ゲシュタルトの法則とは、ものを「まとまり」や「グループ」として認識・知覚する傾向のこと。たとえは、スーパーマーケットに入って、りんごが山積みになっているのを見たら、「りんごがたくさんある」と思いますよね。りんごひとつひとつの色やかたちには着目しないはずです。
このような人間の傾向を、心理学では「ゲシュタルトの法則」といいます。「プレグナンツの法則」と呼ばれることも。
難しいと思うかもしれませんが、デザインの世界では当たり前に取り入れられています。皆さんも、プレゼンテーションに使うスライドや資料を作るときは、ゲシュタルトの法則を意識して図形を配置することが肝心です。
ゲシュタルトの法則の概要を確認したうえで、「類同」「近接」「閉合」などの各要因を見ていきましょう。
ゲシュタルトの法則とは
「ゲシュタルトの法則」とは、人間の脳が、視界に入ってくるものをひとつひとつ認識するのではなく、一定のまとまりで認識することです。たとえば、電車の窓から風景を眺めているとき、家をひとつひとつ数えて「家が47件あるな」とは、普通は思いませんよね。多数の家をグループとしてとらえ、「街が広がっている」と認識するはずです。なお、対象を簡潔で規則的な形態として把握する傾向は、特に「プレグナンツの法則(簡潔化の法則)」とも呼ばれます。
ゲシュタルトの法則は、ドイツの心理学者・ヴェルトハイマー(1880~1943)から生まれた「ゲシュタルト心理学」における中心的な概念です。ゲシュタルト心理学は、人間心理の個別要素ではなく、全体の構造に着目するのが特徴。なお、「ゲシュタルト(Gestalt)」とは、ドイツ語で「かたち」や「構造」を意味するため、ゲシュタルト心理学は「形態心理学」と訳されることがあります。
ゲシュタルトの法則は、複数の要因で構成されています。以下の7つに分けられることが多いようです。
- 近接の法則(Law of Proximity)
- 類同の法則(Law of Similarity)
- 連続の法則(Law of Continuity)
- 閉合の法則(Law of Closure)
- 共通運命の法則(Law of Common Fate)
- 面積の法則(Law of Area)
- 対称性の法則(Law of Symmetry)
ゲシュタルトの法則を活用すれば、企画書やプレゼンテーションのスライドを、見やすく作ることができます。ゲシュタルトの法則への理解を深めていきましょう。
ゲシュタルトの法則と「ゲシュタルト崩壊」
ゲシュタルトの法則は、有名な「ゲシュタルト崩壊」と関係しています。ゲシュタルトの法則を理解するため、ゲシュタルト崩壊についてご説明しましょう。
東北工業大学准教授の二瀬由理氏によると、ゲシュタルト崩壊とは、「持続的に注視すると、全体形態の認知が減衰してしまう」こと。つまり、「まとまり(ゲシュタルト)」として認識していた対象が、ばらばらのパーツの寄せ集めに思えてくるのです。
皆さんも、「漢字のゲシュタルト崩壊」を経験したことがあるはず。漢字をじっと見つづけると、部首やつくりがバラバラに見えてきて、一つの漢字というよりも、線の寄せ集めに思える……あの現象です。心理学者の行場次朗氏が1983年に発表した実験では、同じ漢字を約25秒間見つづけると、ほぼ50%の割合でゲシュタルト崩壊が発生したそう。
漢字に代表されるゲシュタルト崩壊は、目の疲労から起こるのではなく、認知機能の低下が原因なのだそう。漢字を形成する各部分は認識できるものの、全体としての「まとまり」がわからなくなる――つまり、ゲシュタルトの法則が当てはまらなくなったときに起こる現象が「ゲシュタルト崩壊」なのです。
ゲシュタルトの法則における7要素と例
では、ゲシュタルトの法則における主な7つの要素を、例とともに解説していきましょう。
1. 近接の法則
「近接の法則」とは、近くにあるもの同士がまとまって見えることです。店の前にズラッと人が並んでいたら、近くに立っている人たちはグループで、間を空けて立っている人たちは他人同士だと思いませんか? 実際は違うかもしれませんが、「距離が近いから同じグループ」と認識しがちなのです。
2. 類同の法則
