「取引先から依頼された件。ああいう “ルールにないこと” ができるわけないよ」
「上司に指示されたあの仕事。どうやってやるのか聞きに行かないと」
これと似たようなことを考えがちなあなたは、じつは知らぬ間に“思考停止” しているかもしれません。
今回は、「これを言っている人は思考停止している」という口癖を5つ集めてみました。自分ではなかなか気づきづらい思考停止状態に、あなたは陥っていませんか? ぜひチェックしてみてください。
「『思考停止』している人の “あるあるな癖” 4つ。当てはまったらかなりマズい」では、口癖以外の特徴も紹介しているので、こちらもお読みください。
【1】「難しいよね」
課題に対してアイデアを出そうとするとき、「でも、それって難しいよね」と片づけてしまうのは、思考停止の証拠です。
医療特化型研修を行なう守屋文貴氏は、「難しいよね」は、可能性の芽を摘む思考停止ワードの代表だと言います。というのも、次の例のようにそれ以上話が広がらなくなるからです。
「どうしたら組織の全員が合意できるだろう?」
「でも、それって難しいことだよね」
「そうだよね……」
また研修講師の潮田、滋彦氏は、「難しいよね」と言う人は、チャレンジにともなう負担や失敗のリスクを避けていると指摘します。仕事における正解はひとつではないのに、正解を求めたがるビジネスパーソンが多いと潮田氏。そういう人は、自分の頭で考えることすらも避けているのだそう。
守屋氏いわく、この思考停止状態から脱却するには、「難しい」を「難しいかもしれないけれど、何かできることはないだろうか」に変えるのが有効だとのこと。上の例なら、
「どうしたら組織の全員が合意できるだろう?」
「いきなり全員が合意するのは難しいかもしれないけれど、まず各自の考えを共有することはできるだろう」
というように、最大限の案を考えるのです。
「難しいよね」と言いそうになっていると気づいたら、「待て待て、話を片づけちゃだめだ。難しいけどやってみよう」に変換しましょう。
【2】「ルールだから」
「こういう場合にはこうするのがルールだから」と、決まりを重視した口癖も、思考停止の証拠。その理由は、やはり新しい可能性を潰してしまうからです。
コンサルタントの池田千恵氏は、ルールを優先する姿勢がアイデア発想を妨げた例として、次のエピソードを紹介しています。
池田氏が手がけたプレゼントレーニング。事前の確認のなかで、“いいアイデア” があることを把握していたものの、プレゼン本番に出されたアイデアは特におもしろみのないものだった。そこで池田氏が参加者に事情を聞くと、こんな答えが返ってきた――「最初のアイデアを補強するデータが見つからなかったので、データを集められる別のアイデアに変更したんです」
じつは池田氏は、あらかじめ参加者らに「データ集めの重要性」を説いていたそう。参加者らは「データを集める」ことをルールだととらえて、アイデアのおもしろさよりもルールを優先してしまったのです。つまり、思考停止状態に陥り、仕事の本来の目的を達成できなかったということ。
もし「ルールだから」と言いそうになったら、立ち止まって「このルールはそもそもなんのため?」と考え直すべきだ、と池田氏は言います。上の例であれば、データを集めるのは、いいアイデアを補強するため。データ集めを優先してつまらないアイデアを発表するのは、本末転倒です。
池田氏いわく、ルールは絶対的ではなく、いつでも見直せるもの。「いいアイデアであることを最優先とする」など、新たにルールをつくってもかまわないそうですよ。
【3】「〇〇さんは〜な人だ」
「あの人はリーダーシップがないタイプだから」という具合に、仕事仲間に対して「〇〇さんは〜な人だから」とレッテルを貼るような口癖も、危険な思考停止ワード。というのも、その人のことをそういう目でしか見られなくなるから。こう述べるのは、グロービス経営大学院教員の荒木博行氏です。
荒木氏は、過去のほんの一場面を見ただけで他人を「こういうタイプ」とみなしたところで、その人が将来もそう行動するとは限らないと指摘。そのうえ、ひとたびレッテルを貼ると、たとえその人がレッテルの特徴とは反対の行動をとったとしても、注意が向かなくなると述べます。
たとえば、過去に統率力に欠ける行動をした部下に対し、上司が「あいつはリーダーシップがない」と考えるとしましょう。その後別の場面で、部下がリーダー的働きをしたとしても、「リーダーには向かない」という思い込みから、上司はその部下のよい振る舞いには目を向けられなくなります。そうなれば部下は、いつまでもリーダーのポジションに就けないまま……。
