「仕事の幅を広げるために勉強したい。でも、忙しくて勉強に費やせる時間がない」
「職場で評価されるために専門知識をつけたい。けれど、勉強するのはやっぱり大変だ」
社会人が自主的にあらためて勉強する「学び直し」が注目を集めるなか、勉強意欲はあっても、なかなか行動につなげられない人は多いことでしょう。
実際、『マイナビ転職』が2020年に実施した調査によると、「学び直しに興味がある」と答えた会社員は82.1%。しかし「実際に学び直しをしている」と答えたのはわずか16.9%でした。
学び直しに踏みきれない・やっても続かない社会人は、いったいどうすれば学び直しを成功させられるのでしょうか。“社会人の学び” に関する専門家たちのアドバイスを紹介しましょう。
【1】先に「目的」を考える
「とりあえず勉強を始めさえすれば、自然と継続できて、いつかは何かしらの成果に結びつくだろう」そんな考えで学び直しに挑んだところで、挫折は目に見えていると言っても過言ではありません。
学び直しを成功させるには、「何ができるようになりたいから学び直しをするのか」という目的を先に考えることが不可欠。というのも、学び直し自体はあくまで「手段」だからです。
元『リクナビNEXT』編集長で、現在は転職支援サービスを手がける黒田真行氏は、学び直した結果がキャリアに結びつかないケースを数多く見てきたそう。そうしたケースの問題点は、「学び直せばなんとかなる」とばかりに、学び直し自体が目的となってしまっているという点。
その一例として黒田氏が挙げるのが、何かに役立てようと “とりあえずMBA” を取得する人。そういった甘い考えをする人は大勢いるため、MBAを取得するだけでキャリアに役立つわけではないと、黒田氏は厳しく指摘します。
そこで黒田氏が重要だと述べるのは、「目的」を先に考えてから、「そのために必要な学び」は何かを考えること。具体的には、次の手順に沿うといいそうです。
- ニュースなどで話題となっている業界のうち「どんな業界が今後伸びそうか」予測を立てる
黒田氏による例:
「紙媒体は縮小傾向だが、ネットメディアは成長しそう」
「ラグジュアリーブランドは苦戦しているが、ファストファッションなら伸びそう」 - 1で見た業界で活躍するには、「どんなスキルを強化すべきか」「どんなことを学ぶべきか」調べて学んでみる
1の例に基づく学び方:
「ネットメディアで活躍するには、ライタースキルを強化するとよさそう。文章は好きだし、ライティングを学べるスクールに通ってみよう」
「ファストファッション業界で活躍するには、服飾系の専門学校に通っていた自分のスキルが活かせるはず。だから、最新の流行を学んで知識をアップデートしよう」
このように、向こう数十年需要がありそうな業界で、興味や経験を活かしつつ活躍するのに必要な学びは何かを考え、挑戦するべきだ――と、黒田氏。もちろん未来の正解は誰にもわかりませんから、予測が間違っていたと数年後に明らかになったら、再度同じ手順で学びの方向性を決め直せばいいそうです。
学び直しを成功させたいなら、なんとなく学び始めるのではなく、キャリアにきちんと結びつく学び方を考えるところから始めましょう。
【2】まずは「人に教わる」
学び直しを「独学で」頑張ろうとして、結局挫折した経験はありませんか? じつは、最初のうちは、独学するより「人に教わる」ほうが、学び直しはうまくいくようです。
なぜなら、勉強を始めてからの最初の時期は、特に挫折しやすいから。社会人の再教育サービスを手がける株式会社リカレント代表取締役社長の松田航氏によれば、独学には「よし、取り組むぞ」という能動的な気持ちが必要なため、初めてのことを学ぶのには適さないのだそう。
代わりに取り入れるべきだと松田氏が説くのは、「受動的で楽に学べる方法」です。学んだ要素どうしがなかなか結びつかない “学習初期” のうちは、本を読んで独学しようとしても早々に挫折する羽目になるとのこと。少しでも簡単に学ぶには、「人から教わる」のが手っ取り早いと言います。
具体的には、以下のような方法を松田氏は挙げています。
- 知り合いに直接教わる
- スクールへ通って授業や研修を受ける
- eラーニングやYouTubeで動画を見る
なお、学習がある程度進んでからであれば、独学に切り替えてもかまわないそうです。
最初は “受け身” でいいのです。自分がどの方法だったら「楽に学べる」か。どのやり方なら「挫折しないで学べる」か。こうしたことに注意して学び直しを始めれば、「いつの間にか学び直しをやめてしまった……」といったことは防ぎやすいはずです。
【3】「1週間単位」でスケジュールを立てる
学び直すなら「毎日」勉強しなくてはいけないと思っていませんか? 厳しいルールを自分に課しても、学び直しはうまくいかないかもしれませんよ。
社会人の学び直しを成功させるコツは、1週間単位でスケジュールを立てること。というのも、予定通りに勉強できなかった場合でも調整しやすいからです。
社会人向けeラーニング事業を手がけるトライオン株式会社代表取締役の三木雄信氏いわく、スケジュールの立て方次第で勉強は習慣化できる、とのこと。そのルールの筆頭に挙げるのが、1週間単位での調整です。
「1週間で〇時間勉強する」という計画であれば、仮に水曜日に予定が入り勉強時間がゼロになったとしても、別の曜日で挽回が可能。一方、1日単位で「毎日〇時間勉強する」という計画を立ててしまうと、そうはいきませんよね。
ただし、1週間よりも長い期間、つまり2週間や1か月単位では、長すぎて管理するのが難しいそう。人間が最も管理しやすい数は7であるという心理学理論を挙げ、時間管理も7日間が最適だと、三木氏は述べます。たしかに、「今週できなかったから来週やろう」と考えたものの、翌週もやっぱりできなかった……となるケースはありがちですよね。
1週間単位でスケジュールを立てる際は、以下の点を工夫するといいそうです。
- 必ず「予備日」を設ける
急な仕事や体調不良があっても調整しやすくする。 - スケジュール表に「早朝の予定」も書き込む
早朝の予定から書ける手帳を買うか自作して、朝の時間を勉強に有効活用できるようにする。 - 「スキマ時間」も確保する
スキマ時間の学習予定をスケジュール帳に明記しておけば、「短時間」×「複数回」で、長く学習時間をとれる。 - 「やりながら」調整する
スケジュールを立てたらまずは1回その通りに動いてみて、こなしづらいところがあれば修正する。
社会人には社会人に合った学習スケジュールの立て方があります。上手にスケジュールを調整すれば、学び直しもきっとうまくいくはずです。
***
いくつになっても知識やスキルをアップデートし続けるために、人生100年時代に必要な学び直し。学び直しに興味があるけれど踏みきれていない方、やってはみたけれど挫折してしまった方は、以上3つのポイントをふまえて、ぜひ学び直しに挑戦してみてください。
(参考)
キャリアトレンド研究所|学び直しの「理想」と「現実」に大きなギャップ? 学び直しでキャリアアップに成功した人は少数
リクナビNEXTジャーナル|リカレント教育(学び直し)とは?選び方・学び方と「注意点」
マネー現代|「独学vs人に教わる」どちらがよい勉強法?「 社会人教育」のプロが出した“意外な結論”
東洋経済オンライン|社会人でも「勉強を続けられる人」がしていること
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。