“答えのない問題” をどう問い続けるか? 目の前の現実を変えるには「7つの知性」が必要だ。

終身雇用制度が崩壊し、日本人の人生モデルは大きく変わった。近い将来、AIに多くの仕事が奪われるかもしれない――。そんな話を多くの人が飽きるほど耳にしていることでしょう。では、これからの時代、われわれは社会人としてどのような力を身につけて生きていけばいいのでしょうか。

アドバイスをくれたのは、多摩大学大学院教授の田坂広志(たさか・ひろし)先生。全国から5,000名の経営者やリーダーが集まる「田坂塾」の塾長でもあり、つねにビジネスの先端を見つめ続ける田坂先生は、これからの時代に求められるのは「真の知性」だと断言します。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/清家茂樹(ESS)

「知能」でも「知識」でもない。これから求められるのは「知性」だ

これからの時代、社会人が身につけなければならないのは「真の知性」です。では、「知性」とはなにか。それを理解するためには、まず「知性」としばしば混同される「知能」、そして「知識」とのちがいを述べておきましょう。

よく「知性が高い人」とは「勉強ができる人」だと思われがちです。しかし、「勉強ができる人」とは「知能が高い人」なのです。「知能」とは、知能検査に象徴されるように「答えがある問題」を与えられたとき、早く正解にたどり着ける能力のことです。したがって、「知能」が高ければ大学受験では好成績を挙げ、有名大学にも進学できます。

一方、「知性」とはその正反対の能力のことです。すなわち、「答えのない問題」が与えられたとき、その問題を考え続ける能力のことです。たとえば、「企画力」には知性が求められます。企画を練るとき、誰かが正解を教えてくれるわけではありません。たとえば、商品企画を考えるとき、いまの時代になにが求められているのかは、わかるようで誰にもわからない。それでも、ヒット商品を生み出すために「多くの顧客が求めているものは、どのような商品だろうか」と考え続ける能力、その能力はまさに「知性」です。

また、「知能が高い人」と同様に「知識が豊富な人」も「知性が高い人」だと思われる傾向があります。しかし、どれほど記憶力が良く、物知りで、博覧強記であったとしても、それはただ頭のなかに多くの知識や情報が入っているだけのこと。むしろ、これからの時代には、書籍やウェブで学ぶことのできる知識よりも経験や体験を通じてしか学べない智恵の方が圧倒的に重要になっていきます

そして、この知能と知識については、今後、人工知能が人間の能力を凌駕していきます。そのため、これからの時代はどれほど知能が高く知識が豊富であっても、「真の知性」を身につけていない人間は人工知能に仕事を奪われることになります。しかし幸い、「人工知能」は急速に発達していますが、「人工知性」というものはまだ生まれていません。したがって、これからは人工知能では置き換えることのできない知性を身につけた人間が活躍する時代になるのです。

イノベーションを起こすために必要な「7つの知性」

では、「真の知性」とはなにか。それは、ひとことでいえば「目の前の現実」を変革する力です。そもそも人間に知性が与えられたのは、われわれが生きている世界や社会を多くの人々が幸せに暮らせる世界や社会に変えていくためです。近年、イノベーションという言葉が頻繁に使われますが、そのイノベーションを起こすものも知性です。したがって、これからの社会で活躍したいビジネスパーソンは、この「目の前の現実を変革する知性」をこそ身につけなければなりません。

かつて、経済学者・カール・マルクスは「これまで哲学者たちは世界を解釈してきたに過ぎない。大切なことはそれを変革することである」という名言を残しました。まさにその通りです。世のなかには「評論家」という言葉がありますが、世界や社会の現状を解釈し評論するだけでは、決して世のなかを変えることはできません。われわれに求められるのは、その世のなかや社会を大きく変えていく知性であり、さまざまな分野でイノベーションを起こすことのできる知性なのです

では、「目の前の現実を変革する知性」とはなにか。わたしは、それを7つのレベルの知性にわけて考えています。それは、「ビジョン」「思想」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つの知性です。

