学校や塾で、誰かが決めてくれたカリキュラムに沿って勉強していた学生時代と違い、大人の勉強はひとりでなんとかしなければならないもの。孤独に勉強する方法がわからない、そもそもひとりで勉強するイメージがつかない。そんなあなたに、独学の達人たちが、ひとりで勉強するための3つのポイントを伝授します。
【1】独学できる人は「テーマ」を決める
勉強を始めるときに、ひとりで勉強できない人は「ジャンル」を決め、ひとりで勉強できる人は「テーマ」を決める。そう言うのは、『知的戦闘力を高める 独学の技法』を著書にもつ、独立研究者でパブリックスピーカーの山口周氏です。
山口氏は、勉強する内容を「ジャンル」で決めると、必然的に、すでに誰かによって体系化された枠組みで学ぶことになると言います。たとえば「組織論を新しく学ぼう」と思ったら、とりあえず組織論の入門書を買ってきて目次通りに勉強するしかない、といったようなことです。
こうした学び方は、学校の勉強に慣れ親しんできた人がやりがちだと言えるでしょう。ですが、これでは深く学べるとは限らないと山口氏は指摘します。組織論の入門書をひととおり読んだとしても、既存の枠組みだけを頼りにしていては、「ここから先何を勉強すればいいんだろう?」となり、自分なりの考えをもてないまま学びが止まってしまうのです。
一方で、「テーマ」、つまり自分が独自に追求したい論点を決めると、自分で勉強の進め方を決めることができます。「組織の力を最大限発揮するリーダーのあり方を学びたい」のなら、ビジネスにおけるリーダーシップ論だけでなく、歴史上のリーダーや、動物の群れに君臨するリーダーの生態からも学べるかもしれません。誰かのカリキュラムをなぞって終わりではなく、自分ひとりの興味でどんどん学びを広げていけるのです。
山口氏はこう言います。
学びによって何をしたいのか、学ぶことでどういう人間になりたいのか、パーソナルなビジョンがなければ、モチベーションは長続きしないでしょう。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差)
独学の個人的な「テーマ」を明確にすれば、ひとりでも勉強を続けていくことができますよ。
【2】独学できる人は「自分に適した勉強法」を知っている
「何を」学ぶかだけでなく、「どうやって」学ぶかも重要です。「誰かが決めてくれたやり方」でしか勉強しない人は、いつまでもひとりで勉強できるようにはならない。逆に、ひとりで勉強できる人は「自分に適したやり方」を知っている――そう言うのは、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏です。柳川氏は、高校へは行かずに大検を受け、慶應義塾大学に入学したという学歴をもちます。
柳川氏いわく、勉強ができるとされる東大生でも、与えられた課題をこなすのは得意なのに、ゼミなどで「自由にやって」と言われると立ち止まってしまう学生は多いそう。これがまさに、自分に適した勉強の仕方がわからない状態です。
しかし、自分に適したやり方さえわかれば、誰でも独学は可能だと柳川氏。自分なりの勉強の進め方をつかむために、試行錯誤の期間を設けることを提案しています。
自由なテーマで独学する場合はもちろんのこと、資格試験に向けて独学する場合には特に、あらかじめスケジュールを決めて勉強法を試行錯誤することが大事だそう。一例として、試験本番までの勉強期間のうち、最初の1割を試行錯誤の期間とし、ひとまず勉強法を定めてしばらくしたら、再び1割の期間を使って試行錯誤するとよいとのこと。
試行錯誤の期間中には、
- 複数の参考書を買って読み比べる
- 暗記中心と問題演習中心の方法をやり比べる
- 勉強する時間帯を日によって変えてみて比べる
- やりづらい、使いにくいと思ったら、新しい教材や方法を試してみる
などをしていきます。
「わざわざ変えるのはもったいないから」と違和感のある勉強法を継続したり、「買ってしまったから」と読みづらい参考書を読み続けたりすると、大事な時間を無駄にしてしまうと柳川氏は言います。やりづらい、読みづらいと思ったら、別の方法を探すという割りきりを大事にしてください。
