仕事や学業で忙しい毎日。なかなか気が晴れず、心の疲労を感じている……。
そのような状態であっても、幸福感を維持できるメソッドがあります。それは、“紙に書く” というシンプルなもの。
STUDY HACKERでは、これまでに多くのノート習慣を紹介してきました。今回は、そのなかから「幸福感を高める」習慣を3つ厳選して、筆者の実践報告とともにご紹介します。
幸福度を高める習慣1「ジャーナリング」
漠然とした不安を抱えている。感情の波があり落ち着かない……。そんな人におすすめしたい習慣が「ジャーナリング」です。
ジャーナリングとは、頭のなかに思い浮かぶことを、手を止めずに一定時間書き続けること。あれこれ判断せず、あるがままに書き、“いまここ” に集中する状態をつくり出すことから、「書く瞑想」とも呼ばれています。
「書く行為」が心の癒しにつながる――これを発見したのは、テキサス大学教授で社会心理学者のジェームズ・ペネベイカー博士。「書く行為」と「感情処理」の関係について40年にわたり研究していたペネベイカー氏が、ジャーナリングの効果を証明した実験を紹介しましょう。
被験者を、
- 1「感情的に大きな影響を与えた出来事」を書くグループ
- 2「日常的な出来事」を書くグループ
のふたつに分け、両グループにそのワークを、1日20分間、3日間続けて行なわせました。その結果、1の「感情的に大きな影響を与えた出来事」について書いたグループは、心身の健康が著しく向上したことが確認されたのです。
具体的には、幸福感の向上、不安感の緩和、血圧の低下、免疫機能の向上など、多岐にわたって効果が見られたそう。
筆者も、実際にその効果のほどを感じるために、ジャーナリングを試してみることに。マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事の荻野淳也氏が挙げるポイントを参考に、以下のやり方で行ないました。
- テーマを決める →「人間関係で大切にしたいこと」
- 時間を決める → タイマーを10分間に設定。
- 気の散るものがないプライベートな空間で行なう → 読書や執筆をするときの部屋で実践。
- 誤字・脱字を気にせず、書き続ける → 書き慣れているボールペンで実践。
実践したものがこちらです。
完璧な文章を目指さず、思い浮かんだことを率直に書くと、ジャーナリングの効果が得やすいようです。書き終えると頭が軽くなり、実践前より不安感が減ったことを実感しました。
そして、書いたものを読み返すと、「こんなことにこだわっていたんだ」と気づき、冷静になることもできました。心を穏やかにするだけでなく、自己認識を深める効果も期待できそうです。
幸福度を高める習慣2「コンパッショネイト・レター・ライティング」
完璧主義な自分を許せない。仕事や人間関係の失敗で、落ち込んだりイライラしたりして、心に余裕がない……。そう悩む人におすすめしたいのが、「コンパッショネイト・レター・ライティング」。
これは、「セルフ・コンパッション(self-compassion)」を高めるエクササイズのひとつです。セルフ・コンパッションとは、直訳すると、自分に対する慈しみや思いやり。アメリカの心理学者クリスティーン・ネフ博士が概念化し、ストレスマネジメントやメンタルヘルスケアの分野で注目されているメソッドです。以下の3つの要素から成り立っています。
- 自分に対する優しさ
自己批判ではなく、他者にそうしてあげるように自分を温かく理解する。 - 共通の人間性
完璧な人間はいないと理解し、いま感じている体験は人間なら誰しもが経験する共通のものだと認識する。 - マインドフルネス
思考や感情に対して否定・判断をしない。あるがままを受け入れ観察する。
まるで友人や家族に接するように、自分の苦しみを優しくいたわる「セルフ・コンパッション」の効果は、実際に研究によって証明されています。
2018年に発表されたテキサス大学の論文によると、セルフ・コンパッションの傾向が強い人ほど、ストレスの度合が低く、睡眠の質にもよい影響を与えていたのだそう。自分に優しくできる人ほど、強い心でいられるのですね。
今回ご紹介する「コンパッショネイト・レター・ライティング」は、そんなセルフ・コンパッションを紙上で高める方法。賢く思いやりのある架空の友人を想定し、その友人視点から “自分” へ手紙を書くというものです。
