「職場で、上司や仕事内容の嫌なところばかり目につく。同僚や友人と話す内容は仕事の愚痴ばかり。よくない習慣だとわかっているけど、なかなか変えられない……」
そんな悩みを抱えるあなたは、不平不満や愚痴を言うことによる大きなデメリットを、もうすでに被っている可能性があります。
ネガティブ思考のループから脱却するために、仕事の不平不満をポジティブに変換するテクニックを試してみませんか?
仕事に不平不満を抱えることの意外な弊害
医学博士で脳関連の著作が多い米山公啓氏によれば、ネガティブ思考を続けると脳にストレスがかかり、記憶をつかさどる「海馬」がダメージを負ってしまうそう。愚痴や不平不満といったネガティブな言葉を言うことは、自分の脳を自ら傷つけているに等しいとのこと。
加えて、アメリカ・オハイオ州立大学(研究当時)のジョン・スコウロンスキ氏らが行なった実験では、悪い噂を口にする人は他者からの評価が下がると明らかになっています。「自発的特徴変換」という心理作用のために、聞き手が無意識に、話の内容を話し手に結びつけてしまうそうです。
つまり、聞き手にとって「発言の内容=あなたのイメージ」になるということ。あなたが「怒りっぽい」「話が長い」などと上司の愚痴を言うとき、聞き手は無意識のうちにあなたのことを「怒りっぽくて話が長い人なんだ」ととらえてしまうのです。
まとめると、愚痴や不平不満を言うことで、あなたの脳の健康がおびやかされ、まわりの人から悪い印象をもたれてしまう可能性があるということ。特に、職場で悪口を言うとなると、評価やキャリアの面でもよくない影響を受けるであろうことが容易に想像できます。
ネガティブな考えをポジティブに変えるには?
では、仕事に関する不平不満はどうすればうまく処理できるのでしょうか?
ネガティブ思考をやめる方法はさまざまですが、今回注目したいのは「リフレーミング」というもの。数学者のリチャード・バンドラー氏と言語学者のジョン・グリンダー氏によって開発された、心理学かつ言語学で心理療法でもある「NLP」において用いられる手法です。
日本NLP協会によると、リフレーミングとは、枠組み(フレーム)を変えることで、出来事を別の視点から見ること。
たとえば、コップ半分の水を見たときに、「半分しか水が入っていない」というフレームで見れば不満を感じるものですが、「半分も水が入っている」というフレームであれば満足できますよね。
リフレーミングとはこのように、物事の異なる面を見ることで、視野を広げようというものです。
全米NLP協会公認・NLPトレーナーの足達大和氏によると、リフレーミングの手法には数種類あるとのこと。ここでは簡単に取り入れられるものとして、以下のふたつをご紹介します。
- 「言葉のリフレーミング」
「マイナスな言葉」を「プラスな言葉」に変換します。たとえば、「頑固だ」は「強い意志をもっている」に。「怒りっぽい」は「情熱的、想いが強い」に。このように言葉を変換すると、「悪い」と思っていた性質にもじつはいい面があると気づける場合があるのです。 - 「時間枠のリフレーミング」
「この出来事について、将来の自分はどう言うだろうか?」「将来どう役に立てられるだろうか?」と、未来を想像しながら自問します。こうすると、より俯瞰して出来事をとらえることができるそう。
一見すると不都合な状況でも、言葉を変換したり時間を進めたりして物事を見直すだけで、プラスの側面があることに気づける――それがリフレーミングなのです。
職場で突然ポジティブ思考になろうとしても、そう簡単にはいかないもの。ですが、リフレーミングであれば、頭のなかやノートの上で、いつでも行なえます。ポジティブ変換のトレーニングを重ねるうちに、発言の中身も変わってくるかもしれませんよね。
仕事の不平不満を徹底的にポジティブ変換してみた
さて、今回は実際に筆者が、職場での不平不満をリフレーミングしてみました。
まず、ノートとペンを用意し、ノートの左側に不平不満を思いつく限り書き出します。そのあと、それぞれのネガティブワードを出発点とする矢印をひき、右側にポジティブに変換した言葉を書いていきました。
