「うわ、危なかったー」「焦った! もう少しで〇〇だった!」という体験を集めて、ミス防止につなげることを「ヒヤリ・ハット活動」といいます。主に製造や医療、交通機関などが取り組んでいる活動ですが、一般的なビジネスシーンや日常生活にも役立てることができるもの。
しかし、個人の習慣として定着させるのはなかなか難しいかもしれません。そこで今回は、一般的なビジネスパーソンが「ヒヤリ・ハット」を習慣化するコツを4つ紹介します。
「ヒヤリ・ハット」の概要と活動
「ヒヤリ・ハット」とは、一歩間違えば重大な事故につながったかもしれないヒヤリとした体験、ハッとした体験のことです。その体験記録を「ヒヤリ・ハット事例」といい、事例を集めて分析し、原因を突き止め対策を講じることを「ヒヤリ・ハット活動」といいます。安全管理、リスクマネジメントにおいて重要なのだそうです。
「ヒヤリ・ハット」の背景
「ヒヤリ・ハット活動」の背景は、アメリカの損害保険会社で副部長を務めていたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が1931年に発表した著書『Industrial Accident Prevention, A Scientific Approach(労働災害の防止、科学的アプローチ)』にあります。のちに「ハインリッヒの法則」あるいは「1:29:300の法則」として知られるようになったその内容は、
- 【1件の重大な事故や災害】の背後には
- 【29件の軽微な事故や災害】が存在し、さらにその背後には
- 【危うく事故や災害に “なりかけた” 300件の出来事】が隠れている
というもの。この「300件」がヒヤリ・ハットです。
(図の引用元: STUDY HACKER|ミスが激減する「ヒヤリ・ハット」ノートが超おすすめ。ミスしない人は必ず “記録” をつけている。)
つまり、ヒヤリ・ハット活動の目的は、重大なミス予備軍を未然に排除してしまうこと。うっかりミスの多いビジネスパーソンが、危機的状況に陥る前に始めるべき活動ではないでしょうか。ぜひ次に紹介する習慣化のコツをつかんでみてください。
(※ヒヤリ・ハットの説明は、住友電工情報システム株式会社サイトとWikipediaを参考にした)
「ヒヤリ・ハット」を習慣化するコツ
【1】フォーマットの簡略化
項目が多く書き方が難しい書類は、一度きりでも書くのが面倒なもの。ただでさえ忙しいビジネスパーソンが、そんな書類に記入し続けるのは大変です。
医療関連ビジネスを行なう「エムスリーキャリア」サイト内のコラムでは、企業側が従業員にヒヤリ・ハット報告を定着させるための工夫として、フォーマットの簡略化が挙げられています。忙しいなかでも習慣づけていくことを考慮すると、記入する項目は以下で十分かもしれません。
- ヒヤリ・ハット事例
- 原因
- 対策
【2】既存の習慣をトリガーにする
『Habit Stacking 人生を大きく変える小さな行動習慣』の著者、S・J・スコット氏は、なにげなくやっている日課の前後に、新しい行動を組み込むことが習慣化のコツだと述べます。
たとえば読書を習慣づけたいなら、いつもの食後のコーヒータイムに、15分間の読書をくっつけます。そうすれば食後のコーヒーがトリガーとなり、食後の読書が定着するわけです。
これを、ビジネスパーソンのヒヤリ・ハット活動に当てはめるとすれば、「日報を書くタイミングにくっつける」などしてはいかがでしょう。その際は、前項の簡略化したフォーマットがおすすめです。
◎記入例
- 事例:書き連ねたメールに段落をつけて読みやすくしようとした矢先、送信してしまった。内容的には問題ないのでミスにはならなかったが、ヒヤリとした。
- 原因:そのときたしか、コピーした文言をショートカットキー「Ctrl+V」で貼りつけたはず。Ctrlキーを押したまま改行した可能性が高い(つまり、送信のショートカットキー「Ctrl+Enter」を意図せず押してしまった)。
- 対策:ショートカットキー活用の利便性は高いので、この動作は変えない。だから、メールを書き終わるまでアドレスを入力しないことにした。
【3】かける時間は5分以下
習慣化のコツは、なんといってもハードルを低めにすること。前出のスコット氏は、ひとつの習慣にかける時間として5分以内を推奨しています。「5分以内」の文字を見ただけでも気分が軽くなりませんか?
たとえば前項で挙げたように日報とくっつけて書く場合、5分以内でいいと思えば書く気になるのではないでしょうか。
整理収納アドバイザーで心理カウンセラーの佐原美和氏も、ハードルを低くして、自分に優しくしながら継続していくことが習慣化のコツだと述べます。ミス防止の活動を継続するためにも、自分に厳しい要素はどんどん削ぎ落としてしまいましょう。
【4】役立ったことを見える化
イントランスHRMソリューションズ株式会社の代表取締役社長である竹村孝宏氏は、自分の達成記録の「見える化」が習慣化のカギだと述べます。そうすることで自分の成長を感じられるからです。
ヒヤリ・ハット活動の習慣化においても、対策が役立った際の「見える化」が役立つはず。そこに「ご褒美」の要素が加わればさらに効果的です。
株式会社朝6時代表取締役社長で、国家資格キャリアコンサルタントの池田千恵氏は、自身の著書で「はなまる」効果について述べています。
子どものころ、先生に「はなまる」をもらうと嬉しくなって、また頑張ろうという気持ちになった経験はないでしょうか。池田氏によれば、この感覚は大人にも役立つのだそう。些細な成功体験が、ちょっと面倒な習慣づけを後押ししてくれるのだとか。
ミス防止に役立てられた対策を「見える化」すべく、“役に立ったよ” と大きな「はなまるマーク」を描いてみてくださいな。想像以上に快感です。
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「ヒヤリ・ハット」を習慣化するコツを4つ紹介しました。ミスが減って、どんどん仕事がはかどるといいですね。
(参考)
住友電工情報システム株式会社|できること:ヒヤリ・ハットの収集・分析をしてみよう
産業医トータルサポート|事故を防ぐ!ヒヤリハットとは?業種別の具体例と対策
STUDY HACKER|ミスが激減する「ヒヤリ・ハット」ノートが超おすすめ。ミスしない人は必ず “記録” をつけている。
日本実業出版社|「何をやっても続かない」が変わる!「習慣化」に成功する3つのステップ
佐原美和 著, 岩井俊憲 監(2015),『片づける勇気』, ベストセラーズ.
池田千恵(2009),『 「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす! 』, マガジンハウス.
日経クロステック|良い習慣を身に付けるためのコツ
Wikipedia|ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ
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STUDY HACKER 編集部
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