私たちは様々なことを学び、多かれ少なかれ日々成長していますが、「謝罪の仕方」について深く学ぶ経験は少ないかもしれません。何かしらのミスを犯し、「どう謝罪すればいいのだろう?」と悩んだ挙句、結局うまく謝ることができず、その相手との関係がギクシャクしてしまった経験があるならば、専門家からのアドバイスを聞いてみてはいかがでしょう。
いつもの謝り方は間違いだらけ?
アン・ゴールド・ブスチョ(Ann Gold Buscho)博士は、家庭問題などを専門とする、臨床心理士。同氏はこういいます。
恐らく多くの人々は、幼いころに間違ったことをした際、大人から「ごめんなさい」とだけ謝るよう教えられたはず。小さな子供であれば、その一言で許されるからです。
しかし、そのまま成長すると、大人になってからは「すみません」「そういう意図はなかった」「悪気はないんです」「あなたを傷つけてしまってごめんなさい」「どうか許してほしい」などと、一言謝るだけだったり、自分の行動を正当化したり、優越感に浸ったような物言いだったり、謝罪の受け入れを迫ったりしてしまいがちです。
ブスチョ博士いわく、それらはすべて間違っているとのこと。 そういった謝罪をしたところで、関係が修復されることはなく、最悪の場合は関係を損ねてしまう可能性があるそう。
不適切な謝り方の代表的な例は「ビジネスでやってはいけない謝罪の仕方4選。許したくなる謝り方は?」で4つ挙げています。このような謝罪をしていないか、一度確認してみてください。
そこで、同氏は、6つのステップからなる、有意義かつ癒しをもたらす「本物の謝罪の仕方」をアドバイスしています。意外なことに、謝罪の言葉自体はすぐに述べません。
博士が教える「本物の謝罪」の仕方
たとえば、こんな場合――仲のいい先輩と食事の約束をしていたにもかかわらず、別の日と勘違いしてしまった。滅多に予約が取れない人気店なので、日にちも時間も変更がきかない。急いで向かい到着したころには、2人ぶんの予約を1人ぶんに変更してもらい、肩身の狭い思いで1人食事を終えたばかりの先輩が、店の外で怒りをたぎらせ仁王立ちしていた――
そんなときは、次の手順(ブスチョ博士の例をアレンジしたもの)で正しく謝罪します。
● 本物の謝罪1:行動を認める
まずは、自分がしたことの責任をとりましょう。自分の非を全面的に認めます。
――「先輩、私は約束が明日だと全くもって勘違いしていました。大失態です。先輩を待たせたうえ、せっかくの食事を台無しにしてしまった……!」
● 本物の謝罪2:行動の悪影響について
次に、自分の言動が、他者にどのような影響を与えたかを示します。
――「約束の時間になっても私が来ないことでイライラした挙句、連絡してみたらとっくに帰宅していたなんて、ものすごく腹が立ちましたよね……! ずっと楽しみにしていたお店の料理なのに、よく味わうこともできない状況だったはず。私は先輩からどんなに怒られても、嫌われても仕方がありません」
● 本物の謝罪3:道徳的な違反行為について
次に、許容範囲を超えた言動や、違反した値や基準について示します。
――「私は先輩との約束を守らなかった。私が行かなかったばかりに、先輩は不快な思いをして、貴重な時間をムダにしてしまった。友人のように接してくれる先輩に対して、私はあまりにも失礼なことをしてしまった。何よりも、私は先輩の信頼を裏切ってしまいました」
● 本物の謝罪4:後悔と悲しみを深く誠実に表現
ここで初めて「言葉」としての謝罪を口にします。
――「約束の日を勘違いしてしまい、本当にすみません。先輩との関係は、自分にとってものすごく大切です。こんな失敗をしてしまい、ものすごく悔しいです。この間違いは、決して許されないことです。先輩、本当にごめんなさい!」
● 本物の謝罪5:将来の行動の誓約
もう、二度とこんなことを起こさないと、相手に安心してもらえるよう約束します。
――「私は先輩の信頼を失ってしまいました。私はもう二度と約束の日を間違いません。カレンダーにつけたり、何度も先輩に確認したりするようにします」
● 本物の謝罪6:適切ならば損害賠償
最後に、それが適切であれば、損害の埋め合わせをします。
――「もしも、先輩さえよろしければ、またあの店を予約してもいいですか? もちろん、支払いはすべて私が持ちます。可能であれば、ぜひ一緒に行っていただけませんか? 都合のいい時期を教えてもらうことは可能ですか?」
「本物の謝罪」のまとめ方
アン・ゴールド・ブスチョ博士の「本物の謝罪」では、いきなり謝罪の言葉を連発したり、すぐに埋め合わせを提案して解決しようとしたり、自分のミスを正当化したり、自分の謝罪を受け入れるよう頼んだりは、決してしません。相手がいかに気持ちを癒やせるか、いかに相手を思いやれるかが、重要視されています。