リフレーミングをしてまず感じたのは、いかにこれまでの自分が感情を無視してきたかということ。嫌な気持ちを書き出すことで、「あのとき、あの状況がかなりストレスになっていたんだ」と気づいたのです。
そのうえでポジティブな言い換えをしてみると、「あのときの出来事はいまの自分のために役立てられる!」ということがよくわかりました。たとえば「Kさん、仕事が遅い」という愚痴を「マニュアルづくりの練習になった」と言い換えたことで、不満は成長のきっかけになると発見できたのです。
これまで、同僚と一緒に仕事の不満を言うときには、それでスッキリした気分になっていましたが、ただの悪口になっていて生産性がなかったことにも気がつきました。ひとり静かにリフレーミングを行なうことで、負の感情を「現実を変える力」にすることができるのだと思います。
じつは今回は、数か月前まで勤めていた前職場への不平不満を書いたのですが、当時の感情を見つめ直すことで、前職への気持ちに変化が起きただけでなく、いまの仕事への取り組み方も変わったように感じます。
具体的には、
- いまの仕事に感謝できるようになった
- 何か不満を感じても、「ポジティブな言い方をしたらどうなる?」「未来の自分ならどう思う?」と問いかけることで、プラスの要素を見いだせるようになった
- ぐずぐずと悩むことが減り、「状況改善のためにいま何ができるか?」と考えられるようになった
という具合です。
リフレーミングをすれば、確実に未来をよくする思考を得られると感じました。どうしてもポジティブ変換が難しいときは、「どんな気づきがあった?」と問うてみると、「苦手に気づけた」「自分だったらこうしようと気づけた」といったポジティブな学びにつなげることができましたよ。
みなさんも、現在・過去問わず、嫌な出来事やネガティブな気持ちがあれば、どんどん書き出してみてはいかがでしょうか。
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スウェーデンの著述家・起業家で、長年抱えていた不安症を克服したというマッツ・ビルマーク氏は、こう語ります。
――ネガティブ思考の95%は真実ではない。人生を肯定するようなポジティブな考えこそが真実だ――
ネガティブなマインドのときに見えているものは、自分や他人の人生を否定したり、自信を失わせたりするだけの、“真実ではない” ことなのです。
リフレーミングの習慣は、仕事だけでなく、家庭や学校など、あらゆる場面で役に立つもの。「悪い面しか見えない」というときは、ぜひリフレーミングで考え方をシフトしていきましょう。
リフレーミングについては「心理学のリフレーミングとは? 効果&練習法をわかりやすく解説!」でも詳しく解説しているので、もっと知りたい方はあわせてお読みください。
(参考)
女の転職type|ネガティブ思考は「脳の老化」を早める! 人生100年時代に女性たちが意識すべき“脳ケア”とは/医師・米山公啓さん【医師監修】
Skowronski, J. J., Carlston, D. E., Mae, L., and Crawford, M. T. (1998) “Spontaneous trait transference: communicators taken on the qualities they describe in others “ Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 74(4), pp. 837–848.
東洋経済オンライン|グチばかり言う人がみずから招いている不幸
日本NLP協会|NLPとは?
日本NLP協会|リフレーミング
Life and Mind+|【完全理解】一瞬で世界を変えるリフレーミングの効果と活用事例
【ライタープロフィール】
平野ももこ
大学ではフランス文学を専攻し、物語のなかの人の心を中心に研究。出版社を経営していた祖母の影響もあり、純文学、心理学、ビジネス書など幅広く読む大の読書家である。現在は、メンタルケアやカウンセリングを勉強中。バレットジャーナルの実践を通じ、生活改善に成功し続けている。