ビジネスパーソンであれば、毎日なにかしらの「メモ」をとっているでしょう。ただ、そのメモをきちんと活かせているでしょうか。「とりっぱなし」になっている人も多いかもしれません。
そんな状況はなぜ起きてしまうのか、そしてどうすればメモをきちんと活かすことができるのか——。コクヨ株式会社のワークスタイルコンサルタントであり、著書『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)が注目されている下地寛也(しもじ・かんや)さんがアドバイスをくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
普段の雑談でアウトプットの習慣をつける
メモをとりっぱなしにしてしまう人には、多くの場合、「メモを活かしたアウトプットをする習慣がない」と私は見ています。
メモをとるのにもいろいろな場面がありますが、「このことは仕事に活かせるかもしれない」「これは今後の自分にとって役立つことかもしれない」などと思ってメモをとるのもよくあるケースです。でも、せっかくのメモも振り返ることなくとりっぱなしにしてしまえば、まったくの無駄となってしまうでしょう。
そこで、メモを使った自分なりの情報をアウトプットするのです。ただ、情報のアウトプットというと、SNSを活用して自分の考えを発信するといったこともよく言われますが、それって、けっこう勇気がいりますよね。
なので、私はメモしたことを雑談でアウトプットすればいいと思っています。自分が気になったこと、そしてそれに対してどう思ったかといった自分なりの「気づき」についてパートナーや同僚など身近な人に話してみましょう。これが小さな情報のアウトプットになります。
そして、それが習慣化できれば、「今日はどんな話をしようかな」と思って常にアンテナを張っている状態になり、数多くの情報のなかから自分にとって重要なことを抜き出す「視点」を磨くことにもなります。メモした内容を使った雑談トークが相手にウケれば、またなにかメモして話そうとする動機づけにもなるでしょう。
さらに、雑談という小さな日常のアウトプットをすることで、元の情報や自分なりの気づきといったもののインプットの質も上がっていくでしょう。相手のリアクションから、「そうか、そういう考えもあるのか」と気づきが深まったり広まったりすることもあり、より強く記憶に刻み込まれるからです。
よりよい仕事をするために不可欠の「インプットメモ」
一方、そういった日常的なアウトプットのほかに、仕事におけるアウトプットというものもあります。多くの仕事は、たとえば自社製品の売れ行きがよくないといったなんらかの「現状」があり、そこにある「課題」を見つけ、その解決のための「打ち手」を導くというかたちをとっています。
そのプロセスのなかで「本質的な課題を見抜き、適切な打ち手を導く」ことこそが、仕事におけるアウトプットなのだと私は考えています。
そして、そのアウトプットに力を発揮するものが、日頃からの「インプットメモ」です。本質的な課題を見つけるにも、それを解決する打ち手を導くにも、「いまの現状は以前にニュースで見たあの会社のケースと似ているから、課題はおそらくこうに違いない」「あの会社ではこんな打ち手で課題を乗り越えたから、同じような手が有効かもしれない」といったように、なんらかの情報が欠かせないからです。
ですから、まずは日頃からインプットメモをとることを心がけましょう。「メモ」というと「○月×日△時から上司とミーティング」といったことを「記録する」ためのものに過ぎないと思っている人も多いかもしれませんが、メモはそれだけではありません。
現状に潜む本質的な課題をきちんと見抜いて最適な打ち手を導くため、つまり仕事がデキる人になるには、メモによって仕事に有益な情報をインプットしていくことこそが重要なのです。
日頃のトレーニングだけがメモの能力を向上させてくれる
そのコツとなると、冒頭のアウトプットの話ではありませんが、なによりも「インプットメモをとる習慣をつける」ことに尽きるのだと思います。
そういう習慣がない人は、それこそ「1日に3つ」だけでもいいので、「あのニュースの背景にはどんな問題があるのだろう?」「今日の商談はどうして失敗したのだろう?」「こういうことじゃないかな」というふうに、その日に触れた情報や事実から得た自分なりの「気づき」をメモすることを心がけましょう。
長く同じ仕事に携わり、ルーティンのような毎日を過ごしていると、1日を振り返っても「別に気になることはなにもなかった」「おもしろいことはなかった」と思いがちですが、なかば無理やりにでも「1日3つ」ひねり出してみてください。
私は、アウトプットにつながる「メモの能力」は「筋力」と同じようなものだと考えています。「筋力トレ」の習慣をもつことが「筋力」をつけることにつながるように、「メモをとるというトレーニング」の習慣をもつことが、アウトプットにつながる「メモの能力」を向上させてくれるのです。
そして、メモするときには、最初から大きな魚、つまりスゴイと思う情報だけを狙わないことも意識しておいてほしいと思います。私の感覚では、インプットメモのなかから本当に活用できるのは、だいたい5%程度です。しかし、残りの活用されないメモも、自分の情報を取捨選択するメモの能力を磨いていることになります。そして、いっさいインプットしていなければ、そもそも情報を活用できる場面が訪れることなどないのですから、それと比較すれば大きな違いを生んでくれるのです。
【下地寛也さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「ただのメモ魔で終わる人」と「自分らしく考えながらメモをとれる人」の決定的違いとは
【コクヨのメモ専門家が解説】3タイプの「残念なメモ」を「正しいメモ」に変えるコツ
【プロフィール】
下地寛也(しもじ・かんや)
1969年11月8日生まれ、兵庫県出身。コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント。エスケイブレイン代表。1992年、文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。オフィス設計者になるが顧客対応が下手すぎて上司や営業に怒られる日々が続く。つねに辞めたいと思いながら働いていたが、5年後、コクヨがフリーアドレスを導入したことをきっかけに「働き方とオフィスのあり方」を提案する業務に従事し、ワークスタイルを調査、研究する面白さに取りつかれる。以来、行動観察、デザイン思考、ロジカルシンキング、リーダーシップなど、働く人の創造性と生産性を向上させるスキルやマインドの研究を続け、これまでにビジネス書を10冊出版。つねにメモを取りながら、自由で豊かな働き方を実践するためのアウトプットを続けている。主な著書に『プレゼンの語彙力』(KADOKAWA)、『一発OKが出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)、『困ったら、「分け方」を変えてみる。』(サンマーク出版)、『コクヨ式 1分間で伝わる話し方』(KADOKAWA)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。