新しい企画案や、課題の解決策を出したいとき、みなさんはすぐにアイデアが浮かびますか? いつもなかなかいいアイデアが思いつかず行き詰まってしまうあなた。そんなときに助けになってくれるのが、メモなんです。
メモが発想に有効な理由、そしていいアイデアが次々に湧いてくるプロのメモ術をご紹介しましょう。
「書く」がアイデアを生む
そもそもなぜ、アイデアを生むのにメモが有効なのか。それは、「書く」ことで頭が整理されるからです。いろいろな情報や雑然とした考えで混乱した頭では、いいアイデアも浮かばないもの。アイデアを出したいなら、それらを整理する必要がありますよね。そのために最適なのが、紙の上でメモを取ることなのです。
今回は、「書く」ことで実際にさまざまなアイデアを生んでいる、2人の “発想のプロ” が実践しているメモ術を紹介します。1人はSHOWROOM株式会社社長の前田裕二氏、そしてもう1人は「伊右衛門」や「ザ・プレミアム・モルツ」などのコピーを手がけたコピーライターの小西利行氏です。
両氏がすすめるのは、アイデアを出したいときには頭だけで考えるのではなく、まず書いてみる、ということ。前田氏は次のように述べています。
「こんなことを考えているのは自分だけかもしれない」。ふとした瞬間に、そんなインスピレーションが湧いた経験はないでしょうか。
そんなときは、「自分が考えることなんてどうせ誰もが考えつくし、大したことじゃない」と思わず、心に浮かんだことを明確に言語化してみるべきです。その作業を繰り返すうち、本当に自分にしかない視点が見つかってくる。
(引用元:EL BORDE|【前田裕二】日常すべてがビジネスアイデアに変わる戦略的メモ術 ※太字は筆者が施した)
また、小西氏は次のように語っています。
「滞り」を解消するために、ぼんやりと頭の中で考えていてもたいがい解決しません。でも面白いことに、「うーんどうしよう、困った」ということを一回筆記すると頭が整理されるんですよ。なんとなくもやもやしていることを日記に書くとすっきりすることがありますよね。困っている「滞り」について、箇条書きでもいいから書き出してみると、情報が整理されて解消するためのアイデアが生まれたりします。
(引用元:かんき出版|著者インタビュー『すごいメモ。』著者 小西利行先生に聞きました! ※太字は筆者が施した)
しかし、ただ書けばいいというものでもありません。転職支援やコンサルティング事業を手がける株式会社morich代表取締役の森本千賀子氏は、ノートの書き方についてこのように言っています。
ノートのまとめ方は、その人の思考回路そのものです。自分なりの論理で要約したり、フレーム化することもなく、「聞いたまま」を雑然と記すだけではビジネススキルを疑われます。
(引用元:名言DB|森本千賀子の名言 厳選集 ※太字は筆者が施した)
これは、ノートの取り方に限らず、メモについても言えることでしょう。聞いたこと、頭の中にあることをそのまま書くのではなく、内容を整理するメモ術が必要なのです。では、考えがスッキリまとまってアイデアがどんどん湧いてくる、前田氏と小西氏のメモ術を紹介していきましょう。
前田流メモ術:「抽象化」
まず、前田氏が実践しているメモ術です。キーワードは「ファクト→抽象化→転用」。ファクトはずばり見聞きした事実、抽象化はファクトを一般論に落とし込むこと、そして転用は抽象化で得た一般論をほかの分野のアイデアに適用することです。
メモと言えば、ファクトを記録するだけの人がほとんどではないでしょうか。しかし前田氏は、それではもったいない、知的生産に使ってこそメモの本領が発揮されると強調しています。この3ステップによるメモ術は、仕事に有用な知的生産をやりやすくするもの。フォーマットに沿ってメモすると、的確かつ新しいアイデアがどんどん生まれてくるのだそうですよ。
このメモ術の根幹は、抽象化にあります。では、そのためにはどうすればいいのでしょう。前田氏が実践しているのは、3種類の「問いかけ」によるファクトの抽象化です。
- 「What?」(何と呼べるか)
例)Instagramで人気のオシャレな写真→What?→「インスタ映え」 - 「How?」(どんな特徴があるか)
例)フリマアプリ→How?→手軽に利用できる - 「Why?」(なぜ起こったか)
例)あるドラマの視聴率が高い→Why?→社会問題を扱っているから
上の3つのうち、知的生産においては2と3、特に3が重要です。それでは、2.「How?」と3.「Why?」の問いかけを使った抽象化→転用メモの具体例を見てみましょう。
(画像は筆者にて作成)
一見他人事のように思えるファクトが、抽象化することで、自分の分野に活かせるアイデアへと変身します。そのことが、この例からおわかりいただけたのではないでしょうか。慣れれば、さらに本質的な抽象化・意外な転用もできるようになるでしょう。抽象化メモで、身の回りのさまざまなファクトをアイデアに変えてみましょう。
小西流メモ術:「三角メモ」
コピーライターとして数多くのヒット商品を手がけてきた小西氏は、ゲーム感覚で楽しめるメモ術を編み出しました。その名も「三角メモ」。「女性ウケする新メニュー」や「家族で楽しめる野外イベント企画」など、テーマとターゲットが決まっているときに便利なアイデア発想法です。
手順はたった4つだけ。
- 2つの三角形を、頂点を重ね合わせて向かい合わせに描く。
- 左の三角形に、テーマに関する情報をできるだけたくさん書く。
- 右の三角形に、テーマとは無関係に、ターゲットの好きなことをできるだけたくさん書く。
- 左右の三角形のキーワードを自由に組み合わせる。
実際に、「若者向けに現代アートのイベントを企画する」という例で三角メモを作ってみました。
(画像は筆者にて作成)
左の三角形に「現代アート」に関するキーワード、右の三角形に「若者」の好きそうなキーワードを書き込みました。そして、左右のキーワードを組み合わせると……
- SNSコラージュ
- エモいVR
- 草間彌生タピオカ
- 社会問題を扱うファッション
- 村上隆アイドル
ただ考えるだけでは思いつかなさそうな、おもしろそうなアイデアがどんどん出てきましたよ。
この三角メモには「まじめに考えているだけでは生み出せない、ユニークなアイデアが生み出せる」「とにかくたくさんのアイデアが生み出せる」「どれだけ突飛なアイデアでも、テーマから離れない」という利点があります。いいアイデアは、腕組みして考え込んでいるだけでは生まれません。遊び心を持って手を動かしてみると、頭だけでは考えつかなかったたくさんのアイデアに出会えるのです。
まず面白いアイデアを考え、そして実現できるものを選ぶ。そうすれば想像していたものよりも、はるかに面白く、オリジナリティ溢れたアイデアが生まれるのです。
(引用元:小西利行(2016),『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』, かんき出版.)
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頭だけで考えるより、まず書いてみる。アイデアに行き詰まったときには、「抽象化」や「三角メモ」をぜひ実践してみてください。メモはきっと、すばらしいアイデアをもたらしてくれるはずです。
(参考)
前田裕二(2018),『メモの魔力 The Magic of Memos』, 幻冬舎.
小西利行(2016),『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』, かんき出版.
EL BORDE|【前田裕二】日常すべてがビジネスアイデアに変わる戦略的メモ術
かんき出版|著者インタビュー『すごいメモ。』著者 小西利行先生に聞きました!
STUDY HACKER|ノート術で思考力を鍛える! 頭の回転が早い人の、情報と論理の整理法
名言DB|森本千賀子の名言 厳選集
【ライタープロフィール】
梁木みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。