「類同の法則」とは、色やかたちが似ているものはまとまって見える傾向です。身近な例としては、テレビのリモコンが挙げられます。「チャンネル」のボタン群と、「データ」のボタン群には、それぞれ同じデザインが採用されているはず。一方、電源ボタンは離れたところにあり、色やかたちが異なるはず。つまり、類同の法則と近接の法則が利用された、ユーザーにとってわかりやすい仕様なのです。
3. 連続の法則
「連続の法則」とは、図形はつながって認識されやすいという傾向です。たとえば、「X」という文字。4本の線が中心でくっついていたり、「>」と「<」に分かれていたりする可能性もありますが、ほとんどの人は、斜めの直線が2本交わっていると考えるはずですね。
4. 閉合の法則
「閉合の法則」とは、閉じ合うかたちのものは、ひとつのグループとして認識されやすい傾向です。【】や()といった記号が2つで1セットだと思えるのは、閉合の法則によるもの。<)や】>をセットだと思う人はほぼいないでしょう。
5. 共通運命の法則
「共通運命の法則」とは、同じ方向に動いているものや、同じ周期で点滅しているものは、まとまって見える傾向です。たとえば、同じ方向に並んで飛んでいる鳥たちがいたら、同じグループなんだと思いますよね。
共通運命の法則は、近接の法則や類同の法則よりも強く働くのだそう。そのため、大きさに多少の違いがあっても、均等な距離を保っていなくても、「同じ動きをしている」ものは同じグループに見えるのです。
6. 面積の法則
「面積の法則」とは、2つの図形が重なっているとき、面積の小さいほうが図として、大きいほうが背景として認識される傾向です。Webサイトのトップページでは、全面に写真を表示し、その上にロゴやテキストを載せているデザインが多いですよね。大きな写真は背景として認識され、面積の小さいロゴやテキストに注目してもらうための手法です。
7. 対称性の法則
「対称性の法則」とは、左右対称な図形は、セットとして認識されやすい傾向です。有名な例が、「ルビンのつぼ」ですね。つぼに見えたり、横向きの人の顔が向かい合っているように見えたりする、あの絵です。人にもよりますが、左右対称な2つの図形は強く認識に訴えかけてくるため、1つのつぼよりも、向かい合う2つの顔のほうを先に意識する人のほうが多いのではないでしょうか。
ゲシュタルトの法則における、7つの主な要素を説明しました。どれも、私たちの生活でよく目にするものばかり。あなたも、ノートをとるときや、資料を作成するときに、ゲシュタルトの法則を取り入れているはずです。
ゲシュタルトの法則の活用法
ゲシュタルトの法則を意識すれば、企画書内の図表や、プレゼンテーションのスライドを、わかりやすく作ることができます。たとえば、次のことを意識してみましょう。
- 近接の法則:同じ要素は近くに、異なる要素は遠くに配置する。
- 類同の法則:同じ要素は、色・かたち・大きさを統一する。異なる要素はデザインを変える。
- 共通運命の法則: 三角形や矢印などの記号を使い、視線を誘導する。
当たり前だと思うかもしれませんが、白紙の状態からデザインを考えるとなると、基本的なことを忘れがち。ゲシュタルトの法則を思い出し、自然に認識できるデザインにしましょう。
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ゲシュタルトの法則は心理学用語ですが、普遍的に通用するデザイン理論でもあります。ゲシュタルトの法則を活用し、ワンランク上の資料を作ってみませんか?
(参考)
コトバンク|ゲシュタルト要因
コトバンク|ゲシュタルト心理学
コトバンク|ウェルトハイマー
コトバンク|プレグナンツの法則
J-STAGE|持続的注視による漢字認知の遅延
夢ナビ|人の認知機能の不思議を解き明かす「認知心理学」
公益社団法人 日本心理学会|漢字のゲシュタルト崩壊現象とは何でしょうか?
山陽印刷株式会社|ノンデザイナーのための「企画書制作のコツ」
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STUDY HACKER 編集部
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