なぜ私たちは「自分探し」をしたくなるのか

「自分探し」をしている人に試してほしい方法1

「自分探し」をしたことはありますか? 以下のように悩み、「本当の自分」を見つけたいと一度でも思ったことのある人は少なくないはず。

  • 人生において大事なものはなんだろう?
  • 自分は何が好き・得意なのだろう?
  • 向いている仕事は何かな?
  • 自分が生きるべきなのはこの場所なのだろうか?

「自分探し」には、どのような意味があるのでしょう。そして、「自分探し」に答えはあるのでしょうか?

今回は、「自分探し」について解説したうえで、「自分探し」をしている人に試してほしい3つの方法をご紹介します。

自分探しとは?

小学館の「デジタル大辞泉」は、「自分探し」を「自分の生き方、居場所を求めること」と説明しています。つまり、「自分探し」における “自分” とは、自分に合った職業やライフスタイルなどを指すと考えられるでしょう。以下のような人は、「自分探し」をしているといえます。

  • 「自分にふさわしい仕事」を探して転職を繰り返す人
  • 「自分に合う場所」を求めて海外などを放浪する人
  • いまの生き方に満足できず、転職先や別のキャリアを探している人

生き方を模索するのは悪いことではありません。むしろ、現状に100%満足している人のほうが少ないでしょうから、「いまのままでいいのかなぁ」「自分に合った生き方は、ほかにないのかなぁ」と悩んでしまうのは自然です。「自分探し」の過程でしか得られない貴重な経験もあるでしょう。

とはいえ、「別の生き方」への願望に振り回され、社会的・経済的・精神的に不安定な状態が続くようでは問題ですよね。「探す」以上は、「見つける」というゴールにたどり着かねばなりません。どこがゴールなのかわからずさまよい続けるよりは、自分なりの目標や軸を見つけ、「自分探し」をなるべく早く卒業したいものです。

「自分探し」をしている人に試してほしい方法2

自分探しをしたくなる理由

そもそも、私たちはどうして「自分探し」をしたくなるのでしょうか?

目標・目的がないから

「自分探し」をしたくなる大元の理由は、「将来こうなりたい」「こういう仕事がしたい」という明確な目標がないことです。

何かしらの目標をもっていれば、目標に届かないことを悩みはしても、進むべき方向を「探す」ことはありません。「英語を教える仕事がしたい」という目標がある人なら、英語の勉強をしたり、海外へ留学したりなど、目標を実現するための具体的な行動を起こすことができます。

しかし、具体的な目標・目的をもたない人は、どこを目指すかという方針が決まっていないので、「自分は何がしたいのだろう」「何をすればよいのだろう」と悩み、「自分探し」をしたくなるのです。たとえば、「国内ではとれない学位がある」など明確な目的があって留学するとき、その留学は目的達成のための手段となるでしょう。一方、特別な目的がなく、「何か見つかるかも」という気持ちで向かう留学は、「自分探し」だといえます。

「自分探し」をする人は、目的を見つけられていないため、「レストランでメニュー選びに悩む人」に似ています。お腹が空いているので、何か食べたい。しかし、「これぞ」という料理が見つからない。あれも違う、これも違う……と決められず、メニュー表のなかでさまよい続けている状態なのです。

いまの状況がつらいから

社会心理学者の加藤諦三氏は、「生きるのがつらくなると自分探しをする」と指摘しています。「本当の自分」に出会えさえすれば、問題がすべて解決すると思い込んでいるのでは、とのことです。

たとえば、仕事でうまくいかなかったとき、「これは私にふさわしい仕事じゃない。本当に私がやるべき仕事は、ほかにあるはず」と考えれば、うまくいかない状況を自分のなかで正当化できるため、心理的に楽になれます。つまり、「自分の居場所は、ほかにあるはず」と感じて「自分探し」をしたくなる人の本音は、「ここから逃げ出したい」かもしれないのです。

「自分探し」をしたくなる理由が「現状がつらいから」というのは、自覚しにくいかもしれません。しかし、問題が立ちはだかるたびに「自分探し」を考えるばかりでは、問題解決能力が身につかなくなってしまいます。

仕事の話で言うと、学校を卒業したり転職したりして新しい仕事に就いたとき、なんの苦労もせず最初からすべてがうまく運ぶ、ということはないはず。困難を感じたとき、「どうすれば解決できるか」と考えて実行することで、能力が育っていきます。能力が追いついてくれば、「この仕事は自分に向いていないのでは」と悩む回数は減るでしょう。

