情報共有とは、組織で働くのに必要不可欠なもの。情報を社員個人のもとに蓄積させず、社内で広く活用することで、業務の属人化を防げる・生産性が高まるなど多くのメリットが生まれます。
そこで今回は、情報共有の重要性をあらためて確認したあと、情報共有の方法をお教えしましょう。
- 情報共有とは
- 情報共有を図るメリット
- 情報共有ができない原因
- チームで情報共有する方法1:情報共有ツールを活用する
- チームで情報共有する方法2:ファイル管理のルールをつくる
- チームで情報共有する方法3:情報共有の文化を根づかせる
情報共有とは
情報共有という言葉について、「みんなで情報を共有する」という漠然とした印象しかもっていない人が多いのではないでしょうか。まずは、ビジネスにおける「情報共有」の意味を明らかにしておきましょう。
国立病院機構賀茂精神医療センター企画課の中島正勝氏による2005年の学会報告では、「組織の成員が『いつでも』『どこでも』『誰でも』『同じ情報を』利用できること」が情報共有だとされています。情報を共有するだけでなく、必要なときにすぐ使える状態に整えておくのが、情報共有なのです。
たとえば、顧客の情報を把握しているのは営業担当者だけで、ほかの同僚は誰も知らない……という状況だと、「誰でも(情報を利用できる)」という条件が満たされていないため、社内の情報共有がなされているとはいえません。また、会社のPCでしか情報を閲覧できないというのも、「いつでも」「どこでも」の条件から外れているため、情報共有がされていない状態です。
見落としがちなのが、「同じ情報を」という条件。共有されている情報が部署ごとに違っていたり、情報にアクセスする方法を一部の人しか知らなかったりすれば、「同じ情報を」全員が共有しているとはいえないので、情報共有が不十分です。
「いつでも」「どこでも」「誰でも」「同じ情報を」という4つの条件を満たして、はじめて「情報共有できている」といえます。
情報共有を図るメリット
情報共有を図るメリットは、組織における業務の遂行が効率的になることです。メンバーの知識・認識の水準をなるべくそろえることで、業務が効率的になります。
組織というものは、動物の「身体」にたとえられます。身体を構成するひとつひとつの細胞は小さく非力でも、役割を分担し、連携することで、より高次元な「身体」として機能するのです。私たち人間も、集まって協力し合うことで、個人では難しい大仕事を成し遂げることができます。
しかし、情報共有不足の状態は、ひとつの生物に脳が3つも4つもあるようなもの。それぞれ異なる情報を基盤に行動しては、動きがバラバラになってしまいますよね。そのため、チームとして成功するには、誰がどんな仕事を進めているのか、どのような数字が出ているかなど、情報を共有しておく必要があるのです。
また、プロジェクト管理に詳しいエンジニアの砂川祐樹氏は、情報共有を図るメリットとして以下の3つを挙げています。
業務の属人化を防げる
情報共有が十分であれば、業務の「属人化」を防げます。
業務が属人化した状態とは、特定の担当者がいないと、その業務の遂行が不可能になってしまう状態です。急な退職や入院などで、引き継ぎなしに担当者がいなくなると、ほかの人は業務の状態や進め方がわからないため、業務に手をつけられません。
しかし、社内情報共有システムを整えておけば、グループ全員が同じ情報にアクセスできるため、属人化の危険を最小限に抑えられるのです。
業務が効率化する
正しい情報共有ができていれば、普段の業務が効率的になります。
たとえば、社内・社外のチームでプロジェクトを進める際、メンバーのスケジュールや必要な資料が共有されていると、連携がとりやすくなります。反対に、情報共有する習慣がなかったり、情報共有しない人がいたりすると、いちいち予定を聞いて回ったり、「あの資料、どこに置いた?」と確認したりする手間が生じてしまうので、時間を大きくロスしてしまうのです。
信頼関係を築ける
情報共有が十分に行なわれていると、コミュニケーション上のミスやトラブルが減るため、メンバーとの信頼関係を築くことができます。たとえば、以下のような状況を想像してみてください。
- 連絡ミスがあり、自分だけ会議に呼ばれなかった。
→「どうして自分にだけ声をかけてくれなかったの?」 - 自分の不在時に顧客から電話があったのに、電話を取った人が伝達してくれなかったため、折返しの連絡をできず、顧客を怒らせてしまった。
→「自分のせいではないのに……」
情報共有が不足していると、上記のような人的ミスが発生し、同僚に不信感やいら立ちを覚えてしまいますよね。
また、情報共有しない上司がいたとしましょう。上司が自ら情報を開示してくれないと、個別に質問した部下だけが情報を知ることができるため、部署内で情報格差が生まれてしまいます。すると、情報を知っている人だけが、得た情報を活用して仕事を効率的に進めたり成果を上げたりするため、ほかの部下は不満に思ってしまいますよね。
しかし、情報共有の仕組みが整っていれば、情報伝達に関するトラブルや不満が減り、仲間と円滑な関係を築けてチームワークが強固になるのです。
情報共有ができない原因
情報共有の大切さをなんとなくわかってはいても、情報共有がうまくいっていない現場は多いはず。情報共有ができない原因は何なのでしょうか?
