「本を読んでも内容を覚えていられず、結局仕事や勉強に活かせない」
「読書で知識を身につけたいが、分量の多い本に苦手意識がある」
このように、充実した読書ができずに悩んでいる人には「書き写し精読」がおすすめ。1冊をじっくりと読むことで本の理解度を高め、さらに書き写しによって脳の活性化という効果も得られるからです。
そこで今回は、書き写し精読の効果や実践方法、ビジネスパーソンが書き写し精読するのにおすすめの本をご紹介します。
「書き写し精読」によって得られる効果
元外務省主任分析官で “知の巨人” と称される作家の佐藤優氏は、理解の深まる読書法のひとつとして、「本を読んで重要だと感じた箇所をノートに書き写す」という精読法を提唱しています。また、明治大学文学部教授の齋藤孝氏いわく、「書き写し」は精読の最たるもの。
この記事では、彼らが推奨する読み方を「書き写し精読」と呼んで解説をしていきます。詳しい手順は次の項で紹介することとし、まずは書き写しをしながら本を精読することの効果を説明しましょう。
佐藤氏らと同様の読み方を推奨する脳神経外科医の築山節氏は、脳の観点から、書き写し精読の効果をふたつ挙げています。
記憶力を向上させる
書き写し精読では「本を読む(インプット)」と「ノートへ書き写す(アウトプット)」を繰り返します。築山氏によると、このように情報を出し入れする作業を繰り返すことで、記憶力を向上させる効果が得られるとのこと。
誤読を防ぐ
脳は、ある程度の速さで文章を黙読すると、わからないところを読み飛ばしたり、文脈を勝手に解釈したりする傾向があるそう。一文字ずつ丁寧に書き写せば、脳の性質によって起こる誤読を防ぐことができると言います。
さらに、そもそも「文字を書き写すこと」は、脳に以下の効果をもたらします。
前頭前野を活性化させる
東北大学加齢医学研究所所長で脳機能に詳しい川島隆太氏は、書き写しには脳の前頭前野を活性化させる効果があると言います。同研究所教授の瀧靖之氏いわく、前頭前野はいわば「脳内ネットワークの司令塔」。記憶力や思考力、判断力に関わるので、学習効率アップのためにも活性化させたい部分だと言えますね。
脳の疲れを癒す
精神科医で禅僧の川野泰周氏は、「書き写しには疲れた脳を癒やし、心を整える効果がある」と述べています。写経のように集中し、一文字一文字丁寧に文字をつづると、ほかのことに気持ちが向かなくなるそう。すると、脳の疲労が軽減されるそうですよ。
「書き写し精読」の具体的な手順
佐藤氏がすすめる書き写し精読の手順は、次の3ステップ。
- 本を最初から最後まで、線を引きながら通読する(目安:2~3日間)
気になる箇所へ線を引きながら、一度最初から最後まで目を通します。 - 特に重要な部分を囲い込み、囲い込んだ分量を確認してからノートに書き写す(目安:10日間)
線を引いた箇所のなかでも、特に重要なところを囲い込みます。囲い込むテキストの量は、多くても本全体の10分の1程度まで。書き写す際は、ノートの余白に「納得できた」といった感想も書き込みます。さらに、わからない単語の意味を調べたり、難解な箇所を読み返したりして理解を深めましょう。 - 各章末の結論部分を3回読み、もう一度通読する(目安:3~4日間)
仕上げの段階。ここまで終えれば、本の内容のほとんどが理解できるようになっているはずです。
下の画像は、筆者が実際に書き写し精読を実践したときのものです。ノートは、B5サイズ(罫線7mm、30行)を使用。感想は、片ページ右端に縦線を引いてつくった余白に書きました。本の感想を書き込むと、感情をともなった記憶である「エピソード記憶」が形成されます。前出の築山氏いわく、エピソード記憶には、本の内容をより忘れにくくさせる効果があるそうですよ。
(画像引用元:STUDY HACKER|“知の巨人” がすすめる「書き写し精読」の効果がすごい。確実に読書を成長の糧にできる!)
