「考えがまとまらない」「集中が途切れてしまった」というとき、パソコンから視線をずらし、たとえばデスクに置いた観葉植物を“まじまじ”と眺めてみたら、「あれ? こんなカタチの葉っぱだったんだ」と気づくことはないでしょうか。
また、そのあと仕事を再開したら、ちょっぴり能率が上がったような気がする……、なんてことはありませんか?
その不思議な現象が起こる理由を、Robert J. Hedaya 博士が心理学の専門誌『Psychology Today』で教えてくれました。博士がくれたヒントから、いつでもどこでも使用可能な「ビックリするほど簡単に集中力を取り戻す方法」を紹介します。
庭園のような靴下を10秒間眺めてみたら……!?
Robert J. Hedaya 博士は、とても興味深く楽しい体験をしたそうです。『Psychology Today』に掲載(2019年3月4)された内容によれば、それはカラフルな花柄がプリントされた、ソックスを眺めたときに起こったのだとか。
「このソックスは素晴らしいではありませんか!」という妻の言葉に同意しかねていたHedaya 博士が、改めてその派手なソックスをよく見たところ、「なんと、まあ!」と驚いたそう。そこには、本当に「活気に満ちた色とりどりの庭園」があったのです。そこで博士は、「非常に楽しい経験をした」と感じたそう。
とはいえ、博士が説明したいのは、「カラフルな花柄プリントのソックスが、いかに素晴らしいか」ということではありません。それまで二次元の平面で博士の脳に登録されていたソックスが、少しのあいだ眺めてみたことで三次元となり、生き生きとして活気にあふれ、楽しさに満ちた存在になったということ。
それはつまり、「顕著性ネットワーク」という脳構造のネットワークが、簡単に立ち上がったことを示しています。
「顕著性ネットワーク」とは?
「顕著性ネットワーク(Salience Network)」とは、重要とみなされたことに注意を集中させ、それに関わる行動を成し遂げるようにする、脳の結合ネットワークのことです。
Hedaya 博士によれば、「島皮質前部(the anterior insula)」と「前帯状皮質背側部(the dorsal anterior cingulate cortex)」という2つの脳領域が「顕著性ネットワーク」として活動するそう。
ちなみに顕著性とは、「その情報が自分にとって重要かどうか」ということ。顕著性が高ければ高いほど“その何か”に注意が向き、意欲が高まります。
「顕著性の高い情報キター!」と脳が判断すると、それによって感情を発生させたり、他の脳領域を活動させたりするのが「顕著性ネットワーク」なのだとか。Hedaya 博士は、わたしたちに何が重要であるかを伝えるために「顕著性ネットワーク」が機能しているとし、それが断たれてしまうと、世界は二次元の経験に衰退すると説明しています。
逆に、そのネットワークがつながれば、わたしたちの生き生きとした活気に満ちた経験を呼び起こし、高い安心感をもたらすそう。
Hedaya 博士によれば、多くの人々がそうした経験をするために、「瞑想」などを活用するとのこと。つまり、Hedaya 博士が「花柄ソックスの経験」から分かったのは、いつでもどこでもクイックかつ簡単に、いわゆる「瞑想」のような経験が手に入る、ということなのです。
「マインドフルネス瞑想」の効果について
「マインドワンダリング」は、心理学用語で“心がさまよっている状態”を意味します。つまり、注意が散漫になっている状態です。「マインドフルネス」とは、心をいま現在起こっていることに向けることです。そして、「マインドフルネス瞑想」は、いま現在起こっている物事に注意を向ける能力を、発達させるプロセスを含みます。
「マインドフルネス瞑想」を行うと、“心がさまよっている状態”へ の気づきに関連して、先述した「顕著性ネットワーク」の領域が活動するのだとか。
東京学芸大学の関口貴裕准教授は、2015年の論文「マインドフルネス・トレーニングは実行機能の何を変えるのか ―― 田中・杉浦論文へのコメント ――」で、まだ不明な点はあるものの、現在までに報告された研究を見る限り、マインドフルネスは“心がさまよっている状態”を減少させ、課題パフォーマンスを促進させる、としています。
マインドフルネス瞑想が、マインドワンダリングによる雑念に気づかせ、やるべきことに集中させてくれるということです。
ちなみに、メンタリストの DaiGo さんによれば、瞑想時間がトータルで11時間を超えると、集中力が高まるという研究結果があるそう。関口准教授も、マインドフルネス瞑想による順向性制御(※)の向上により、注意が散漫になる状態が起こりにくくなっている可能性を示唆しています。(※順向性制御:⽬標に関連した情報を持続的に保持し、注意を向け、適した⾏動をとることができる認知処理のこと)
さらにいえば、1日20分間瞑想すると、集中力が1.5倍になるという研究結果もあるのだとか。しかし、Hedaya 博士が伝えている方法は、1回に必要な時間はたったの「10秒」。もちろんこれは正式な研究によって見出されたことではありませんが、気づかずに行っていた筆者が大いに効果を感じているため、声を大にしておすすめします。
たった10秒間で集中力を取り戻す方法
これまでをまとめると、「10秒間焦点を絞って意識的に何かを見つめる」ことで、マインドフルネス瞑想を行ったときと同じく、以下事象が起こる、ということになります。
・顕著性ネットワークが活動する ・注意散漫な状態を減少させる ・いま注意を向けるべきことに集中できる
Hedaya 博士は、この方法で簡単にエキサイティングな世界に入り、新しい発見をすることができるといいます。大切なのは「10秒のあいだ何かを意識的に見る」ということだけ。いつでもどこでも利用可能です。
もちろん10秒間焦点を絞って見つめるのは、ソックスである必要はありません。自分の手のひらでも、観葉植物でも、パソコンのマウスでも、木の椅子に彫られた模様でも、コップに入った水の表面でもかまわないのです。
したがって、「たった10秒間で集中力を取り戻す方法」とは、
1.集中力が途切れたなあ、と思ったら 2.何かに焦点を当て、ジッと10秒間見て 3.細部を眺めて新たな発見をし 4.その後、仕事を再開する
たったそれだけです! 10秒間はおおよそでOK。認知的な負荷がかかるので、わざわざ計ったり数えたりする必要はありません。気づくたびに行っていけば、“注意を向ける時間”が累積され、きっと持続的な集中力につながっていくでしょう。
*** Robert J. Hedaya 博士はこの10秒間を、「――a quick vacation from our normal reality――(いつもの現実からの、素早い休暇)」と表現しています。ときどき眼精疲労を起こす筆者は、パソコンから目を離す目的で知らず知らずのうちに行っていましたが、それだけで少し能率が上がるという効果を実際に感じていました。
ボーっとすることは、アイデア創出に役立ちますが、何かを集中的に行いたいときは、ぜひこの方法をお試しくださいね!
(参考) How to Find Joy in 10 Seconds! | Psychology Today WIRED.jp|「ゲーム依存の人の脳」が得意なこと、苦手なこと HONZ|『退屈すれば脳はひらめく』マインド・ワンダリングがいいんじゃない? Wikipedia|マインドフルネス 関口貴裕(2015),「マインドフルネス・トレーニングは実行機能の何を変えるのか:―田中・杉浦論文へのコメント―」,心理学評論,心理学評論刊行会,Vol.58,No.1,pp.153-159. 川島朋也 (2018),「注意の制御とワーキングメモリ:注意の誘導と抑制の側面からの検討」,OS02-1,2018年度日本認知科学会第35回大会(招待講演).