一生懸命勉強しても、なかなか覚えられない……。そんな方は、勉強前後に「あるもの」を書くだけで、理解力と記憶力を向上できるかも。
今回は、“独学の達人” 読書猿氏がベストセラー『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』で説いている「プレマップ&ポストマップ」について、実際に筆者が勉強に取り入れてみた感想もお伝えしながら、詳しくご紹介します。
勉強したつもりなのに「定着しない」のはなぜなのか
何度勉強しても覚えられない……。そうなる原因のひとつは、「ノートのつくり方」にあります。
マインドマップの考案者として世界中の教育現場に影響を与えてきたトニー・ブザン氏は、最も一般的なノート術である「箇条書き」が、脳の機能を低下させ、記憶力と理解力に悪影響を与えると述べます。
なぜなら、箇条書きでは全体のつながりや物事どうしの関連性が見えにくいため。ブザン氏は、「関連性をもたせる」ことこそが脳の機能を発揮させるとしています。
また、東大生の勉強法に関する著書が多い西岡壱誠氏(教育関連事業の株式会社カルペ・ディエム代表)によれば、東大生は「記憶力」が高いのではなく「関連づけの能力」が高いのだそう。
たとえば、歴史的な出来事が起きた年号を覚えるとき、ただ暗記しようとするのではなく、それに関連する出来事をひもづけながら覚えるのです。勉強するときは、情報をただ羅列するよりも、つながりを明確にするほうがいいのですね。
学習前後の「プレマップ&ポストマップ」作成が有効
情報どうしの関連性をはっきりさせるのに効果的なのが、読書猿氏が提唱する「プレマップ&ポストマップ」です。
これは、「記憶できている情報を書き出すことが、記憶と理解を促進する」という知見と、「コンセプトマップ」という図解法を組み合わせたもの。つまり、「知識のアウトプット」×「図解化」で勉強の質を上げようというテクニックなのです。
本来、コンセプトマップは以下の手順で書かれます。
- テーマを置く
- テーマに関連する言葉や概念を、階層状に書き出す
- キーワードどうしを矢印や線でつなぎ、関連性を視覚化する
- 線や矢印の上に、関係を表す言葉「リンクラベル」を乗せる
キーワードどうしを線でつなぐという点で「マインドマップ」にも似ていますが、書き方のルールが少ないことと、キーワード間の関係を表す「リンクラベル」の存在がコンセプトマップの特徴です。読書猿氏は、この「線で結び、関係を考える」という手順こそが、記憶をより深く引き出すとしています。
そんなコンセプトマップを発展させた「プレマップ&ポストマップ」は、学習の進め方が独特です。次項で詳しく見ていきましょう。
「プレマップ&ポストマップ」による勉強法の手順
読書猿氏によると、「プレマップ&ポストマップ」を用いた勉強法は、次の手順で行なうそう。
- 学習前に “参照なし” でプレマップを書く
教材を見ずに、これから勉強するテーマについて、思いつく言葉や概念を書き出す - 学習前に “参照あり” でプレマップを書く
教材の目次を見ながら、キーワードをピックアップして書く - 学習後に “参照なし” でポストマップを書く
勉強して得た知識を、教材を見ずに書き出す - 学習後に “参照あり” でポストマップを書く
教材を見返しながら、足りないキーワードをピックアップして書く
つまり、学習の前後に「教材を見ずにマップを作成→教材を見ながらマップを作成」という2ステップを踏むのです。
“参照なし” のところで資料や教材を見ずにアウトプットする理由について、読書猿氏は「学習とは新しい知識を詰め込むことではなく、すでに知っている知識と新しい知識を結びつけることである」からだと言います。
勉強前に一度アウトプットし、勉強をしてからまたアウトプットする。そうすることで、頭に入っている情報を視覚化したうえで、新しい知識を組み込んでいけるのですね。
「プレマップ&ポストマップ」を書いて勉強してみた
今回筆者が教材として選んだのは、環境問題に関する本の第1章。実践の模様を順にお伝えしていきます。
1. プレマップ(参照なし)
まず、環境問題について最初に思いついたキーワード3つを、三角形になるように記入しました。三角形にしたのは、読書猿氏が「三角形や四角形といった図形を配置すると、あとのキーワードが書きやすい」と解説していたからです。
