若手のときに、研修などを通じてプレゼンテーションやロジカルシンキング、あるいはビジネスマナーなどを学ぶことはあるでしょう。しかし、メモのとり方について、誰かが教えてくれるということはほぼありません。
そのため、「メモは仕事に不可欠のものでありながら、『残念なメモ』をしてしまっている人も多い」と指摘するのは、コクヨ株式会社のワークスタイルコンサルタントであり、著書『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)が注目されている下地寛也(しもじ・かんや)さん。残念なメモを正しいメモにするにはどうすればいいのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
メモすべきことをメモできない「残念なメモ」
「残念なメモ」は、だいたいが「全部メモ」「尻切れトンボ」「ひとことメモ」という3つのタイプに分けられます。
「全部メモ」タイプは、読んで字のごとし、打ち合わせに行ってもセミナーを受けても、見聞きしたすべてのことを書きとめようとするメモです。このタイプは、まじめで几帳面な人によく見られます。子どものときにも、先生の板書をすべて丁寧にノートに書き写していた人なのでしょう。
ただ、全部を書ける人の場合、持久力を備えている点はいいところだとも言えます。その持久力に欠けるのが、「尻切れトンボ」タイプです。最初はきちんとメモをとろうとするものの、途中で集中力や持久力が切れて、あるいは飽きてしまってメモすることをやめてしまうのです。
それから、「ひとことメモ」タイプは自信過剰な人によく見られます。「自分はメモなんてとらなくてもきちんとできる」「必要ならググればいい」と思い込んでいるために、ほとんどメモをとりません。もちろん、人間の脳は物事を忘れていくようにできていますから、適切にメモをとらなければ、いざというときに「あれなんだっけ?」となってしまいます。
いずれのタイプの問題点も、自分にとって重要なこと、メモすべきことをきちんと取捨選択してメモできていないということに集約されます。
「残念なメモ」が発生してしまうふたつの要因
どうしてこのような残念なメモが発生してしまうのでしょうか。その要因のひとつは、「事前のシミュレーションができていない」ことにあります。
なんらかの研修を受けるのだったら、「この研修で学びたいことはなにかな」「こういうことはわかっているからメモの必要はないな」「知っていることでも、参考になる事例が出てくればメモしよう」というふうにシミュレーションをしておくべきです。それが、メモすべきことを取捨選択する基準のひとつとなるのです。
それから、残念なメモが発生してしまうもうひとつの要因として、「自分の成長イメージをもてていない」というものがあります。
「マーケティングの分野で将来は活躍したい」「デザインのスキルを磨いて生きていきたい」「歴史の知識を活かせる仕事に就きたい」といったように、今後の自分の成長イメージをしっかりもっていれば、目指すべき自分に近づくために必要なことが明確になります。そうすれば、おのずとメモすべきことも見えてくるのです。
メモによって自分の成長イメージをつねに再確認する
特に、ふたつめの自分の成長イメージをもつということは重要なポイントです。いま、ビジネスにおいてはオリジナリティーが求められています。現在の情報化社会のなかでは、ネット環境に身を置いてさえいれば、ほとんどすべての人が同じような情報に触れられます。そこからロジカルに考えていくと、同じ課題に対して誰もが似たりよったりの答えしか出せません。
そこで力を発揮するのが、自分の成長イメージです。そこには、多くの場合、自分の「興味・関心」が影響します。自分の興味・関心に沿ってメモをとり、知識や情報を蓄積していきましょう。
たとえば、映画に興味がある人が映画の手法をメモしておけば、ドラマチックなプレゼンの構成を考えるヒントになるでしょうし、落語が好きな人が落語のオチをメモしておけば、営業トークにユーモアを交えるヒントが得られることでしょう。旅行で学んだ他国の風習、アートで学んだ表現の幅など、それらはほかの多くの人にはまねできない、その人の紛れもないオリジナリティーになるはずです。
そして、自分の成長イメージをもてたなら、それを常に目につくところにメモしておくといいと思います。おそらく、多くの人は年末年始の休暇に1年を振り返るでしょう。そのとき、「将来はこんな自分になっていたい」というような目標を立てる人も多いはずです。
ところが、忙しい毎日に追われるうち、その目標のことは忘れてしまいがちです。そこで、ノートの裏表紙など、いつも目につくところに、自分の成長につながる目標を書いておくのです。小学生が「筆箱とハンカチを忘れない!」と書いた紙を自分の部屋のドアに貼るようなものですね(笑)。
しかし、この威力は抜群です。日々のなかで常に自分の成長イメージを再確認することになりますから、メモすべきことを取捨選択する基準も再確認することになります。そうして、残念なメモをとることなく、着実に自分を成長させることに必要な知識を獲得できるようにもなるでしょう。
【下地寛也さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「ただのメモ魔で終わる人」と「自分らしく考えながらメモをとれる人」の決定的違いとは
仕事力のベースになる「メモの能力」を上げる方法。1日に3つ○○をメモするといい
【プロフィール】
下地寛也(しもじ・かんや)
1969年11月8日生まれ、兵庫県出身。コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント。エスケイブレイン代表。1992年、文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。オフィス設計者になるが顧客対応が下手すぎて上司や営業に怒られる日々が続く。つねに辞めたいと思いながら働いていたが、5年後、コクヨがフリーアドレスを導入したことをきっかけに「働き方とオフィスのあり方」を提案する業務に従事し、ワークスタイルを調査、研究する面白さに取りつかれる。以来、行動観察、デザイン思考、ロジカルシンキング、リーダーシップなど、働く人の創造性と生産性を向上させるスキルやマインドの研究を続け、これまでにビジネス書を10冊出版。つねにメモを取りながら、自由で豊かな働き方を実践するためのアウトプットを続けている。主な著書に『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)、『一発OKが出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)、『困ったら、「分け方」を変えてみる。』(サンマーク出版)、『コクヨ式 1分間で伝わる話し方』(KADOKAWA)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。