サンクコスト効果とは? 回避&活用方法を徹底解説!

サンクコスト効果の活用法1

サンクコスト効果とは、これまで投資してきたお金や労力(埋没費用)をもったいなく感じ、回収しようと躍起になるあまり、合理的な判断ができなくなってしまうこと。「コンコルド効果」とも呼ばれるものです。

サンクコスト効果は、事業だけでなく日常生活における意思決定にも影響しています。あなたもサンクコスト効果のせいで、非合理的な行動をとってしまっているはず。

今回は、サンクコスト効果の仕組みや事例、サンクコスト効果の影響を逃れる方法をお教えします。貴重なお金や時間をこれ以上浪費しないよう、お役立てください。

サンクコスト効果とは

サンクコスト効果の「サンクコスト」とは、日本語に訳すと「埋没費用」。すでに支払ってしまった、もう取り返せないコスト、という意味です。お金だけでなく、時間・労力・感情などもサンクコストになりえます。

「音楽教室」を例に、サンクコスト効果をご説明しましょう。あなたは10万円のバイオリンを購入し、音楽教室に入会。しかし、意外とつまらなく、すっかりイヤになってしまいました。通い続けるか、やめるか、どちらを選択しますか?

おそらく、多くの方は「せっかく10万円のバイオリンを買ったのだから、すぐやめるのはもったいない」と考えるのではないでしょうか。この判断をもたらしたのが、サンクコスト効果です。

じつは、お金の面だけでいうと、すぐやめるほうが合理的。すぐに退会すれば10万円の損失で済む一方、通い続けると翌月以降の月謝も失うからです。

◆すぐに音楽教室をやめると……
損失=バイオリンの10万円

◆通い続けると……
損失=バイオリンの10万円+月謝

⇒続けたほうが損が大きい

合理的に考えれば教室をやめるべきなのですが、「せっかく投資したのに、もったいない」という感情が判断に影響し、非合理的な選択をしてしまいます。これが、サンクコスト効果という心理バイアスなのです。バイオリンが無料で入手したものだったら、「もったいない」という感情は生まれないので、迷わず教室をやめるでしょう。

◆サンクコスト効果とは……
投資したお金・時間・労力などをもったいなく感じ、投資を続けたくなる心理

◆サンクコスト効果にとらわれると……
合理的な判断ができなくなる
→撤退のタイミングを逃し、無意味な投資を続けてしまう
→お金・時間・労力などの損失が膨らむ

上の例だと、バイオリンに支払った10万円はサンクコストです。バイオリンをいくら使っても、払った10万円は絶対に戻ってきません。長く使えば「もとがとれる」ような感覚になるかもしれませんが、それはあくまで気持ちの問題。つまり、錯覚に過ぎないのです。

「決して取り戻せないサンクコストを、取り戻したような気持ちになりたい」という心理が、サンクコスト効果をもたらすと言えるでしょう。

サンクコスト効果の活用法2

サンクコスト効果の仕組み

サンクコスト効果が生まれる原因は、「損失回避性」という心理バイアスです。行動経済学の専門家・友野典男氏によると、損失回避性とは「何かを得る喜びよりも、失う怖さのほうを強く感じる」心理。つまり、「1万円もらえる嬉しさ」と「1万円失う怖さ」では、「1万円失う怖さ」のほうが重く感じられるのです。

また、「50%の確率で1万円もらえるが、50%の確率で1万円とられる」というクジがあった場合、多くの人は「引きたくない」と感じるはず。1万円を得るのも失うのも同じ確率なのに、損失回避性が働き、1万円失うリスクのほうが大きく感じるのです。

損失回避性に基づけば、サンクコスト効果を「未来の得より過去の損を大きく感じる現象」と言い換えることもできます。たとえば、本を買ったのに最後まで読まなかったら「時間が浮く」という得が生じる一方、「書籍代がムダになる(気がする)」という損が生まれるでしょう。すると、最後まで読まないメリットにはあまり目が向かず、過去のコストばかりが気になるのです。

このように、サンクコスト効果と損失回避性は、深く関わっています。

サンクコスト効果の活用法3

サンクコスト効果の例

サンクコスト効果をより理解するため、ほかにも4つの例をご紹介しましょう。

読書

上でも少し触れましたが、サンクコスト効果の身近な例は、「買った本がつまらなかったとき」です。

お金を出して本を買ったものの、読んでみたら全然おもしろくなかったとします。しかし、ほとんどの人は「せっかくお金を払ったのだから」と、意地でも最後まで読もうとするのではないでしょうか?

