ビジネスパーソンが「読むべきだ」と言われる本は、世の中に数多くあります。読書に精を出すみなさんほど、どの本から読めばいいのか迷ってしまうのではないでしょうか。
そこで今回は、「これからの時代を生き抜くために必須の『地頭力』が高まる本」にテーマを絞り、厳選した4冊を紹介します。
「地頭力」とは?
よく耳にする「地頭」という言葉。その意味について考えると、「生まれつきの頭のよさ」といったような、漠然として曖昧なイメージをもつ人は少なくないでしょう。
ビジネスコンサルタント細谷功氏の著書『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』によると、「地頭力」とは「情報を活かして、自分で答えを導き出す力」。細谷氏いわく、インターネットの普及により、個人の「情報を集める力」に差がつかなくなっているいま、「手に入れた情報を活かす地頭力」が重要な時代になっているのだそう。
細谷氏は、地頭力の高い人の特徴として次の4つを挙げています。
- 解答そのものよりも、解答に行き着く思考のプロセスを重視する
- 論理だけでなく、直観も働かせて新しい発想を生み出す
- 情報を吟味して取捨選択する
- 「なぜ」という疑問で思考を深める
ではここから、それぞれの力を伸ばすために役立つ本を4冊紹介しましょう。
1:地頭力が高まる思考プロセスを学べる本
1冊目は、クリエイティブディレクター三浦崇宏氏による『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』。本書はまさに、「地頭力が高い人の思考プロセス」をそのまま開示しているような本です。
その一例が「言葉の因数分解」という思考プロセス。これは、仕事で悩みや課題を抱えているけれど、どうにも自分のとるべきアクションが見えてこない、というときに大いに役立つ思考法です。悩みに対して質問を重ねながら、言葉のひとつひとつを細かく分割し具体化していくことで、悩みの正体を明らかにしていきます。
たとえば、「仕事がうまくいかない」という悩みは以下のように因数分解するそうです。
第1レイヤー:
「ここで言う仕事とはなにか」→顧客とのミーティング
「うまくいかないとはどういうことか」→会話がうまく成立しない
第2レイヤー:
「顧客とは誰か」→クライアント。特に組織の上層部に苦手意識
「会話がうまく成立しないとはどういうことか」→世間話がうまくできない
第3レイヤー:
「なぜ上層部に苦手意識があるのか」→世間話がうまくできないから
「なぜ世間話がうまくできないのか」→文化的、教養的な欠如を感じるから
このように、質問をするたびに言葉の具体性のレイヤーを上げていくのがコツだとのこと。
ほかにも、言語化のテクニックが満載で、地頭力を高めるための思考プロセスを実践するのに最適な1冊です。
2:高い地頭力に必要な「直観力」を磨く本
地頭力を高めたいなら、論理だけでなく直観を磨くことも大切にしましょう。パブリックスピーカー山口周氏の著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』は、ビジネスにおける直観力の重要性と鍛え方を学べる1冊です。
ビジネスの現場では従来、論理的思考が重視されてきました。しかし、人々の価値観が多様化し続けるいま、論理だけで適切な判断を下すのは難しくなっているのだそう。そこで必要なのが、「何が真実で、何が美しく、何がよいものなのか」という自分自身の意識に基づいて発想する姿勢、すなわち、直観力であると山口氏は言います。
山口氏によると、直観を磨くにはアート鑑賞がうってつけだとのこと。アート鑑賞は、自分が何を美しいと思い、何をよいと思うかを明確にできる行為なのだそうです。
この本を参考に、休日の過ごし方のひとつにアート鑑賞を取り入れるというのも、地頭力を高めるよい方法になるのではないでしょうか。
3:情報処理能力を底上げしてくれる本
3冊目は、元マッキンゼーの赤羽雄二氏による『ゼロ秒思考』。本書がすすめる方法を実践して、情報を取捨選択する力を底上げしましょう。
「ゼロ秒思考」とは「瞬時に現状を認識し、瞬時に課題を整理し、瞬時に解決策を考え、瞬時にどう動くべきか意思決定できること」。つまり悩む時間を「ゼロ」にすることです。
