頑張って説明しているつもりでも、「説明が長くなってしまう……」「何を話せばいいのかわからなくなる……」など、「説明」に苦手意識をもっている人はいませんか?
そんな人たちに向け、『説明の一流、二流、三流』(明日香出版社)という書籍の著者である桐生稔(きりゅう・みのる)さんが、「説明がうまくなるためにまず始めるべきこと」を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「結論」「理由」を書き出し、言語化する力を磨く
説明が苦手な人には、いくつかのパターンが見られます。そのひとつが、「言葉にできない」というもの。なんとなく頭のなかに伝えたいことはあるものの、それを言語化できない人です。たとえば、不満があるのにそれを言葉にできない、映画を観ておもしろいと感じたがそのおもしろさを表現できないといった感じです。
こういう方がまずやるべきことは、「書き物」。自分の頭のなかにあるものを書き出すのです。「言葉にすらできないのに、書けたら苦労しないよ」と思う人もいるかもしれませんね。でも書くべきことはたったの2行で十分です。
まず1行めに「結論」を書き、2行めに「理由」を書く。ただそれだけです。それだけなら書けそうな気がしませんか? 誰かに仕事を手伝ってほしい場合なら、まず「結論:〇〇の資料の作成を手伝ってほしい」。続いて、「理由:なぜなら今週中にあと3つ資料を作成しないといけないから」と書くのです。
ただこれだけで、頭のなかで漠然と抱えていたことが言語化され、相手にも説明しやすくなります。説明とは「出力」にほかならず、まず出力しないことには相手に伝わることは絶対にありえません。そのトレーニングとして、結論と理由を書き出すことから始めてみましょう。説明というと、「直接話す」ことをイメージするかもしれませんが、その前段として言葉にできなければなりません。「2行で書く」メソッドは、そのためのトレーニングなのです。
「3つの箱」をイメージして頭のなかの言葉を整理する
また、頭のなかがごちゃごちゃしていて「整理できない」のも、説明が苦手な人に見られるパターンです。
こういう方には、当社が提供している「BOX思考」というメソッドをおすすめします。BOXとは、その名のとおり「箱」です。「何を伝えるか?」を考える前に、まず「結論」「理由」「詳細」といった箱を立ち上げ、そこに言葉を埋めていくのです。
たとえば「今月の営業目標は達成できそう?」と聞かれたとしましょう。それに答える前に、まず頭のなかに「結論」「理由」「詳細」という箱を立ち上げます。そして、「結論→今月の達成率の見込みは80%です」「理由→新規獲得件数が2件足りていないからです」「詳細→2件獲得に向け、本日から訪問件数を1日5件に増やします」と埋めていく。まず、整理する箱を立ち上げてから話し出すことで、頭のなかの言葉をきちんと整理できます。
これは、「人間の脳は空白を嫌い、それを埋めようとする」心理を利用した手法です。たとえば、スーパーで買い物かごを持つと、たくさん入れたくなりませんか? 「今回の景品は3つあります」と言われて、景品を2つしか見せられなかったら「残りの1つはなんだろう?」って気になりますよね。テレビでは「このあと、とんでもない事態が!」と言ってCMに入ったりします。空白をつくられると、気になって埋めたくなるのです。
だからこそ、先に「結論」「理由」「詳細」といったBOXを立ち上げ、空白をつくって埋めていってください。そうすれば自然と言葉が整理できます。
慣れてくれば頭のなかだけでやってもいいですが、最初は書き出すことをおすすめします。そのトレーニングを繰り返せば、何かを説明するときに「最初に結論だ」「次は理由」「最後はなんだっけ? あ、詳細だ」と自然にBOXが思い浮かんでスムーズに説明できるようになっていくでしょう。
簡潔に物事を伝えるために、「30秒」を意識する
説明が苦手な方に見られる3つめのパターンが、「簡略化できない」というもの。説明したいことを言語化できて、整理することもできるけれど、話が10分も20分も続いてしまっては当然ながら相手に伝わりづらくなります。そこで、説明したいことを簡略化するため、自分に「30秒ルール」を課してみましょう。
集中力の持続時間についてはさまざまな説がありますが、30秒もそのひとつ。人間がぎりぎり興味をもち続けられる時間だと言われ、CMの時間にも使われています。CMは15秒~30秒が基本です。30秒のCMを観ているときは、「このCM、なんか長いな……」と感じたくらいにちょうどCMが終わりませんか? まさにそれは、ぎりぎり興味をもち続けられる時間です。
つまり、会議でも商談でも、自分が説明をするときは30秒以内に終えることを意識するのです。30秒で説明するというと「さすがに短いのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、30秒のCMが少し長く感じられることでもわかるように、30秒のあいだには意外なほど多くの言葉を伝えることができます。
もちろん、この30秒ルールは会議や商談といった場で使うだけでなく、日頃から練習することをおすすめします。先に紹介した「2行で書く」「BOX思考」を使って書き出したものを、実際に声に出して話してみましょう。そして、その時間をスマホのタイマーアプリを使うなどして測ってみてください。この練習を繰り返すうちに30秒という時間が自分のなかに刷り込まれ、会議や商談といった本番でも、自然と30秒以内に発言をまとめることができるようになります。
【桐生稔さん ほかのインタビュー記事はこちら】
自称説明上手がしている “二流の説明” 残念な特徴。「ちゃんと話せた!」が一番危ない
「本当に説明がうまい人」になるための日常習慣3つ。二流の説明力を一流に引き上げる!
【プロフィール】
桐生稔(きりゅう・みのる)
1978年8月17日生まれ、新潟県出身。株式会社モチベーション&コミュニケーション代表取締役。日本能力開発推進協会メンタル心理カウンセラー。日本能力開発推進協会上級心理カウンセラー。一般社団法人日本声診断協会音声心理士。2002年、全国1200支社を運営する大手人材派遣会社に入社。営業成績が最下位となり新卒3カ月で左遷される。そこから一念発起し、売上達成率1位を実現。その後、音楽スクールに転職し、事業部長を務める。2017年、社会人の「伝わる話し方」を向上すべく、株式会社モチベーション&コミュニケーションを設立。現在、全国40都道府県で年間2000回の「伝わる話し方」セミナーや研修を開催。具体的でわかりやすいメソッドが評判を呼んでいる。著書に『説明の一流、二流、三流』(明日香出版社)、『「30秒で伝える」全技術』(KADOKAWA)、『雑談の一流、二流、三流』(明日香出版社)、『10秒でズバッと伝わる話し方』(扶桑社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。