「文章力がない……」と悩んでいる社会人の方はいませんか? 学校を卒業したあとも、メールや日報、資料など、文章を書く機会は多いですよね。
仕事で文章を書くときは、内容が正確に伝わるよう、読み手を特に意識する必要があります。自分の好きなように言葉を選ぶのではなく、相手が理解できるよう論理的に表現するのです。
最初は難しいと感じても、「結論を先に言う」「具体的な言葉を使う」などのコツを実践し続ければ、文章力は育っていきますよ。今回は、「文章力がない」と困っている社会人の方に、文章力が大事な理由&トレーニング方法をお教えします。
文章力がない社会人はどうなる?
社会人で文章力がないからといって、何が問題なのでしょうか? 起こりうるデメリットを挙げてみます。
仕事のスピードを落とし、ミスを起こす
文章力が低いと、仕事の遅延・失敗のリスクが高まります。身近な例は、毎日大量に送受信するメール。読みにくいメールは、受け取った相手の時間や労力をムダに奪ってしまうでしょう。
また、重要な情報をメールで伝えることもありますよね。理解しづらい文章では、伝達ミスや誤解が生まれ、重大なトラブルに発展する恐れもあるのです。
資料を作成するときは、メールよりもさらに文章力が求められます。その資料を読んだ同僚や顧客が情報を正しく理解できるかどうかは、書き手の文章力に左右されるでしょう。
頭が悪いと思われる
心理学者の和田秀樹氏によると、文章力の高低は他人からの印象にも影響するそうです。文章力は、伝達力や理解力など、さまざまな能力のバロメーター。文章が下手だと、「書き手はあまり頭がよくないのだろうな」と評価されかねません。
印象は、文のスタイルや言葉の選び方でも変わります。文法や漢字、敬語などがいいかげんだと、「頭がよくない」と思われるのは自然な流れです。
年収が上がらない
プレジデント社などによる2012年の調査では、文章力と年収の関係が示唆されました。「書くことに苦手意識があるか?」という問いに「Yes」と答えた人の割合は、以下のとおり。
年収500万円台の人:58.3%
年収1,500万円以上の人:36.4%
つまり、文章を書くのが苦手な人ほど年収が低かったのです。そして、年収1,500万円以上の人は500万円台の人に比べ、メールや手紙を書く頻度が高いことも判明しました。
もちろん、この結果には別の解釈もできます。「年収が高い人ほど連絡相手が多い」「年収が高い人ほど人間関係をを大切にしている」とも考えられるでしょう。
いずれにせよ、文章力と年収に関係があることは間違いありません。文章力がない自覚をもつ社会人にとって、やや耳の痛い調査結果ではないでしょうか。
文章力がない社会人が意識すべき鉄則
文章力がないとお悩みの社会人のため、「伝わる文章が書ける鉄則をご紹介しましょう。フリーライター兼ライティング講師・山口拓朗氏、心理学者・和田秀樹氏、小論文講師・樋口裕一氏らの見解を参考にしています。
一文一義
山口氏は「一文一義」という原則を挙げています。「ひとつの文に込めるメッセージはひとつだけ」という意味です。
たとえば、「今日はいい天気だね。どこかへ出かけよう」という文章は一文一義です。「いい天気だ」というメッセージと「出かけよう」というメッセージが、それぞれひとつの文で表現されています。
一方、「今日はいい天気だから、どこかへ出かけよう」は「一文多義」です。ふたつのメッセージがひとつの文に混在しています。
【伝わる文章:一文一義】
本サプリメントには、レモン60個分のビタミンCが含まれています。ビタミンCは、健康維持に欠かせない栄養素。細胞の老化を防ぐ効果などが期待できます。
【伝わらない文章:一文多義】
本サプリメントにはレモン60個分のビタミンCが含まれているのですが、ビタミンCは健康維持に欠かせない栄養素で、細胞の老化を防ぐ効果などが期待できます。
一文一義を心がけるだけで、文章は格段に伝わりやすくなりますよ。
結論は最初
結論は、最後ではなく最初にもってきましょう。基本ですが、非常に重要です。
一番伝えたいメッセージを最初に提示すれば、「この人は○○と言いたいんだな」「いまから××の話をするんだな」と、相手が意図を読み取ってくれます。すると、あとに続く文章の意味が格段に伝わりやすくなるのです。
以下の文章を比較してみましょう。1のほうが読みやすいと思いませんか?