すぐには自分を許せなくとも、第三者の目線を借りれば、友人を励ますように思いやることができるはず。ということで、実際に筆者も試してみました。
書きながら感じたことは、自分に対してはもちろん、関わりのある周囲の人たちにも優しい気持ちになれたということ。
クリスティーン・ネフ博士いわく、「自分への思いやりをもつことは、他人に優しさを向けるのと同じこと」。セルフ・コンパッションのメソッドは、自分への寛容さを通して、他者に対して優しくある方法を知ることにもつながるでしょう。
幸福度を高める習慣3「感謝の日記(感謝のジャーナリング)」
日々の生活に喜びを見いだせない。何をするのも億劫でモチベーションが上がらない……。そんな人には、感謝の気持ちを引き出す日記習慣がおすすめです。
“感謝をする” と気分が晴れる――そんな経験は誰にもあるもの。感謝の気持ちが幸福度に寄与することは、科学的にも実証されています。
オランダ・トゥエンテ大学の研究チームは、「幸福度が低く、軽度のメンタルヘルスの問題を抱えた成人」217名の被験者を以下3グループに分け、6週間にわたり指示通り行動させました。
- Aグループ……「感謝の日記」をつけるなど6つの感謝のトレーニングを、1日15分行なう。
- Bグループ……「5つの自分へのご褒美」を、1週間のうち1日行なう。
- Cグループ……6週間のなかで自分の幸せに適切な行動を見つけ、行動はしない。
その後、各グループにメンタルヘルスに関するテストを受けさせたところ、感謝のトレーニングを行なったAグループが、「幸福度」「感謝の気持ち」「充足感」「喜び」などの項目において、最も高い結果を出したとのこと。特に「幸福度」はほかの2グループを引き離し、Aグループの3分の1が高まったのだそう。
幸福を感じるためには、感謝の心が大切。とはいえ、日々の生活に慣れていくと、“ありがとう” と思える対象を見過ごしてしまいがち。そんな、日常生活で見落としている感謝に気づくべく、実際に筆者が「感謝の日記」を実践してみました。
トゥエンテ大学の実験内容をもとに、以下のルールを設けています。
- その日に起きた感謝したい出来事、およびその理由も書く。
- 就寝前に書く。
- 普段、当たり前に思っているもの(自分の身体の調子、天気や環境など)でも書き出す。
感謝の日記では、直接親切なことをされた場合だけではなく、「あの情報が役に立った」「晴れていて気持ちがいい」「身体がよく動いてくれた」など、普段感謝の気持ちを意識しないようなことも書き出しています。すると、当たり前に思っていたことに、ささやかな幸せを見いだすことができました。
1日の締めくくりに、「感謝する出来事」を思い返しながら、“ありがとう” と書いていくと、不思議と安心感が得られ、よい気分で眠ることができました。とても幸せになれる習慣だと思います。
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どれも紙とペンさえあればできる手軽なものばかりです。心が疲れて幸せを感じないと思ったら、ぜひ実践してみてください。書きながら不思議と癒されていく実感が得られますよ。
(参考)
書評ブログ!徳本昌大のライフチェンジ・ブログ|書くことが癒しに繋がる?ジェームズ・ペネベイカーの研究を信じよう!
NIKKEI STYLE|書く瞑想、ジャーナリング 集中力高め仕事効率を改善
公益社団法人 日本心理学会|セルフ・コンパッションと「あるがまま」
Self-Compassion|Definition of Self-Compassion
Springer Link|Diary Study: the Protective Role of Self-Compassion on Stress-Related Poor Sleep Quality
Mindful.org|The Transformative Effects of Mindful Self-Compassion
Springer Link|Promoting Gratitude as a Resource for Sustainable Mental Health: Results of a 3-Armed Randomized Controlled Trial up to 6 Months Follow-up
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。