つまり、多くの一般的な謝罪は、謝罪する側の、「私の後ろめたい気持ちを打ち消して欲しい!」「どうかこれで許してよ!」という、一方的な要求でしかないのです。
それに比べて「本物の謝罪」は、謝罪する側がとことん自分を責め、相手を立てて、事実だけを述べてから謝罪し、埋め合わせを提案しています。ここまで言われたら、思わず「もういいから」と、言いたくなってしまうのではないでしょうか。
とはいえ、怒り心頭に発している人が、この謝罪を1から6まで聞いているわけもありません。そこで、前項の内容をもう少し簡潔にまとめると、次のようになります。
――「私は約束の日を完全に間違っていました。そのせいで、先輩の貴重な時間と食事を台無しにしてしまった。どれほど先輩は不快な思いをして、私に腹を立てたでしょう。私は先輩からどんなに怒られても仕方がありません。私は先輩の信頼を裏切り、信頼を失ってしまいました。この間違いは許されないことです。
本当に、本当にすみません。
先輩との関係は、自分にとってものすごく大切です。私はもう二度と約束の日を間違いません。もしも、先輩さえよろしければ、またあの店に、ご一緒していただけませんか? もちろん、そのときは、すべて私が支払います。都合のいい時期を教えていただくことは可能ですか?」――
これならきっと、先輩も許してくれるはず。
ビジネスにおける「本物の謝罪」のまとめ方
では、ビジネスシーンにも置き換えてみましょう。たとえば、取引先の担当者に見積もりを連絡し忘れていた場合の、電話による謝罪だとします。ついつい早々に謝罪し、言い訳をして、サッサと要件に入ろうとしてしまうと、こうなってしまいます。
● ビジネスにおける【ダメな謝罪】例
――「いつも大変お世話になっております。昨日は申し訳ございませんでした。昨日中にお見積もりを連絡するはずでしたが、工場からの連絡を待っているうちに急きょ外出になってしまい、会社に戻ったのがかなり遅い時間だったんですよ。もう〇〇〇さんも退勤されている時間だったと思うので……、それで、ちょっと連絡できなくて……、すみません。
早速で恐縮ですが、お見積もりのほうを、いまお電話口でお伝えしてもよろしいですか? 早いほうがいいですよね? 後ほどメールで詳細はお送りしますが……。どうしましょうか?」――
これでは、担当者の感情を逆なでしてしまいそうです。
これを、ブスチョ博士の「本物の謝罪」を参考にして当てはめていくと、だいぶ違ってきます。たとえ何かしら事情があったとしても、連絡しなかったことには違いないので、言い訳せず、全面的に非を認めることから始めます。
● ビジネスにおける【本物の謝罪】例
――「いつも大変お世話になっております。昨日ですが、あろうことか貴社への連絡を失念しておりました。〇〇〇さんの貴重な時間をムダにしてしまい、スケジュールまで遅らせてしまったと存じます。あってはならないこと、厳しいお叱りを受けて当然のことをしてしまいました。本当に申し訳ございません! 今後は二度とこのようなことが無いよう、細心の注意を払う所存です。
なお、早速で大変恐縮ですが、お見積もりの詳細は、先ほどメールでお送りいたしました。よろしければ、いまお電話口でも概要をお伝えいたします。3~4分ほどお時間ございますでしょうか?」――
ちなみに、たとえ「本物の謝罪」でも、相手の言葉をさえぎり、一方的に謝罪するのはタブーです。相手の言葉を受け止め、それに返答しながら、伝えていきましょう。
ブスチョ博士は、もしも「自分は悪くない」と思うような状況だとしても、相手の気持ちを認識し、その気持ちの原因となったことについて、誠実な後悔を表明する必要があると述べています。
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なお、コミュニケーションデザインを研究する、株式会社アップウェブ代表取締役の藤田尚弓氏は、「謝罪という行為は成長のチャンス」だと説いています。たとえば、謝罪を通して自分の非を認めると、同じミスはしにくくなるのだとか。また、誠意をもって謝れば、相手の気持ちがやわらぎ、自分のイメージダウンも防げる効用も実証されているとのこと。
ぜひ、必要に応じ、前向きに(!? )謝罪してみてください。
(参考)
Psychology Today|What’s Wrong with Apologies and How to Make Them Right
リクナビNEXTジャーナル|謝罪は成長のチャンス!ただし絶対避けたいNGフレーズ集も…