脳や体にいいらしいことは知ってるが、どうも瞑想やマインドフルネスをやろうという気にならない。経験がない自分にとっては難しそうだし、面白そうでもない。もっと気軽に取り入れられて、ものすごーく短い時間で、簡単で、なおかつ同じような効果があるものはないだろうか?
「そんなものはありません」と言われそうですが、完ぺきとはいえないまでも、実はちゃんとあるのです。2人の博士が教えてくれました。 瞑想・マインドフルネスに関する様々な研究と、瞑想代わりに取り入れたい「ある行動」を紹介します。
瞑想・マインドフルネスで活性化する脳の領域
瞑想とは、仏教やヒンズー教をルーツとする、心と体の鍛錬のこと。精神的なバランスの改善、治療、増強のために利用されてきました。特定の心地よい姿勢をとり、雑念を払い、一点に集中します。
マインドフルネスは、瞑想から宗教的な部分を省いたもの。「今この瞬間の体験に気づき、それをありのままに受け入れる方法」です。
ずいぶん前は、懐疑的な見方をする人も多かった瞑想ですが、マサチューセッツ医科大学の分子生物学者で、瞑想実践者でもあったジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)氏が、患者に「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)」を適用し、その効果が示されてからというもの、瞑想を扱う脳科学の研究が一気に増進したそうです。
マインドフルネスは、右の背外側前頭前野の機能を活性化するといいます。前頭前野は、思考や創造性、ワーキングメモリなどを担う脳の最高中枢。この部分が元気になると、心が強くなって、免疫力が向上するのだそう。なおかつ記憶力がよくなり、仕事のパフォーマンスも向上するとのことです。
瞑想・マインドフルネスの研究
瞑想における脳科学研究の第一人者であるリチャード・デヴィッドソン(Richard J. Davidson)氏は、fMRI(機能的磁気共鳴画像診断装置)と脳波記録を用い、瞑想が特殊な脳活動を促すと明らかにしています。
2000年にはサラ・ラザー博士(Sara Lazar)ら研究チームが、集中と自律神経系をつかさどる神経構造が、瞑想で活性化されることを確認。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の心理学者エリッサ・エペル(Elissa Epel)氏らは、テロメア(人の寿命に関わると考えられている)を維持する酵素、テロメラーゼの活性が、瞑想を習慣にしている人は有意に高いと伝えています。
さらに、全インド医科大学が、代替医療の専門誌に発表した2012年の小規模な研究では、瞑想が研究参加者の IQ と認知機能のスコアを有意に上昇させ、なおかつストレスレベルを低下させたことを確認しています。
これだけ驚くべきパワーがあると知っても、瞑想やマインドフルネスをやってみようという意欲がわかないのであれば、ちょこっと瞑想代わりになる、あまりにも簡単な行動を紹介しましょう。
瞑想代わりとなる行動1:スローモーション
「マインドフルネス」の中にある重要なプロセスには、それほど時間がかからないと、ネバダ大学リノ校心理学部教授のスティーブン・C・ヘイズ(Steven C. Hayes)博士はいいます。そのやり方は以下のとおり。
- アクティビティを選ぶ
- 半分のスピードでやる
たったこれだけ? と拍子抜けしてしまいますが、目を閉じなくても、坐禅を組まなくても大丈夫。ただ、何かの動作を、スローモーションで行うだけでいいのです。
たとえば「席を立って、リビングからキッチンへと向かい、冷蔵庫を開ける」というだけの動作。いつもは無意識にササッと行う動作も、減速して半分のスピードでやってみると、驚くほど豊かで複雑な動作が組み込まれていると気づきます。
普段は気にも留めませんが、わたしたちの行動の中には一連の出来事があります。減速すると、行動の際に意図的な調整や注意が必要になるはず。
そうして気づく状況は、幼児時代に何度も経験した、色んな「初めて」に接した状況と似ています。初心に返れば慣れた世界も新鮮に映るでしょう。半分のスピードで動作する時間は、30秒間、1分、3分と、徐々に増やしていくかたちでも、一定でも構いません。
