真摯に謝ったつもりなのに、なぜか相手に許してもらえない。それどころか、さらに相手を怒らせてしまった……。そんな苦い経験はありませんか? それはあなたの謝り方が間違っていたからかもしれません。
どんなに深く反省していても、表現の方法を間違えば謝罪の意は伝わらないもの。今回ご紹介する4つの「やってはいけない謝罪の仕方」を知り、正しい謝罪ができるようになりましょう。
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ダメな謝罪1.「自分」にベクトルが向いている
アメリカの社会心理学者、ハイディ・グラント氏が挙げる “ダメな謝罪” は、「自分自身の意図・考え・感情などについて」謝ることです。その例としてグラント氏は、以下のフレーズを挙げています。
「私は、そんなつもりはありませんでした」
「私はただ、○○しようと思って~」
「私は○○に気づかなかったもので~」
「私にはちゃんと理由があって~」
(引用元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|「謝り方」は、相手との関係次第で変わる)
誰でも言ってしまいそうなフレーズが並んでいますが……なぜ、自分の意図について謝ってはいけないのでしょう? グラント氏によれば、それは「相手はあなたに関する話を聞きたいわけではない」から。肝心なのは「相手は現にどんな迷惑をこうむったのか」「相手はそれをどう補償してもらいたいと思っているか」といったことだそう。
つまり、相手の痛みに言及し、相手の気持ちに寄り添って言葉を述べるべきだということなのです。
たとえば、あなたが、同僚から依頼されていた仕事をすっかり忘れ、別の仕事のことで頭がいっぱいだったとしましょう。同僚はどうしても外せない用件があり、その時間帯にスケジュールが空いていたあなたなら、きっと作業をしてくれると頼りにしていた――そんなとき、
「私、忘れるつもりはなかったんですが……すみません。もともとはちゃんと作業ができるはずだったのですが……申し訳ありません」
といった謝り方はNG。いくらあなたの気持ちばかり述べても、グラント氏流に言えば、それは同僚にとって聞きたい話ではありません。かわりに、こんな謝り方をしてみてはどうでしょうか?
「私が作業をし損ねたせいで、あなたが残業する羽目になってしまいましたよね。申し訳ありません。もしよければ、私も一緒に残るので作業を手伝わせてもらえませんか?」
謝るときは、これぐらい相手に寄り添いたいものです。
ダメな謝罪2.「理由(言い訳)」を述べる
アメリカの臨床心理士、アン・ゴールド・ブッショー博士が「間違った謝り方」のひとつとして挙げるのは、ミスが起きた「理由」を述べること。いわゆる「言い訳」をすることです。
前項で、「自分」にベクトルが向いた謝り方はNGとお伝えしましたが、それと通じていますね。
たとえば、約束をしていた社内の人に「すみません、電車が遅れて遅刻しました」と “言い訳込み” で謝られたら、どう感じますか? 「遅刻したのは電車のせいであり、自分のせいではない」という、自己弁護的なメッセージが感じられ、謝罪の意が弱いような印象を受けるはずです。
ブッショー氏は「人を傷つけることをした理由を述べても、相手の助けにはなることはない」と指摘しています(参考「Psychology Today|What’s Wrong with Apologies and How to Make Them Right」)。言い訳は、自分の印象を悪くすることはあっても、よくすることはないと考えられるのです。
ブッショー氏は、人に謝る際は言い訳をせず、次のような順で謝罪の意を伝えることを提唱しています。
- まず自分の過ちを認める
(例)2時間も遅刻をしてしまいました。 - その行動による悪影響を述べる
(例)みなさんに多大なるご迷惑をおかけいたしました。 - どんな道徳に違反したのか示す
(例)遅刻をするなど、社会人として失格だったと思います。 - 反省の意を深く誠実に表現する
(例)大変、申し訳ありませんでした。 - 今度の行動を誓約する
(例)今後は二度と同じことがないようにいたします。 - 損害の埋め合わせをする
(例)仕事の遅れにつきましては、今日中に確実に埋め合わせます。
