セロトニン研究の第一人者が語る。デキる人のもつ「2つの力」がセロトニンで高められる理由

有田秀穂先生インタビュー「直感力と共感力」01

現代のビジネスパーソンに求められる力とはどんなものでしょう? 職種や業種によってさまざまですが、脳生理学者の有田秀穂(ありた・ひでほ)先生は、直感力共感力こそが強く求められていると語ります。なぜそれらの力が求められるのか、また、どうすればそのふたつの力を磨くことができるのか——。有田先生に詳しく解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「人間性」をつかさどる、脳の前頭前野

「直感力」と「共感力」の重要性、またそれらを向上させる方法をお伝えする前に、脳の「前頭前野」という部分がもつ役割について解説します。前頭前野こそが、直感力と共感力を向上させるために重要な部分だからです。

前頭前野の役割は、1848年にアメリカの鉄道建築現場で起きた有名な爆発事故が示してくれています。被害者はフィニアス・ゲージという鉄道建築技術者でした。その事故によって、長さ109cm、太さ3cmの鉄棒がゲージの頭を貫通してしまいました。それでも、彼には意識があり、幸運にも治療を受けた病院を約10週間で退院することができたそうです。

そのあとのゲージは、歩くこともしゃべることも食べることも寝ることもできました。基本的な生命活動は可能だったわけですが、彼に会った家族や友人たちは「彼はもはやゲージではない」と語りました。なぜなら、彼がまったくの別人のように変わっていたからです。

事故に遭う前のゲージは、若くして現場監督を任されるような優秀で精神的にも安定した鉄道建築技術者でした。ところが、事故のあとには、優秀とはとても言えない人物になってしまった。気まぐれで非礼で下品になり、仲間に敬意を示さなくなり、仕事に対する意欲を失い、集中力を失い、将来を見据えたプランを立てることができなくなり、他人の気持ちを汲むこともできなくなったと言います。

ゲージが失ったものは、ひとことで言えば「人間性」ということになるでしょう。そして、脳のなかで人間性をつかさどる部分であり、ゲージが事故によって失ってしまった部分こそ前頭前野だったのです。

有田秀穂先生インタビュー「直感力と共感力」02

直感力を向上させる鍵となる神経伝達物質「セロトニン」

その役割から「人間性の脳」とも呼ばれる前頭前野は、あらゆる動物のなかで特に人間の脳において発達している部分です。ゆえに、前頭前野がつかさどるのは判断力理性などまさに人間的なものばかりですが、なかでも「発想力」とか「直感力」と呼ばれる力は、現代のビジネスシーンにおいて強く求められるものですよね。

なぜ発想力や直感力が求められるのか。それは、論理的思考によってもたらされるあたりまえの結論だけでは、大きな成果を生みにくい社会になっているからです。「AIによって仕事が奪われる」という話はよく見聞きしますが、それこそ論理的思考などはAIが最も得意とするところです。論理的思考が重要である将棋やチェスで、人間がAIにかなわなくなっている時代なのです。

その前提に立てば、現代のビジネスパーソンはAIにまねできない部分で勝負しなければなりません。そこで重要になるのが、論理的思考とは対極にあると言ってもいい直感力です。

では、どうすれば直感力を向上できるのでしょうか? そこで鍵を握るのが、セロトニンという神経伝達物質です。セロトニンの働きには、「ストレスを受けてもすぐに回復する」というものもありますが、前頭前野の活性化に大きく貢献し、その結果として直感力を向上させるというものもあります。

また、前頭前野が活性化すると共感力」を向上させることにもつながります。

この共感力もまた、現代のビジネスシーンで重要なものです。イノベーションを起こすには、大多数の人たちの隠れたニーズを汲み取り、それを周知し、受け入れてもらうことが必要だからです。そこまで大げさな話ではなくとも、取引先の担当者といった、仕事で関係する人の気持ちを汲んで共感することは、すべてのビジネスパーソンに欠かせないものです。

そうなると、前頭前野を活性化するためにしっかりとセロトニンを分泌させたいですよね。その方法は大きく3つあり、「歩行」「呼吸」「咀嚼」という3つのリズム運動です。(詳しくは『【脳生理学者が解説】社会人が「ストレスフリー」でいるための超基本的な5つの日常習慣』を参照)。

セロトニンの分泌を促す活動

  1. 歩行:ウォーキング、ジョギング、エアロバイク
  2. 呼吸:ヨガ、マインドフルネス、禅の呼吸法。読経。歌を歌う
  3. 咀嚼:よくかんで食べる。ガムをかむ

有田秀穂先生インタビュー「直感力と共感力」03

脳をリセットしてくれる「泣く」という行為

そして、前頭前野を活性化して共感力が磨かれると、「おまけ」ではないですが、さらにいいことが待っています。それは、ぐっすりと眠れてしっかり休めるようになるということです。

私は「涙」についての研究もしているのですが、前頭前野は「泣く」という行為のトリガーになっています。この場合の「泣く」は、机の角に足をぶつけて痛くて泣くといったことではありません。感動的な映画を観て泣く、苦労を重ねてきたアスリートが困難を乗り越えて大きな大会で優勝したシーンを観て泣くといったことで、映画の登場人物やアスリートに「共感」し、感動して泣くという行為です。

じつは、そのように泣くと、ぐちゃぐちゃになっている「脳をリセットする」ことができるのです。誰もがスマホなどデジタル端末を持っている現代社会は、情報過多によって脳が非常に疲れやすい社会になっています。そのため、脳がヒートアップしているがために夜になっても眠れないという人が激増しているのです。もちろん、ぐっすり眠って脳を休めないことには、いい仕事をすることなどできませんよね。

では、どうすればぐっすり眠れるのでしょう? その答えは、「共感して泣く」という行為によって「脳をリセットする」こと。そして、「共感して泣く」という行為をよりスムーズに行ないやすくするためには、前頭前野を活性化させて共感力を向上させることが重要であり、前頭前野を活性化するためにセロトニンの分泌を促すことが大切なのです。

有田秀穂先生インタビュー「直感力と共感力」04

【有田秀穂先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
【脳生理学者が解説】社会人が「ストレスフリー」でいるための超基本的な5つの日常習慣
勉強に夢中になるには「これ」さえもてばいい。でも “高望み” はストレスになるので要注意

【プロフィール】
有田秀穂(ありた・ひでほ)
1948年生まれ、東京都出身。医師・脳生理学者。東邦大学医学部名誉教授。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事。その間、米国ニューヨーク州立大学に留学。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究し、2013年に退職、名誉教授となる。各界から注目を集めるセロトニン研究の第一人者。メンタルヘルスケアをマネジメントする「セロトニンDojo」の代表も務める。『医者が教える 疲れない人の脳』(三笠書房)、『脳科学者が教える やっかいな脳のクセをリセットする 朝5分の呼吸法』(総合法令出版)、『自律神経をリセットする太陽の浴び方』(山と渓谷社)、『ひらめく! ひとり散歩ミーティング』(きこ書房)、『「老脳」と心の癒し方』(かんき出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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