- 今日の天気は大雨です。秋雨前線が停滞し、太平洋側から湿った空気が流れ込んでいます。
- 秋雨前線が停滞し、太平洋側から湿った空気が流れ込んでいます。今日の天気は大雨です。
1は「今日の天気は大雨」と結論を先に提示したため、後ろの解説がすんなり理解できます。一方、2は結論を示さず、細部の解説から始まるので、「前線うんぬんはどうでもいいから、早く結論を教えてよ」と言いたくなってしまいますね。文の順番が違うだけで、こうも読みやすさが変わるのです。
【伝わる文章:結論が最初】
- 本サプリメントには、レモン60個分のビタミンCが含まれています。ビタミンCは、健康維持に欠かせない栄養素のひとつ。細胞の老化を防ぐ効果が期待できます。
- 私は賛成です。なぜなら、サプリメントの市場は年々拡大しているからです。
- 本サプリメントの効用は3つ。抗酸化作用・免疫力アップ・美肌効果です。
【伝わらない文章:結論が最後】
- ビタミンCは、健康維持に欠かせない栄養素のひとつ。細胞の老化を防ぐ効果が期待できます。本サプリメントには、このビタミンCがレモン60個分も含まれているのです。
- サプリメントの市場は年々拡大しています。したがって、私は賛成です。
- 抗酸化作用・免疫力アップ・美肌効果。この3つが本サプリメントの効用です。
「1. 結論を言う」「2. 結論の根拠を提示する」の順番を徹底すると、あなたの文章はよりわかりやすくなりますよ。
ムダの削減
「ムダな要素」をできるだけ減らし、簡潔な文章にしましょう。たとえば、「今日はいい天気ですね」と言いたいなら、「今日」「いい天気」が最低限のキーワード。ほかの言葉が増えるほど、文章は冗長で伝わりづらくなります。
「それにしても今日という日は、本当にいい天気だなぁという感じがしますね」としたら、どうでしょうか。ムダな言葉(下線部)が多いため、「今日はいい天気」というメッセージがぼやけている印象です。
【伝わる文章:ムダな要素がない】
本サプリメントには、レモン60個分のビタミンCが含まれています。
【伝わらない文章:ムダな要素が多い】
今回みなさまにご紹介するサプリメントには、さまざまな特徴があるのですが、最も特筆すべきなのは、やはりレモン60個分のビタミンCが含まれているという点ではないでしょうか。
一文一義にもつながりますが、「シンプルな文章ほど伝わりやすい」のが基本。必要最小限の言葉で、なるべく簡潔に書きましょう。
具体的な表現
「具体的」かつ「明確」な表現を心がけましょう。以下のふたつを過不足なく盛り込むのです。
- 明確な数字
- 5W1H
「豊富なビタミンC」より「レモン60個分のビタミンC」のほうが、イメージしやすいですよね。物の大きさや量を強調したいときは特に、具体的な数字を入れましょう。
5W1Hとは、When・Where・What・Who・Why・Howの頭文字。5W1Hが欠けた文章は、具体性に欠け、曖昧です。
「商品をお買い上げいただくと、景品が当たることがあります」と言われても、よくわかりませんよね。「何人に当たるのか」「何が当たるのか」「どうやって応募するのか」などの情報が欠けているからです。
【伝わる文章:具体的】
- 本サプリメントには、レモン60個分のビタミンCが含まれています。
- 商品をお買い上げいただいた方から抽選で1,000名様に、特製タンブラーをプレゼント。11月31日までに、Webサイトからご応募ください。
