文章を読んだり書いたり、話を聞いたり報告したりなど、理解力と伝える力はビジネスパーソンに欠かせない能力です。過去の研究や専門家の意見によれば、これらの能力には「複雑そうなものをシンプルにまとめる力」――いわゆる要約力が深く関わっているのだとか。
この能力の向上を目指す際には、持ち運びにも便利な小さいノートが大いに役立つかもしれません。今回は、小さいノートで要約力を最大限にする方法を探ってみました。
要約の重要性
より適切な方法を探るべく、まずは、要約を行なうことの重要性を把握しておきましょう。
1. 要約すると「理解度」が高まる
広島大学・琉球大学・福岡教育大学の共同研究チームは、さまざまな条件を設けた3つの実験を行ない、要約作業の機能について調べたそうです。それらの結果から、
他の方法に較べて, 要約作業が文章内容の段落間の関係を把握するのに効果があることが示唆された。そしてその主たる要因が文章内容の重要箇所から, まとまりのある文章をつくりあげる過程にあると考えられた。
(引用元:石田潤,桐木建始,岡直樹.森敏明(1982),「文章理解における要約作業の機能」, 日本教育心理学会,30巻,4号,pp.322-327.)
と結論づけています。“他の方法” とは、自分で要約せずに「誰かが要約したものを提供されること」や、「ただ要点を羅列すること」などを指しています。つまり、文章は “自分でまとめる=要約する” と理解度が高まるわけです。
ちなみに、上記引用の “段落間の関係を把握する” とは、「1段落ぶんだけを理解するのではなく、複数の段落に関わる内容を理解すること」を指しています。じつのところ実験では、1段落ぶんの短い範囲を対象にした場合、自分が要約しても・しなくても、さほど理解度に差は出なかったそうです。
とはいえ、あらゆるメディアの記事や文献、書籍など、ほとんどの文章は複数の段落からなるので、多くの場合は自分で要約したほうが理解しやすいと言っていいのではないでしょうか。
なお、研究者らは “自ら要約すると、照合と調整を行いながら文章をまとめることになる” として、
メタ認知(metacognition,Flavell,1976)的な働きが活発になることが要約作業の効果の主たる要因なのかもしれない
(この項目の参考元および引用元:同上)
と考察しています。
2.「伝わらない」のは要約力が低いから?
また、伝える力【話す・書く】研究所所長、山口拓朗ライティングサロン主宰の山口拓朗氏は、“話の要点が見えない” などと言われた経験がある人に対し、「伝わらない原因は要約力の低さにあるかもしれない」と説明しています(カギカッコ内参考:日本実業出版社|「要約力がない」と嘆く人は情報管理ができていない)。
逆に、
「要約力」が高い人は、情報を的確に把握できており、そのつど「何を」「どの程度」「どの順番」で話せばいいかがわかっています。
(引用元:日本実業出版社|話がまとまらない人と「要約上手」の決定的な差)
とのこと。上記引用の “情報を的確に把握” という部分は、前項で説明した理解力への影響とつながるかもしれませんね。
3. 要約力の高さは「生涯の評価」にもつながる!?
明治大学文学部教授の齋藤孝氏も、自身の著書のなかで次のように伝えています。
- 「文章の要約が下手な人は説明も苦手です」
- 「要約力の高さは説明力の向上にもつながります」
そして、要点をまとめた簡潔な説明は、それを聞く人々にとって時間の節約になり、なおかつ理解も助けるため、
説明力が高い人は、生涯にわたって評価されます。会社の会議で、手短に要約して説明してくれる人は一目置かれます。
とのことです。
(導入文とこの項目のカギカッコ内含む、引用元および参考:齋藤孝著(2020),『齋藤孝式"学ぶ"ための教科書 ~必要な「思考力」「判断力」「表現力」が身につく! 』,辰巳出版.)
たしかに、説明を聞く側のビジネスパーソンの多くは複数の案件を抱え、時間にも追われているはず。手短でわかりやすい説明は歓迎されて当然ですよね。
シンプルな要約トレーニング
これまでの内容をふまえると、要約を意識したトレーニングは、ビジネスパーソンにとって有益な活動だと考えられます。では、どんなトレーニングを取り入れたらいいのでしょう?
