社会人として成長するために読書を習慣化しているビジネスパーソンは多いものです。しかし、なかには「本を読んでも、実際の仕事にあまり役に立っていない」と感じている人もいるのではないでしょうか。
そんな「無駄な読書」をしないため、著書『インプット・アウトプットが10倍になる 読書の方程式』(フォレスト出版)を上梓した羽田康祐(はだ・こうすけ)k_birdさんは、「視点読書」「法則読書」を提唱しています。今回は、そのうちの視点読書について解説してもらいましょう。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
読書で得るべきは、知識の「運用能力」
私は、読書によって得るべきはただの「知識」ではなくその「運用能力」だと考えます。そうでなければ、せっかく読書をして得た知識も自分が携わっているビジネスや日常生活、人間関係といった場面で活かすことができず、無駄なものになってしまうからです。
そして、その知識の運用能力を得るために私が提唱する読書が、「視点」を得る「視点読書」と「法則」を得る「法則読書」です。視点と法則を得ることで「知識を運用することができる」、つまり「考える」ことができて自分なりの結論を導くことができます(『年600冊読むよりも「1冊からの学び」を最大化する方法。読書で得るべきは “この2つ”』参照)。
ただ、そうは言っても具体的にどういう読書法なのかイメージをもちづらいかもしれません。そこで、まずは実践例を示しましょう。これは、K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学虎ノ門キャンパス)教授である三谷宏治さんの著書『一瞬で大切なことを伝える技術』(三笠書房)を読んで私が得た視点と法則、さらにはそこから考えられる応用先を示したものです。
◆視点読書・法則読書の実践例
『一瞬で大切なことを伝える技術』(三笠書房)
●主張
- CMのすばらしさを伝える前に、CMの重要性を伝えるべき
●視点
- CMの重要性
- CMで伝える内容
●抽象化した視点
- 重要性という視点
- 内容という視点
●法則
- 重要度が高い内容が伝わると、コミュニケーションは効果的になる
●応用先
- プレゼン
企画の中身をプレゼンする前にまず「何が重要なのか」を伝えると、プレゼンに興味をもってもらいやすくなる - 会議
会議を始める前にまず「何が重要な論点か」が共有できると、会議が充実しやすくなる
「何を考えるべきか」という視点がなければ、考えることができない
法則読書については次回の記事で詳しく解説することとし(『“著者の主張” は読み取れなくてもいい。読書で大切なのは「自分なりに法則を導く」ことだ』参照)、今回は主に視点読書にフォーカスして解説しましょう。
「知識を運用する」とは「考える」ことにほかなりません。そして「視点」とは「何をどう考えるべきか」です。なぜこれが重要かというと、まず「何を考えるべきか」がわからなければ、考えるスタートラインに立つこともできないからです。
もっと言うと、視点の数が気づきの量を左右します。たとえ同じ状況を眺めていたとしても、多くの視点をもっている人ほど物事を多面的に見ることができるため、多くの気づきを得ることができるのです。
つまりそれは、「自分の世界が広い」ことだとも言えます。私たちは自分のもっている視点を通してしか、世界を見ることができません。その視点がひとつだったとしたらどうでしょう? その人の世界はとても狭いということになります。得られる気づきもそれだけ少なくなるのです。
一方、いくつもの視点をもっている人、つまり自分の世界が広い人なら、ひとつの物事をさまざまな角度から見ることができ、多くの気づきを得られるでしょう。そのためにより広く深く思考することができ、その結果としてよりよい結論にたどり着ける可能性が高まるのです。
そこで、本を読む際にはまず「視点」を探して得ることを意識しましょう。次回の記事で詳しく解説する「法則」も同時に得ようとすると、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の状態になってしまうからです。最初は視点を探して読み、2回目に法則を探しながら読むことをおすすめします。
本から得た視点を「抽象化」して、応用範囲を広げる
本には、著者の主張のなかに「こういう視点から物事をとらえてこの文章を書いているんだな」という視点が必ずあります。先に示した例で言えば、著者は「CMのすばらしさを伝える前に、CMの重要性を伝えるべき」と主張しており、そのなかに「CMの重要性」「CMで伝える内容」のような視点を発見することができます。
しかし、このままでは「CM」という限られた分野のなかでしか活かすことができない内容です。そこで、「抽象化」を図るのです。この例なら、「重要性」「内容」が、抽象化した視点になるでしょうか。
こうして得られた抽象化した視点を、先の主張にあらためて当てはめてみましょう。そうすることで、応用範囲の広い法則が見つかります。先の主張は「CMのすばらしさを伝える前に、CMの重要性を伝えるべき」でしたが、抽象化した視点を当てはめると「重要度が高い内容が伝わると、コミュニケーションは効果的になる」といった具合です。
そうなったらしめたもの。得られた法則はさまざまなことに応用できます。たとえば、プレゼンに応用するなら、「企画の中身をプレゼンする前にまずは『何が重要なのか』を伝えると、プレゼンに興味をもってもらいやすくなる」といったことです。
もとの主張はCMに限られたものでした。でも、そのままではCM制作と縁がない仕事をしている人にとってはまったく無駄な知識に終わってしまいます。そうではなく、自分の仕事や日常生活などに活かせてこそ、本から得た知識が本当の意味で役に立つと言えるのです。
【羽田康祐 k_birdさん ほかのインタビュー記事はこちら】
年600冊読むよりも「1冊からの学び」を最大化する方法。読書で得るべきは “この2つ”
“著者の主張” は読み取れなくてもいい。読書で大切なのは「自分なりに法則を導く」ことだ
【プロフィール】
羽田康祐(はだ・こうすけ)k_bird
1973年2月5日生まれ、千葉県出身。株式会社朝日広告社ストラテジックプランニング部プランニングディレクター。産業能率大学院経営情報学研究科修了(MBA)。日本マーケティング協会マーケティングマスターコース修了。外資系コンサルティングファームなどを経て現職。「外資系コンサルティングファームで培ったロジック」と「広告代理店で培った発想力」のハイブリッド思考を武器に、メーカー・金融・小売り等、幅広い業種のクライアントを支援している。ハンドルネームはk_bird。著書に『インプット・アウトプットが10倍になる 読書の方程式』『無駄な仕事が全部消える 超効率ハック』『問題解決力を高める 「推論」の技術』(いずれもフォレスト出版)があり、ロジカルで再現性のある内容にこだわる姿勢が評価されている。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。