情報共有の環境が整っていない
砂川氏は、情報共有がうまくできない原因として、ツールや社内環境の問題を指摘しています。現代の情報共有には、インターネットや社内データベースの活用が不可欠です。そもそも社内情報共有ツールを導入していなかったり、ツールの運用フローが定まっていなかったりすると、情報共有は成り立ちません。
情報共有できていると思い込んでいる
情報共有ができていないのは、「もう情報共有は十分できている」と勘違いしており、本当に必要な施策を考えていないからかもしれません。共有フォルダや社内チャットを使うだけで満足し、「『いつでも』『どこでも』『誰でも』『同じ情報を』利用できているか」「共有した情報は業務に活かされているか」というレベルに至っていないのです。
情報共有したくなる動機がない
オウンドメディア支援事業を手がけるティネクト株式会社代表取締役・安達裕哉氏によると、情報共有の仕組みをうまく機能させるには、「各社員が自主的に情報をアウトプットし、ほかの社員がその情報を参照する」というサイクルが必要なのだそう。
しかし、アウトプットには相応の手間がかかる、というのが問題点。普段の業務に使う時間を割いてまで、わざわざアウトプットしてくれる人は、なかなかいません。手間をかけてまで情報共有したくなる動機がないのです。
チームで情報共有する方法1:情報共有ツールを活用する
上記に挙げた原因を排除し、円滑な情報共有を可能にするには、何が必要なのでしょう? 3つの方法を説明します。
まずは、必要性に応じて適切な情報共有ツールを選び、活用すること。多くの企業が導入しているのが「Googleドライブ」です。Googleドライブでは、テキストや表といったデータをクラウド上に保存し、共同で閲覧・編集できます。
また、同じGoogle社の「Googleカレンダー」では、カレンダーをオンラインで共有するため、メンバーのスケジュールを一目で確認可能です。多くの人が使い慣れているであろうWord・Excel・Power Pointといった「Microsoft Office」のソフトでも、オンラインで共同作業ができます。
ほかにも、さまざまな強みや個性を備えたツールがたくさんリリースされています。情報共有ツールを比較し、今のツールを見直すことで、仕事の効率を上げられるかもしれませんよ。
別のコラム「ナレッジマネジメントの意味とは? 成功事例&失敗事例でサクッと把握!」では、情報共有に便利なツールを4つ紹介しています。情報共有ツールを具体的に知りたい方はもちろん、情報共有と切っても切り離せない「ナレッジマネジメント」に興味がある方も、ぜひご参照ください。
チームで情報共有する方法2:ファイル管理のルールをつくる
ファイル管理のルールをつくることも重要です。多くの企業では、仕事に使うデータファイルがクラウド上に保存されているはず。しかし、データを探し出すのに時間がかかったり、データが存在するのに閲覧できなかったりといった状態だと、情報共有できているとはいえませんよね。
情報共有を円滑に行なうには、ファイル管理のルールを整備する必要があります。一般社団法人日本ライフオーガナイザー協会代表理事で、整理術に詳しい高原真由美氏は、共有ファイルの運用方法を以下のように提案しています。
ファイルの命名ルールを決める
ファイルの名前は重要です。自分しか使わない個人的なデータなら、自分がわかる名前をつければいいですが、大勢で共有するファイルの場合、そうはいきません。
たとえば、直近のプレゼンテーションで使用する資料のファイル名を「A社用プレゼン資料」としたらどうでしょう? いつのプレゼンなのか、何に関するプレゼンなのか、名前から想像できません。「あのときの資料を確認したいな」とあとから探したくなっても、検索しづらいでしょう。
誰でも・いつでもファイルを見つけられるようにするには、命名のやり方を決めておく必要があります。「作成日を入れる」「取引先名と案件名を記入する」と決めるのはもちろん、「日付_取引先名_案件名」のように形式も統一するのが理想的です。
ファイルの分類ルールを決める
ファイルは、種類ごとにフォルダへ分類されます。どのフォルダに何のファイルが入っているかわかりやすくするため、分類のルールを決めておきましょう。
