ナレッジワーカーとは? ホワイトカラーとの違いを解説

ナレッジワーカーとは1

ナレッジワーカーとは、「知識(ナレッジ)」によって付加価値を生み出す労働者。経営学者のピーター・ドラッカー氏が提唱した概念です。

“知識によって付加価値を生む” とは、簡単に言うと、自分の知識や思考力を活用して「創意工夫」を行なうということ。マニュアル通り・企業の指示通りに業務をこなすのではなく、自ら課題発見・問題解決する主体的な働き方ができる人こそ、ナレッジワーカーなのです。いわゆる「単純作業」と対を成す、「知的生産物」を生む仕事をする人が、ナレッジワーカーだと言えます。

読者のみなさんの仕事にも、ほとんどの場合、ナレッジワーカー的な要素が含まれているはず。AI時代の到来により “マニュアル通りの仕事” しかできない人々が淘汰されていくことをふまえると、ナレッジワーカーとしてのスキルを高めておく必要性は、ますます高まっています。

今回は、ナレッジワーカーの意味や求められる能力、ナレッジワーカーとしてレベルアップするための具体的な方法を解説しましょう。

ナレッジワーカーとは

ナレッジワーカーとは、自分の知識・思考力を仕事でフル活用する人です。例として挙げられる職種が、金融ディーラー。金融ディーラーは、金融の知識や最新の経済情報を活用して利益を増やすプロフェッショナルです。知識と情報処理スキルによって利益を生む、ナレッジワーカーの代表格と言えるでしょう。

ほかには、企業の問題解決や経営分析をなりわいとする「コンサルタント」や、プログラミングの知識を活用してソフトウェアなどを開発する「システムエンジニア」なども、ナレッジワーカーの例としてよく挙げられます。

ビジネスパーソンのほとんどはナレッジワーカーである

とはいえ、ナレッジワーカーという概念は、上で挙げたような特定の職種だけを指すものではありません。デスクワークに従事している多くのビジネスパーソンにも、ナレッジワーカーの側面があるのです。

たとえば、会議で使う資料を作成したり、プロジェクトの進行を管理したりといった仕事では、情報を分析・編集して新たな知識を創出することが求められているはず。このような業務も、ナレッジワークの一種ととらえられます。

「ホワイトカラー」との違い

ナレッジワーカーと似た言葉に「ホワイトカラー」がありますね。どう違うのでしょうか。

ホワイトカラーとは、オフィスでデスクワークに従事する労働者全般を指す概念です。一般的に白いシャツを着て働いていることから名づけられました。ちなみに、肉体労働者を意味する「ブルーカラー」が対義語です(肉体労働者は青色のツナギを着ている、というかつてのイメージから)。

そして、ナレッジワーカーは、ホワイトカラーのなかでも「特別な知識や創意工夫を活かして仕事をしている人」を指します。たとえば、「マニュアル通りにデータの入力をする」ような職種は、ホワイトカラーといえるでしょうが、ナレッジワーカーには該当しません。マニュアル通りにデータを入力するだけなら、マニュアルさえ手元にあれば、特別な知識や創意工夫がなくてもできるためです。

つまり、ホワイトカラーとナレッジワーカーは、以下の2点で区別できます。

  • 特別な専門知識が必要か
  • マニュアル通りではない、自分なりの創意工夫が必要か

そして、現場で働くブルーカラー(肉体労働者)であっても、知識や創意工夫によって新たな価値を生み出しているならば、ナレッジワーカーと呼べるのです。

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ナレッジワーカーに求められる要素

ナレッジワーカーには、どのような能力が求められるのでしょうか? 経営学者・遠藤功氏の解説を参考に、「感知力」「思考力」「専門知識」の3つをご紹介します。

感知力

ナレッジワーカーには、知識と思考力を駆使してアイデアを生み出すことが求められます。いままでになかった商品・サービス、目の前のトラブルを解決する方法、業務を効率化するための方法など、会社に利益をもたらす知恵の創出が、ナレッジワーカーの使命なのです。

そして遠藤氏によると、知恵やアイデアの源泉は、物事を「感じる力」にあるのだそう。日々のちょっとした出来事を通して「顧客は何を求めているのか?」「我が社の問題は何か?」といった気づきを獲得し、その疑問を膨らませることによって、優れたアイデアへ到達できます。

たとえば、「俺のフレンチ」という飲食チェーンがありますね。高品質のフランス料理を立ち食いかつ破格の安さで提供するという、斬新なスタイルのお店です。「立ち食いでもいいから、フレンチを安く食べられたらいいのに」という、隠れたニーズを感知することで生み出された、優れた発明ではないでしょうか。

しかし、「感知力」の乏しい人は、なかなか課題やニーズを発見できないでしょう。そして、新たな発想にたどり着くことも難しいのです。

思考力

「感知力」によって発見や気づきを得たら、その材料をもとに思考を働かせ、アイデアに練り上げることが必要になります。ナレッジワーカーには「思考力」も必要なのです。

「俺のフレンチ」の例だと、「フレンチをもっと安く食べられたらいいのにな」と思っうだけでは、「俺のフレンチ」というコンセプトに至りません。「どうすれば実現できるか」「どうすれば解決できるか」と思考を働かせ、アイデアを膨らませることが必要です。