たとえば日本ビジネス要約協会は、“要” が「話の核」、“約(約する)” が「具体的に分かりやすくすること」だとしたうえで、その “具体的に” を意味するのが「物事を5W1Hで表現すること」だと説明しています(カギカッコ内引用元:一般社団法人 日本ビジネス要約協会|「要約」とは)。
自然言語処理(人間が日常で使う言語のコンピュータ処理技術)の分野でも、以前より5W1H「Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)」はテキスト要約に用いられてきました(参考:奥村明俊,池田崇博,村木一至(1999),「5W1H情報抽出・分類によるテキスト要約」,言語処理学会,自然言語処理,6巻,6号,pp.27-44.)。
この5W1Hで、あらゆる文章の話の核を具体化し、要約トレーニングを重ねるとかなり効果が高そうですが――仕事や勉強の合間に、文章から6要素を抽出するトレーニングはかなり疲れそう……。そこで、次のシンプルな3要素を抽出する要約トレーニングをやってみることにしました。
以下は、本の執筆や講演も数多く行なっている、千葉県佐倉市 財政部財政課長の塩浜克也氏が「法律の条文の理解に時間がかかる」という悩みに対し、アドバイスしたものです。
何行にもわたる長文であっても、「誰が」「何を」「どうするのか」を確認しながら文章を読んでみてください。
塩浜氏によれば、複雑に見える文章でも、構成を分解することで趣旨が読みやすくなるとのこと。
(引用元および参考:ジチタイワークス|【相談室】条文を読んでも頭に入ってきません。何かコツはあるのでしょうか?)
たとえば次の文章は、名古屋市立大学のプレスリリースですが、
コロナウイルスを含む様々な病原性ウイルスや細菌を殺菌する⼿法として、薬液を利⽤しない で広範囲な殺菌が可能な紫外線殺菌技術が注⽬されています。この紫外線殺菌は、従来、照射線 量(紫外線強度×時間)が同じであれば殺菌率は同じである、と考えられておりました。しか し、今回の研究において、今までの定説が成⽴しないことを、⼤腸菌を⽤いた紫外線殺菌実験で 実証しました。
※字間は原文のとおり
(引用元:名古屋市立大学|紫外線殺菌の基本原理において従来の定説を覆す効果を世界で初めて発見!より安全な紫外線殺菌技術の実現へ)
これに「1.誰が・2.何を・3.どうするのか」を当てはめていくと、こうなります(要素はそれぞれ複数選択可)。
- コロナウイルスを含む様々な病原性ウイルスや細菌を(2.何を)殺菌する⼿法として(3.どうするのか)、薬液を利⽤しないで広範囲な殺菌が可能な紫外線殺菌技術が(1.誰が)注⽬されています(3.どうするのか)。
⇒【要約】紫外線殺菌技術が、ウイルスや細菌を殺菌する⼿法として注⽬されています。 - この紫外線殺菌は(1.誰が)、従来、照射線量が同じであれば殺菌率は同じである、と(2.何を)考えられておりました(3.どうするのか)。
⇒【要約】並び通りなので省略。 - しかし、今回の研究において(1.誰が)、今までの定説が成⽴しないことを(2.何を)、⼤腸菌を⽤いた紫外線殺菌実験で(1.誰が)実証しました(3.どうするのか)。
⇒【要約】しかし、⼤腸菌を⽤いた紫外線殺菌実験で、今までの定説が成⽴しないことを実証しました。
さらに上の各要約を並べて、再び「1.誰が・2.何を・3.どうするのか」を当てはめ、まとめるとこうなります。
紫外線殺菌技術が、ウイルスや細菌を殺菌する⼿法として注⽬されています。この紫外線殺菌は(1.誰が)、従来、照射線量が同じであれば殺菌率は同じである(2.何を)、と考えられておりました(3.どうするのか)。しかし、⼤腸菌を⽤いた紫外線殺菌実験で(1.誰が)、今までの定説が成⽴しないことを(2.何を)実証しました(3.どうするのか)。
⇒【要約】⼤腸菌を⽤いた紫外線殺菌実験で、照射線量が同じであれば殺菌率は同じであるという今までの定説が成⽴しないことを、実証しました。
小さいノートで要約トレーニング
前項ではパソコンを使い要約トレーニングを行ないましたが、今度はメモ帳サイズの小さいノートを使ってみようと思います。なぜならば、ウェブマガジン『毎日、文房具。』編集長・髙橋拓也氏が、小さいノートについて次のように述べているからです。
