「こんなに大変なのに、上司は状況を理解してくれない」
「忙しいときに限って、部下が問題を起こす……」
そんな、精神的にも体力的にも疲労を感じて余裕がないときは、言葉遣いを気にしてみてください。
今回の記事では、余裕がないときに「言うとよい言葉」と「言わないほうがいい言葉」をご紹介します。切羽詰まっているときこそ、言葉の使い方次第で、よい方向へと状況を変えられるはずですよ。
△「無理です……」⇔◎「〜〜であるためできません」
忙しいのに上司が察してくれず、次から次へと仕事を頼まれる……。そのような場面でつい言ってしまう「無理です」という言葉は、じつはあまり好ましくないようです。
『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』の著者で産業カウンセラーの大野萌子氏は、「『無理』とバッサリ断られると腹を立てる人や傷つく人も」いると指摘。(引用元:文春オンライン|「今ちょっと忙しいので」という断り方はなぜ失礼なのか? できない仕事を断る言葉に必要な“あるポイント”)
また、『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』著者の犬塚壮志氏は、「無理です……」と断ることの問題点について、こう伝えています。
「この仕事量、本当に無理です……」は「……」の部分に「主張」の重要部分が隠されてしまい、さらに「根拠」も欠けています。すると、上司からは部下がボヤいているように見えてしまい、的外れな叱咤激励につながってしまうのです。
(引用元:プレジデントオンライン|「この仕事量、本当に無理です…」と上司に相談しても、「もうちょっと頑張れ」と返されてしまう本当の理由)
「できない」と率直に伝えたつもりが、「私は入社時にその量をさばけたよ。だから頑張って!」と励まされる……。このように、相手に「できない理由」が伝わらなければ、納得してくれない事態に陥りかねません。
そこで、ハーバード大学のロースクールで実際に行なわれている交渉学のプログラムを修了したという犬塚氏が推奨するのが、「『主張』と『根拠』をセットにして伝える」という方法です。なお「根拠」については、以下の性質が備わると効果が高いそう。
性質① 相手がすでに知っているもの、もしくは、すぐに理解できるもの
性質② 客観性が高いもの
(引用元:同上)
たとえば、以下のようなイメージでしょうか。
- 「この案件は別のメンバーへの依頼をお願いできないでしょうか(主張)。仕事量が多く、すでにほかの案件に遅れが生じているため、取引先に迷惑がかかる可能性があります(根拠)」
- 「納期の延長をお願いします(主張)。仕事量が許容範囲を超えているため、疲労を感じています。現にミスが発生しているので、このままでいくと仕事の質を大きく落としかねません(根拠)」
これなら「できない理由」を明確に伝えられますね。説得力が増し、相手もあなたの “余裕のない状況” を理解してくれるはずですよ。
△「〜〜しなければ」⇔◎「〜〜したい」
「早く資料を仕上げなければ」「急いで連絡しなくちゃ」――このように、仕事で時間にも心にも余裕がないとき、「~~しなければ」が口癖になっていませんか? 当てはまる……という人に、ぜひ代わりに使ってほしい言葉があります。
スポーツメンタルコーチの鈴木颯人氏が、こう述べています。
「△△しなくてはいけない」という言葉には、無意識に「誰かにやらされている」というニュアンスが含まれます。「△△したい」と言い換えましょう。自分の意思で行動する言葉に変えることで、気持ちも前向きになります。
(引用元:プレジデントオンライン|「忙しい」「難しい」…成果の出ない人が使っている「5つのNGワード」 ※太字は筆者が施した)
「~~しなければ」が口癖になると、自ら進んで働くのではなく、無意識に “義務感” をもってしまう可能性があるわけです。
人材育成コンサルタントの清水久三子氏も、「~~したい」という言葉をすすめるひとり。「こうすべき(Should)」を「こうしたい(Want)」に言い換えると、周囲の「協力を得られる」ようになると述べます。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|「べき論」を語る人が孤立しがちな本質的理由)
「こうすべき」という訴えの中身は個人によって違うため衝突が生まれやすい一方、「こうしたい」という視点には以下のメリットがあるのだそう。
- 相手の「べき」を否定しないため、共感が生まれやすい
- (仮に)考え方に違いがあっても問題になりにくい
