社会生活を営む人間には対人関係の悩みが尽きません。それこそ、多くの他人と関わりながら日々を生きているビジネスパーソンなら、自分より他人を優先しなければならないことも多く、その結果、精神的に疲弊している人も多いでしょう。どうすればその「心の疲れ」をなくすことができるのでしょうか。
著書『「つい自分を後回しにしてしまう」が変わる本』(あさ出版)が注目される心理カウンセラーの積田美也子(つみた・みやこ)さんに、アドバイスをもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
他人のために頑張ったことを「書き出す」
自分を後回しにして他人を優先するあまりに心が疲れてしまっている人は、「自分の価値を認める」ことが大切です。でも、「自分の価値を認めてください」と言われても、なかなかそうできるものではありませんよね? そこでまずは、自分の思考の癖に着目してみましょう。
自分を後回しにしている人には、頭の中でリフレインしている口癖とも言える「思考の癖」があります。代表的なものが「自分なんか」という言葉。ミーティングで意見を求められたときも、新たなことにチャレンジするようなときも、自己評価が低いがために、つい「自分なんか、いい意見を言えない」「自分なんか、どうせできない」とネガティブに考えてしまうのです。
ただ、「『自分なんか』と思っちゃダメ」と考える必要はありません。それはむしろ逆効果です。自分を後回しにしている人はただでさえ自己評価が低いのですから、「また『自分なんか』と思っちゃった……」「やっぱりわたしはダメな人間だ……」と、自己評価をさらに下げてしまいかねません。
自分の思考の癖に着目して、「自分なんか」と思ったことに気づくだけで十分です。「自分なんか」と思ったら、「あ、また思ったな」と、ただ気づく。それを繰り返していくだけで、徐々にそう思うことが減り、最終的には自分の価値を自ら下げるということも減っていきます。
また、自分が他人のために頑張ってきたことを意識することでも、自分の価値を認められるようになります。自己評価が低い人は、他人のためにやっていることの価値も感じていません。
そこで、小さい頃に親のために我慢してやったこと、友だちのために時間を割いて悩み相談に乗ったこと、職場で同僚のフォローをしたことなど、人のためにやったことを書き出してみましょう。すると、他人のためにいかに自分が頑張ってきたのか、あるいはいま現在も頑張っているのかということを客観視でき、徐々に自分の価値を認められるようになるのです。
日常の中で感謝したいことを「書き出す」
この、「書き出すことで客観視する」という行為は、別の手法にも使えるものです。それは、私が提唱している「感謝リスト」というもの。これは、どんなに些細なことでも、日常の中で感謝したいことを書き出していくというものです。
自分を後回しにしている人は、他人ばかりを優先しているために、「どうして人のために自分ばかりしんどい思いをしなければならないのか……」という気持ちがたまっています。そのため、人から親切にされたり、自分のために人が頑張ってくれたりしていることが見えなくなっている。そこで、感謝リストによって、自分が差し出しているだけではなく、まわりから「受け取っている」ことに意識を向けるのです。
書き出すのは、「私の元気がないことを気遣って、友だちが食事に誘ってくれた」というような、わかりやすく感謝したいことのほか、「今日の食事はおいしかった」「好きなテレビ番組を観られた」といった、それこそどんなに些細なことでもかまいません。そして、書き出すことで何が起こるかというと、心に余裕ができるのです。その心の余裕こそが重要です。
自分を後回しにしている人は、気持ちに余裕がありません。まわりのことばかりを考えているために、人と接するにも余裕がなく、常に不安と緊張を感じている。その不安と緊張を、感謝リストで得た心の余裕で払拭できれば、余裕を持って人と接することができるようになり、徐々に良好な人間関係を築いていけます。
自分を優先する行動を起こすための「自分ファースト」
また、自分を後回しにしている人には、自分の正直な気持ちがわからなくなっているという特徴もあります。そのことを前提に置くと、正直な気持ちにフォーカスし、自分を優先した行動を取るのも大切です。
その方法として私が提唱しているのが「自分ファースト」というもの。これは、1日にひとつ、自分が本当にしたいこと、幸せを感じることをやるというものです。朝起きたら、まずはその日にやりたいことを決めて、その日のうちに必ず実行してください。
しかしながら、忙しい毎日を過ごしているビジネスパーソンの人たちの場合、やりたいことを決めるのもそう簡単ではないかもしれません。そこで、比較的実行しやすいこととしておすすめしているのが、「意識的に自分に問いかけて、その日に食べたいもの、飲みたいもの」を決めるというものです。「今日は帰りにコンビニのあのスイーツを絶対に買って帰る」という具合です。そうすれば、帰りはルンルン気分でいられますよね(笑)。
本当に食べたいものを見つけることが喜びになり、食べたいものを食べてまた喜びを感じることができる。単純な行為に感じるかもしれませんが、これも自分を優先する行動のひとつです。そんな癖を身につけていくことができれば、心の疲れも徐々に軽くなっていくでしょう。
【積田美也子さん ほかのインタビュー記事はこちら】
いつも「自分は後回し」で苦しんでる人は○○に思考を支配されている。
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【プロフィール】
積田美也子(つみた・みやこ)
心理カウンセラー、クリスタルボウル奏者。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、金融機関、国内外の女性の起業支援、フェアトレード事業に携わる。仕事面は充実していたものの、幼少の頃より感じていた漠然とした孤独感、疎外感をどうしても拭い切れず、さまざまなスピリチュアルや心理の学びを重ねるうち、「奇跡のコース(A Course in Miracles)」に出会い、それまでの疑問が解決するのを体験すると同時に人生が劇的に好転。「よろこびで生きる体験」をわかち合いたいとの思いから、延べ3500人以上に「奇跡のコース」をもとにしたカウセリングセッション、講座等を行う。現在、「想像を超える自分を生き、よろこびに満ちた人生を歩む」ためのサポートをすることをミッションとしている。訳書に、『今まででいちばんやさしい「奇跡のコース」』、『続今まででいちばんやさしい「奇跡のコース」』(ともにフォレスト出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。