「この人に任せれば安心!」と思える人がチームにいる——。リーダーの立場からするととても心強い状態かもしれません。
ただ、こうしたチームには問題点があると言うのは、「識学」という組織運営理論をベースに経営・組織コンサルティングや研修を行ない、新刊『とにかく仕組み化』(ダイヤモンド社)が話題を集めている安藤広大さん。その問題点のほか、目指すべきチームづくりについて解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子
【プロフィール】
安藤広大(あんどう・こうだい)
1979年生まれ、大阪府出身。株式会社識学代表取締役社長。2002年、早稲田大学を卒業後、NTTドコモ、ジェイコムホールディングス、ジェイコム取締役営業本部長を経験。プレイングマネジャーとして「成長しないチームの問題」に直面し悩んでいたときに「識学」に出会って衝撃を受け、2013年に独立。識学講師として多くの企業の業績アップに貢献した。2015年、株式会社識学を設立。わずか4年あまりで上場を果たし、これまでの8年間で約3,500社に識学メソッドが導入されている。主な著書に、シリーズ100万部を突破した『リーダーの仮面』『数値化の鬼』(以上、ダイヤモンド社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「適材適所」の人材配置がもつ問題点
組織論では、一般的に「適材適所」こそがすばらしいものだと言われがちです。しかし、会社組織においては、適材適所の人材配置によって不具合が生じることもあります。
適材適所とは、「その人の能力や性質によくあてはまる業務や地位を与える」ことを意味します。つまり、「人に仕事をつける」のであり、場合によっては「優秀な人になら、適当に仕事を振ってもなんとかなるだろう」といった発想にも至ります。
もちろん、飛び抜けて優秀な人材であればなんとかなるかもしれません。でも、優秀ではない人材の場合はどうなるでしょう? 能力に見合っていない難易度の高い仕事を任せてしまい、その結果、成果につながらないことにもなりかねません。
それこそ、人手不足が深刻となっているいまは大きな問題となりえます。「適当に仕事を振ってもなんとかしてくれる」ような優秀な人材は限られているのですから、それは当然です。
組織運営を難しくしてしまう「属人化」
また、適材適所の考え方に従って組織を運営すると、「属人化」を招くことにもなります。属人化とは、「特定業務に関する手順や状況などの情報が作業担当者しか把握できておらず、周囲に共有されていない状態」を意味します。簡単に言うと、「その人にしかできない業務が存在してしまっている状態」です。
それぞれの業務の内容や手順、求めることや評価基準を明確にしていないために、自分なりのやり方でなんとかしてしまった優秀な人が、「その人にしかできない業務」を続けることになるのです。
属人化の問題点は、再現性を欠くために特定の人がいないと業務が回らなくなることのほか、「既得権益」を生んでしまうことにもあります。ここで言う既得権益とは、「明確に共有されていない曖昧な権利」です。
みなさんの会社にも、「その人にしかできない業務」を担当しているために、「明確に共有されていない曖昧な権利」をもっている人はいませんか? こういう人は、会社からすると「辞められると困る」ために、仕事の自由さや不明瞭な権利を手にしています。
もちろんこれは、組織という集団を考えた場合、いいことではありません。ひとつ事例を紹介しましょう。これは、小さなIT企業で起きたトラブルです。ある優秀な新入社員が自分の仕事を覚え、上司への確認をとったうえで新しい顧客を獲得してきました。すると、ひとりのベテラン社員が、「そんなこと聞いていない」と不満を漏らしたのです。このベテラン社員が既得権益をもっている人です。
新入社員「上司には了承を得ました」
ベテラン「その業界の顧客は、以前に私が担当していた。だから話を通さないと」
新入社員「そんなこと、ルールとして明確化されていませんよね?」
ベテラン「それくらい雰囲気でわかるだろ?」
こうしたやり取りが頻発し、その優秀な新入社員は早々に会社を辞めてしまいました。実際、こういうことは多くの会社で起こっています。適材適所が招く属人化が、組織運営を難しくしてしまうのです。
ポイントは、評価基準の定量化
必要となるのは、「適材適所」ではありません。その逆の考え方として、「適所適材」こそが必要だと私は提唱しています。つまり、適材適所の「人に仕事をつける」のとは対照的に、「仕事に人をつける」のです。
もちろん、そうするためには、それぞれの仕事に対して「この仕事、役職に求めることはこういうことだ」という明確な設定が必要となります。そこに人をあてていくのです。
すると、評価も明確になっていきます。求められる業務内容や手順などが明確であるがために、結果的にできなかったことも明確になるでしょう。つまり、その仕事を任された本人が、これから身につけるべきスキルややらなければならないことといったものがはっきりとわかるのです。
本人からすれば今後の目標がはっきりと見えますし、上司の立場からしても指導すべき部分が見えますから、確実に本人の成長につなげられます。
具体的には、業務内容やその手順を明確にするほか、なにより評価基準を定量化することがポイントとなります。たとえば、営業スタッフに対して「積極的に営業してほしい」と言ったところで、なにをもって「積極的」と言うのかは、人によって認識が異なります。
そうではなく、たとえば「1週間で10件の訪問営業をする」といったふうに、数字を使って評価基準を定量化するのです。もしその評価基準に達しなければ、本人に足りない部分があるということ。そこから、その足りない部分を埋めるための方法も見えてくるわけです。
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