前項でご紹介した謝罪を、より丁寧にしたようなイメージでしょうか。状況によって、より適切なほうを選ぶとよいかもしれませんね。
ブッショー氏が提唱する謝り方の詳細については、こちらの記事『相手を逆なでする最悪な謝罪には “6つのステップ” が欠けている。「ごめんなさい」は最初に言わないのが吉。』もご覧ください。正しい謝り方をぜひ身につけましょう。
ダメな謝罪3.「誤解を与えてしまい……」
もしあなたが「誤解を与えてしまい、申し訳ありません」というフレーズで謝ったことがあるなら、今後はやめたほうがよいでしょう。じつはこれも、“ダメな謝り方” のひとつ。
コミュニケーション研修などを手がける藤田尚弓氏は、次のように指摘しています。
誤解という言葉には『自分が正しい』と主張するニュアンスがあるため、相手からすれば『誤解とはなんだ!』と火に油を注いでしまいます
(引用元:リクナビNEXTジャーナル|謝罪は成長のチャンス!ただし絶対避けたいNGフレーズ集も…)
「あなたが勘違いしていただけ。じつは正しいのはこちらなんです」という意図として、受け取られてしまいかねないのですね。たしかにこれでは、相手の怒りが収まるどころではありません。
では、自分に非がない場合はどう謝ればいいのでしょう。藤田氏によると、「共感部分を丁寧に謝罪する」とよいそう。つまり、相手の気持ちに寄り添った謝り方を心がけるということです。
たとえば、とある作業手順についてあなたがつくった資料に関し、社内の人から「この資料には○○と書いてあるのに、実際はそうはならない。実態と合っていないんじゃないですか?」と指摘を受けたとします。よく読めば、正しい手順が書いてあるのに――そんな状況のとき、
「作業の進め方について、誤解を与えてしまい申し訳ありません」
と言うのではなく、
「作業の進め方について、不安を抱かせてしまい申し訳ありません」
「作業の進め方について、ご心配をおかけし申し訳ありません」
などと伝えましょう。
「こっちは正しいことをしているんだけどな……」と思うときでも、相手の不快や不安といった気持ちにはしっかりと寄り添うこと。間違っても「誤解」という表現は使わないように気をつけましょう。
ダメな謝罪4.「つい」「うっかり」
ミスなどを謝罪するときに言いがちな「つい」「うっかり」という言葉。これも “ダメな謝罪” の仕方です。
これらは、ビジネスマナーやコミュニケーション研修を手がける竹内和美氏が、相手を不快にさせかねないワードの筆頭に挙げているもの(参考「産経新聞|謝罪が逆効果に…NGワードはコレだ! 誠意が伝わる謝り方、専門家が解説」)。
「つい」「うっかり」という言葉を使うと、失敗を「よくあるケアレスミス」で済まそうとしているように受け止められてしまうとのこと。これだと、問題を軽視しているように思われ、謝罪の意が伝わりにくくなるのです。
たとえば、資料提出の締め切り日を忘れていて、提出が間に合わなかったとします。このとき、資料の提出先である相手に対し、
という謝り方はもちろんNG。あまりにも状況を軽くとらえすぎています。先述のように、相手に与えた悪影響に言及し、その埋め合わせを丁寧に伝えましょう。
「ミスしたのは本当にたまたまだ……」という場合でも、「つい」「うっかり」などと言い訳がましい言葉を口に出すのは避けたほうが無難なのです。
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人に謝ることに苦手意識がある人でも、上記4つのポイントに気をつければ大丈夫。相手の怒りを上手に収められる謝り方を、ぜひ身につけてくださいね。
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|「謝り方」は、相手との関係次第で変わる
Psychology Today|What’s Wrong with Apologies and How to Make Them Right
リクナビNEXTジャーナル|謝罪は成長のチャンス!ただし絶対避けたいNGフレーズ集も…
産経新聞|謝罪が逆効果に…NGワードはコレだ! 誠意が伝わる謝り方、専門家が解説
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。