- 「ではどうしたらそうなるのか?」ということを一緒に考えてもらえる
(引用元:同上)
たとえば以下のような具合で、「~~したい」と言い換えてみてはいかがでしょう。
- 「リモートでは話のニュアンスが伝わりにくいので、会議は対面で話し合わなければいけません」
→「リモートでは話のニュアンスが伝わりにくいので、直接会って話し合いたいです」 - 「競合他社との差別化を図るため、ターゲット層を若い世代に絞るべきです」
→「競合他社との差別化を図るため、ターゲット層を若い世代に絞りたいです」
「~~したい」と言い換えたほうが、響きが柔らかくなりますよね。焦った印象もなくなり、余裕も感じられるはず。
筆者も無意識に「しなければ」の言葉を使いがちなので、仕事をするときに「したい」と言い換えるようにしてみました。すると、これまで感じていた切迫感が和らぎ、心に余裕をもつことができましたよ。
△「“なんで” できないの?」⇔◎「“何が” 問題だったの?」
余裕がないときに限って、部下の報告漏れやミスが多発する……。上司なら頭を抱えてしまうかもしれません。しかし、部下に対し「なんで?」の言葉は控えておきましょう。
元マッキンゼー勤務のエグゼクティブコーチ・大嶋祥誉氏は、「詰問する問い」は「よい問いとは言えません」と語ります。(カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|マッキンゼーでは当たり前。仕事では「問い」のうまい人が圧倒的に強い納得の理由)
「“なんで” 報告が漏れたのか?」「“どうして” ミスが続くのか?」――こうした「Why(なぜ)」の問いでは、相手を責めるだけで学びにはつながらないのです。
代わりに大嶋氏は、「What(なに)」の問いをすすめています。
なぜなら、「What(なに)」による問いのほうが考える対象が明確になり、問いに不慣れな人でも答えを導き出しやすいからです。
(中略)
「『なに』がそうさせてしまったのか?」と問うほうが、ミスが起きた原因を明確に意識して考えることができます。
(引用元:同上)
同様に、立教大学経営学部教授で人材開発を研究する中原淳氏も、「メンバーがトラブルを起こしたとき」に「なんで」と聞くのは「ムダ」だと指摘。
「なんで?」と聞かれても「分からない」としか答えられないんですよ。Whyではなくて、「どういうことが起きたの?」というWhatの聞き方に変えます。そうすると、話しているうちに「ここが悪かった」と気付きます。
(引用元:日経ビジネス電子版|立教大・中原淳教授 リーダーが身に付けるべき口癖&ダメな口癖)
「何が起きたの?」と出来事について聞けば、相手から具体的な答えが得られ、そのうち問題点が浮き上がるというわけですね。
たとえば、部下のミスや問題が浮上したとき、以下のように言い換えてみてはいかがでしょうか。
- 「どうして先方にすぐ連絡しなかったの?」
→「何が起きて先方への連絡が遅れたの?」 - 「なんで仕様書をよく確認しなかったの?」
→「何が問題で、仕様書の確認ができなかったの?」
これなら威圧感なく部下から原因を聞き出せそうです。じつは部下の抱えている仕事量が多かったり、体調の問題があったり……といった背景が浮かび上がってくるかもしれません。
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余裕のないときこそ、その人の真価が問われるもの。言葉選びに気を配り、状況をよい方向へと変えていきましょう。
(参考)
文春オンライン|「今ちょっと忙しいので」という断り方はなぜ失礼なのか? できない仕事を断る言葉に必要な“あるポイント”
プレジデントオンライン|「この仕事量、本当に無理です…」と上司に相談しても、「もうちょっと頑張れ」と返されてしまう本当の理由
犬塚壮志(2022),『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』, サンクチュアリ・パブリッシング.
プレジデントオンライン|「忙しい」「難しい」…成果の出ない人が使っている「5つのNGワード」
東洋経済オンライン|「べき論」を語る人が孤立しがちな本質的理由
STUDY HACKER|マッキンゼーでは当たり前。仕事では「問い」のうまい人が圧倒的に強い納得の理由
日経ビジネス電子版|立教大・中原淳教授 リーダーが身に付けるべき口癖&ダメな口癖
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。