このように、一時的な判断で貼ったレッテルを信じすぎると、相手の可能性や成長を妨げることになるのです。部下や同僚に対してよくないレッテルを貼れば、部下の成長を妨げたり、同僚のよさを引き出せずにチームの成果を下げたりしかねません。
こうした状態から脱却するために、「〇〇さんは〜な人だ」ではなく「〇〇さんは、本当に〜な人かな?」と言うようにしましょう。
戦略・事業開発コンサルタントの秋山ゆかり氏によれば、「客観的な事実」と「自分の思い込み」を切り離すとよいそう。「『過去に統率力に欠ける場面があった』からといって『あの部下はリーダーに向かない』と本当に言いきれるのか?」と自問するわけです。
そこから「いや、でも別の場面ではリーダー的振る舞いもあったぞ」と気づければ、その部下の成長ポイントに気づくことができます。思考停止状態を防ぐために、ぜひ「客観的事実」に目を向けましょう。
【4】「どうしたらいいですか?」
「どうやったら実績が伸びますか?」「資格は何をとったらいいですか?」――このように、「どうしたらいいですか?」と質問ばかりするのも、思考停止の証拠です。
というのも、もらったアドバイスをそのまま実践しても、100%うまくいくわけではないから。実際、仕事において誰にでも当てはまる正解などありません。
『地頭力を鍛える』著者でビジネスコンサルタントの細谷功氏は、アドバイスを求める人は、ほぼ間違いなく「自分の頭で考える姿勢がない人」だと言います。「誰でも実績が伸びる仕事のやり方」や「どんな場合でも役に立つ資格」といった「正解」が何事にもあると考えていて、「正解を教えてほしい」と思っているのです。前出の潮田氏の指摘と共通していますね。
そこで細谷氏がすすめるのは、アドバイスはもらわずに意見をもらうこと。「どうしたらいいですか?」ではなく「あなたならどうですか?」と尋ねるのがその一例です。
「実績を伸ばすために、先輩は何をしましたか?」
「こういう領域を目指しているんですが、あなたならどの資格をとりますか?」
そのうえで、「この人はなぜそうしたんだろう?」「なぜそれを選んだんだろう?」と、理由や背景を考えるといいそうです。
相手が提示してくれる「正解」ではなく相手の「考え方」を手がかりに、「自分の場合はどうか?」「いや、自分には当てはまらないかもしれない」と、自分なりの思考を働かせましょう。
【5】「頑張ります」
「もっと頑張ります」「精一杯頑張ります」一見前向きに聞こえるこれらの言葉は、じつは最強の思考停止言葉である――人材育成コーチングを手がける櫻田毅氏はこう述べています。
というのも、やる気は伝わる一方で、「どう頑張るのか?」という具体的な行動につながらないからです。
そこで櫻田氏は「工夫する」ことをすすめます。「頑張ります」と言いたくなったら「こんな工夫をしてみます」と言うのです。たとえば、あるプロジェクトを任されたときであれば、以下のような具合。
×「プロジェクトを効率よく進められるよう、頑張ります!」
◎「プロジェクトを効率よく進められるよう、○○や××などの工夫をしてみます」
「頑張ります」では単なる意志表明に過ぎませんが、「どう工夫するか」を考えれば、「前例として〇〇さんの仕事が参考になりそうだから、意見を聞いてみよう。あとで何があってもいいように、スケジュールは早め早めで組もう」といった感じで、具体的な行動がどんどん出てくるはず。
「頑張ります」とつい言いそうになったら、思考停止かもしれないと立ち止まって、「どう工夫しよう?」と考えましょう。
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知らず知らず使ってしまっていた口癖はありましたか? もうあなたは思考停止に気づいて、頭を働かせられますね。お伝えした5つの口癖と改善案を参考に、ぜひ工夫してみてください。
(参考)
Accrete Works|病院の管理職研修で遭遇した“思考停止ワード”とは?
新刊JP|新版“思考停止人生”から卒業するための個人授業
日経xwoman| 「ルールだから」という言い訳がダメな本当の理由
GLOBIS 知見録|レッテル貼り思考に陥っていませんか?
Society for Art Thinking Japan|心の感覚の磨き方(4)自分の中にあるバイアスに気づく
SCIENCE SHIFT|「質問の仕方」で、自分のアタマで考えているかどうか分かる〜考えるプロによるアタマの使い方・応用編①
櫻田毅公式サイト|史上最強の思考停止言葉「頑張ります!」
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。