集中力を維持できないときや、やる気が起きないときなどに、「脳はすぐ飽きるから」「脳は怠け者だから」などと決めつけてはいませんか? けれど、集中できなかったりやる気が起きなかったりする理由は、じつは「体」のほうが怠けているからなのかもしれません。「体が怠けている」ことに関する真相と、「より良く体を動かす」べき理由を詳しく説明します。
「体」はいつでも省エネルギー
生物学全般の学術雑誌『Current Biology(Cell Press)』に2015年9月10日付で公開されたサイモン・フレイザー大学(カナダ)の研究調査によると、人間は歩行中に、リアルタイムで省エネルギー化を実現しているそうです。体を動かす量や強さを積極的に減らしているのだとか。
人間だって動物です。野生の環境が「周囲に危険な野生動物がウロウロしていて逃げる必要がある」「その日に食べるものを探し歩く必要がある」ということを踏まえれば、私たち人間の体が、余分なエネルギーロスを極力減らして体力を温存する(怠ける)仕組みになっているのも納得できますよね。
しかし現代は、座り仕事が増え、狩猟・採集をしなくても食べものを入手でき、水を汲むのに川や井戸に行く必要がない時代。体がもともと省エネルギーであることに加え、体を動かす必要性そのものも減っているのです。これでは、体はますます「怠け者」になってしまいますね。
「脳」を使うと、より「体」が怠け者に?
「怠け」についての脳と体の関係を示す興味深い研究があります。アメリカのフロリダ・ガルフ・コースト大学とアパラチア州立大学は、日常生活における「思考」と「身体活動」の関係を調査しました。考えることが好きな「思想家」30人と、考えることが苦手な「非思想家」30人の手首に加速度計をつけ、1週間にわたり身体活動レベル(どのぐらいの強さで体を動かしているか)を測定したのだそう。測定の結果、日常的によく考える人(思想家)は、考えることが苦手な人(非思想家)よりも、身体活動レベルがはるかに低いことがわかりました。
しかし、体をあまり動かさないと、脳にマイナスの影響が及ぶといいますよね。多くの専門家は、運動したり活動的に過ごしたりすることが、脳によい変化をもたらすと主張しています。
そのため、前出の研究者らは、あまり体を動かさない思想家には、意識的に体を動かすことが必要だと述べています。
「脳」はいつもやる気に満ちている?
一方で、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之氏は、思うように意欲や集中力をコントロールできなかったとしても、脳が怠け者だというわけではないと説明します。瀧氏いわく、脳はやる気に満ちているとのこと。
なぜなら、生まれたときから脳は、新たな情報・知識・感覚・技術の獲得を求めているから。子どもの脳は、大人の2倍もエネルギーを要するのだそうです。
たとえば、何時間でも集中できる「趣味」と、すぐに集中力が途切れる「テスト勉強」が目の前にあれば、脳は間違いなく「趣味」を選ぶでしょう。しかし、楽しそうなほうを選んでしまう傾向は、「怠惰」というわけではありません。脳にとって趣味や遊びは、意欲満々に取り組む勉強と同じものなのです。
なぜ体を動かすべきなのか?
先述のとおり、脳は意欲満々で、だからこそ脳疲労を起こしやすいともいえます。東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身先生によると、過度に集中した状態は、自律神経の中枢を疲れさせ、脳疲労の原因となるのだそう。
脳疲労は、脳の前頭前野の血流を悪くするため、集中力やモチベーションの低下につながるといいます。集中力・やる気の低下を防ぐには、働き者の脳を意識的に休ませる必要があるのです。
脳疲労を防ぐにあたって注目したいのが、フロリダ・ガルフ・コースト大学の研究者らの言葉。研究者たちは、考えることが苦手な人(非思想家)は、できるだけ体を動かして、頭を使わないようにしていると推測しました。つまり、体を動かすことで必然的に脳が休まるともいえるわけです。
それに、脳科学者のウェンディ・スズキ氏は、運動習慣が新しい脳細胞をつくり出し、長期記憶を改善すると伝えています。注意力や集中力も高まるとのこと。体を動かして悪いことはないのです。
意識的に体を動かし、働き者の脳を休ませてあげましょう。
「より良く」自分を動かすコツ
デスクワークの多いあなたが、意識的に「より良く」自分を動かすコツは以下の4つ。
- 毎日10分程度の運動を習慣にする
- 集中力が途切れたら席を立つ
- 遠回りして歩き回る
- 休憩時は「丁寧に」行動する
10分程度の運動は、独自の体操でも、YouTubeなどで公開されている10分トレーニングでも、階段を上り下りするだけでもかまいません。10分間だけならば、お昼休みや仕事の合間の休憩でも可能ではないでしょうか。
また、集中力が途切れたら、迷わず仕事を中断して席を立ち、1分もかからないトイレにも、わざと遠回りして行きましょう。
加えて、休憩の際にはあえて時短を避け、丁寧にコーヒーや紅茶、ハーブティを淹れるなど “時間をかけて” 飲み物を用意し、同僚と立ち話でもしながら味わって飲むといった、休憩と活動のミックスもおすすめです。脳の緊張が解かれ、リラックスできるはずですよ。
***
「より良く」自分を動かして、上手に「脳」と「体」をコントロールしてくださいね。
(参考)
脳リハ.com|エネルギーコストと脳科学
Current Biology|Humans Can Continuously Optimize Energetic Cost during Walking
SAGE Journals|The physical sacrifice of thinking: Investigating the relationship between thinking and physical activity in everyday life - Todd McElroy, David L Dickinson, Nathan Stroh, Christopher A Dickinson, 2016
Research Digest|Are brainy people lazy? “Need For Cognition” correlates with less physical activity
TED Talk|ウェンディー・スズキ: 脳に良い変化をもたらす運動の効果
STUDY HACKER|脳疲労を1分で回復! 「閉眼安静」 で集中力を取り戻す方法とは
瀧靖之(2017),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「脳を本気」にさせる究極の勉強法』, 文響社.
フォルカー・キッツ著, 畔上司訳(2014),『敏腕ロビイストが駆使する 人を意のままに動かす心理学』, CCCメディアハウス.
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。