みなさんは、「うまくできる人」と「うまくできない人」のどちらになりたいでしょうか。後者を選ぶ人はまずいませんよね。では、どうすれば「うまくできる人」になれるのでしょう。
お話を聞いたのは、トップアスリートやビジネスパーソンのサポートを行なう「メンタルスキルコーチ」である飯山晄朗(いいやま・じろう)さん。平昌五輪の金メダリスト・高木菜那選手など、それこそ「うまくできる人」を導いてきた飯山さんが、「うまくできる人」になるための方法を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
脳が、自分の言動を「うまくいくイメージ」に近づける
「うまくできる人」と「うまくできない人」、両者を分けているものはなんでしょうか。私は、日頃のメンタルトレーニングにより「うまくいくイメージ」をもてているかどうかだと考えています。なぜなら、脳は「イメージしていることを実現しようとする」からです(『“脳の機能”を活用せよ。大事な局面で絶対に好結果を出せる「感情コントロール法」』参照)。
たとえば、重要な商談に臨むにも、事前に「うまくいくイメージ」を描けている人とそうでない人では、結果は大きく違ってきます。過去、私自身が営業マンをしていたときによくやっていたのは、「商談後に笑顔でお客と握手をし、ハグをしている」イメージを商談の前にもつということでした。
すると、商談が始まる瞬間から言動は変わります。商談相手と笑顔で握手をしているイメージをもっているのですから、「よろしくお願いします!」と最初にあいさつをするときにも自然に笑顔になる。その後も快活に談笑を交えながら商談を進めることもできる。すると、相手に好印象をもたせることができますから、商談が成功する確率も高まるというわけです。
逆に、「うまくいくイメージ」をまったくもっていなかったとしたらどうでしょう? それこそプレッシャーがかかる「重要な商談」に臨むのですから、「まとめられなかったらヤバいぞ……」「上司からの評価が下がったらどうしよう……」といった、うまくいかなかったときのことばかりを想像してしまう。もちろん、それでは表情はこわばりますし、気が利いた会話をするのも難しくなるでしょう。そんな営業マンに対して、好印象をもつ商談相手はいません。その商談がまとまる可能性は大きく下がってしまうはずです。
うまくいかなかったときの対処法も準備しておく
しかしながら、「うまくいくイメージ」だけをもって臨むことは危険です。というのも、どんなに「うまくいくイメージ」を描いていたとしても、当然ながらうまくいかないこともあるからです。商談でも、お客には好印象をもたれたとしても、条件面で折り合いがつかずに破談に終わるということもあります。
そんなときに、ただただ「うまくいくイメージ」しかなかったとしたら、大きく落ち込んでしまうことになりますし、事態を好転させることも難しくなる。私は「プラス思考勘違い人間」と呼んでいますが、そういう人は、うまくいかなかったときのことを想定できていないのです。
もちろん、何度も言うように「うまくいくイメージ」をもっておくことは大切。その前提を満たしたうえで、うまくいかなかったときにどうするべきかというシミュレーションをして、事前に対処法を準備しておく必要もあるのです。
私がサポートしている星陵高校野球部は、2014年石川県大会決勝戦の9回表が終了した時点で0対8という大差で相手にリードを許していました。それでも、選手たちは笑顔で9回裏の攻撃に臨みました。なぜなら、「どんなに不利な状況になっても、決して諦めずに笑顔で戦う!」というふうに、ピンチに陥ったときのシミュレーションを事前に何度も行ない、対処法を選手全員で共有していたからです。
結果は、9回裏に9点をとっての大逆転勝利。まさに、「うまくいくイメージ」をもちながらも、うまくいかなかったときにどうするべきかというシミュレーションをして対処法を準備しておくことの重要性を示している事例でしょう。
寝る前に「憧れの人」をイメージし、その言動を取り込む
そのことに加えて、「うまくできる人」になるためには、「なりたい自分のイメージ」をもっておくことをおすすめします。それもやはり、脳は「イメージしていることを実現しようとする」からです。
みなさんは、ビジネスパーソンとしてどんな「うまくできる人」になりたいでしょうか。ただ、なかなかそのイメージが湧かないという人もいるかもしれません。なぜなら、現時点で「うまくできない人」は、うまくできた経験が乏しいために、「なりたい自分のイメージ」を描きづらいからです。
だとしたら、実在の人物を「なりたい自分のイメージ」に設定しましょう。簡単に言えば、憧れの人を思い浮かべるのです。それは、身近な上司でも先輩でも、あるいは芸能人でもアスリートでもいい。そうしたら、その人だったらこういう場面でどうするのか、その人のまねできる部分はないかと考え、それらを自分の行動に反映させていくのです。この作業を繰り返すうち、少しずつでも「なりたい自分のイメージ」である憧れの人に近づくことができるはずです。
そして、この作業は寝る前に行なうことをおすすめします。なぜなら、脳は寝る前にいちばんリラックスしているために、イメージを潜在意識に刷り込むことができるからです。逆に、覚醒している日中は、意識の壁によってブロックされてしまいます。私の憧れの人は元メジャーリーガーのイチローさんですが、日中に「イチローさんみたいになりたい」とイメージしたところで、冷静な意識が「いやいや、そんなの無理でしょう」とそのイメージを跳ね返してしまいますからね(笑)。
【飯山晄朗さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“脳の機能”を活用せよ。大事な局面で絶対に好結果を出せる「感情コントロール法」
“リモート時代”のデキるリーダー像。あなたは若い部下に「これ」をもたせているか?
【プロフィール】
飯山晄朗(いいやま・じろう)
1969年、富山県生まれ。人財教育家、メンタルスキルコーチ、中小企業診断士。一般社団法人グローアップフォーラム代表理事、銀座コーチングスクール金沢校・福井校代表、金沢大学法学部非常勤講師等の肩書も持つ。家電業界でトップセールスマンとなり後進の指導にあたったのち、商工団体の経営指導員に転職し、11年間で5000件を超える相談に対応。起業後の現在は、企業経営者や経営幹部、スポーツチームの指導者等を対象に、冷めて停滞している組織を熱く燃えるチームに生まれ変わらせるリーダーシップ教育を提供。研修講師として「コーチング手法で教える」研修スタイルが「ビジネススクールのようだ」と口コミで広まり、教育研修、講演の依頼が後を絶たない。メンタルトレーニングを指導したスポーツチームのなかには、歴史的大逆転劇を演じて甲子園出場を決めた星稜高校野球部など、全国レベルの好成績を残しているチームも多い。また、スピードスケートの高木菜那選手のメンタルスキルコーチも務め、2018年の平昌五輪では金メダル獲得に導いた。『勝者のゴールデンメンタル あらゆる仕事に効く「心を強くする」技法』(大和書房)、『自分の中の「どうせ」「でも」「だって」に負けない33の方法』(実務教育出版)、『「いまどき部下」がやる気に燃える リーダーの言葉がけ』(青春出版社)、『いまどきの子を「本気」に変えるメンタルトレーニング』(秀和システム)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。