「せっかく○○したのだから、もったいない」という心理は、まさにサンクコスト効果。読むのを途中でやめたら書籍代をムダにしたような気になるので、「つまらない本を読み続ける」という非合理的な行動を選んでしまうのです。

図書館で借りた本なら、「つまらないので読むのをやめる」ことを選ぶでしょう。書籍代というサンクコストが発生していないからです。

本を最後まで読んでも読まなくても、書籍代は返ってきません。不要な本を無理して読めば、時間という新たな損失を生むのではないでしょうか。もっとおもしろいことや有益なことに時間を使うほうが、合理的な選択だと言えるでしょう。

ゲーム・ギャンブル

ゲームやギャンブルにも、サンクコスト効果が関わっています。

ゲームセンターでクレーンゲームに熱中した経験は誰にでもあるでしょう。景品を獲得するにはかなりコツがいるので、何度もチャレンジすることになります。投入したお金がどんどん増えていくと、「こんなにお金をかけたんだから、いまさらやめられない!」と感じますよね。

これもサンクコスト効果にほかなりません。投入したお金をムダにしたくないという思いから、意地でも景品をとりたくなるのです。

サンクコスト効果は、あらゆるゲームやギャンブルに当てはまります。最初から勝てることは少なく、負けが先行しがちなもの。「負けたぶんを取り返したい」とムキになると、割りに合わない投資をどんどん続けてしまうのです。

コンコルドの開発

サンクコスト効果の最も有名な事例は、超音速旅客機「コンコルド」です。1960年代から英国とフランスが共同開発していた飛行機で、最高速度マッハ2超という驚異の性能を誇っていました。

しかし、開発中に問題が次々と浮上。「燃費が悪い」「衝撃波で周辺地域に被害が及ぶ」「空港を改修する必要がある」などのデメリットにより、採算が合わなくなってしまいました

それにもかかわらず、コンコルドの開発は続行。すでに多額の開発費が発生していたため、「これまでかけたお金がもったいない」という執着が生まれたからです。

採算が合わないとわかった時点で中断していれば、損失は最小限に抑えられたはず。しかし、サンクコスト効果によって判断を誤り、その後も多額の費用を投入し続けたことで、赤字が大きく膨らんでしまったのです。このエピソードから、サンクコスト効果は「コンコルド効果」「コンコルドの誤謬(ごびゅう)」と呼ばれることもあります。

コンコルドの失敗を、他人事として笑ってはいられません。失敗するとわかっていながら、これまでの費用や苦労が惜しいあまり、事業撤退を決断できない――どんな会社にもあるのではないでしょうか。

ミズーリ大学の実験

サンクコスト効果は、さまざまな実験で検証されています。その一例が、米ミズーリ大学が2000年に発表した研究です。

被験者は投資アドバイザーになったつもりで、ある事業に追加で投資するか撤退するかの判断を迫られました。被験者の半分は「すでに事業計画のうち90%に投資し終わっている」、もう半分は「まだ事業計画の10%にしか投資していない」と伝えられています。

投資の継続を選んだ人は、前者のグループで85%、後者では33%でした。サンクコスト効果が判断に大きく影響したのです。

サンクコスト効果の活用法4

サンクコスト効果を逃れるには

サンクコスト効果によって非合理的な判断を下すと、損失が増えて後悔することもしばしば。サンクコストの呪縛を回避するには、以下でご紹介する方法を試してみてください。

サンクコスト効果を自覚する

第一歩は、サンクコスト効果に影響されている自分に気づくことです。「ここでやめたらもったいない」「せっかく○○したんだから」と少しでも思ったら、サンクコストにとらわれている可能性が大。自分の判断を客観的に見直すことをおすすめします。

とりわけ注意したいのが、すでにたくさんのお金・時間・労力を費やしている場合。サンクコストが大きいほど「もったいない」という気持ちも強くなりますが、誘惑に負けず、合理に徹しましょう