もちろん、現在の状況が客観的に見て明らかにひどい場合も、ある程度の向き不向きもあるかもしれません。しかし、「自分探し」と称して環境を移動することを続けているのであれば、「目の前の問題から逃れたい」という願望が自分のなかにないか、考えてみてください。

選択肢が多い時代だから

産業カウンセラーの大美賀直子氏は、「自分探し」をする人が増えた理由のひとつとして、多様な選択肢から職業を選べるという現代の特徴を挙げています。「長男は家業を継ぐもの」「女性はお嫁に行って家事をするもの」のように、生き方が強く制限され、職業選択の自由がほとんどない時代なら、「自分探し」に悩む人は存在しなかったはずです。

選択の自由があるのは、「選択しなければならない」というプレッシャーにさらされている、とも言えます。たとえば、就職活動の際、膨大な数の企業から志望を絞り込む作業にウンザリしてしまった方も多いのではないでしょうか。占いにハマる人が多いのも、自分で選択し続けることに疲れ、「誰かに全部決めてもらいたい」と望む人が増えている表れなのかもしれません。

人生の早い段階で「これぞ」という目標に出会えた人は幸いですが、そうでない人は、ほとんど無限の可能性からたったひとつを選ぶという、「自分探し」の苦しみに直面することになるのです。

「自分探し」をしている人に試してほしい方法3

自分探しの問題点

「自分は何がしたいのか」について真剣に考えることは大事ですが、「自分探し」そのものにハマってしまうと、問題が生じます。

目の前の課題がおろそかになる

人材開発を専門とする経営学者・中原淳氏は、「自分探し」にとらわれる問題点として、理想と現実がかけ離れているように感じ、目の前の仕事や課題をおろそかにしてしまうことを挙げています。

「自分探し」という言葉には、「理想の自分が、どこかまったく別の世界にいる」ような印象があります。「海外で暮らせば幸せになれるんじゃないか」「私にふさわしい天職が、ほかにあるんじゃないか」など、いまの生活の “外側の世界” へ過度な期待を寄せている状態です。その結果、仕事や勉強といった現実の課題が、「理想の自分」とはなんの関係もないもののように思え、課題をこなす意欲を失ってしまうことがあります。

中国の古典『列子』には、「天が崩れ落ちてこないだろうか」と心配するあまり夜も眠れないという、極度の心配性人のエピソードが載っています。杞という国の人だったため、「杞人の憂」から、現代の日本でも使われている「杞憂」(きゆう)という言葉が生まれました。「天という【遠くて大きな問題】の前に、まずは今夜の眠りなど【近くて小さな問題】について心配すべきだ」という教訓を得られるのではないでしょうか。

明確な終わりがない

中原氏は、「自分探しには明確な終わりがない」とも指摘しています。落とし物を探しているなら、落としたものが見つかればゴールですが、「自分にふさわしい生き方は何か?」という問いに明確な答えが用意されているわけではありませんよね。

そのため、自分でゴールを設定したり、「ここで終わり」と決めたりしないかぎり、何十年でも「自分探し」を続けられてしまうのです。「私はまだまだ自分探しの途中」と、地に足のつかない生活をいつまでも続けているような状態は、健全とは言えません。

もちろん、「自分の可能性を模索するのをやめろ」という意味ではありません。しかし、生活の安定と自己の成長を両立させるには、「どんな仕事に就くか」「どんな目標を掲げるか」などの現実的な問題に対して暫定的な結論を出しておき、そのうえでステップアップを目指すのが望ましいでしょう。方法は、のちほど解説します。

自分を見失う

文化人類学者・磯野真穂氏は、「自分らしい生き方」を追求するほど他人の目を意識することになり、かえって自分らしさを見失ってしまうと指摘しています。

わかりやすい例として磯野氏が挙げているのが、就職活動です。就職活動では、「個性」をアピールすることが求められますよね。しかし、自分の「個性」を突き詰めると、「他人と違う点」や「他人より優れた点」を探すことにつながります。つまり、「個性」を探したり身につけたりしようと意識すれば、他人との比較で悩むことになるのです。

「自分探し」として、いわゆる「バックパッカー旅行」に出かけるとします。もちろん、心からバックパッカー旅行をしたいのであれば問題ありません。しかし、「ほかの人にはない経験ができるはず」「ほかの人に自慢できるだろう」などが動機であれば、それは純粋な「やりたいこと」ではなく、「他人の目を意識した行動」なのです。本当は日本でゆっくり過ごしたいと思っているのに、「他者との差別化を図らねば」という脅迫観念によって、本心にそぐわない行動に駆り立てられているのだとすれば、不幸なことではないでしょうか。

