相手の本音を引き出せない理由は“勝手な仮説”にあり。大事なのは「答えを決めつけない」こと

吉田幸司さんインタビュー「本音を引き出す対話術」01

議論を深める場や日常的なコミュニケーションの場で、相手の「本音」を引き出したい――。どんなに時代が変わっても、ビジネスではコミュニケーションこそが大切だとも言われるなか、相手の本音を引き出す対話術を身につけておきたいものです。哲学をビジネスの場に生かすコンサルティング業務を行なっている吉田幸司(よしだ・こうじ)さんによれば、「自らシナリオや仮説をつくらないことが大切」なのだそう。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

人は「空気を読む」からこそ、本音を言わない

相手の「本音」を引き出したい場合、みなさんならどうしますか? 「遠慮せずに聞きたいことをストレートに聞く」のもひとつの手かもしれません。でも、本音はなかなか表に出てこないものですよね。ただストレートに聞いても、相手が素直に答えてくれるとは限りません。

なぜなら、なにかを問いかけられたとき、人は「空気を読む」ものだからです。たとえば、仕事のあとに友人たちと食事をする約束をしていたのに、参加できなかった友人がいたとします。その人に対して、あなたが「どうして来なかったの?」と聞いたとすると、友人はどう答えるでしょうか?

その質問には、友人に対して「来てほしかった」という気持ちが含まれています。あなたの気持ちを察知した友人は、本当は別の理由があったとしても、「ちょっと仕事が長引いちゃって……」などと空気を読んだ回答をするでしょう。

このことは、ビジネスにおけるマーケティングリサーチの場にも表れています。ある商品についてのアンケートといったマーケティングリサーチをする際、その対象者はなかなか本音を明かしません。特に、相手に対する気遣いを大切にする日本人の場合、それこそ空気を読んでマーケティングリサーチの主催者に気を遣った回答をすることが少なくないのです。もっと言えば、主催者を隠したとしても、質問の目的を読み取って、模範的な回答をする人がいるほどです。

その要因として挙げられるのが「文脈」です。哲学においては、「問いにはコンテキスト――文脈がある」と考えられています。質問を相手から投げかけられたとき、人には「こういう答えを欲しがっているだろう」とか「これは自分にとって言っちゃまずいことだな」という気持ちが働きます。それらの気持ちが文脈であり、空気を読んだ答えをすることの要因なのです。

吉田幸司さんインタビュー「本音を引き出す対話術」02

質問された相手自身が「答えを知らない」

また、質問をした相手がなかなか本音を言わない理由として、「本人も答えを知らない」ということも挙げられます。

私が提唱している「哲学シンキング」では、「問い」からスタートすることを重視します(インタビュー第1回『“哲学をビジネスに生かす”が今のトレンド。真の課題が見つかる究極の思考法「哲学シンキング」とは』参照)。問いのなかでも「なぜ?」という問いが、いちばんの基本です。またビジネスの場にも「Start with WHY」という言葉があることを知っている人もいるかもしれません。この意味は「『なぜ』からはじめよ」。それだけ「なぜ?」という問いが、ビジネスにおいても大切なのです。もちろん、「なぜ?」は日常的な会話のなかにも頻出する問いでしょう。

ところが、この「なぜ?」という問いはちょっと厄介なものでもあります。みなさんは「なぜ?」と問うとき、なにを聞き出したいのでしょうか? 普通に考えたら、「理由」ですよね。でも、「なぜ?」が問うのはそれだけではありません。

たとえば、こんな会話はどうでしょう。「今日はなぜそんなにお酒を飲むの?」「嫌なことを忘れたいから」。この回答は、理由を答えていますが、同時に「嫌なことを忘れるため」という「目的」も答えています。

そのように、「なぜ?」という問いは、理由、目的、あるいは原因など、さまざまなものを聞く問いであるから、「なぜ?」に対する答えにも、それだけさまざまなものがある。そのため、「なぜ?」と聞かれた人が混乱してしまい、自分でも答えがわからないということになるのです。

吉田幸司さんインタビュー「本音を引き出す対話術」03

沈黙を恐れずじっくり「待つ」ことで、本音を引き出す

では、どうすれば相手の本音を引き出すことができるのでしょうか。その方法のひとつをお伝えします。この方法の前提として、自らシナリオや仮説をつくらないことが大切です。答えを決めつけないと言い換えてもいいでしょう。

ちょっとビジネス寄りの例を挙げてみます。売上が下がっている和菓子屋のおばあちゃんが悲しい顔をしているとしましょう。そのおばあちゃんに「どうして悲しい顔をしているの?」と聞いてみました。おばあちゃんは、「どうしてだったかしら……」と考え始めます。

でも、そのときにあなたが「売上が下がったから?」「常連のお客さんが来てくれなくなったから?」「お店をたたまないといけないかもしれないから?」というふうに、勝手な仮説に基づいた質問をしたなら、おそらくおばあちゃんはどの質問に対してもあなたの仮説に流されて「そうかもしれない」と考え、「そのとおりね」と答えてしまうでしょう。

では、どうしたらいいのか? まずは、じっくりと「待つ」ことが大切です。簡単に思えますが、じつは多くの人ができていないことです。特に、仕事での会議や商談の場では、多くの人が沈黙を恐れる傾向にあります。でも、そういうときこそ相手が本音を言葉にしようとじっくり考えている場合もある。そのことを忘れず、沈黙を恐れないでください。喧騒のなかでは、相手の言葉は聞こえません。静寂のなかでこそ聞こえる大切な言葉もあるのです。

吉田幸司さんインタビュー「本音を引き出す対話術」04

【吉田幸司さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“哲学をビジネスに生かす”が今のトレンド。真の課題が見つかる究極の思考法「哲学シンキング」とは
「いい議論」をしたいなら「いい答え」を求めてはいけない。的外れなアイデアこそ歓迎すべきだ

【プロフィール】
吉田幸司(よしだ・こうじ)
1982年9月14日生まれ、千葉県出身。博士(哲学)。上智大学哲学研究科博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)を経て、現在、哲学を事業内容としたクロス・フィロソフィーズ(株)代表取締役社長。哲学シンキング研究所センター長、上智大学客員研究員・非常勤講師、日本ホワイトヘッド・プロセス学会理事などを兼任。共著書に『Beyond Superlatives』(Cambridge Scholars Publishing)、『Whitehead and Existentialism』(晃洋書房)、『理想―特集:ホワイトヘッド』(理想社)、論文に「非分析哲学としてのホワイトヘッド『有機体の哲学』」(東京大学)、「ホワイトヘッドの思弁哲学の方法―クワインの自然主義と比較して」(東京大学)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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