いつも「楽なほうへ流される」のはなぜなのか? “○○不足” で脳の前頭前野が弱ってる可能性

脳では思考系と感情系のバランスが大切01

「資格を取得しようとテキストをそろえたのに、忙しさを理由に手つかずのまま……」
「運動不足解消のためにジムに入会したけれど、結局数回通っただけで退会……」
このように、ついつい楽なほうへ流されてしまった経験はないでしょうか。なかには、何度も同じような経験をして「自分はなんて意志が弱いんだろう……」と自己嫌悪に陥ったことがある人もいるかもしれませんね。

じつは、楽なほうへ流されるとき、脳では “ある2つの機能” がバランスを崩してしまっています。しかも、それを放っておくと、集中力や記憶力の低下を招いてしまう恐れも……。改善の方法をご紹介しましょう。

楽なほうへ流されるのは「感情系」が優位になっているから

「楽なほうへ流される」という状態は、脳科学的にはどのように説明できるのでしょうか。脳神経外科医の築山節氏によれば、「快を求めて不快を避けようとする脳の感情系の欲求を制することができなくなりつつある状態」なのだそう。

大きく分けると、脳には大脳新皮質が中枢の「思考系」と、大脳辺縁系が中枢の「感情系」という、2つの機能系が存在しています。そして築山氏によれば、感情系は思考系に比べて “強い脳” なのだそう。そのため、感情系は思考系に絶えず影響を与えています。

とはいえ、感情の赴くままにやりたい放題やっていては、社会的生活を送れませんよね。だからこそ私たち人間は子どもの頃から、しつけなどを通して思考系を鍛え、思考系が感情系に対して優位な状態を作り上げてきました

しかし、このバランス関係の維持には工夫が必要。とりわけ現代は、外部から不快を与えられやすいと同時に簡単に快を得られるため、思考系優位の状態が崩れやすいと、築山氏は指摘します。加えて、その状態を放置すると、さらなるデメリットを被る可能性も……。

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集中力・記憶力・思考力・理解力も低下する可能性

感情系が優位になり、欲求を制することができなくなった状態は、築山氏によれば「抑制力が低下している状態」とのこと。すると、理性的な脳の働きがすべて落ちるので、集中力や記憶力、思考力、理解力も低下してしまうのだそう。

集中力の低下は、快なほうへ引っ張る感情系に抗えなくなるために起こり、記憶力の低下は、粘り強く思い出そうとする力が衰えることで起こります。また、人の話を聞く、長い文章を読む、文章や思考を組み立てるといったことに耐えられなくなるために思考力も低下。同様に、難しいことに耐えられないため、いい加減に話を聞いたり情報の上辺だけをかいつまんだりする結果、理解力も低下してしまうのだそうです。

このように、感情系が思考系より優位になってしまっている状態を放置すると、仕事や勉強に必要な能力が全体的に低下してしまう恐れが……。築山氏は、「抑制の力を鍛えることは、厳しい時代を生きるための根本的な自己防衛法でもある」と説いています。思考系優位のバランス関係を取り戻し、維持するには、どうすればよいのでしょうか。3つの方法を紹介しましょう。

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【1】「面倒くさい」「疲れた」は禁句……仕事や勉強の前に愚痴らない!

感情系より思考系を優位にさせるためには、「少し面倒だと思うことを積極的にすることに尽きると築山氏は言います。感情系が「少し不快だ……」と感じたとしても、「面倒だとわかっているけれど、あとあとのことを考えればやったほうがよい」と合理的に判断して実行し、「やってよかった!」と思える経験を積み重ねていく――こうした地道な結果の積み重ねが、思考系の優位性を高めるのです。

また、感情系の要求に屈しないためには、面倒だと思ったとしても「面倒くさい……」と愚痴をこぼさないほうがよいとのこと。脳神経外科医の林成之氏もこのことを指摘しています。愚痴をこぼすと脳がその物事をマイナスにとらえてしまい、理解力や思考力を落とす原因になるとのこと。特に、仕事や勉強に取りかかる前の「疲れた……」「嫌だ……」といった愚痴は避けるべきだそうです。

たしかに、ネガティブな気持ちを抱えたまま仕事や勉強に取りかかると、なかなか集中できずいつも以上に時間がかかってしまいますよね。愚痴はストレス発散にはならず、むしろ脳に負担をかけている可能性があります。「面倒くさい……」「疲れた……」といった口癖がある人は気をつけましょう。

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【2】細かくゴール設定し、到達のたびに自分にご褒美を与える!

前出の林氏は、「脳はご褒美がないとうまく働かない」と言います。なぜならば、思考系を司る大脳新皮質の領域のひとつである前頭葉の「前頭前野」と大脳基底核の「線条体」を結ぶ「自己報酬神経群」が働かなければ、脳は思考力や記憶力を充分に発揮できないためです。

自己報酬神経群とはその名の通り、“自分自身に対する報酬が与えられる” という期待感によって機能する神経細胞群のこと。「ご褒美が得られる期待感」と「ご褒美を得るために頑張ろう」という主体性が伴うことで、より良い働きを見せるそうです。

さらに、医学博士の米山公啓氏は、ご褒美としての「楽しみ」をこまめに用意するとよいと述べます。「1年間頑張ったら○○」といった遠い未来に用意したご褒美では、動機として弱いからです。「今日30分読書をしたら夕食後にご褒美のデザートを食べよう」「1週間後の社内試験に合格したら、ご褒美に新しい洋服を買おう」など、比較的近い未来にご褒美を用意し、期待感と自主性を高めて自己報酬神経群を刺激しましょう。

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【3】睡眠不足を解消する

「睡眠不足はデメリットだらけ」ということは多くの人が実感していることと思いますが、脳のバランスにとってもやはり問題です。精神科医の西多昌規氏によれば、睡眠不足は脳の血流を悪化させ、栄養となるブドウ糖の代謝を落とし、前頭葉の働きを低下させてしまうのだそう。

前頭葉にある前頭前野は自制力を司る部分でもあるため、これが弱まると「快を求め、不快を避けようとする」傾向が強くなる恐れがあります。西多氏によると、慢性的な睡眠不足のみならず、一晩の睡眠不足でもこうした悪影響が出るとのこと。

また、スタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニガル氏は、「睡眠を増やせば、誘惑や短期的な満足感へと自分を誘惑してしまう脳の部分を前頭前野がうまくコントロールしてくれるようになる」と言います。

今の自分が楽なほうへ流されているのは、睡眠不足でうまく自制心が働かないことも関係しているかもしれません。夜更かしや徹夜で寝不足の日々が続いている人は、ぜひ今一度ご自身の睡眠を見直してみましょう。

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楽なほうへ流されない自分でいるためには、思考系が感情系よりも優位な脳バランスを維持するための工夫が必要です。仕事や勉強のパフォーマンスを落とさないためにも、「愚痴を言わない」「ご褒美を用意する」「睡眠不足を解消する」を実践してみましょう!

(参考)
築山節(2009),『脳から変えるダメな自分「やる気」と「自信」を取り戻す』, NHK出版.
日経クロステック|知性が宿る大脳新皮質
林成之(2009),『脳に悪い7つの習慣』, 幻冬舎.
プレジデント・オンライン|サボり癖、飲みの誘い……甘い誘惑に負けるのは心が弱いせいなのか
ログミーBiz|『スタンフォードの自分を変える教室』の著者が教える、意志力を高める生活習慣とは

【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。

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