このように、「自分探し」の過程では、「やりたいこと」を追求しているつもりで、実際は「承認欲求」や「優越欲求」に振り回されている場合があるのです。

「自分探し」をしている人に試してほしい方法4

自分探しをしている人に試してほしい3つの方法

「自分探し」のスパイラルから卒業するための方法として、以下の3つをご紹介します。

「3つの円」でやりたいことを見つけよう

先述したように、「自分探し」をしたくなる根本的な理由は、明確な目標や理想がないこと。「自分探し」を卒業する第一歩は、自分が納得できる「ゴール」を見つけることです。

目標を見つける方法として、グロービス経営大学院経営研究科長の田久保義彦氏は「3つの円」というフレームワークを提唱しています。「3つの円」とは、

  • 「自分に何ができるか?」
  • 「自分は何をやりたいか?」
  • 「何をすれば、経済的に成り立つか?」

という問いを3つの円に見立て、その枠組みに沿って現状を整理することで、目標を設定する手法です。

自分探しに役立つフレームワーク「3つの円」

(画像は筆者が作成)

自分探しに役立つフレームワーク「3つの円」を実践してみた。

上図の赤い部分のように、3つの円が重なり合った場所が、目指すべき目標ということになります。以下の図は、「3つの円」を実践した例です。

「英語」という特技、「ものを教える」仕事への興味、「企業に就職する」という経済的安定の3要素を考慮した結果、「英会話塾の講師になる」という目標が導かれました。

これぞという目標が見つからず「自分探し」中の人は、ノートに「3つの円」を描き、自己分析してみましょう。円を描かず、「3つの円」に該当する情報を文書作成ソフトやメモ帳アプリに打ち込んでいくのも可です。はっきりとした目標を見つけられなかったとしても、現状を整理して今後のキャリアを考えるにあたり、「3つの円」が大いに役立つでしょう。

まずは目の前のことを頑張ろう(プランド・ハプンスタンス)

2つめの方法は、現在の仕事や課題に対し、まずは一生懸命取り組んでみること。ひとつのことをひたむきに頑張っているうち、偶然の出会いや心境の変化などが起こり、しだいに目標が固まってくるケースが多いのです。

たとえば、いまの仕事を「しっくりこない」と感じている人は、転職を検討する前に、いまの仕事にあるやりがいや、仕事で得られる成長・出会いを大切にしつつ、粘り強く頑張ってみてください。勝手がわかってくればやりがいを感じるようになり、「もっと仕事ができるようになりたい」「こんな仕事もやってみたい」などの欲が生まれてくるはずです。あるいは、仕事をしているうちに自分の興味や長所に気づき、「本当にやりたいこと」が芽生える可能性もあります。

就活生なら、少しでも心を惹かれた企業の面接に全力で取り組み、内定が出たら思いきって飛び込みましょう。100%納得できる職場でなかったとしても、まずは与えられた仕事を頑張ることで、だんだん自分の視野が広がり、学生時代には気づけなかった新たな選択肢も見えてくるはず。

要するに、「目標ありき」で進路を決めるのが常に正しいわけではなく、偶然飛び込んだ「暫定的な進路」で経験を積みつつ目標を定めていく、というやり方もあるのです。「どうせ地図が見つからないのなら、歩き回りながら地図を描いていけばいい」という考え方ですね。

このように、「ひとつの道を進みつつ、偶然の出会いや自己の変化に期待する」というスタンスを、前出の大美賀氏は「プランド・ハプンスタンス(計画された偶発性)」と呼んでいます。プランド・ハプンスタンスについて、詳しくは「『計画的偶発性理論』で夢を叶えるとっておきメソッド」をご覧ください。

地に足をつけて模索を続けよう(ピボットターン)

「自分の可能性を開拓したい」「もっと自分に合った生き方を探求したい」と思うのは、人間として自然なこと。しかし、新しいことを始めるためにこれまでの生活を捨ててしまうのは、オススメできません。

「自分探し」と「生活の安定」を両立するには、中原氏が提唱する「ピボットターン理論」が参考になるでしょう。ピボットターンとは、バスケットボールにおけるテクニックのひとつ。片足を軸として固定したまま、もう片方の足を自由に動かし、時計の針のように身体を回転させる動き方です。