ゼロベースで考える

サンクコスト効果を避ける方法として経営コンサルタント・斎藤広達氏がすすめているのが「ゼロベース」での意思決定。サンクコストが「ゼロ」だと仮定して考えるのです。

サンクコストは、どうあがいても取り戻せないもの。投資を続けようがやめようが、絶対に返ってきません。そのため、継続/撤退の判断にサンクコストの多寡はまったく関係ないのです。

音楽教室の例を思い出してみてください。10万円のバイオリンを買ったものの飽きてしまい、教室に通い続けるか迷っているとき、サンクコストを考えると「もったいないから通おう」という非合理的な判断に行き着きます。しかし、「もしバイオリンがもらいもの(0円)だったら?」とゼロベースで考えれば、「月謝がムダだから通わない」と合理的に判断できるでしょう。

◆ゼロベースで考える例

  • バイオリンがもらいものだったら……
    →月謝がムダだから、通うのをやめよう
  • 本が買ったものでなく、借りたものだったら……
    →時間がムダだから、読むのをやめよう
  • クレーンゲームに使った1,000円をゼロとすれば……
    →景品をとれる気配がないから、いさぎよく撤退しよう
  • いままでの開発費用をゼロとみなせば……
    →今後の開発費用がムダだから、コンコルドから撤退しよう

どのみち取り戻せないサンクコストをゼロと仮定し、これからの損得を第一に考えることが大切です。最大の利益を得るにはどの選択が最善か、合理的に考えましょう。

投資の上限を決めておく

心理カウンセラーの小日向るり子氏がすすめるのは、支払うコストの上限を決めておくことです。

サンクコスト効果に影響されると、実る見込みのない投資を際限なく続けてしまうもの。ならば、あらかじめ「○○円までは使ってよい」「○○時間まではかけてよい」と決め、際限ある投資を心がけることで、損失を最小限に抑えられるでしょう。

クレーンゲームの場合、「1,000円払ってダメなら諦めよう」と決めておけば、撤退のタイミングが明確になり、お金をつぎ込んでしまうことを防げます。

◆投資の上限の例

  • バイオリン:3ヵ月習ってみて、つまらなければやめよう
  • 読書:30ページ読んでみて、つまらなければやめよう
  • クレーンゲーム:1,000円出してダメなら諦めよう
  • コンコルド:あと1億円で改良できなければ、開発を諦めよう

第三者の意見を聞く

迷ったときは、誰かに意見を求めるのも有効です。サンクコスト効果の原因は、主観的な思い入れや愛着。思い入れがない第三者なら、サンクコストにとらわれず、冷静に判断しやすいでしょう。

たとえば、自分が関わっているプロジェクトの継続/撤退を判断する場合、

  • プロジェクトに関係ない社内の人
  • 外部のアドバイザー
  • 本や資料で調べた客観的な情報

など、サンクコスト効果の影響からなるべく遠い人や情報源に頼ってみてください。

サンクコスト効果の活用法5

マーケティングにおけるサンクコスト効果

サンクコスト効果は、マーケティングのテクニックとしても使えます。「買わないと損するかも」「契約をやめたら損するかも」という気持ちを刺激することで、

  • 売り上げのアップ
  • 顧客単価のアップ
  • 成約率のアップ
  • 顧客離れの防止

などを図れるのです。サンクコスト効果をビジネスに応用するには、顧客に「ちょっとしたサンクコスト」を払ってもらい、「せっかく○○したんだから」という感情を誘いましょう。

とりあえずの来店

売り上げを伸ばしたいなら、まず顧客の来店を促しましょう。以下のような方法で、とりあえず来てもらえさえすればいいのです。

  • 無料で参加できるイベントを開催
  • 来店者全員にポイントを配布
  • 次回から使えるクーポンを配布

来店という行為には、時間や労力といったサンクコストがともないます。経営コンサルタントの横山信弘氏によれば、顧客は来店コストを回収しようと「せっかくだから商品を見ていこう」と考えるため、購買行動につながりやすいそうです。

みなさんにも、無料クーポンを使うためコンビニへ行き、「ついでにシャンプーも買っておこう」「せっかくだしスイーツも」と、予定外の出費をした経験があるのではないでしょうか?