この三角形をテーマとし、その下に思いつくキーワードを書き入れていきます。それぞれを矢印でつないだら、そのあいだにリンクラベルを記入。
リンクラベルを考えるのがなかなか難しかったのですが、読書猿氏によると「関連性を言葉にするプロセス」が重要だとのことなので、どうにか定義していきました。
完成したのがこちらのプレマップです。
事前知識が少なかったため、漠然とした言葉が少し並ぶ程度。少ないとはいえ、いまの理解度をしっかり測れますね。
2. プレマップ(参照あり)
本の目次のみを読みながら、キーワードを増やしていきます。書き方自体は1と同じ。
聞いたことのない言葉でも、想像しながらリンクラベルでつなぎました。完成したものがこちら。
まだまだ未知の単語が多いので、リンクラベルをつけるのはやはり難しく感じましたが、目次を見ただけでもなんとなくつながりがわかってきた感覚があります。
3. ポストマップ(参照なし)
本を読み終えてから、本を閉じ、頭に残るキーワードを取り出しながらマップをつくっていきました。そして、このようなマップが完成。
本を読んだ直後に書いたのですが、意外なほど言葉が出てきませんでした。一度読んだだけでは記憶に残っていないことがよくわかります。
4. ポストマップ(参照あり)
最後に、本を読み直しながら、先ほど取りこぼした言葉を拾っていきます。あらためて最初からマップを書いてもいいのですが、今回は、3のポストマップに肉づけするかたちで、単語を追加していきました。完成したのがこちらのマップ。
だいぶ情報が増え、マップとして整ってきたように見えます。とはいえ、まだまだ関連性がはっきりしていないワードがたくさんあり、パッと見て全体のつながりが把握できるマップとは言えません。理由は明確。理解度がまだまだ低いからですね。
この先何度もマップに落とし込むことで、頭のなかが整理され、本質的な理解につながっていきそうです。
「プレマップ&ポストマップ」で情報のとりこぼしを防げた!
最初は要領がつかめず難しいと感じたのですが、ひたすら手を動かすうちに、理解が深まっていく手応えが得られました。本を読む程度では、「わかった気」にはなれても「知識としては身につかない」のだな、と実感。また、箇条書きでノートをとるのに比べてかなり頭を使う必要があるせいか、情報のとりこぼしを大幅に減らすことにつながりましたよ。
筆者はマインドマップをよく使うのですが、勉強内容の幅が広すぎたり、テーマがひとつではなかったりするときには、「プレマップ&ポストマップ」のほうが向いていると感じました。
書き始めのうちはコンセプトがバラバラになっても、のちのステップで統一されていきます。ですので、本を1冊丸ごと勉強するときや、ゼロから知識を学ぶとき、専門用語の多い科目を学ぶときのように、「何から手をつけたらいいかわからなくなりがち」な勉強におすすめできるテクニックだと思います。
反対に、テーマやカテゴリーがシンプルなとき、講義やスピーチのように話の流れがはっきりしたものについてノートをとるときなどは、リンクラベルを考えず、線でどんどんつないでいけるマインドマップのほうがふさわしいかもしれません。
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自分の頭をフルに使わせてくれるプレマップ&ポストマップ。確実に力になる勉強法でした。ぜひ、試してみてくださいね。
(参考)
読書猿(2020),『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』, ダイヤモンド社.
YouTube|The Power of a Mind to Map: Tony Buzan at TEDxSquareMile
東洋経済オンライン|「東大生の記憶術」は意外と簡単にマネできる
Lucidchart|コンセプトマップ(概念図)とは
IHMC|Joseph D. Novak
【ライタープロフィール】
平野ももこ
大学ではフランス文学を専攻し、物語のなかの人の心を中心に研究。出版社を経営していた祖母の影響もあり、純文学、心理学、ビジネス書など幅広く読む大の読書家である。現在は、メンタルケアやカウンセリングを勉強中。バレットジャーナルの実践を通じ、生活改善に成功し続けている。