. →ますます不安になる→1に戻る

不安が招く「負のサイクル」に、すっかりハマったビジネスパーソン

また、次のような心理学の研究もあります。

「不安」がなければ「運」がいい!?

長年にわたり「運」について研究をしている心理学者のリチャード・ワイズマン博士は参加者を集め、「カフェの入り口に落ちている5ポンド札に気づくかどうか」「カフェの中にいる有名な実業家に気づくかどうか」といったことをテストしたそうです。すると、こんな結果に……。

ワイズマン博士がカフェで行なったテスト結果
  • 【自分は運がいいと考える人】:5ポンド札を見つけ、実業家に気づいて会話を弾ませ、あとで楽しそうにその出来事を語った。
  • 【自分は運が悪いと考える人】:5ポンド札にも実業家にも気づかず、“何もなかった” とつまらなそうに語っていた。

このテスト結果が “運の良し悪し” に影響されているかといえば、決してそうではありません。

条件は同じで、5ポンドと実業家に気づけたか、気づけなかったか、だけの差ですし、ワイズマン博士が「自分は運がいい」と考えている人と「自分は運が悪い」と考えている人を数百人ほど集め、宝くじの当選番号を予想してもらったテストでは、両者の当選率にほとんど差がなかったといいます。

では、カフェのテストで参加者が影響されたのが、「運」でなければ何だったのか? といえば――それはテストへの「不安」です。

ワイズマン博士が18歳~84歳までの男女400人を10年間にわたって観察し、テストなどを行なった結果、「運が悪い人」は「運がいい人」に比べて、緊張しやすく、心配性で、細部に注目しすぎる部分が強く(視野が狭い)、せっかくのチャンスを見逃してしまう傾向があったそうです。

追手門学院大学心理学部心理学科准教授の吉村晋平氏によれば、「不安」とは “自己を脅かす可能性のあるさまざまなリスクを予想する際に伴なう感情” のこと。適度ならばリスクマネジメントに役立ちますが、過剰ならば、まさに「運が悪い人」の傾向を示しています。

つまり、過剰な「不安」がなければ「運」が良くなる、ともいえるわけです。

自分たちはラッキーだと考えるチームは、本当に運がどんどん向く!?

が、しかし、不安 “そのもの” はコントロールできないとか……!?

不安な思考と感情はコントロールできない

臨床心理学者のマイケル・スタイン博士(Psy.D.)によると、不安には3つのパーツ(思考・感情・行動)があるそうです。それらには、コントロールできる部分と、できない部分があるのだとか。それぞれ詳しく説明しましょう。

1. 不安に関する「思考」

わたしたちの心は、常に “独白” を行なっています。「そろそろお昼にするか」「あの件を聞かなきゃ」「あれ、スマートフォンどこに置いたかな?」などなど……。これらは自動的に行なわれており、止むことがありません。

じつは、不安もその一部

「あの案件、大丈夫かな」「またダメだしされるかな」「間に合うかな」などといった不安が、ムクムクわいてくるはずです。ニュースを見ながら「かわいそう、大丈夫かな」と知らない人を心配し、不安になることもあるのではないでしょうか。

スタイン博士いわく、これらは自動的かつ受動的なプロセスであるため、コントロールできないとのこと。つまり、「不安」について考えるな、といっても無理な話なのです。不安に関する「思考」は制御できません

不安なことばかりを考えて、前に進めなくなっているビジネスパーソン

2. 不安な「感情」

不安なことを考えていると、胸が圧迫されたような感じ、痛み、ふらつき、筋肉の緊張、心拍数の増加、息切れなどが起こる場合があります。こうした症状は、多くの人が不快だと感じるでしょう。

この不快感が、不安な感情(不安感)の正体です。

しかし、スタイン博士はこうした不快な症状をなくすため、自分の感情を落ち着かせようとすると、むしろ症状が悪化してしまうと説明します。 なぜならば、「落ちつけ、落ちつけ」と自分にいい聞かせることは、自分が自分自身にプレッシャーを与えているようなものだから。

不安を取り除こうとすればするほどプレッシャーが強くなり、大きな負担になって、結果としてより不快になってしまうわけです。つまり、不安な「感情」は、制御できません

不安に苛まれている同僚を、なんとか安心させようとする女性

3. 不安に関わる「行動」

結論からいうと、スタイン博士はこの不安に関わる「行動」だけがコントロール可能だと説明します。

たとえば目の前の暗い道を歩くのが不安なら、遠回りして明るい道を歩くことができます。常備しておかないと不安な市販薬なら、常備しておけばいいだけです。

とはいえ……、人前で話すのがどんなに不安でも、仕事であればプレゼンテーションをしないわけにはいきませんよね。この場合は、コントロール不可なのでしょうか?