入会金・年会費

サンクコストとして、入会金や年会費を払ってもらいましょう。たとえば、スーパーマーケット「コストコ」で買い物をするには、4,400円(税抜)の年会費が必要です。「せっかく高い年会費を支払ったのだから、もとをとらなければ」という意識が顧客に生まれ、来店の頻度を増やせます。

入会金や年会費には、顧客の心をつなぎ留める効果があると言えるでしょう。10万円のバイオリンを買ってしまい、音楽教室をやめにくくなった例と同様です。

無料お試し期間

無料のお試し期間を設けるのも有効です。申し込みにかかった手間がサンクコストとなり、「せっかく登録したんだから」という気持ちの誘発を期待できます。

動画配信サービスの無料トライアルの場合、ユーザー情報を入力する手間などがサンクコストとなり、「せっかく入会したんだから、すぐやめたらもったいない」という心理につながるはず。さらに、利用するうちにサービスへの愛着が湧き、解約しにくくなるでしょう。

◆無料お試し期間の例

  • 動画配信サービスの初月無料
  • 健康食品の試供品
  • ジムの無料体験キャンペーン

「○○円以上お買い上げで××」

「○○円以上お買い上げで××」というキャンペーンにも、サンクコスト効果が活きています。たとえば、よくコンビニで目にする「700円以上のお買い上げでクジ引き」。「せっかくお金を払ったんだから、クジを引けなきゃもったいない」というサンクコスト効果によって、700円以上の購買を促し、客単価を増やす狙いです。

◆「○○円以上お買い上げで××」の例

  • 700円以上お買い上げでクジが引ける
  • 2,000円以上お買い上げで送料無料
  • 2着め以降のスーツは半額

サンクコスト効果の活用法6

サンクコスト効果を自分に使ってみよう

サンクコスト効果は、自分自身の心理をコントロールするのにも使えます。コストを支払って「やめたらもったいない」気持ちになり、習慣や努力の継続につなげるのです。

勉強を習慣化したいなら、高い文房具をそろえたり部屋の模様替えをしたりすることで、「せっかく○○したんだから頑張らなきゃ!」と気合いが入り、三日坊主のリスクを減らせます。音楽教室の例でも、バイオリンを究めたいという強い意志があるならば、「せっかく買ったんだから無理してでも続けよう」という選択も悪くないでしょう。

◆サンクコスト効果を「継続」につなげる例

  • 高い文房具を買いそろえる
    →金銭的なサンクコストが発生
    →勉強の継続
  • 勉強部屋を整える
    →時間的・労力的なサンクコストが発生
    →勉強の継続
  • 高級なバイオリンを買う
    →金銭的なサンクコストが発生
    →バイオリンの継続

ネガティブな印象が強いサンクコスト効果ですが、使い方次第では、仕事や勉強に活かすことも可能なのです。

***
サンクコスト効果による損失を避けるには、支払ったコストへの未練を捨て去る勇気が必要です。「過去への執着を捨て、未来だけに目を向ける」というのは、あらゆるシーンに通用する建設的な考え方ではないでしょうか?

(参考)
内藤誼人(2014),『お金に縁のある人、ない人の心理法則』, PHP研究所.
マイナビウーマン|「コンコルド効果」から見る、破滅の心理とは? 恋愛における対処法
中野信子(2014),『脳はどこまでコントロールできるか?』, ベストセラーズ.
コトバンク|コンコルド
コトバンク|コンコルドの誤謬
Boehne, Donna M. and Paul W. Paese (2000), "Deciding Whether to Complete or Terminate an Unfinished Project: A Strong Test of the Project Completion Hypothesis," Organizational Behavior and Human Decision Processes, Vol. 81, No. 2, pp.178-194.
国民生活センター|暮らしの中の行動経済学
角田康夫(2009),『行動ファイナンス入門』, PHP研究所.
斎藤広達(2008),『図解 サラリーマンの決定力講座』, パンローリング.
Yahoo!ニュース|営業・マーケティングコンサルタントが指南する「お金の使い方」「お金の貯め方」
人と仕事研究所|【第40回】一度買ったらやめられない「コンコルド効果」
中山マコト(2018),『チラシの教科書』, すばる舎.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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