あなたがしている朝ごはんを食べない習慣や、机の上にいろいろなものを置きっぱなしにしてしまう癖は、意外にも「心の乱れ」に繋がっているかもしれません。心の乱れと言われてピンと来ないあなたの習慣の中にも、もしかしたら心を乱す原因になっているものがある可能性があります。
実は、心の乱れというのは、多くのことに悪影響を及ぼすものです。この機会に生活習慣を見直して、心を正常な状態にしませんか?
「心の乱れ」を改善すべき理由
「心の乱れ」という言葉は抽象的すぎるので、ここでは「落ち着くことができず、集中できない状態」と捉えることにしましょう。
例えば、勉強しようと思っていても、すぐに他のことに気が取られてしまう。じっくりと仕事のアイデアを練りたいのに、関係のないことが思い浮かび、いつの間にかそのことで頭がいっぱいになる。このように、心が乱れていると、集中して作業したくても勉強や仕事が進まなくなります。
たとえ落ち着いた精神状態であっても、集中作業の合間に少しの休憩時間だと考えて始めたネットサーフィンやYouTube視聴が、思ったより長びいてしまうことはよくあるものですよね。普通の状態ですらこうなのですから、心が乱れている状態だと、勉強にも仕事にもより悪影響があるのは明らかではないでしょうか?
元サッカー日本代表で現在ブンデスリーガ・アイントラハト・フランクフルトで活躍する長谷部誠氏が、著書『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』で語ったところによると、常に安定した精神状態を保つことが、どんな場面でも自分を見失わずに力を発揮するために一番重要であるとのこと。
このことは、アスリートに限らず、仕事や勉強に集中するべきビジネスパーソンや学生の人であっても同じです。高いパフォーマンスをあげたいなら、作業に集中するべきです。そのためには、心の乱れを改善し、落ち着いた精神状態をキープすることが必要なのです。
以下、心の乱れにつながりやすいNG習慣を紹介していきます。
心が乱れる生活習慣1. おにぎりだけの朝食
あなたは食事をバランスよくとっているでしょうか? 例えば、時間がなくて朝ごはんを抜いている方や、いつもおにぎりだけで済ませている方、糖質制限ダイエットとして炭水化物をあまり食べていない方もいらっしゃるかもしれません。
大塚製薬が脳研究で知られる川島隆太教授(東北大学)と行なった共同研究によると、朝ごはんがおにぎりだけの場合、朝に水しか飲まなかった場合とほぼ同じ程度の集中力しか発揮できないことが分かったそうです。
実験は、朝食の欠食習慣のない健康的な成人男性20人を集めて行なわれました。被験者を4グループに分け、それぞれ洋風パン食(パン・野菜・ヨーグルト)、栄養調整食品(固形タイプ)、おにぎり、水を朝食として摂らせたそうです。
すると、おにぎり・水のみを摂ったグループは、洋風パン食・栄養調整食品を食べたグループよりも知的作業への集中度合いが低いという結果が出ました。おにぎりだけでも、食べているだけまだ良さそうなものですよね。確かに、おにぎりを食べたグループは作業開始当初はある程度集中できていましたが、その後は低下し、水だけしか飲んでいないグループと大差ないほどの集中力しか発揮できなくなっていきました。
一方、洋風パン食か栄養調整食品を食べたグループは、作業開始後4時間にわたり高い集中力を維持していました。この実験により、高い集中力を発揮するには、朝食で栄養をバランスよく摂ることが大事だと示されたのです。
カロリーメイトのような栄養調整食品でも洋風パン食と同じ高いパフォーマンスを発揮できます。時間がなくて朝食を抜いたり、おにぎりだけにしたりしている方は、栄養調整食品を買いだめしておき、カバンに忍ばせてから家を出ることをお勧めします。
心が乱れる生活習慣2. デスク周りに物を置きすぎる
ベッド周りにものを並べることで、ベッドから出なくても生活できる快適なアイテムとして話題の「人をダメにするベッド」。手の届く範囲にものを置くというのは、楽な生活を送るのにとても役立ちます。
しかしながら、この考え方は仕事や勉強に使うデスクには応用しないほうがよいでしょう。というのも、デスク周りに多くのものを並べると集中力が欠けてしまうからです。
プリンストン大学の神経科学研究科が行なった実験により、私たちの脳は、整頓されていない紙の山を見るだけで脳の認識部分を働かせ、結果的に作業への集中力が減ってしまうことが明らかになったそうです。
人は脳にある視覚野という部分で情報を処理する場合、トップダウンとボトムアップの両方の機能を使って情報を処理しています。ボトムアップの機能を使って、目に見える全ての範囲の情報を処理し、トップダウンの機能を使って、目に見える範囲の中から特定の情報に絞って注意して見ているのです。
