イライラ、不安――ビジネスパーソンをむしばむ「感情疲労」は “7つの視点” で予防できる

下園壮太さんインタビュー「感情疲労を予防する7つの視点」01

「肉体疲労時の栄養補給に!」とは、栄養ドリンクのキャッチコピーにありがちな文言ですが、じつはビジネスパーソンの疲労の多くは肉体疲労ではありません。NPO法人メンタルレスキュー協会理事長である下園壮太(しもぞの・そうた)さんによれば、ビジネスパーソンの疲労は「感情疲労」というものだそう。ついイライラしがちで感情疲労をためてしまっている人の悩みを、下園さんに解決してもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【お悩み】
ちょっとしたことでイライラしがちです。それが言動に出て、職場での人間関係を悪くしてしまうこともあります。すぐにイライラしてしまうこの癖をどうにかできないでしょうか?

多くのビジネスパーソンの疲労は、肉体疲労ではなく「感情疲労」

この相談内容だけではイライラの理由ははっきりしませんが、この人は、疲労をためてしまっているのかもしれませんね。職種にもよりますが、多くのビジネスパーソンの疲労は肉体的な疲労ではありません。上司や取引先の担当者の感情や思考を読んで不安になったり、あるいはイライラしたりするなど、感情によって疲労しているのです。言ってみれば、肉体労働による肉体疲労ではなく、感情労働による感情疲労がたまっているということ。

私はうつ症状の進行を3段階で考えていますが、この感情疲労によってうつ症状の進行における第2段階、あるいは第3段階に進んでいるビジネスパーソンが非常に多いと見ています(『「疲れてる……でも頑張る」が危険すぎるワケ。“無理しない自分” になるメソッド、教えます』参照)。

そのようにうつ症状が進行していくと、物事を見る視点が変わってくる。たとえば、出勤した朝に上司に「おはようございます」とあいさつをしたのに、上司は顔を上げることもあいさつを返すこともなく仕事に没頭していたとします。うつ症状の進行における第1段階にある人、つまり健康な人の場合は、「上司は忙しいんだろうな」と意に介しません。

ところが、第2段階にある人になると、「自分だけ無視をされたのではないか」「あのときのミスを根にもたれているんじゃないか」なんて考えて不安になる。それこそ感情疲労を蓄積させて、さらにうつ症状を進行させてしまうという悪循環に陥ります。

下園壮太さんインタビュー「感情疲労を予防する7つの視点」02

感情疲労を抑える「7つの視点」

そうしないためには、うつ症状による「視点」を意識的に変えて、感情疲労を抑えることを考えてみましょう。その視点とは全部で7つです。

下園壮太さんインタビュー「感情疲労を予防する7つの視点」03n

1つめは自分視点。先の例なら、上司との関係などではなく、自分自身に目を向けてみるのです。人間は、ショックを受けるような出来事があれば、小さなことにでも過敏になるものです。そこで、たとえば恋人にグサッとくるようなきついことを言われたなど、最近なにかショックを受けるようなことがなかったかと振り返ってみる。すると、上司はそれまでと特に変わっていなくて、不安を感じるような原因が自分自身にあったと気づくこともあるのです。

2つめは相手視点です。自分との関係は置いておき、上司はなぜああいう態度だったのかと上司の視点から考えてみる。たとえば上司は、社運をかけた大きなプロジェクトに関わっているかもしれない。その上司の立場を思えば、いまは自分のことなどよりそのプロジェクトに注力して当たり前だととらえられ、感情疲労を抑えることができます。

3つめの視点が第三者視点。自分の感情は抜きにして、いまの自分と上司を第三者の視点から見るのです。すると、たとえば「よく考えてみたら、上司はもともとドライな人じゃないか」「上司はいつも通りだ」といったことが見えてきます。

そして、この第三者視点をさらに強めたものと言えるのが、4つめの宇宙視点。自分と上司だけの世界ではなく、俯瞰した広い視点で全体をとらえるのです。すると、オフィスにはほかにもたくさんの人がいて、オフィスのあるビルにはもっとたくさんの人がいて、ビルがある街にはさらにたくさんの人がいることに気づけます。そうすると、「自分の悩みなどどんなに小さなものか」と考えられ、感情疲労を抑えられるのです。

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早めの対処が重要! 「7つの視点」は葛根湯のようなもの

また、宇宙視点と同じような発想を時間に当てはめたのが、5つめの時間軸視点です。うつ症状が進行している人は、いまこの瞬間の目の前のことしか見えなくなっています。すると、上司と自分が置かれているいまの状況がずっと続くのではないかと感じてしまう。でも、そんなことはありえませんし、いずれ関係性は変化していきます。それこそ上司が関わっている大きなプロジェクトもいずれ片がつきます。そうなれば、「上司だっていつまでもピリピリしていないだろう」と考えられますよね。

6つめの視点はユーモア視点物事を深刻にとらえず、ユーモアをもって見るのです。いまの自分と上司が置かれている状況をコントのネタにできないかとか、いわゆる「サラリーマン川柳」にしてみようというふうに考える。そうすれば、自分の悩みを笑い飛ばすことができるようになります。

最後の7つめが感謝視点です。いまの状況のなかで感謝できるポイントはないかと考えてみる。たとえば、「自分の上司は、厳しいことで有名な他部署の上司に比べればまだマシだ」なんて考えることもできるでしょう。あるいは、「自分と上司の関係を振り返るいい機会ができた」と、状況自体に感謝することもできるはず。これら7つの視点により、感情疲労を軽減してみてください。

でも、注意してほしいことがひとつあります。これらが通用するのは、うつ症状における第2段階の初期レベルまでの人に限られるということです。第2段階にあっても第3段階寄りに進行した人の思考はネガティブ思考がベースになるため、もはや「7つの視点」をもつこともできません。言ってみれば、「7つの視点」は、風邪の初期症状を抑える葛根湯のようなものなのです。そう考えて、イライラしがちなど感情疲労がたまっていると感じたら、「7つの視点」で早めに対処することを考えてください。

下園壮太さんインタビュー「感情疲労を予防する7つの視点」05

【下園壮太さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
下園壮太(しもぞの・そうた)
1959年、鹿児島県生まれ。NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。MRSI(メンタルレスキュー・シニアインストラクター)。海上保安庁パワハラ防止委員。元陸上自衛隊心理教官。1982年に防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上自衛隊初の心理教官として、衛生隊員やレンジャー隊員などにメンタルケア、惨事ストレスコントロールの指導、教育を手がけ、その経験をもとに独自のカウンセリング理論、トレーニング法を構築。2015年に退官し、現在はそれらの普及に努めている。『令和時代の子育て戦略』(講談社)、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新聞出版)、『「一見、いい人」が一番ヤバイ』(PHP研究所)、『自衛隊メンタル教官が教えてきた 自信がある人に変わるたった1つの方法』(朝日新聞出版)、『自衛隊メンタル教官が教える うつからの脱出』(朝日新聞出版)、『寛容力のコツ ささいなことで怒らない、ちょっとしたことで傷つかない』(三笠書房)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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