みなさんは、とにかくたくさん本を読めば仕事のスキルが身につくと考えてはいませんか。あるいは、ビジネスに関連した動画を毎日観ているからといって、それだけで仕事がデキるようになると思ってはいないでしょうか。
たしかにインプットは大切です。しかし、それだけでは足りないのも事実。インプットしただけで学んだ気になっている人は、自分が想像しているよりも成長できていない可能性があります。今回は、得た学びを “使えるレベル” まで押し上げるための習慣づくりについてお伝えしましょう。
インプットだけで満足してはいけない理由
なぜ「インプットしていれば十分」とあぐらをかくのはマズいのでしょうか。それは、「わかる」と「できる」は似て非なるものだからです。
グロービス経営大学院経営研究科研究科長の田久保善彦氏は、単に「わかる」の状態で終わらせてしまうと、インプットしたことはほとんどすぐに忘れてしまうと指摘します。知識としていったん頭に入っても、それが仕事の具体的な場面とつながっていないために、知識を使う機会がないからです。
たとえば、ビジネスにはたくさんのフレームワークが存在します。「3C」や「4P」など一度は聞いたことがあっても、使いこなせていないケースが多いのではないでしょうか。
このように、「わかる」と「できる」は異なります。「できる」という状態になっていないかぎり、本当に使える知識とは言いがたいのです。
「ラーニングピラミッド」がヒントになる
では、インプットしたことを実践的なスキルとして定着させるにはどうすればいいのでしょうか。ヒントになるのが、前出の田久保氏が『グロービス流 ビジネス勉強力』で紹介している「ラーニングピラミッド」です。
ラーニングピラミッドとは、「ただ読書したり講義を聴いたりといった受動的な学びよりも、他人に教えるといった能動的な学びを重視したほうが、学んだ内容が定着しやすくなる」ことを示したもの。上図に載っているパーセントの値についてはさまざまな議論がありますが、ラーニングピラミッドが示唆する内容について、これまでの経験から納得できるという人は多いのではないでしょうか。
この「ラーニングピラミッド」をもとに、「わかる」から「できる」に変えるための具体的な方法を3つご紹介しましょう。
【方法1】ディスカッション
田久保氏によれば、インプットの段階が終わったら、「スループット」へ積極的に取り組むとよいのだそう。スループットとは「人との対話を通じて新しい価値観へ触れる」こと。具体的には以下のように説明されています。
自分と異なる意見に積極的に触れ、自分のなかにある枠組みを壊し続けることでしか、“新しい価値”を生むことはできない。インプットしたものを質の高いアウトプットへとブリッジする鍵となるのは、どれだけ“対話”を通じて新しい価値観に出合うことができたかです。このプロセスを通じてアイデアは磨かれていきます。
(引用元:WIRED|2020年代の学び場:ビジネススクールの枠を越えた近未来の“ラーニング・コミュニティー”)
インプットした内容についてディスカッションすれば、一視点でとらえるに過ぎなかった知識をさまざまな価値観からとらえることができ、アウトプットの精度も高まります。グロービス経営大学院経営研究科副研究科長の村尾佳子氏も、他人との対話によって「言語化をするなかで思考の質が高まっていく」のみならず、「自分が気づいていない事実やフィードバックから新たな気づきを促される」と伝えています。
たとえば、営業で新たな取引を相手から引き出せるようになる話し方について、ビジネス書を読むだけでなく、同僚とお互いに意見を交わせるような時間を設けてみてはいかがでしょうか。どういうシチュエーションのときにどう話せばよいかなど、具体的なイメージが湧きやすくなり、知識を現場で活かせるに違いありません。
【方法2】自ら体験する
前出の村尾氏によれば、インプットしたことを小さなことからでもいいのですぐに実践に移すことが重要だと言います。そのうえで、仕事上で自分が体験したことからも学びを得るマインドを養うようにすると、普段は流してしまっているようなことにも目が向き、どんどん視野が広がるそう。
たとえば、商談時のアイスブレイクのコツを本から学んだ場合、それを実際の商談の場面で試してみてください。本で主張されているとおりの効果が本当に得られるのか、商談の手ごたえはどの程度変わるのかなど、実際にやってみないとわからないことがいろいろわかってくるはずです。次につながる検証の機会も得られるため、学びがより深まっていくのではないでしょうか。
【方法3】他人に教える
ラーニングピラミッドでは、学びを最も定着させられる方法として「他人に教える」ことが挙げられています。
相手に教えるには、インプットしたことを自分自身が完全に理解している必要があります。知識を体系的に整理したり曖昧な部分をすべて潰したりするのはもちろん、正しくわかりやすく伝えるために言葉も選ばなければなりません。他人へアウトプットする機会をつくることで、インプットの段階ではわからなかった、自分にまだ不足している項目を洗い出すことができるのです。
もっている知識をお互いに教え合う勉強会を開いたり、後輩にレクチャーする機会をつくったりできれば、かなり効果的でしょう。「教える」という行為を通じて、知識をより定着させられるはずです。
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決してインプット止まりにならないようにご注意を。ご紹介した3つの方法を習慣にし、知識を “使えるもの” として定着させていきましょう。
監修:グロービス経営大学院
(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)
(参考)
グロービス経営大学院(2014), 『グロービス流 ビジネス勉強力』, 東洋経済新報社.
GLOBIS知見録|知る、わかる、できる、教える(能力開発の4つのステップ)
WIRED|2020年代の学び場:ビジネススクールの枠を越えた近未来の“ラーニング・コミュニティー”
GLOBIS CAREER NOTE|会社に依存しない働き方への第一歩を踏み出そう!社会人の効率的な勉強法
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