スペースに限りがあるので、メモの内容が端的になり、内容を自然とブラッシュアップするというスキルも身につきます。
(引用元:ダ・ヴィンチWeb|文房具のプロが教える小さいノート活用術! 書く内容よりも大切なこととは…/『時間をもっと大切にするための小さいノート活用術 』① )
それなら、無理なく要約トレーニングができそうですよね。小さくて軽いので、スキマ時間用として持ち歩く際にも便利です。そこで、筆者もA6サイズの小さなノートを用意し、さきほどのプレスリリースの、続きの文章(以下)で試してみることにしました。
具体的には、照射線量が⼀定の条件下で、紫外線照射強度を⼤きく変えて⼤腸菌 の殺菌率を精密に評価してみると、紫外線強度が弱くて⻑時間殺菌した場合のほうが、紫外線強 度が強くて短時間殺菌した場合よりも、殺菌効率が⼤きいことが判明しました。これら⼀連の実 験結果は、数学の最先端⼿法である確率微分⽅程式を⽤いて解析することによって、新たな紫外 線殺菌メカニズムの存在が明らかになりました。
※字間は原文のとおり
(引用元:前出の「名古屋市立大学」プレスリリース)
これに、先ほどと同じく「誰が・何を・どうするのか」を当てはめていくわけですが、手書きの場合は簡単に消したり修正したり文字をずらしたりはできないので――
あらかじめ見開き左に「誰が・何を・どうするのか」で縦に三分割しておき、見開き右を要約スペースにして、読み進めながら、その時点での判断で「誰が・何を・どうするのか」に振り分け、
そこでいったん要約してみることにしました。
もしも、「あれ? ちょっと違うかな」と感じたら、「これはこっち」「それはあっち」といった具合に、囲み線と矢印などで修正の意向を示し――
さらに読み進めて違う判断が生まれたら、上書きするようなかたちにして要約追加・上書き→要約追加・上書き→要約追加・上書きを繰り返し、要約の精度を高めながら、全体的な要約へと向かっていきます。
こうして作業した結果、先の文章は次のように要約できました。
⇒【要約】数学の最先端⼿法を用いた解析によって、強い紫外線の短時間殺菌よりも、弱い紫外線の長時間殺菌のほうが殺菌効率は大きいという、新たなメカニズムが明らかになった。
(参考:前出の「名古屋市立大学」プレスリリース)
「小さいノート」で要約トレーニングをやってみた感想
今回、小さいノートで要約力を最大限にする方法を探り、「読み進めながら手書きで要約の補正と上書きをしていく方法」を実践してみました。
まず、前出の髙橋氏が言うように、書くスペースが少ないので簡潔にせざるを得ないという状況がよくわかります。「もう書けない」「もうこれ以上書き足すとノートが汚くなって、見にくくなってしまう」という危機感から、とにかく簡潔にまとめることに意識が集中するわけです。
なおかつ、意味をつなげながら何度も同じ言葉を手書きするので、いやでも内容が頭に入り込んできました。もちろん、題材にした文章についての簡潔な説明は、もうすでに可能な状態です!
***
要約トレーニングとしてはもちろんのこと、今回紹介した方法は情報を理解したうえで覚える方法としても、大いに役立ちます。ぜひ取り入れてみてくださいね。
(参考)
ダ・ヴィンチWeb|文房具のプロが教える小さいノート活用術! 書く内容よりも大切なこととは…/『時間をもっと大切にするための小さいノート活用術 』①
奥村明俊,池田崇博,村木一至(1999),「5W1H情報抽出・分類によるテキスト要約」,言語処理学会,自然言語処理,6巻,6号,pp.27-44.
名古屋市立大学|紫外線殺菌の基本原理において従来の定説を覆す効果を世界で初めて発見!より安全な紫外線殺菌技術の実現へ
石田潤,桐木建始,岡直樹.森敏明(1982),「文章理解における要約作業の機能」, 日本教育心理学会,30巻,4号,pp.322-327.
ジチタイワークス|【相談室】条文を読んでも頭に入ってきません。何かコツはあるのでしょうか?
日本実業出版社|「要約力がない」と嘆く人は情報管理ができていない
日本実業出版社|話がまとまらない人と「要約上手」の決定的な差
一般社団法人 日本ビジネス要約協会|「要約」とは
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。