「書き写し精読」におすすめな本
佐藤氏は、知識を身につけようと難しい専門書を読んだとしても、結局は理解できないままに時間を浪費してしまうことがあると警告します。
そこで、佐藤氏が自身の読書体験をふまえ、書き写しに適した本としてすすめているのが「通俗本」。通俗本とは、専門家が一般の人たちにその知識を広めるべく、平易な言葉で解説したもの、いわば入門書です。
以下、ビジネスパーソンが書き写し精読をするのにぴったりな通俗本を3冊紹介します。入門書でありながら、内容が充実していて読み応えがある本を選んでみました。
【1】『脳メンテナンス:無限の力を引き出す4つの鍵』
『脳メンテナンス:無限の力を引き出す4つの鍵』は、脳科学について網羅的に学ぶことができる一冊です。脳の働きといった基礎的知識から、「集中力」「モチベーション」「判断力」などビジネスパーソンに必要な能力を高めるための脳科学的アプローチまで、幅広く取り上げています。
著者は、MITスローン経営大学院をはじめ世界のビジネススクールで教壇に立つ神経科学者・精神科医のタラ・スワート氏。
スワート氏いわく「自分のためにならないパターンや習慣を本書を読みながら発見し、逆にどうすればよりよい未来になるかを考え、気づいたらノートに記録してほしい」とのこと。たとえば、本書から脳の力を引き出す環境づくりについて学んだとき。「パソコンのデスクトップが整理されていない状態はNGなんだな。さっそく、不要なファイルを削除しよう」とノートの余白に記録してすぐに実践すれば、充実した読書になること間違いありません。
【2】『究極の独学術 世界のすべての情報と対話し学ぶための技術』
『究極の独学術 世界のすべての情報と対話し学ぶための技術』は、「独学を始めたいが、どうすればいいかわからない」というビジネスパーソンにおすすめな一冊です。
著者は、東大法学部在学中に司法試験に合格、30年以上の裁判官経験を積んだのち、学者そしてベストセラー作家へと多方面に転身した瀬木比呂志氏。この本は、「重要なことはほとんど独学で学んだ」と述べる瀬木氏の独学40年の集大成です。
本書では、「そもそも、なぜ独学が必要なのか」という基本的なところから、情報の取捨選択やメディアの活用法、書物の読み方といった実践的なことまで学べます。
紹介されている独学のための基本的技術・ヒントは全37種。そのためボリュームはありますが、書き写し精読で丁寧に読み進めると理解が深まるでしょう。
【3】『習慣超大全――スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』
『習慣超大全――スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』は、勉強や運動といった「いい習慣」を身につける方法から、夜更かしや喫煙のような「悪習」を解消する方法まで、「習慣」にまつわる知識を幅広く習得できる一冊。勉強などに挫折しがちなビジネスパーソンにおすすめですよ。
著者は、スタンフォード大学行動デザイン研究所創設者兼所長で行動科学者のBJ・フォッグ氏です。フォッグ氏は、20年間の研究を通じ、新しい習慣を身につけるためのメソッド「タイニー・ハビット」を考案。すでに習慣になっていることに、身につけたいと思う新しい習慣をできるだけ簡単にした「小さな行動」をプラスするという手法です。
たとえば、フォッグ氏自身、健康的な生活を送るため、「トイレから出るたびに腕立て伏せを2回する」というタイニー・ハビットを試したそう。このほか、やる気や意思の力を使わず自分の行動を変えていくメカニズムが詳しく紹介されています。
全612ページと大ボリュームですが、いろいろな習慣術の本を読み漁り、どれも中途半端な理解で終わった経験のある人は、ぜひこの一冊を書き写し精読でじっくり読み、ご自身に当てはめながら習慣化について深く学んでみてください。
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本の内容を自分のものにできる、書き写し精読。さっそく気になる一冊から手に取って始めてみてくださいね。
(参考)
STUDY HACKER|“知の巨人” がすすめる「書き写し精読」の効果がすごい。確実に読書を成長の糧にできる!
佐藤優 (2012), 『読書の技法』, 東洋経済新報社.
築山節 (2012), 『脳が冴える勉強法 覚醒を高め、思考を整える』, NHK出版.
Active Brain CLUB|脳を活性化させる書写の効果
NIKKEI STYLE|脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法
STUDY HACKER|やっぱり「書く習慣」は最高だった。脳が疲れた現代人こそペンと筆を持つべき理由。
ダイヤモンド・オンライン|佐藤優の「人生が深まる読書」は専門書4割、エンタメ本6割!?
タラ・スワート (2019), 『脳メンテナンス 無限の力を引き出す4つの鍵』, 早川書房.
瀬木比呂志 (2020), 『究極の独学術 世界のすべての情報と対話し学ぶための技術』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
BJ・フォッグ (2021), 『習慣超大全――スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』, ダイヤモンド社.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。