デスクに積まれた紙の山は、本来ならば見る必要がないはずのもの。しかし、デスクに紙の山があるだけで視界に入ってしまいます。そのため、紙の山を含め視界に入ったものの中から本当に見るべきものに注目するという、余計な処理をしなければならなくなるわけです。
仕事や勉強に集中したいときは、デスクの上はできる限り整理しましょう。作業に必要のない書類や道具は片づけてください。整理されたデスクを作ることが「心を整える」ことに役立つのです。
心が乱れる生活習慣3. マルチタスク
一度に複数のことができるマルチタスク。ひとつのことしかできないシングルタスクよりも効率に優れていると考える方もいらっしゃると思います。
しかしながら、実際は、一点突破のシングルタスクの方が効率も生産性も高いのです。これは、コーネル大学の客員教授を長年務めマネジメントスキルについて講義をしてきたデボラ・ザック氏が、『SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』の中で述べていること。同書によると、マルチタスクの場合、タスクの切り替えに多くの時間を要するので、シングルタスクを基本としたほうが「他のことに気が散る」状態を減らすことができるのだそう。
確かに、マルチタスクでは注意が散漫になりがちですよね。例えば「企画書を作りながら、届いたメールに逐一返信する」といったようなマルチタスクをしている場合、メールが届くたびにいちいちそちらに気を取られていては、肝心の企画書作りがおろそかになってしまうものです。
もしマルチタスクが習慣になっているなら、同書が勧める次の方法により、マルチタスクからシングルタスクへと仕事の仕方を変えましょう。
- 今の自分にとって何が大事か順序を決める時間を確保する。
- 進行中の作業と違うことが脳に浮かんだら、メモに書き溜めておき、後で見返す。
- スマホのメモ機能を使うだけのはずが、SNSを見ていたという失敗をなくすためにアナログデバイスを利用する。
複数の作業に手を出すよりも、目の前のひとつの作業だけに取り組むこと。これが、心を乱さず集中するために大事なことなのです。
「焦り」は味方にも敵にもなる
日々仕事で忙しい皆さんはこれまで、時間が足りないので朝ごはんを食べず、整理整頓を諦め、マルチタスクで時間短縮を図っていたと思います。時間が足りないがゆえに「心が乱れている」状態に陥っていたわけですよね。きっと、いつも「焦り」を感じていたのではないでしょうか?
実は、そんな「焦り」は認識を変えることで集中力を高めるチャンスにもなり得ます。私たちの脳では、焦っているときノルアドレナリンが多く分泌されているのですが、適度に分泌されたノルアドレナリンは、やる気の元や集中する手助けになるのです。
そこで、「時間がない!」と焦りを感じたら、ノルアドレナリンが過剰に分泌されるのを防ぐために、深呼吸をしてみましょう。深呼吸をすると、ノルアドレナリンの量を調整するセロトニンが分泌されます。また、深呼吸により副交感神経優位の状態になりますので、落ち着きリラックスすることができますよ。
焦りで余裕を失ったときなどは、深呼吸をすれば、自分本来の調子を取り戻すことができるでしょう。より詳しく知りたい方は『焦りの原因「ノルアドレナリン」を、やる気パワーに一瞬で変換!』をお読みください。
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「心が乱れている」状態に陥りがちな習慣の改善法を試せば、集中力が増し、成果も上がって、周囲からの評価もアップすると思います。習慣を直していくのは難しいですが、頑張っていきましょう!
(参考)
リクナビNextジャーナル|生産性10倍に?!「シングルタスク」に切り替える方法
StudyHacker|焦りの原因「ノルアドレナリン」を、やる気パワーに一瞬で変換!
Harvard Business Review|The Case For Finally Cleaning Your Desk
Otsuka 大塚製薬|食事の内容が脳と体のパフォーマンスに影響
長谷部誠(2011),『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』,幻冬舎.
NCBI|Interactions of top-down and bottom-up mechanisms in human visual cortex.
Devora Zack(2015), Singletasking: Get More Done—One Thing at a Time, USA, Berrett-Koehler Publishers, 栗木さつき訳(2017), 『SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』, ダイヤモンド社.
東洋経済オンライン|「人をダメにするベッド」が客を虜にする理由
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。