フォルダ分けの基準は、さまざまです。業務の種類や取引先別に分けたほうが使いやすい場合もあれば、時期別に分けたほうがいい場合もあるでしょう。
一例として、高原氏の「納期別」分類法をご紹介します。ファイルを以下の3つに分類するやり方です。
- 「今週中に処理すべき」
- 「今月中に処理すべき」
- 「3カ月以内に処理すべき」
納期別にファイルを分類すると、どの作業を優先的にやるべきなのか、納期がどのくらい迫っているのかを直感的に把握できるため、複数のプロジェクトを同時進行している場合にオススメです。
ファイルの管理者を決める
共有ファイルはどんどん増えていきます。定期的にチェックして、不要になったファイルや移動すべきファイルを整理しましょう。
とはいえ、共有ファイルは「みんなのもの」なので、自分の判断で勝手に動かすわけにもいきません。点検と整理を担当する「管理者」を決めておきましょう。
ファイルのアクセス権限を設定する
共有ファイルには誰でもアクセスできるため、うっかり上書きしてしまったり、削除してしまったりなどのトラブルがつきもの。トラブルを防ぐため、「アクセス権限」を設定しましょう。
アクセス権限とは、データの閲覧や編集が可能になる権限のこと。「Aさんは閲覧できるけれど編集できない」「BさんとCさんだけが編集できるようにする」というように、アカウント別にアクセス権限を変更できます。情報共有にともなう “事故” を防ぐため、アクセス権限を設定しておきましょう。
チームで情報共有する方法3:情報共有の文化を根づかせる
情報共有ツールを用意し、使い方を決めても、「情報共有しよう!」という意欲がメンバーになければ情報共有は成り立ちません。
そこで必要な手段が、自主的に情報共有したくなる「文化」をつくること。前出の安達氏によると、社内の情報共有化を進めるには、以下の流れに沿うとよいのだそうです。
報酬を用意する
メンバーに積極的な情報共有をしてもらうには、動機づけが必要。最もわかりやすい動機とは「報酬」です。
たとえば、大活躍しているエース社員に「あなたのノウハウを社内で共有したいので、データベースに入力してほしい」と頼みます。その対価として、特別ボーナスを支給するのです。情報共有の仕組みを導入したばかりのとき、最初の “とっかかり” として有効なやり方です。
情報を探しやすくする
入力してもらった情報をほかの社員たちが利用しやすいよう、工夫しましょう。以下のようなやり方が考えられます。
- 「よく見られているページ」をランキング形式で表示する
- 情報を「Q&A」形式に加工する
業務で困ったとき、必要な情報をすぐに探し出せるため、多くの社員が情報共有のメリットを実感できるでしょう。
「困ったらデータベースを見る」文化をつくる
社員たちには、「困ったら、まずデータベースを見る」ことを指示しましょう。上司や先輩に質問するのではなく、データベース上で共有された情報を参照することに慣れてもらうのです。
すると、口頭でやり取りする手間が省け、仕事の効率が上がるので、ますます情報共有のメリットを感じてもらえます。共有情報を活用する文化が根づくと、情報を活用する側だった社員たちも、情報を入力・発信するようになるため、情報共有サイクルが回っていくのです。
上記のように、情報共有を成功させるには、ツールを選んでルールを用意するだけでなく、職場のメンバーが実際に活用してくれるような仕組みを整えなければなりません。情報共有の目的は、あくまで仕事上の課題を達成し、成果に寄与すること。情報共有化そのものが目的にならないよう注意しましょう。
***
情報共有の大切さが、おわかりいただけたでしょうか。
情報共有を成功させるには、ルールの策定や、情報共有への意欲が高まるような配慮が大切。情報共有の仕組みに無駄な点・不合理な点がないかチェックし、本記事の内容を参考に改善を図ってみましょう。
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高原真由美(2013),『徹底図解 成果が必ず出る! ビジネス整理術』, 日本文芸社.
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。