赤羽氏によると、情報の判断に時間がかかったり、決断しても実行に移せないときは、頭のなかに情報が散らばりすぎて整理されていないことに原因があるのだとか。そこで赤羽氏が提案するのが「A4メモ書き」という方法。頭のなかを埋め尽くす考え事を紙に書き出すことで、頭のなかをクリアにし、情報の必要性を見極める力を高めることを目指します。
やり方はシンプルで、A4用紙とペンを用意して、気づいたことや頭に浮かぶ考えを書きつけるだけ。いくつか決まりごとはありますが、簡単に実践できますよ。
こちらの記事『A4メモ書きでできる「ゼロ秒思考」を試してみたら脳内がクリアになった』では、ライターによるゼロ秒思考の実践レポートが紹介されています。あわせて参考にしてみてくださいね。
4:「なぜ」を習慣づけ、思考力を高めてくれる本
最後に紹介するのは、国際弁護士石角完爾氏の『ユダヤ式Why思考法』。当たり前のようなことにも「なぜ」と疑問をもち、思考を深める習慣をつけるのにおすすめの1冊です。
本書によれば、GoogleやIntelをはじめ、世界の名だたる企業の創設者にはユダヤ人が多く、ノーベル賞受賞者の3~4割もユダヤ人なのだそう。石角氏は、ユダヤ人の知的生産力が高い理由を、彼らが「なぜ」を徹底的に考える民族だからだとしています。
本書では、さまざまな設問を想定して、ユダヤ人ならどういう思考でどう答えるかが紹介されています。一例がこちら。
・次に挙げる2つのテクノロジーのうち、どちらが革新的だと考えるか。その理由と共に述べよ。
a) 出力した書類をデスクまで届けてくれる、自走式のロボットプリンタ
b) 血糖値を涙で測定できる、スマートコンタクトレンズ
(引用元:石角完爾 (2015), 『ユダヤ式Why思考法』, 日本能率協会マネジメントセンター.)
このふたつはどちらも実際に開発されたものです。みなさんならどう考えますか? どちらも一見、技術としては「革新的」だと言えそうですよね。
この例で本書が導いた結論は、「スマートコンタクトレンズのほうが革新的」。そこに至るまでの思考を簡単に紹介しましょう。まず、それぞれのテクノロジーが「なぜ必要か」というところから考えます。
- ロボットプリンタはなぜ必要か
→「書類をデスクまで運んでくれるのは、便利だから」 - スマートコンタクトレンズはなぜ必要か
→「糖尿病患者の暮らしを助けるのに必要だから」
このように1回「なぜ」を問うと、次のように考えが及びます。
- ロボットプリンタはたしかに便利。しかし、オフィスで働く人の「プリンタまで書類を取りに行く」という、さして大きくない手間を省くための技術だ。
- スマートコンタクトレンズは、従来の血糖値測定の苦痛や、命の危険にさらされるリスクを軽減するものだ。
人々の暮らしを助けるという意味で、ロボットプリンタよりスマートコンタクトレンズのほうが革新的だという結論に至ったわけです。
このように、「なぜ」という思考からは大きな気づきが得られます。日々、何気なく目にするニュースでも、ただ鵜呑みにせず「なぜ」と疑問をもってみれば、思考を深めるいい訓練になりそうですね。
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多くの情報が簡単に手に入るいま、私たちはその情報にともすれば振り回されてしまうもの。そんな時代だからこそ、この記事が少しでもみなさんの「地頭力」をよくすることに役立つことを願ってやみません。
(参考)
細谷功 (2007), 『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』, 東洋経済新報社.
三浦崇宏 (2020), 『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』, SBクリエイティブ.
山口周 (2017), 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』, 光文社.
赤羽雄二 (2013), 『ゼロ秒思考 頭がよくなる世界一シンプルなトレーニング』, ダイヤモンド社.
石角完爾 (2015), 『ユダヤ式Why思考法』, 日本能率協会マネジメントセンター.
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。