記憶力が悪く、勉強したことがなかなか身につかない。もっと効率よく暗記できたらいいのに——そんなお悩みは、「手書きノート」を取り入れることで解消へと向かいます。
というのも、手書きでノートにまとめる作業により、学習の記憶は頭に残りやすくなるから。脳神経内科医の長谷川嘉哉氏は、「手で文字を書くこと」には次のようなメリットがあると解説しています。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ)
- 「集中力が増す」
- 「自分の思考を言語化して脳が働く」
- 「記憶力の維持・定着に効果的」
わざわざ手書きするなんて……と少し面倒に思うかもしれませんが、「急がば回れ」は勉強についても言える真理なのです。
記憶力が悪くて悩んでいるなら、以下にご紹介する「暗記に効く3つのノート術」と実践例を、ぜひ参考にしてみてください。
1. 複雑な知識を記憶したいなら……「プレマップ&ポストマップ」
読んだ本の内容を頭のなかで整理したいとき、特定の分野の知識を体系的に理解したいときには、「プレマップ&ポストマップ」というノート術がおすすめ。
これは、情報どうしの関係性を明らかにしつつ、知識の全体像を見えやすくできる方法で、“独学の達人” 読書猿氏のベストセラー『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』で紹介されている学習法です。
プレマップ&ポストマップは、学習内容のキーワードを線でつないで関連づけていくというのが、基本の書き方です。“プレ” と “ポスト” は、“勉強前” と “勉強後” の意味。つまり、この関連づけマップを、勉強の前後で、キーワードを拡大していきながら書くわけです。
具体的な手順は以下の4ステップです。
- 「学習前×参照しない」
「これから学習するテーマについて、まずは何も見ずに、思い浮かんだことを単語や短いフレーズで書き出す」 - 「学習前×参照する」
「これから読もうとしている書物や、今日学習する範囲の目次からキーワードを拾い上げて書き出す」 - 「学習後×参照しない」
「今日学習した内容や、先程読み終えた書物」について、「何も見ずに思い出せる範囲で」「単語や短いフレーズで順不同で書けるだけ書き出す」 - 「学習後×参照する」
「何も見ずに描いた」マップに対して、テキストなどを参照しながら「足りない項目を追加し、不正確な箇所を訂正していく」
筆者は、『ビールの科学―麦とホップが生み出すおいしさの秘密』(2009, 講談社)という本でビールについて学び、その内容をプレマップ&ポストマップに落とし込んでみました。
まずは何も見ずに、既存の知識=自分がビールについて知っていることを書き出します。
そののち、本の目次を見ながらマップを拡大していきます。
そして、本を読んだあとには、何も見ずに本の内容を思い出してさらにマップを拡大。
最後に、本を参照しながらマップを完成させました。
このプレマップ&ポストマップを書くことで、本の内容を思い出しつつ視覚的にアウトプットでき、本の内容を頭に刻み込むことができました。STEP1では小さかったマップが、STEP4ではかなり大きくなり、多くの情報を整理しながら理解することができたと思います。関連づけをしながら、無理なく知識を広げていけました。
プレマップ&ポストマップの書き方はこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひ読んでみてください。
>>『勉強前後に “これ” を書く。学びが格段に深くなる「プレマップ&ポストマップ」がすごかった』
2. 理解を深めつつ記憶したいなら……「黄金の3分割」
知識をより細かく記録し、深堀りしたいときに便利なのが「黄金の3分割」。
これは、ノートの見開きを左から「事実(板書)」「解釈(気づき)」「行動(要約)」の3つに分割するノート術。『頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』などの著書をもつ高橋政史氏が提唱しています。(株式会社 JECC|できるビジネスパーソンになる「ノート」の取り方 より)
具体的なレイアウトは、以下の画像をご覧ください。『ビールの科学―麦とホップが生み出すおいしさの秘密』に書かれていた内容を、筆者が3分割で整理したものです。
書く手順はこちら。
- 見開きの上部に「見出し」欄を設け、「論点」を記入する
- 「事実」→「解釈」→「行動」の順に書く
- 最後に「見出し」欄に「結論」を書き込む
3分割の各欄の使い方は以下のとおりです。
- 事実(板書):「得た情報」を「正確に」書く
- 解釈(気づき):「事実を踏まえて、思ったことや感じたこと、疑問に思ったこと、重要だと思ったこと」を書く
- 行動(要約):「『疑問点』を解消し『要約』を書く」
(事実・解釈欄引用元:PHPオンライン衆知|できる人が「方眼ノート」を使う理由、行動欄引用元:『頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』書籍特設サイト)
3つめの「行動」という言葉は、問題解決やビジネス実務の文脈で考えると理解しやすいかもしれません。今回は勉強にこのノート術を取り入れますので、カッコで添えられた「要約」のほうで考えていきます。
高橋氏によると、この「左から事実、解釈、行動」の順にノートを書くことで、「思考は左から右へと型の上を流れ、自然と整理されていき、論点についての結論が見えて」くるのだそう。また、「整理されたノートを書くと、頭の中が整」い、「記憶力がアップ」するなどの効果があるとのこと(カギカッコ内引用元:「株式会社 JECC」記事)。
やってみると、本に書かれている内容を整理するだけでなく、そこから得た自分なりの「気づき」を言語化でき、さらに要約まで行なったことで理解が深まりました。勉強しっぱなし、本を読みっぱなしで終わりがちな人は、ぜひ黄金の3分割ノートで知識をまとめ直してみてください。
3. 復習を重ねて確実に記憶したいなら……「反復練習ノート」
知識を何度も復習し、確実に記憶に残したいときに使えるのが「反復練習ノート」です。
覚えたい単語などをノートに書き、「間違えたら『正』の字を書いていく」というシンプルなノート術で、現役東大生で『東大生のノートから学ぶ 天才の思考回路をコピーする方法』の著者・片山湧斗氏が提唱しています。(ログミーBiz|東大生は「記憶力がいい」のではなく「暗記の工夫」をしている『ドラゴン桜』でも実践された、“関連付け”の記憶術 より)
こちらが、英単語とその意味を覚えるのに反復練習ノートを使った例です。
ノートの左の列に英単語、右の列にはその意味、そして両者のあいだには「正」の字を書いています。この「正」の字が、復習の際に間違えた回数を示します。
片山氏によれば、この反復練習ノートをつくることで「自分はどこが覚えられてないかを可視化できる」とのこと(引用元:同上)。学習の進度・深度が明確になりますし、弱点を重点的に復習することも可能になります。たとえば上の画像の場合、「facilitate」や「evacuate」などが弱点であることが一目瞭然ですよね。
英単語に限らず、試験で出る用語や業務で使う知識、読んだ本の内容など、あらゆる勉強の際にもこの反復練習ノートが役立つでしょう。
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勉強内容を効率よく記憶に定着させたいなら、以上3つのノート術を参考に「手書き」で知識を書き残すことを習慣づけましょう。
(参考)
東洋経済オンライン|脳機能の低下を防ぐには「手書き」が有効だ
読書猿(2020),『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』, ダイヤモンド社.
渡淳二監修, サッポロビール価値創造フロンティア研究所編集(2009),『ビールの科学―麦とホップが生み出すおいしさの秘密』, 講談社.
株式会社 JECC|できるビジネスパーソンになる「ノート」の取り方
『頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』書籍特設サイト
PHPオンライン衆知|できる人が「方眼ノート」を使う理由
ログミーBiz|東大生は「記憶力がいい」のではなく「暗記の工夫」をしている『ドラゴン桜』でも実践された、“関連付け”の記憶術
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。