特に社会人の場合、ピボットターンの考え方は、「自分探し」におけるモデルとなります。「自分探し」のために現状をガラッと変えてしまうのではなく、片足をいまの生活に置いたまま、もう片方の足で可能性を探り続けることで、理想と現実を両立できるのです。

  • 仕事を続けながら通信制の大学に通う
  • 土日を使って起業の準備をする
  • キャリアアップのために資格の勉強をする

など、いまの仕事を続けながらでも挑戦できることは多いはず。現状を変えたいと望んでいるなら、「いまの生活に留まるか、自分探しに出かけるか」という両極端ではなく、「いまの生活に留まりつつ自分探しをする」のはいかがでしょうか。

「自分探し」をしている人に試してほしい方法5

自分探しをしている人にオススメの本

最後に、「自分探し」をしている人にオススメの本を3冊ご紹介します。

『「本当の自分」はどこにいる 自分探しの心理学』

1冊めは、本記事の参考資料としても用いた、心理学者の加藤諦三氏による『「本当の自分」はどこにいる 自分探しの心理学』。「自分探し」という事象について、心理学的な視点から詳しく解説されているため、入門書としては最適です。「自分探し」はなぜ問題となるのか、自分らしく生きるにはどうすればいいのか、など「自分探し」にまつわる疑問を解消したい方は、まず手に取ってみるといいでしょう。

「本当の自分」はどこにいる 自分探しの心理学

「本当の自分」はどこにいる 自分探しの心理学

  • 作者:加藤諦三
  • 発売日: 2011/05/27
  • メディア: Kindle版
 

『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』

2冊めは、コンサルタントのグレッグ・マキューン氏が記したビジネス本。タイトルの「エッセンシャル思考」とは、仕事や人生における「無駄」をそぎ落とし、本質的(エッセンシャル)なものを洗い出すための思考法です。エッセンシャル思考を学ぶと、「あれもやりたい、これもやりたい」と興味が分散しすぎることがなくなり、本当にやるべき物事に注力できるようになります。

もともと、エッセンシャル思考は「最小の労力で最大の成果を出す」ために開発された思考法ですから、目標を探したいときのみならず、仕事や勉強を効率化する目的にも活用できます。特に、「自分は要領が悪いのでは」と悩んでいる方には、本書の内容が役立つはずです。

『キミが働く理由』

3冊めは、そもそも「働く」とはどういうことか考えたい人向けの本『キミが働く理由』。著者の福島正伸氏は、いまでこそ人材育成の専門家として華々しく活躍しているものの、以前は「働く意味」について思い悩んでいたことがあり、「新卒で入った会社を1ヵ月で辞めた」という苦い経験もしたのだそうです。

『キミが働く理由』は、そんな福島氏がさまざまな仕事や事業を経験するなかで得た職業観を、25のメッセージとしてまとめたもの。「働く意味がわからない」「仕事にやりがいがない」などの悩みがある方や、やりたい仕事が見つからず「自分探し」をしている方などは、『キミが働く理由』から多くの気づきを得られるはずです。

キミが働く理由

キミが働く理由

  • 作者:福島 正伸
  • 発売日: 2009/02/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

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「自分探し」は、生き方を考える大切なプロセスではありますが、いつかは卒業し、進路を選択しなければなりません。自分の価値観や目標が定まっていないと感じる方、なかなか「自分探し」に終止符が打てずにいる方は、本記事の内容をぜひ参考にしてみてください。

(参考)
コトバンク|自分探し
All About|「自分探し」で迷子になったオトナへの処方箋
NAKAHARA-LAB.NET|「自分探し」というメタファが危険な3つの理由!?:人生は「違和感」と「ピボットターン」である!?
コトバンク|杞憂
Torus|「自分らしさ」は探さない。
グロービスキャリアノート|「自分の強み」と「やりたいこと」を見つけるには
加藤諦三(2009),『「本当の自分」はどこにいる 自分探しの心理学』, PHP研究所.
グレッグ・マキューン 著, 高橋璃子 訳(2014),『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』, かんき出版.
福島正伸(2011),『キミが働く理由』, 中経出版.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
中央大学文学部出身。専攻は哲学で、心や精神文化に関わる分野を研究。趣味は映画、読書、ラジオ。人生ナンバーワンの映画は『セッション』、本は『暇と退屈の倫理学』。好きな芸人はハライチ、有吉弘行、伊集院光、ダウンタウン。

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