専門知識

そもそもナレッジワーカーは、仕事の専門知識やスキルをしっかり身につけていることが大前提。豊富な知識がなければ、情報を正しく分析したり、付加価値の高いアイデアを生み出したりすることは困難です。

知識を十分にもっていなければ、先述の「感知力」も鈍くなってしまいます。私たちが世の中を観察する “解像度” は、もっている知識の豊富さに比例するからです。

たとえば、変わった模様のテントウムシを見つけたとします。このテントウムシが新種だと気づけるのは、昆虫に相当詳しい人だけでしょう。昆虫図鑑の内容が丸ごと頭に入っているからこそ、図鑑に載っていない虫だとわかるのです。詳しくない人なら、「変わった虫もいるものだな」と思うくらいで、気にも留めないでしょう。

ビジネスでも同様です。たとえば、「ソフトバンクが4.5兆円資産売却」というニュースが耳に入りました。経済や経営の知識がある人なら、「なぜ売却したのか」「なぜこのタイミングだったのか」など、多くの疑問が思い浮かび、調べようとするでしょう。知識の量が多いほど、ひとつの物事から多くの情報を読み取れるため、ナレッジワーカーに必要な「気づき」を得られる可能性が高まるのです。

ナレッジワーカーとは3

ナレッジワーカーとしてレベルアップする方法1:自分なりの問題関心をもっておく

ナレッジワーカーとしてレベルアップするにはどうすればいいのでしょうか? 3つのヒントを紹介します。

「感知力」を高めるコツは、自分なりの問題関心をもっておくことです。『問題解決力を高める「推論」の技術』(フォレスト出版、2020年)の著者で広告ディレクターの羽田康祐氏によると、自分の知りたいことや関心があることを明確にしておくと、関係する分野の情報感度が高まり、有益な気づきを得やすくなるのだそう。

たとえば、食品メーカーに勤めている人が「新商品のアイデアはないか?」という問題関心を常にもって生活していると、目や耳に入るあらゆる情報が、「新商品のアイデア」という切り口で解釈されます。ほかの人なら気にも留めないであろうことからも、発見を得られるでしょう。

「キャンプがブームになっている」というニュースは、「キャンプ場で食べたくなるようなレトルト食品を開発してはどうか?」というアイデアを生むかもしれません。「新型のウイルスが流行」という、食品とは関連が薄そうなニュースからも、「免疫力を高める食品が求められているのではないか?」と思いつけるでしょう。

自分なりの問題関心をもって生活していれば、身のまわりのあらゆる物事からアイデアの種を得られます。観察力や発想力に自信がないという人は、自分の「問題関心」を明らかにすることから始めましょう。それが、ナレッジワーカーとして成長する第一歩です。

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ナレッジワーカーとしてレベルアップする方法2:ワークレビューを受ける

ナレッジワーカーとして成長することの難しさは、業務のやり方に「正解がない」という点にあります。ナレッジワーカーは、知識・思考力を駆使して新しいアイデアを生むことが使命のため、仕事の手順に「正解」を定めてマニュアル化することが困難なのです。

とはいえ、ナレッジワーカーとしての働き方に関して、一定のコツや極意のようなものがないわけではありません。そして、その極意を身につけるのに最も手っ取り早い方法は、「ワークレビュー」を通じて先輩ナレッジワーカーから教えを受けること。ワークレビューとは、自分の仕事の進め方を先輩などからレビューしてもらう指導方法です。

ワークレビューの具体的なやり方として、ソフトウェア開発会社・ソニックガーデン代表の倉貫義人氏が推奨しているのが、「KPT」というフォーマット。

  • Keep:よかったこと、今後も続けていくべきこと
  • Problem:問題点
  • Try:次に試すべきこと

先輩などに自分の仕事のやり方を見てもらい、K・P・Tを挙げてもらうことで、改善や成長につながります。以下はワークレビューの一例です。

  • K:大きなミスなく納品できた
  • P:計画の立て方に甘いところがあり、作業に無駄が生じていた
  • T:フレームワークを活用して、計画に抜け漏れがないかチェックする

自分の働き方についてコメントをもらうというのは抵抗があるかもしれませんが、自分では気づけなかったことに言及されることで、ナレッジワーカーとして成長できるはずです。

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ナレッジワーカーとしてレベルアップする方法3:論理的思考を身につける

ナレッジワーカーにとって、論理的思考力は重要な能力のひとつ。専門知識や情報収集能力があっても、得た情報をもとに思考できなければ、役立つアイデアを生み出すことはできません

とはいえ、自分が論理的に思考できているかどうかは確かめづらいもの。自分では論理的に考えていたつもりでも、客観的に見れば論理が破たんしているケースも少なくないからです。