【伝わらない文章:抽象的】
- 本サプリメントには、豊富なビタミンCが含まれています。
- 商品をお買い上げいただくと、景品が当たることがあります。
「明確な数字」「5W1H」を意識し、重要な情報を盛り込むことが大切です。
平易な表現
なるべく簡単な言葉を使い、シンプルに表現しましょう。オシャレな文を書いたり、難しい熟語や慣用句を使ったりしたくなるかもしれませんが、それだけ文章は複雑になり、伝わりづらいものです。
たとえば、「含む」と「含有」だったら、「含む」を使うほうが親切でしょう。「口角泡を飛ばさんばかりの討議」というひねった表現よりは、「真剣な話し合い」のほうが読みやすいはず。
【伝わる文章:表現が平易】
- 本サプリメントには、レモン60個分のビタミンCが含まれています。
- 営業部一同、真剣に話し合いを重ねました。
【伝わらない文章:表現が難しい】
- 本サプリメントのベネフィットは、ビタミンCの含有量にあります。
- 営業部一同、口角泡を飛ばさんばかりの討議を重ねました。
伝わる文章の大原則は、シンプルであること。なるべくシンプルな言い回しを選びましょう。
◆伝わる文章の特徴
- 一文一義
- 結論が最初
- ムダな言葉が少ない
- 具体的・明確
- 表現が平易・シンプル
◆伝わらない文章の特徴
- 一文多義
- 結論が最後
- ムダな言葉が多い
- 抽象的・曖昧
- 表現が難解・複雑
文章力がないとお悩みの社会人は、この5つの鉄則を意識してください。
文章力がない社会人向けトレーニング
文章力がないとお悩みの社会人のために、文章力を伸ばす具体的なトレーニングをご紹介しましょう。上記の鉄則を意識しつつ実践してみてください。
他人の文章の分析
まず、他人の文章をじっくり分析しましょう。本や新聞・雑誌、ブログやSNSなど、なんでもかまいません。その文章のどこがいいか/悪いかを考えることで、「こうすればいい文章が書ける」という気づきが得られます。
ある本を「読みやすいなぁ」と感じたら、「なぜ読みやすいんだろう?」と一考してみましょう。語彙が簡単だから? 話の流れがわかりやすいから? ひとつの文が短いから? さまざまな理由が思い浮かぶはずです。
そうして得られた仮説は、自分が文章を書くときの教訓になります。「読みやすいのは、語彙が簡単だからだ」という仮説を導いたなら、自分が文章を書くときも、なるべく平易な語彙を使いましょう。
前出の山口氏によると、他人の文章を分析するときは、以下の10項目をチェックするといいそうです。
- 誰に向けて書かれている?
【例】20~30代のビジネスパーソン - 何を目的に書かれている?
【例】読者の向上心をかき立てること - 著者の伝えたいメッセージは?
【例】努力を続けることは大切だ - 読者をどんな気持ちにさせようとしている?
【例】感動させたい - どのような構成・展開になっている?
【例】平凡なビジネスパーソンの著者が成功を重ねていく - 言葉の選び方は適切?
【例】感覚的で情に訴える言葉が多い。ところどころに文法の乱れがある - わかりやすく伝わるよう工夫されている?
【例】語彙が平易で、読みやすい - 文章にムダはない?
【例】余計なウンチクや自慢話が多く、本筋をつかみづらい - 表現は具体的?
【例】抽象的な表現が多く、イメージしづらい - 読んでいてストレスを感じない?