――いやいや、じつは大丈夫なんです。

なぜならば、不安に関わる「行動」は、不安を回避することだけを指しているのではないから。それに、安易な不安回避は、時として短期的な救済にしかならないこともあるそうですよ。その点を少し説明します。

どう行動すれば、不安を解消できるか考えているビジネスパーソン

短期的な救済は、長期的な救済を不可能にする

たとえば「犬が少し怖いから、犬を飼っている家の前を通るのは不安だなぁ」と感じているAさんがいるとします。Aさんにとって、「犬」は不安材料。そのため、犬がいる場所から遠く離れると、Aさんは安心し、気分が良くなります。

しかしスタイン博士によれば、これはあくまでも短期的な回避行動なのだそうです。

大勢の人と会話するのが苦手な人が、仕事関連のパーティを欠席して、ひとまず安心するのに似ています。パーティを欠席して安心できるのはほんの短い間。またいつか、必ずパーティ参加の危機が訪れるからです。

おまけに脳は、短期的な回避行動でより不安を強めてしまうそうです。

犬が少し怖いAさんが、犬のいる場所から遠く離れて一時的に気分が良くなった場合。Aさんの「脳」は、その犬がとても小さくて、まったく危険ではなかった事実があったとしてもそれを認めず、「こうした回避行動が、Aを安全に保ち、Aに平穏をもたらしたぞー!」と確信し、次回もAさんを守ろうと必死に働くのだそうです。

犬ロボットから逃げる、郵便配達のロボットさん

人工知能がますます進化したら、こんな様子を目にするかも?

その結果、次回また犬に遭遇したとき、脳はより強烈な不安感を与えてくるのだそう。これで立派な「犬恐怖症」の出来上がりです。

つまり短期的な救済は、状況を悪化させ、長期的な救済を不可能にしてしまうわけです。

不安への対応として、私たちができること

これまでの内容から、次のことがわかりました。

  • 不安な「思考」と「感情」はコントロールできない
  • 不安に関わる「行動」はコントロールできる
  • 不安からの「短期的な救済」は「長期的な救済」を不可能にする

では、不安への対応として、私たちができることとは、いったい何でしょう?

スタイン博士いわく「それはとても簡単」とのこと。犬が苦手なら(凶暴ではない安全な)犬と一緒に過ごし、パーティが苦手ならパーティに行ってください、と博士はいいます。

じつはこれ、長期的に不安を改善するために必要な「暴露療法」なのだそう。あえて不安に自分をさらすわけです。

スタイン博士の説明をもとに、「暴露療法」が「脳」に何をもたらすか説明しましょう。犬が苦手なAさんに、Aさんの脳が「犬から離れてください、危険です! ものすごく不安にしますから、早くこの警告に気づいてください」と伝えても、Aさんが頑張ってかわいらしいワンちゃんから離れなかった場合、

  1. 脳は、「不安感」でAに危険を警告したのに、無視されて困ってしまう
  2. そこで、とりあえず脳はAの身体が安全かどうかスキャン
  3. 危険な状況に置かれながら警告を無視したAが、なぜか安全だと確認
  4. そこで、脳はこの状況を「危険ではない」と改めて認識
  5. するとAさんは、犬を見ても怖くなくなる

といったことが起こるそうです。これが「暴露療法」です。

多くの人は、ネガティブな思考をポジティブに変えさえすれば、不安がなくなり気分が良くなって行動できる、と考えるかもしれません。 しかし、実際には思考や感情はコントロールできないので、まずは行動から変える必要があるとスタイン博士は述べます。

これが、不安はコントロールできないと理解したうえで行なう「不安解消法」です。

***
冒頭で紹介した19世紀の哲学者キェルケゴールの言葉(不安は自由のめまいである)は、不安が「独りで自由に生きる際につきまとう必然的なもの」だと意味しているそうです。

この言葉は、頼るべき神を失った人間の不安を考察し生まれたものですが、予測不可能といわれる今の時代も、自由で頼りどころのない時代だといえるかもしれません。

常に生まれるであろう不安を、うまく解消していきたいものですね。

【注】※不安感があまりにも強い場合、あえて自分を不安にさらす状況が危険な場合は、絶対に自分だけで解決しようとせず、すぐ周囲や専門医に相談してください。

(参考)
Psychology Today|The 3 Parts of Anxiety: Thoughts, Emotions, and Behaviors  
Psychology Today|Why You Can Relieve Your Anxiety Now or Later, but Not Both  
吉村晋平(2018),「心理学にともなう不安との付き合い方」, 追手門学院大学地域支援心理研究センター, 追手門学院大学地域支援心理研究センター紀要, 14巻, pp.9-15.  
STUDY HACKER|“失敗続きの人” の残念すぎる思考。「運が悪い」と思い込むとホントに運が悪くなる。  
宇部市医師会|不安障害の臨床 

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