「今年こそは○○の資格を取る!」「毎日30分は英語の勉強をする!」
真新しい手帳に意気込みを書き込んでいると、今年は絶対にやり遂げられる気がしてきます。でも、その高揚感は2週間ほどで消え始めることを、あなたは知っているはずです。
なぜなら、こんな経験、一度や二度じゃないはず。
急な残業が続いて計画が狂い始める。週末の予定が入って勉強時間が取れない。そんな「イレギュラー」が重なるたびに、理想的に組んだはずの計画はほころびていく。気づけば「また今年も...」と溜め息をつく自分がいる。
毎年繰り返されるこの「計画と現実の戦い」。今年こそは、この悪循環から抜け出せないものでしょうか?
実は、スポーツの世界には、「想定外」を「想定内」に変える手法があるんです...
勉強計画にも使える? アスリートたちのメンタルリハーサル
計画どおりに物事を進めたい。でも現実は予定調和には進まない——。
メンタルコーチの石井亘氏によれば、メンタルリハーサルはイメージトレーニングの一種であり、「大事な本番で最高の力を発揮するための方法」です。これにより、「不安や緊張、迷いが軽減され、既視体験(デジャヴ)を引き起こして、体が自然に反応する状態をつくり出す」といいます。
スポーツの世界では、このメンタルリハーサルが広く活用されています。たとえば陸上競技では、レース直前の雨、スタート時の強風、隣のレーンの選手の飛び出し...。起こりうるあらゆる状況を頭の中で何度も走り、その対応を練ります。
サッカーのPK戦でも同様です。ゴールの右か左か、キーパーの動きはどうか、観客の声援や重圧...。これらを事前にイメージすることで、本番でも冷静な判断が可能になります。
このように、アスリートたちは「想定外」を「想定内」に変える努力を重ねているのです。石井氏は「この手法はアスリートだけでなく、大きなプレゼンを控えるビジネスパーソンなどにも参考になる」と指摘します。
突然の残業、急な予定変更、体調不良...。私たちの勉強計画を脅かすイレギュラーも、アスリートたちが直面する「想定外」と本質的には同じなのです。
なら、この手法を勉強計画にも応用できるのではないか——。
頭のなかで勉強計画の試運転を行なうコツ
石井氏が述べていたように、メンタルリハーサルはプレゼンなどへの対応が一般的です。たしかに、数時間で終わるプレゼンをイメージするのは現実的ですが、長い時間を要する勉強計画を詳細にイメージするのは非現実的。
そこで、「重要な節目」に分けてイメージしたらいいのではないかと考えました。たとえば年間計画ならこのかたちです。
- 最初の3か月:基礎を固める時期。
- 次の3か月:基礎を補強しながら応用力を高める時期。
- 中間の3か月:得意・不得意のバランスを意識する時期(得意分野を伸ばし、不得意分野を減らす)
- 最後の3か月:復習と模試など最終調整
次項では、この実践のもととなる勉強計画を立ててみましょう。
来年の勉強計画を立ててみた
今回筆者は、お金の勉強の一環として、「ファイナンシャルプランナー(FP)3級」の資格試験の勉強をテーマに、ザッと年間計画を立ててみることにしました。
勉強コーチングの第一人者である椋木修三氏の言葉 *2 を参考に、フレームはこちらの記事で紹介したものを取り入れています⇒(STUDY HACKER|“紙1枚” で立てる「勉強の年間計画」がすごい。計画通り勉強できた試しがない人に効く!)
この計画のポイントは以下のとおり。
- 無理なく継続できるよう土日のみ勉強する計画
- 全体をザッと行ない、あとは可能なかぎり反復 *2
テストラン&メンタルリハーサルしてみた
いよいよ計画を立てた後の本番です。この計画では、土日勉強で1週間68ページ、つまり1日34ページ行なう予定でした。試しに採点と振り返り時間を含めてやってみたところ、1時間30分程度で完了。分量としては無理のない計画だとわかりました。
次は、3か月ごとの各期間について、メンタルリハーサルを行います。正直、最初は「頭の中で想像するだけで何がわかるんだろう」と半信半疑でした。
でも、アスリートたちのように「具体的な場面」をイメージしていくと、驚くべき発見がありました。
たとえば、ある平日の夜をイメージしてみる。残業で疲れて帰宅し、夕食を済ませて机に向かおうとする自分。その時の体の重さ、やる気の低下、誘惑の多さ...。これまでの勉強計画は、こういった「現実の感覚」を無視して立てていたことに気づきました。
一方で、休日の朝をイメージすると、すがすがしい気持ちで机に向かう自分が見えます。通勤電車での30分間も、意外と集中できそうな時間帯として浮かび上がってきました。
さらに驚いたのは、3月の確定申告期をイメージした時です。仕事に追われる自分の姿が鮮明に浮かび、「ここで計画が崩れる」という予感とともに、その対策も自然と思い浮かんできたのです。
これは、アスリートたちが試合前にイメージするのと同じだと気づきました。彼らは「想定外」を減らすために、起こりうる状況を事前に体験しているのです。その手法を勉強計画に応用することで、机上の理想論ではない、「現実に即した計画」が見えてきました。
そこで計画を修正。土日限定から「1週間で68ページ進められればOK」という柔軟な目標に切り替え、通勤時間や昼休みも活用できる余地を作りました。3か月目には中間テストを設定し、モチベーション管理も組み込みます。
メンタルリハーサルは、想像以上に実践的な手法でした。頭の中で細かくイメージを重ねることで、ただの理想論ではない、自分の生活の「リアル」に根ざした計画を作ることができました。
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勉強計画の挫折に悩まされてきた方へ。アスリートたちが実践する「メンタルリハーサル」を使えば、計画は机上の空論から実践的なものに変わります。
具体的には以下の4ステップです:
- 大まかな年間計画を立てる
- 1日分だけテストランして現実的な分量を確認
- 各時期をイメージし、起こりうる状況をシミュレーション
- 発見を活かして計画を柔軟に修正
12月中にこの「想像上の試運転」を済ませておけば、新年からの学習はよりリアルな計画のもとでスタートできます。まずは3か月分からでも、ぜひお試しください。
*1: メンタルトレーニング石井塾|メンタルリハーサルで本番力に差をつけよう!既視体験(デジャヴ)で不安も緊張も迷いもなくなる
*2: ダイヤモンド・オンライン|合否の9割は「勉強計画」で決まると断言できる理由
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。