あなたもきっとやっている「因果関係の誤った思い込み」。防ぐには “この問い” が有効だ

植原亮先生インタビュー「因果関係を正確にとらえるコツ」01

「因果関係」を把握することは、よりよい仕事をするために欠かせません。たとえば、なんらかの業務上の問題が起きたなら、その問題が起きる原因を正しく特定できなければいつまでたってもその問題は起こり続けるということになってしまうでしょう。

しかし、「残念ながら、因果関係は見誤りがち」だと言うのは、最新刊『遅考術』(ダイヤモンド社)を上梓した関西大学総合情報学部教授の植原亮(うえはら・りょう)先生です。因果関係を正確にとらえるコツを教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「目立つ」要素が原因だと思い込みがち

仕事において成果を挙げるためにも「因果関係」を正しく認識することは非常に重要ですが、じつは因果関係というものは誤ってとらえがちなものでもあります。というのも、私たちはなにかひとつの目立つ要素を原因だとつい考えてしまうものだからです。

ファッションが好きでまわりとは違うちょっと変な服ばかり着ている人が、仕事で大きな失敗をしてしまったとします。すると、「普段から服にばかり気をとられているから、仕事で失敗するんだ」といったように、「変な服」という「目立つ要素」を原因だと思い込んでしまうのです。

もちろん、それが真の原因かといえばそうとは限りませんし、あらためて考える必要があります。たとえば、仕事で失敗してばかりだから、気分転換のために好きな服にこだわっているというのはどうでしょうか? これは、「原因と結果」が逆だったというケースです。

あるいは、単純に原因が別のことだったケースも考えられるでしょう。たとえば、失恋をしてしまった結果、やはり気分転換をしたくて好きな服にこだわり、仕事にも身が入らずに失敗をしてしまったといったようなことです。これは、失恋という原因が、変な服を着ていた、仕事で失敗したというふたつの結果を招いたかたちです。

植原亮先生インタビュー「因果関係を正確にとらえるコツ」02

因果関係を誤ってとらえたから、人類は生き残れた?

また、因果関係を正しく認識することが難しいということについては、「因果関係を誤ってとらえたがために私たちの祖先が生き残ってきた」ことも理由のひとつと考えられます。

例を挙げましょう。みなさんのなかにも「理由はわからないが、長いものがとにかく怖い」人はいませんか? 人間には、「長いひも状のものを見たら、この形のものは危険だから逃げなくてはいけない」といった本能的な意識が働きます。その意識に従って逃げるという行動を選択すれば、たとえば猛毒のヘビに襲われるようなことは避けられます。

でも、もちろん長いひも状のものがすべて猛毒のヘビであるはずもありません。しかし、10回のうち1回でも長いひも状のものが本当に猛毒のヘビだったとしたら逃げる価値はありますよね? そして、実際にそうしてきた祖先が生き残ってきました。

つまり、「猛毒のヘビを見たときに逃げたから、生き残れた」という本当の因果関係ではなく、「長いひも状のものを見たときに逃げたから、生き残れた」と誤った因果関係をとらえ、かつそれゆえに生存できたために、私たち人間は因果関係を誤ってとらえがちな特性をもっているのです。

植原亮先生インタビュー「因果関係を正確にとらえるコツ」03

それがなかったら本当に起こらなかったことなのか?

では、どうすれば因果関係を正確にとらえることができるようになるでしょうか。そのための方法としては、私が提唱する「遅考術」における適切に思考を進めるための思考法のうち、「それがなかったら本当に起こらなかったことなのか?」と問うという方法が力を発揮してくれます。

なぜなら、「それがなくても起こったかもしれない」と考えられることは、真の原因ではない可能性が高いからです。

この思考法は、英語では「カウンター・ファクチュアル(counter-factual)」といいます。「反・事実」的に考えるというわけです。

先に挙げた例で言うなら、「変な服ばかり着ている人が変な服を着ていなかったら、本当に仕事で失敗しなかったのか?」と問うといった具合です。ちょっと駄目な人の例みたいになってしまいますが……(笑)、そこで「変な服を着ていなかったとしても、あの人は失敗するような人だ」と思えたとしたら、やはり本当の原因は他にあるのだろうと考えるべきなのです。

そう考えることができた時点で、「これが原因に違いない」という最初の思い込みから脱することができ、別の可能性を探ることができるようになります。そうして、正しい因果関係をとらえられるわけです。

植原亮先生インタビュー「因果関係を正確にとらえるコツ」04

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【プロフィール】
植原亮(うえはら・りょう)
1978年7月28日生まれ、埼玉県出身。関西大学総合情報学部教授。2008年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。『思考力改善ドリル』、『自然主義入門』(ともに勁草書房)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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