もちろん、瞑想やマインドフルネスを完ぺきな手法で行ったほうが、受けられる恩恵は多いはず。しかし、スローモーションで動くことによって、「今この瞬間の体験に注意を向ける」こと、そして「思考や感情から自分を解き放つために必要なこと」を学べるのです。
安全な状況でさえあれば、食事をするとき、入浴時、着替えるとき、衣服をたたむとき、どんなときでも構わないので、ぜひ半分のスピードでゆっくり動作してみてください。
瞑想代わりとなる行動2:じっと見つめる
ロバートJ.ヘダヤ(Robert J. Hedaya)博士はある日、妻に促され、カラフルな花柄ソックスを少しのあいだ眺めてみたそう。すると、それまで2次元の状態で博士の脳に登録されていたソックスが、3次元となり、生き生きとしたお花畑になったのだとか。
もちろん、本当にお花畑になったわけではなく、立体的になったということ。実はこれ、脳の「顕著性ネットワーク(Salience Network)」が、簡単に立ち上がったことを示しています。
顕著性ネットワークとは、自分にとって重要なことに注意を集中させ、行動に導く、脳の結合ネットワークのこと。脳が重要だと判断すると、それによって感情を発生させたり、他の脳領域を活動させたりするそう。
顕著性が高ければ高いほど“その何か”に注意が向き、意欲が高まります。ヘダヤ博士によれば、顕著性ネットワークとして、「島皮質前部(the anterior insula)」と「前帯状皮質背側部(the dorsal anterior cingulate cortex)」という2つの脳領域が活動するそうです。
もしも、顕著性ネットワークの機能が絶たれてしまったら、目の前の世界は2次元の経験に衰退するとヘダヤ博士は説明します。逆に、そのネットワークがつながれば、生き生きとした活気に満ちた経験が呼び起こされ、高い安心感がもたらされるのだそう。
そして、多くの人々がこの経験を得るために、「瞑想」を活用しているといいます。
つまり、ヘダヤ博士が「花柄ソックスの経験」から得たのは、いつでもどこでも簡単に、何がをじっと見るだけで、瞑想のような経験が手に入る、ということなのです。
机の上の、いつも見ている観葉植物。じっと見ていると、葉脈が見る見る浮き上がり、いつの間にか生き生きとした3次元になるはず。たたまれた洗濯物をじっと見てみれば、小さなほつれに気づいたり、生地の畝に気づいたりするでしょう。自分の手をまじまじと眺めてみるのもおすすめです。
では、どれほど“じっ”と見ていればいいのかというと、1回に必要な時間はたったの10秒間。
比較的近い場所にあるもの何でもいいので、10秒間だけ見つめてみてください。実際にやってみると、むしろそれだけで十分だとわかります。
ヘダヤ博士いわく「――a quick vacation from our normal reality――(いつもの現実からの、素早い休暇)」とのことです。
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ちょっぴり瞑想代わりになる、あまりにも簡単で、はたから見るとちょっと不思議な2つの行動を紹介しました。
- スローモーション
- じっと見つめる
危険のない状況で、スローに動いたり、じっと何かを見つめたりしてみてくださいね。集中力の回復にもおすすめです。
(参考)
統合医療」情報発信サイト 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業|医療関係者の方へ|海外の情報|瞑想
慶應義塾大学ストレス研究センター|研究|マインドフルネス Mindfulness
nippon.com|脳科学の最前線を行く—飛躍的に進む瞑想研究
NICT-情報通信研究機構|プレスリリース|ヒトの協力行動における前頭前野の機能を解明
ダイヤモンド・オンライン|ハーバード医学教授が教える健康の正解|「瞑想でIQが上昇」ハーバード教授が驚きの報告
Psychology Today|Don’t Like Meditation? Try This Instead
STUDY HACKER|これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディア|なにかを「じっと見つめる」だけ!? たった10秒で集中力を取り戻す “びっくりするほど簡単な” 方法
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