「論理的な思考」とはそもそもどういったものか、基本的な条件を確認しておきましょう。経営学者・野中郁次郎氏らの著書『知識創造の方法論』(東洋経済新報社、2003年)では、哲学者ルネ・デカルトの思考法をもとにした、論理的推論のポイントが4つ紹介されています。

ポイント1:先入観・偏見を取り除く

1つめのポイントは、思考の前提や推論に「先入観」や「偏見」が混ざっていないかを確認することです。たとえば、以下の推論を見てください。

【前提】キャンプがブームになっている
 ↓
【結論】ゆえに、キャンプ用のレトルト食品を出せば売れるはず

一見正しそうな論理ですが、先入観や偏見が混ざっている恐れがあります。

第一に、そもそもの前提である「キャンプがブームになっている」という情報は本当に正しいのでしょうか? たしかに、2019年から2020年にかけて、「キャンプがブームになっている」というニュースを目にすることが増えたような気はします。しかし、キャンプ市場やキャンパーはどのくらい増大しているのか、数字を確認しておく必要もありますね。もしかしたら、報道が目立っているだけで、数字は微増に留まっているかもしれません。

第二に、キャンプのブームが本当だとしても、「キャンプ用のレトルト食品」に需要はあるのでしょうか? 「自分で料理するのがキャンプの醍醐味だよね」と考える人がほとんどであれば、「キャンプ用のレトルト食品を出せば売れる」という結果にはならないでしょう。

推論の過程には、主観が混ざりがち。「前提情報は本当に正しいのか?」「偏見で結論を歪めていないか?」という疑いを忘れず、数値などの客観的なデータを用いましょう。

ポイント2:問題を小さく分解する

論理的に考えるには、問題をなるべく小さく分解しましょう。問題が大きすぎると、本質がわかりにくいため、論理的な解決が困難だからです。

たとえば、「キャンプ用の新商品を開発したい」という課題があるとします。このままでは漠然としているため、以下のような「小問題」に分解してみましょう。

  • 小問題1:初心者や子どもでも組み立てやすいテントを開発したい
    →解決案:ボタンを押すだけで完成するテント
  • 小問題2:インスタ映えするようなキャンプ用品を開発したい
    →解決案:ブリキ製のレトロなLEDランタン
  • 小問題3:持ち運びに便利なキャンプ用品を開発したい
    →解決案:蛇腹に折りたためるキャンプマット

分解することで、問題の要点が明確になり、解決策を導き出しやすくなるのです。

ポイント3:論理の各ステップを確認する

論理が飛躍・破綻しないよう、一歩ずつ階段を登るよう着実に思考することが大切です。「インスタ映えするキャンプ用品を開発したい」という課題があるなら、客観的な根拠をもとに推論を積み上げていきましょう。論理が飛躍したり、推論の根拠が誤っていたりすれば、結論も誤ったものになってしまいます。

【誤った推論の例】

インスタ映えするキャンプ用品を開発したい
→インスタ映えといえば、カラフルなデザインだろう(偏見)
パステルカラーのLEDランタンをつくろう
※「インスタ映えとはこういうもの」という偏見により、論理が飛躍している

【正しい推論の例】

インスタ映えするキャンプ用品を開発したい
→そもそも、キャンプではどんなデザインがインスタ映えするのか?
→調査したところ、風景に違和感なく溶け込むデザインが求められているらしい
ブリキ製のレトロなLEDランタンをつくろう
客観的な根拠と合理的な推論に基づいて結論が導かれている

ポイント4:見直し・検証をする

4つめのポイントは、徹底的な見直しです。推論の過程が長かったり、情報量が多かったりすると、間違いや見落としが発生する恐れがあります。前提や結論、思考のプロセスに抜け漏れがないか、確証がもてるまで何度もチェックしましょう。

「インスタ映えするキャンプ用品を開発したい」という例だと、「『ブリキ製のLEDランタン』という結論で本当に合っているのか?」「ほかによりよいアイデアは考えられないか?」などと繰り返し自問自答することで、結論の精度が高まります。

ナレッジワーカーとしての論理的思考力に自信がない方は、4つのポイントを意識しつつ、自分の思考プロセスを確認してみてください。

***
ナレッジワーカーとしてのスキルは目に見えづらく、鍛えにくいもの。ビジネスパーソンとしてより高みを目指したい方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてくださいね。

(参考)
コトバンク|ホワイトカラー
コトバンク|ブルーカラー
プレジデントオンライン|「年収100万円」人材に成り下がる人
NIKKEI MESSE|店長の仕事をドラッカー経営学からみると――結城義晴氏著『店長のためのやさしい〈ドラッカー講座〉』2
マイベストプロJAPAN|「俺のフレンチ」成功要因を紐解く
ダイヤモンド・オンライン|ソフトバンクGが4.5兆円資産売却、「財務縮小」へ急転換の舞台裏
Mission Driven Brand|観察力とは|観察力の重要性と観察眼を鍛える全手順|図解解説
倉貫義人(2014),『「納品」をなくせばうまくいく』, 日本実業出版社.
野中郁次郎・紺野登(2003),『知識創造の方法論』, 東洋経済新報社.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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