たとえば、経営やビジネスにおける「7つの知性」を考えてみましょう。まず、世のなかを変えるために、どのような事業を起こすかという「ビジョン」がなければなりません。しかし、ビジョンを描くためにはその前提に確固とした社会観や事業観、組織観や人間観などの「思想」が必要です。一方、さまざまな困難を超えてそのビジョンを実現していくためには、そのエネルギーを生み出す強い思いや「志」が必要です

しかし、思いや志だけでは事業は実現できません。当然、もっとも効果的にその事業を実現するための「戦略」が求められます。さらに、この戦略を立てただけでは現実のビジネスは動きません。その戦略を実現するための具体的な「戦術」が不可欠です。戦術とは、抽象的な戦略思考ではなく、すべて具体的な企業名、組織名、役職名、個人名といった固有名詞を想定して考えるべきものです。たとえば、ある事業で「SNSを活用する」という戦略を立てたとします。しかし、その戦略を実現するためには、「SNSのなかでは、『YouTube』を使うのか『Facebook』を使うのか『Instagram』を使うのか、どのような人々に向けてメッセージを発信するのか、どのような具体的なメッセージを伝えるのか」といった戦術レベルでの思考が求められます。

そして、戦術が決まったならば、それを実行するために「技術」が求められます。どれほど具体的な戦術を立てたとしても、目の前のひとりの人間を納得させることのできる話術やプレゼン技術がなければなにも動きません。

そして、さらにどれほど優れた技術を身につけても、最後に問われるのは「人間力」です。しばしば、「あの人物は、口は達者だが、なにか信用できない」や「あの人物は、プレゼンはうまいが、どこか怪しげだ」といった評価を受ける人がいます。これは、話術やプレゼン術などの技術は優れていても、人間力が欠けているために相手の心が離れていくという人物です。その意味で、最後はこの「人間力」があるか否かが、目の前の現実を変えるために最も重要な条件になっていきます。

このように、分野を問わず職業を問わずこれからの時代に活躍したいのであれば、われわれはこれら「7つの知性」をバランス良く身につけていかなければなりません。そして、これらの知性は、いずれも、本来「経験」を通じてしか身につかないものです。特に、人間力はその最たるものです。職場や仕事において、さまざまな個性を持った人間を相手にして、「相手の気持ちがわからない」「相手に思いが伝わらない」と悩みながら悪戦苦闘する経験がなければ、決して身につくものではありません。いままさにそうした苦労をされている方々は、その苦労が必ず将来に自身の成長の大きな糧となっていることに気がつかれるでしょう。

【田坂広志先生 ほかのインタビュー記事はこちら】 優秀なのに成長できない “残念な人” が陥るふたつの落とし穴 「深層対話力」が欠けている人は、コミュニケーションの8割を無駄にする。

『知性を磨く ――「スーパージェネラリスト」の時代』

田坂広志 著

光文社(2014)

【プロフィール】 田坂広志(たさか・ひろし) 1951年生まれ。1974年、東京大学工学部卒業。1981年、同大学院修了。工学博士(原子力工学)。同年、民間企業入社。1987年、米国シンクタンク・Battelle Memorial Institute客員研究員。1990年、日本総合研究所の設立に参画。民間主導による新産業創造のビジョンと戦略を掲げ、10年間に異業種企業702 社とともに20のコンソーシアムを設立・運営。取締役、創発戦略センター所長等を歴任。現在、同研究所フェロー。2000年、多摩大学大学院教授に就任。社会起業家論を開講。2000年、21世紀の知のパラダイム転換をめざすシンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。2005年、米国Japan Societyより、US-Japan Innovatorsに選ばれる。2008年、ダボス会議を主催するWorld Economic ForumのGlobal Agenda Councilのメンバーに就任。2010年、4人のノーベル平和賞受賞者が名誉会員を務める世界賢人会議Club of Budapestの日本代表に就任。2011年、東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。2013年、全国から5000名を超える経営者やリーダーが集まり「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という「7つの知性」を垂直統合した「21世紀の変革リーダー」への成長をめざす場「田坂塾」を開塾。著書は、国内外で80冊余。現在、海外でも旺盛な出版と講演の活動を行っている。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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