【例】やや上から目線の語り口が鼻につく
上記のポイントを意識すれば、文章の良し悪しを分析しやすいはず。読みやすい・おもしろいと感じた文章(あるいは読みにくい・つまらない文章)に出会ったら、その理由を考えることを習慣にしましょう。
特に気に入る文章に出会ったら、書き写すのもおすすめ。「いい文章」の語り口やリズムを深く味わい、身体に染み込ませることができます。
要約&書き足し
ジャーナリストの池上彰氏は、「要約」と「書き足し」のトレーニングを推奨しています。
要約とは、文章を圧縮し、自分の言葉で書き直すこと。書く力と読む力の両方を磨けます。
トレーニングの教材として池上氏が推奨するのは、新聞のコラム。朝日新聞の「天声人語」、読売新聞の「編集手帳」、毎日新聞の「余禄」などです。文字数は数百字程度なので、要約の入門としてピッタリ。もとの原稿の半分ほどの文字数で要約してみましょう。
反対に、書き足しとは文章の量を増やすこと。600字の文章を800字にするなら、自力で200字を付け足すことになります。要約よりさらに思考力・想像力が試される、高難度のトレーニングです。ポイントは、文章の大筋を守りつつ、エピソードなどの周辺部を厚くすること。池上氏は、自分の体験談などを書き加えるようすすめています。
書き足しトレーニングでも、新聞のコラムがいい教材です。200字を目安に、コラムに関連したオリジナルの文章を書き足してみましょう。
たとえば、2020年10月23日の「天声人語」は、「『博士と狂人』という映画の展開に驚いた」という話題で始まります。「ほかに驚いた映画といえば……」と自分の話を加えれば、100~200字くらいになるはずです。
◆要約&書き足しのポイント
- 新聞のコラムを利用する
- 要約は、文字数を半分ほどに減らす
- 書き足しは、200字ほど追加する
- 書き足しは、記事に関連した体験談がおすすめ
ブログの執筆
池上氏は、ブログを書くことも推奨しています。紙の日記ではなくブログなのは、人の目に触れる前提で書くためです。
紙の日記の読み手は自分だけ。「自分さえ理解できる文ならいい」という甘えが生まれてしまうので、文章の練習には適しません。
しかし、ブログは世界中に公開されるもの。読者のカウンターがゼロのままでも、いずれ誰かが読むかもしれません。紙の日記と違い、「見られている意識」が生まれるので、文体や言葉遣いに気をつけつつ書くことになり、文章力をトレーニングできます。
ブログの内容は、なんでもかまいません。その日の出来事や雑感、本や新聞・雑誌を読んだ感想でもいいでしょう。
メールの再読
文章力セミナーなどを手がける人材育成講師・豊田倫子氏は、メールを書いたあとに読み返すよう推奨しています。自分の文章の見直し・添削は、文章力を磨くうえでとても効果的な方法です。メールは文量が少ないため、1通当たり数分で見直せるでしょう。2週間~3ヵ月ほどで効果が出るそうです。
多くの人は、毎日複数のメールを作成しているはず。すべてのメールの見直しを徹底すれば、1日に数百~数千字もの文章を添削することになります。
見直すときのポイントは、書き終わったあとに「下書き保存」をし、少し寝かせること。書き終わった直後は、自分の文章をなかなか客観視できません。送信相手と同じ目線で読むには、数分~数十分ほど時間を置く必要があるのです。
◆メールを読み返すポイント
- メールを書いたら「下書き保存」
- 数分~数十分ほど寝かせる
- 送信を忘れないよう注意
仕事のかたわら、手軽にできるトレーニングですから、文章力がないとお悩みの社会人のみなさんは、ぜひ実践してみてください。
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文章力がない社会人は、仕事のパフォーマンスや年収など、あらゆる面で不利を被る恐れがあります。ご紹介したコツやトレーニングを実践し、メールや資料などの文章を見直してみてはいかがでしょうか?
(参考)
プレジデントオンライン|年収500万vs1500万の「書く力」と「稼ぐ力」
和田秀樹(2005),『人は見かけで決まる 頭を良く見せるための心理学』, PHP研究所.
まいにちdoda|ビジネスパーソンに必要な「文章力」。ビジネス文書作成の際にやりがちな3つのNGとは?
リクナビNEXTジャーナル|「ダメな文章」が「伝わる文章」に激変する3つの基本!
幻冬舎plus|文章が下手だと思われる6つの典型例
リクナビNEXTジャーナル|ビジネスで使える「文章力」を“文章を書かずに”鍛える方法とは?
池上彰(2007),『「話す」「書く」「聞く」能力が仕事を変える! 伝える力』, PHP研究所.
朝日新聞|天声人語
日経クロステック|文章術を学ぶ時間がない人にお勧め、5分間トレーニング
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。