柳川氏いわく、大切なのは「自分を主人公にして勉強する」こと。自分に適した勉強法なら、わからないところにはたっぷり時間をかけ、すんなり理解できるところはさっと進めることもできるでしょう。いったんはまってしまえば、誰かに決めてもらったやり方で勉強するよりもずっと楽に勉強できるはずです。
【3】独学できる人は「挫折してもまた始める」
ひとりの勉強を続けられない人は、挫折したらそこでやめてしまう。ひとりの勉強を続けられる人は、たとえ7回挫折しても8回めを始める。そう言うのは、ベストセラー『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』の著者、読書猿氏。
自身も挫折を繰り返してきたと言う読書猿氏は、独学ではほぼ100%の人が挫折すると指摘します。読書猿氏いわく、挫折は人間にとって避けられない「仕様」のようなもの。つまり「挫折は当たり前だ」というのが、挫折しても独学を再開できる人の考え方です。
一方、「挫折したら終わりだ」というのが、一度の挫折で独学をやめてしまう人の考え方。独学を達成できるかどうかは、こうした考え方の違いにあったのです。
読書猿氏は、独学を続けるには「挫折しない」のではなく「挫折してもまた始める」ことが最も大切だと伝えています。その具体的なやり方を3つご紹介しましょう。
1. カジュアルに挫折する
「カジュアルに」とは、どんどん挫折して、どんどん立ち直ること。挫折しても「やれやれ、こっちはだめだったな。さて次を試そう」と、カジュアルに取り組むのが読書猿氏のやり方です。
「失敗した、もうだめだ」と深刻にとらえたら、そこで終わりですよね。読書猿氏自身は、1日1分でも2分でも、とにかく前へ進むようにしているとか。どんどん立ち直って、少しずつでも勉強を積み重ねていくことが大切だそうですよ。
2. 「なぜ学ぶのか」に立ち返る
読書猿氏は、挫折したら「なぜ学ぶのか」に立ち返ることをすすめています。勉強をして何をやりたいのか、どうなりたいのか。山口氏の言う「テーマ」とも言い換えられますね。
「なぜ学ぶのか」がはっきりしていない人は、一度挫折すると「もういいや」と勉強を投げ出しがちだと読書猿氏は言います。「資格を取得して、いまやっている仕事への理解を深めたいから」など、挫折するたびに「なぜ学ぶのか」を何度も確認し、モチベーションを取り戻しましょう。
3. 継続を視覚化する
勉強を続けるには、やったことを記録するのも有効だそう。どれだけ続けられたかを視覚化し自分の目で確認することで、さらに続ける意欲にもつながります。
読書猿氏は、読みたい本の章の数やページ数、あるいは勉強したい日数分のマス目を用意し、勉強するたびマス目を塗り潰すことをすすめます。『独学大全』では「ラーニングログ」と名づけられている方法です。コクヨの「測量野帳」や、エクセルなどの表計算ソフトが便利だそうですよ。
孤独な勉強のなかで、挫折しても大丈夫。読書猿氏の方法を参考に、また始めればよいのですから。
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さあ、もうあなたはひとりで勉強を始め、続けていけるはずです。道に迷ったら、独学の達人たちの助言をぜひ思い出してください。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|【山口周×『独学大全』】残念な「勉強法ホッパー」と「独学を武器にできる人」の決定的な差
flier|『独学の技法』著者に聞く、知識を「使える武器」に変える方法
ダイヤモンド・オンライン|【東大・柳川×『独学大全』】高校に行かなかった東大教授が語る「偏差値が高い人ほど、独学でつまずく」本質的な理由
東洋経済オンライン|知っておこう!「独学」で進むための思考法
中央公論.jp|ベストセラー『独学大全』著者が明かす誰でも独学を続けられる「コツ」 読書猿
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【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。